401 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕:2011/01/20(木) 00:47:44 ID:wJfsRfU/
隣の花は赤い
そんな言葉があるけれど、やっぱりボクのところはみんなと違う
最近、そんなふうに思い知らされることが多くなった
ボクはお父様を世界一愛してる
お父様もボクを愛してる
でも、僕がほしいのはお父様としての愛情じゃない
キスするのも、抱きしめるのも、みんなボクから
お父様からじゃ、ない
僕が求めてるのは、お父様の全てなのに

「姫、僕ちょっと近隣の出城を視察しに行くんだ。けど、僕一人で行くのもなんだしね
 よかったら一緒に行く?」
「……行かない」
「そう? じゃあ行ってくるね
 帰りは明日になると思うから、いい子で待ってるんだよ」
「ボク、子供じゃないよ。もう16歳なんだから」
「あはは、ごめんごめん」

もちろん、嬉しい
お父様がボクを誘ってくれている
昔、ボクが偽者の父を殺してから暫くは、ぎこちなくボクを遠ざけてたお父様
でも今は、ボクを本物の娘みたいに接してくれる
それがすごく嬉しい
そう、嬉しかった
ほんの二ヶ月前までは
ボクに、二人のお姉様ができるまでは―――

402 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕:2011/01/20(木) 00:48:46 ID:wJfsRfU/
「今日は近隣の魔物への指導と顔見せですわね? 頑張ってくださいな」
「頑張れっつったあってなぁ。俺は魔王のお供だぜ、護衛ってわけでもないし
 あーあ……姫ちゃんが行くと思ってたんだけどねぇ」
「愚痴はそのくらいにしましょうね。そんなことよりそんな格好じゃいけませんわ」
「いいだろ、別に。社交界デビューするわけじゃあるまいし………ファッションとか、わけわかんねえよ」
「安心してください。そういったことは私にお任せですわ。家が家でしたので慣れています」
「だいたい、蟲が服着てるなんて変だろ」
「そんなことありませんことよ」
「本心は?」
「服を脱がせながらというのも、なかなかに乙な物でございますわ」
「……昨日もしただろ。おかげで俺は一時間しか寝てねえんだぞ」
「それはわたくしも同じですわよ」
「じゃあ何でお前はそんな元気なんだよ」
「愛する人との情事は、女の活力ですわ」
「俺は疲れた。帰って寝る。今日はめんどい」
「はいはい。それじゃお休みなさいませ。寝ている間にお着替えさせてあげますわ」
「ゲハッ………また痺れ毒かよ…………」
「でも、ポイズンタイガー様には通用しませんでしたわ」
「最期にゃ俺のプライドまで傷つけやがってからに…………」

エレ兄様を心から愛してるミリル姉様
ブツブツ言いながらも、逃げることもしないでいつも一緒にいるエレ兄様
二人は、見まごう事なき夫婦だ


「隊長! 今日の演習の流れができましたです!」
「どれどれ………。ほう。こうきたか………
 湖を背にした小部隊で敵をおびき寄せ、集まったところを周りの森に隠れた部隊で取り囲み一機殲滅 か
 さすが軍師だな、シアン。良い布陣だ」
「えっへん、です!」
「しかしな、どうして自分とお前だけ湖の対岸に配置されているんだ?」
「敵軍別働隊の索敵です。大人数では敵に悟られてしまうです
 ここは、一人で一個中隊に匹敵する戦力の隊長が適任なのです」
「ふむ。ではどうしてお前までいるんだ? 軍師は大部隊を指揮する責任があうだろうに」
「隊長のご飯係兼飲み物係兼話し相手兼遊び係兼性処理がか……あ痛っ!」
「ゲンコツもう一発がいやなら、きちんと作り直せ」
「は、はいです………」

恋人になってからもずっと、自分をアプローチし続けているシアンちゃ……姉様
それを正面から抱きしめたポイズン兄様
ボクにはそれが妬ましくて憎らしくて、うらやましくてたまらないんだ

403 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕:2011/01/20(木) 00:49:12 ID:wJfsRfU/
恐ろしくて、恐怖の対象だった魔王
あの牢獄のような家から、僕を救い出してくれた魔王様
優しい魔族のみんなと一緒に、僕を愛で包んでくれたお父様
好き
大好き
愛してる
ううん、そんな言葉じゃ伝えきれない
世界中の愛の言葉を束ねても、ボクのお父様への気持ちを表すにはまだ足りない
……でも、お父様への気持ちが大きくなればなるほど、心が痛くて痛くてたまらなくなってくる
娘として愛されている
それだけで、いつも心が幸せで満たされていた
今は違う
二人のお姉さまの幸せそうな顔を見るたびに、ボクとは違うんだと言われているような気がしてしまう
お兄様たちは、疲れたような迷惑そうな顔をしていることが多い
それでも、いつもお姉様を離さずにいる
だからボクは、お姉様達が本当は愛されているんだって、分かるんだ

「お父様……お父様ぁ………」

今日もボクは、お父様のベッドにもぐりこみ、お父様の匂いに包まれながら自分を慰める
ボクはもう子供じゃないんです
一人前の女の子なんです
父としてだけではなくて、一人の男性としてお父様を愛しているんです
求めてくれるのならば、ボクの体もぜんぶあげます
お父様の子供だって産みます
だから、ボクの気持ちを分かってください
耳元で、優しく、ボクの名前をよんでください
もう、姫、とだけよばないでください

「うっ……うっ……うわああああん!!」

絶頂を迎えると、なんだかとめどなく涙が出てきた
外の誰かに聞かれてしまったかもしれない
それでも、どうしても声を抑えることができなかった
最終更新:2011年01月24日 00:22