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46 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 4 投稿日:2011/02/01(火) 12:41:58 ID:xaLUy16T
「……魔王、ちっと着地すっぞ」
「どうしたの? やっぱり二人も乗せてるから疲れた?」
「馬鹿にすんな、二人どころか十人だって余裕だぜ。そうじゃなくて、見えはしないまでも聞こえないか?この風切り音がよ」

魔王城の城下町上空
そこで確かに、ヒュン ヒュンと何かが飛んできているのが分かる
無力な僕や暗闇にいるエリスちゃんには何があったのか理解できない
でもきっとエレキインセクトには、なんなのか分かっているんだろう

「俺のスレスレを飛んできた弾が十発……次に城門前の跳ね橋を十発狙撃、その繰り返し……デッドガンマンか
 あの跳ね橋に着地しろと言ってんだな」
「見えてるの? 僕にはまだ城だってカステラくらいの大きさにしか見えないのに」
「何言ってんだ、あいつは鷹よりも眼がいいんだぜ。そうでもなきゃ狙撃部隊隊長なんてつとまらねえよ」

僕らを乗せた巨大なカブト虫はだんだんと高度を下げ、音も無く着地
あまり羽音も無く、わりと高度を飛んでいたから誰にも気づかれてなかったと思ったんだけどね
僕のシャツを掴んで放さないエリスちゃんを抱き上げ、つまりお姫様だっこという体勢に持ち上げて降りる
そしてそこには、既に門番を下がらせて困った顔をしているデッドガンマンが待っててくれていた

「お帰りなさい、という前にお聞きします。その少女は誰ですか」

何をそんなに驚いているのか分からないけど、とんでもなく切迫した状況なのは分かる
落ち着きの無い四天王の中で沈着冷静を規範としているデッドガンマンがこんなに慌ててるなんて

「魔王の嫁だ」
「なんだと!?」
「エレキインセクト、誤解を招くような言い方をしないの。この娘はね……」

かくかくしかじかと、あの出城であったことをかいつまんで話す
もちろんまだ結婚なんて考えてなくて、あくまで治療のためにと念を押して話した
それでも、デッドガンマンの顔色がすぐれることは無かった

「……なるほど……お人よしの魔王ならばあってもおかしくはないが………よりにもよってこんな日に………」
「大丈夫? なんだか息みたいな声になってるけど。どうしたの?」
「おい、俺が話聞いとくからあんたは黙ってエリスちゃんだっこしてろ
 デッドガンマンもホルスターに手ぇかけんな。魔王がボケてんのはいつものことだろうに」
「?」

しかたないので、エリスちゃんを抱いたまま少し離れて座り込む
あまり甘えた経験が無いのか、少し戸惑いながらも強く僕の腕にすがり付いていた
……そういえば、うちに来たばっかりの姫もこんな感じだったと、僕は昔を思い返していた

47 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 4 投稿日:2011/02/01(火) 12:42:54 ID:xaLUy16T
「で、なんだ? 俺に何発も弾埋め込みそうにしておいて、だんまりはねーよな」
「わかっている。話すつもりなのだが、まだ魔王には聞かれたくはないのだ」
「……姫ちゃんのことか?」
「ああ。姫君が、ついに行動を開始した」
「なあ、何でお前は魔王は呼び捨てなのに姫ちゃんには敬称つけてんだ?」
「そんなことはどうでもいいだろう。昔からそうだから癖になっただけだ。話を聞く気があるのか」
「わりわり。んじゃ話してくれや」


先日、姫君は私を連れて町へ下りた
私も赤い瞳と尖った耳以外は人間に近い姿なので、護衛兼荷物持ち兼話し相手として連れて行ったんだろう
それまであまりおしゃれに無頓着だった姫君なのに、そこで買ったのは服と化粧品
それと、あまり高くは無いが可愛いアクセサリーをいっぱい
右手はいつでも銃を抜けるように空けておいているため、自然に左手に荷物が集中することになった

『デッド兄様、力持ちだね』
『当然です。自分とて引金を引く筋肉しかないわけじゃないですよ』
『うん。ありがとう、ごめんね。突然無茶言っちゃって』
『そう言うならば、どうして突然こんなに買い物をしたのか教えて欲しいですな』

聞くと姫君は照れ、はにかみながら言った

『あのね……その……ボク……』
『はい』
『お父様に、愛してほしいんだ』
『………はい? それは、つまり』
『娘としてだけじゃなくて、女の子としてだよ』

聞き間違いかと思った
二人は親子として仲睦まじい関係だったし、そんなことを考えていてもおかしくはない
それに、もしかしたら、という予感だってあった
エレキインセクト、お前にもそれが分かっていなかったとは言わせんぞ
しかし姫君はもう16歳
分別もあるはずの歳であるはずだし、ちゃんと愛する者を決める事だってできるはず
そのうえで、姫君は魔王を選んだのだ

『お父様は、ボクのことを娘としてしか見てくれないんだもん
 だから、ボクからお父様に、もっと積極的に大好きだってコトをアピールするの』
『それでは、この荷物は』
『うん。今までのボクじゃなくて、もっともっとおしゃれしてお父様にふりむいてもらうんだ』

48 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 4 投稿日:2011/02/01(火) 12:45:10 ID:xaLUy16T
「くううっ、我が妹ながら泣かせるねぇ。健気なこった」
「……ああ。最後のが無ければな」
「最後……聞きたかないけど、言ってみろ」

『しかし姫君、もしも魔王があなたに振り向いてくれなければどうしますか?』
『……』
『魔王とあなたは養子とは言えども親子です。娘を女性として見るというのは、父からすれば禁忌です』
『……関係ないよ、そんなの。ボクはお父様を愛してる
 お父様が躊躇しても、禁忌だったとしても、ボクはどんなことをしてもお父様と結ばれてみせるよ』
『姫君。魔王は、魔王なのです。時に意にそぐわぬ婚姻や、時には養子縁組を結ばねばならないこともあります』

その時、空気が変わった
一度だけ見たことがある、ポイズンタイガーが激怒した時に感じた殺気に勝るとも劣らないモノ

『その時は、ボクが止める
 婚姻を結ばなきゃならないならその女とボクが取って代わる
 養子縁組ならボクがいるんだって言って止める
 必要ならそいつらを殺したっていい。
 ボクからお父様を奪うやつらは、みんなみんな敵だ
 そんなやつら、絶対に許さない
 お父様と結ばれるのも、愛されるのも、それはみんなボクだけなんだ』


「聞かなきゃよかったぜ、マジでよ」
「そうだろうな。私だって聞きたくはなかった」
「……で、今はそんなふうに魔王を愛しすぎた姫ちゃんが待っていると」
「そうだ」
「つまり、エリスちゃんを連れて行くのは」
「自殺行為だな。お前はその娘を殺したいのか?」
「嫌だな」
「私もだ」
「「………はぁ」」

二人分の大きなため息
魔王は、これから始まる修羅場を何も知らぬまま、エリスと呼ばれた娘とうたた寝をしていた