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637 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に  ◆AW8HpW0FVA :2011/02/13(日) 00:00:18 ID:jfDCykFL
第二十一´話『そういえば、レギンってどうなるの?』

岩が崩れ落ちる中、シグナムは右腕だけで崖縁に掴まっていた。
ブリュンヒルドを殺すためとはいえ、流石に岬崩しの策はやりすぎた。
その代償で、左肩を強かに打ち、骨を砕いてしまった。
だが、こうでもしなければあの化け物は殺せなかったのだ。
それを思うと、左肩の犠牲くらい安いものである。
シグナムは右腕に力を入れて、懸垂する様に崖をよじ登ろうとした。
突如、月光を遮る影がシグナムを覆い、右手を掴んだ。
「シグナム様、大丈夫ですか!?」
それは最も聞きたくない声だった。身体中の血という血が引いてしまった。
右手を掴んでいたのは、間違いなくブリュンヒルドだった。
傷どころか土埃さえ付いていない様を見て、
やはりブリュンヒルドを殺せるものなどいないのだ、と絶望感がシグナムを包んだ。
「今助けますからね、じっとしていてください」
ブリュンヒルドの手に力が入った。このまま引きずり上げられたらどうなるか。
本当に助けてくれるなどという甘い考えは、そもそもシグナムの頭にはない。
ブリュンヒルドの事だ。きっと、半死半生になるまで嬲られた挙句、
死後も辱められてしまうだろう。
死ぬ事は別に怖くない。だが、イリスの仇を打つ事も出来ず、
人としての尊厳を無視されて惨殺されるのだけは絶対に嫌だった。
「そうなるくらいなら……」
シグナムはブリュンヒルドの手を振り払い、落下直前に右腕を薙いだ。
瞬間、ブリュンヒルドの首に赤い線が走り、次に鮮血が降り注いだ。
末期の言葉などありはしなかった。
終わった、というのがシグナムの感想だった。
イリスの仇を討て、さらに短い時間ではあるが、トラウマを乗り越える事が出来た。
魔王討伐とガロンヌの排除が出来なかったのは心残りだが、
終わり方としては、十分すぎるものだった。シグナムは小さく笑った。
もうすぐこの世ともお別れである。目の前に岩礁が近付いていた。


「これでずっと一緒にいられますね」
岩礁に直撃する間際、声が聞こえた。それが、シグナムが聞いた最期の声だった。



638 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に  ◆AW8HpW0FVA :2011/02/13(日) 00:01:21 ID:rhvtT6cM



シグナムがアーフリード領を脱出したという知らせを聞いてから、既に三ヶ月が経った。
ブリュンヒルドは信用できないと判断したガロンヌは、それとは別に密偵を送り込んだ。
今度こそシグナムを仕留められる、と確信していた。
ところが、である。
トゥファニアの東の玄関口であるカヴァールに到着した密偵は、
シグナムだけでなく、一緒にいるはずのブリュンヒルドも見付ける事が出来なかった。
確実にシグナム達がこの町に来たというのは間違いないというのに、だ。
念のために七国に捜索依頼を出したが、それも徒労だった。
密偵の報告を聞いたガロンヌは、すぐさま御前会議を開いた。
シグナムが生存しているか否かを決めるための会議である。
議題に疑問を持った者達もいたが、この会議に誰も異論を唱えなかった。
結果はしばらく様子を見ようと言う者達や、
今すぐにでも代王を正式な王に即位させようと言う者達で半々だった。
まだ子供であるレギンに裁定を仰ぐ事は出来ない。
必然的に摂政であるガロンヌが裁定を下す事になる。
当然、やるべき事など決まっていた。
ガロンヌはシグナムの死亡認定と、レギンのファーヴニル王即位の両方を決定させた。
手順はかなり違ってしまったが、ガロンヌは遂にレギンを王にする事が出来た。
計画は着々と進んでいた。後はこの王様が、自ら政治をやるなどと言わなければいい。
そうなった場合は、速やかに玉座からご退場願わなければならず、
せっかくの計画も台無しである。出来れば無能な王であって欲しい。
自分にとっても王にとっても、ガロンヌはそう思っていた。



639 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に  ◆AW8HpW0FVA :2011/02/13(日) 00:02:00 ID:rhvtT6cM
子供の頃のレギンは、異母兄であるシグナムから見ても賢愚が定かではなかった。
まだ九歳なのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが、なんとも特徴のない子供だった。
その平凡なレギンは、十二、十三と歳を重ねたがこれといって知性のきらめきを見せず、
十五、十六歳頃になると、目に見えて変化があった。
酒を飲むようになったレギンは、連日後宮に入り浸り、長夜の飲を行なう様になったのだ。
だが、レギンの淫行はこれだけに留まらなかった。
長夜の飲も然る事ながら、メディア・コルキスという愛妾を常に侍らし、
女官達に音楽を奏でさせるなどして、ますます堕落の度合いを強めていった。
レギンがまだ政治に関与する歳でないとはいえ、
流石にこれはまずいと思った者もおり、臣下の何人かはこの淫行を諌めようとした。
しかし、後宮には王以外の男は入れない決まりになっているため、
諫言できる場所が限られていたばかりか、
レギンが諫言する者は殺すという箝口令を出し、臣下達の口を塞がせてしまったのだ。
出歩く際は、ローラン・デュランダルという素性も知れない仮面騎士がレギンの傍に侍り、
この令が冗談ではない事を内外に知らしめた。
この状況をほくそ笑んでいたのはガロンヌだった。
平凡だとは思っていたが、まさかこちら側に堕ちてくれるとは思わなかった。
あと二年で、レギンが政柄を握る事になる。
それだけの時があれば、暴君にするなど造作もない事である。
親政開始時に、この様な絵に描いた暴君を見れば、皆大いに失望し、新たな王を望むだろう。
その時こそ、自らの野望を成就させる絶好の機会である。
残りの二年、レギンの好きな事をやらせてやろう。
あの女が欲しいと言えば、大臣の妻であろうと掻っ攫い、
宮殿を大きくしたいと言えば、民家を潰し、金が欲しいと言えば、民に重圧を掛けてやろう。
自らの命令で思い通りになる快楽をたっぷりと味合わせて、地獄の底に叩き落してやる。
それまで、精々人生の春を謳歌するがいい。
薄笑いを浮かべたガロンヌは、部屋の闇に消えた。



640 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に  ◆AW8HpW0FVA :2011/02/13(日) 00:02:28 ID:rhvtT6cM
二年の歳月はあっという間に過ぎた。レギン親政の年である。
結論から言えば、レギンは暗君から暴君へは墜落しなかった。
だが、暗君から名君にもならなかった。
やっている事は今までと変わらず、酒、女、音楽に溺れる日々だった。
せっかくレギンの評判を叩き落す好機だったが、これではあまり意味がなかった。
とはいえ、まだ時間はある。豹変するまで様子を見る事で、ガロンヌの腹は決まった。
摂政から宰相になったガロンヌは、この怠惰な王の親政を静観した。
一、二年と時が過ぎ、季節は春の盛りとなった。
レギンは相変らず酒ばかり飲んでいるが、一向に暴君の片鱗は見せなかった。
国内はガロンヌの手腕もあり、可もなく不可もなく治まっていた。内心、ガロンヌは焦り出した。
これまでにも怠惰な暗君というのは何人とこの世に出てきた。
それ等は皆、何事もなくその生を全うしていった。
今更怠惰と言う理由だけで追放する事など不可能だったのだ。
ガロンヌは眠り目で群臣達を見渡すレギンを見つめた。
知性の知の字も見当たらないその顔に、ガロンヌはなんとも言えない苛立ちを覚えた。
退廷後、ガロンヌはとある一室に同志数人を集めた。
彼等はガロンヌが選んだ平民出身の大臣達だった。
「計画の実行を早める」
開口一番にそう切り出したガロンヌに、大臣達は顔色を失った。
沈黙の中、一人の大臣が口を開いた。
「宰相閣下、確かに陛下は色に溺れる暗君ですが、まだ暴政を行なった訳ではありません。
今計画を実行すれば、貴族達や他の公子達の反発を招きますぞ」
「そんな事は先刻承知だ。だが、この千載一遇の機会を逃せば、
我々の理想郷の実現は遠退くばかりである。ここが勝負の分かれ目なのだ。
民さえ味方に付けられれば、公子や貴族など恐れるに足りぬ」
ガロンヌはそう言うと、大臣達に指示を出し、散会した。
その夜中、大臣の一人がファーヴニル城を抜け、領地に帰った。
五日後、その領地で反乱が起こり、その火種は各地に広がった。
兵士や平民を合わせて、五十万にも及ぶ大乱だった。



641 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に  ◆AW8HpW0FVA :2011/02/13(日) 00:03:03 ID:rhvtT6cM
反乱勃発の報せは、すぐさまレギンの許に届いた。
驚いたレギンはすぐさま御前会議を開いた。
「はっ……反乱が起こったというが、どっ……どうすればいいのだ!?」
おどおどと左右の群臣を見回し諮問する様に、王の威厳など見当たらなかった。
内心で薄ら笑いを浮かべているガロンヌが進み出た。
「私に兵をお与えください。相手は所詮寄せ集めです。一戦で打ち砕いてみせましょう」
「そっ……そうかそうか、汝は政治だけでなく軍事も堪能だったとは、
長い間共にいたが、全く気付かなんだ。で、兵はいかほど所望するのだ?」
「二十万もあれば十分でしょう」
「おうおう、賊軍の半数以下の兵力で戦うとは、なんとも勇ましいものよ。
よし、汝に全権を預けるゆえ、見事に賊を討滅せよ」
レギンは蘇った様に陽気な声を出し、ガロンヌに斧鉞を与えた。
慎んでそれを受け取ったガロンヌは、急いで部隊を編成し出陣した。



ガロンヌを見送った後、レギンの表情から怠惰というものが消えた。
護衛であるローランは、レギンの合図を受け、無言で大臣達を斬り殺していった。
それ等は全て、ガロンヌと結託していた大臣達であった。
その最後の一人となった大臣に、レギンは剣を向けた。
「お前の親玉の計画を教えてもらおうか」
今まで聞いた事もない様なレギンの冷たい声に、大臣は悲鳴を上げた。
逃げられない様に、ローランが腕を捻り上げている。
大臣は諦めたのか、わなわなと震える口を開いた。
「さっ……宰相閣下が軍を返されたら、わっ……我々同志一同がこっ……後門を開き、
へっ……兵を招き入れるという計画でごごっ……ございます!」
「なるほど、よく分かった」
「おっ……お助け……うげっ……」
レギンの剣が、大臣の喉を刺し貫いた。
大臣の死亡を確認する事なく、レギンは唖然とする群臣を見回し、口を開いた。
「諸君、今、ファーヴニル王家始まって以来の未曾有の危機が訪れようとしている!
ガロンヌは先王から受けた寵愛に報いようとせず、あろう事か無辜の民を煽動し、
我が王室を傾倒させ、自ら独裁国家を築こうとしているのだ!
これ以上、歴史あるファーヴニル王国を、下劣な乞食上がりに踏み躙らせる訳にはいかない!
皆一致団結し、共にこの大難を乗り切るのだ!戦って、勝って、自らの名を青史に刻み付けよ!」
レギンの檄の後、一人の大臣が万歳を唱えた。続け様に一人、また一人と万歳を唱え始め、
遂にそれは、万雷の声となって王宮内に響いた。



642 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に  ◆AW8HpW0FVA :2011/02/13(日) 00:03:33 ID:jfDCykFL
軍議において、群臣の間から出撃してガロンヌと決戦しようという声が聞こえた。
内通者を皆殺しにした今、背後を突かれる心配などなく、平野での決戦ならば、
例え兵力差があろうと、勝つ事が可能であるというのが彼等の自説である。
だが、レギンはあえて篭城策を取った。
別に七十万の大軍が恐ろしいという訳ではなく、今まで暗君を演じてきたレギンが、
急に兵を率いて決戦などをすれば、ガロンヌに勘付かれ、逃げられる可能性がある。
ガロンヌを確実に殺すには、徹底的に暗君を演じ続ける必要があったのだ。
群臣が不安の表情を浮かべる中、それを一身に受けるレギンは泰然としていた。
三日後、ファーヴニル城の正門前は、反乱軍七十万に埋め尽くされた。
レギンは防衛を軍務大臣に一任させ、自らは王宮に居座った。
反乱軍の陣容は、前線に平民四十万、後方にガロンヌの率いていた兵二十万と、
反乱を起こした領地の兵十万を配置するというものだった。
明らかに精鋭を温存し、いざという時に動いてくるという考えが、そこからありありと見える。
「民にどう吹き込んだのかは知らないが、悲惨な戦いになりそうだな」
難攻不落の巨城ファーヴニルを相手に、寄せ集めの軍団がどこまでやれるのか。
悠然と玉座に腰掛けるレギンの許に、攻撃開始の報告が届いた。

攻防戦は、凄まじいものだった。
両軍の号令の下、矢と砲弾が入り混じった矢合戦が始められた。
無数の矢は空に黒い橋を作り、砲弾は落雷の様に地を抉った。
調練をまともに行なっていない平民は、次から次へと矢と砲弾の餌食となった。
が、流石に兵力差は覆し難く、その間隙を縫って矢や砲弾の雨の下を掻い潜り、
城壁を攀じ登ろうとする者達が現れた。
それ等は城壁上から熱湯や石を投げ掛けられ火傷し、潰された。
「雑魚には目をくれるな!後方でちょこまかと動いている本隊を攻撃せよ!」
軍務大臣の檄が飛んだ。波の様に押し掛ける平民達の間に混じって、
後方の部隊が弓矢や大砲を放ってくるのだ。
少しずつとはいえ、城壁側の兵力も確実に減少していった。
堪りかねた軍務大臣が、出撃命令の要求の使者を送ったが、
レギンはそれを退け、ひたすら防衛に専念せよ、と改めて命令をした。
レギンの命令を聞いた軍務大臣は、いったいなにを待つというのか、と怒鳴り声を上げた。
そもそも篭城は、外から援軍が来る事を想定して立てられる策である。
確かにファーヴニル城の周辺には他の貴族の領地があり、援軍は期待できる。
しかし、この落日の軍を助ける貴族がどこにいるというのか。
レギンの死んだ後に立てられた王に取り入る方が安全であるに決まっている。
つまりは、ファーヴニル城に駆け付けてくれる忠勇の領主などいる訳がないのである。
あれほど偉そうな事を言っても、所詮はただのボンクラか、と軍務大臣は怒りを胸に、
手に取った弓で押し寄せる平民に矢を放った。



643 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に  ◆AW8HpW0FVA :2011/02/13(日) 00:04:12 ID:jfDCykFL
防衛のみの戦いが続いていた。
難攻不落といえども、三十日という長い篭城は、城兵達には地獄でしかなかった。
レギンを見つめる群臣の目に、悉く侮蔑の色が表れていた。
口先だけ、役立たず、無能、裏では散々罵倒されていた。
そろそろか、とレギンは判断した。真夜中、一人の小間使いが呼ばれ、闇に消えた。
翌日も、正門前では激闘が繰り返されていた。
城壁前には無数の死骸が転がっており、腐臭を放っていた。
その死骸を踏み越え、城壁に向かってくる平民を、城兵が無表情で迎撃していた。
お互いに疲労は極限まできており、最早気力で戦っている様なものだった。
激闘は日暮れと共に一時中断となった。両軍から炊煙が上がり始めた。
そんな時、レギンが軍の主だった者達を宮中に呼び集めた。
降伏でも発表するのか、と諸将は侮蔑の視線をレギンに向けていた。
その様な視線の中でも、レギンは萎縮しなかった。
「今日、この日を以って戦いを終わりにする」
やはりな、と諸将が呆れて溜め息を吐いた。
「ついては、私が兵三万を率いて後門付近に伏せ、敵を撃退する。
それと同時に諸将には正門から出でて、反乱軍を攻撃してもらう」
諸将の目が驚きで見開かれた。レギンが言葉を継いだ。
「内通者の言っていた時とは、正門に戦力が集中した今しかない。
内通者が全滅した事を知らないガロンヌは、私の送った偽の使者の言葉を鵜呑みにし、
今日の夜半に奇襲を仕掛けてくる。私の事を殺したくて堪らない奴の事だ。
他の将ではなく、必ず自ら部隊を率いてやって来るだろう。付け込む隙はそこにある!」
威のある声だった。その声は諸将を圧倒し、平伏させた。
城内が慌しくなった。三万の兵を率いたレギンは後門付近に兵を伏せ、
奇襲部隊がやって来るのを待った。
レギンの才覚を疑っている兵達にとって、この時間は不安でしかなかった。
しばらくすると、場外から微かだが物音が聞こえた。
次の瞬間、後門が開けられ、馬の嘶きと足音が聞こえてきた。
焦る気持ちを抑え、隊列が中頃を過ぎた辺りで、やっとレギンが合図を送った。
瞬間、周辺は煌々と光る松明で照らされ、間髪を入れずに無数の矢が放たれた。
目に見えて奇襲部隊は動揺した。レギンは剣を抜き、敵中に突っ込み、ガロンヌを捜した。
逃げ惑う兵を踏み潰し、レギンは慌てて逃げようとするガロンヌを見付けた。
レギンは剣を振り上げ、ガロンヌの首を切り落とした。
「敵総大将ガロンヌを討ち取ったぞ!」
レギンの声と共に、火矢が天空に放たれた。
それを見た軍務大臣が、正門を開け、寝静まっている敵陣に突入した。
将兵は皆口々に、ガロンヌは死んだ、と叫び、目に付く兵を斬り殺していった。
この頃になると、将兵達も本陣にガロンヌがいない事に気付き、混乱は本格的なものとなった。
反乱軍の潰走を始まった。合流したレギンは追撃を命じ、徹底的にこれを叩き潰した。
こうして一月に及んだファーヴニル城攻防戦は、討ち取った首級の数十万、
捕虜の数三十万という王軍の大勝利に終わった。
この勝利は、今まで暗君としか思われなかったレギンが、
一転して尋常ならない人物であると内外に知らしめるのには十分すぎる出来事だった。



644 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に  ◆AW8HpW0FVA :2011/02/13(日) 00:04:42 ID:jfDCykFL
戦後、レギンは論功行賞だけでなく、箝口令が布かれた中、
媚び諂い私腹を肥やした臣下の誅殺を行ない、有能な臣下を登用した。
レギンの擬態は、ガロンヌを騙すためだけではなく、臣下を見極めるのにも役立ったのである。
戦後処理を終えたレギンは後宮に帰り、部屋の入り口で立ち止まった。
疲れた、というのが本心だった。
六年という長きに亘って暗君の演技をしていたが、それもやっと報われるのである。
小さく溜め息を吐いたレギンは、急に背中を押され、ベッドに倒れ込んだ。
振り向くと、そこにはローランが立っていた。
「捜したんだよ、レギンちゃん。帰る時は一緒だっていつも言ってたのに」
仮面の下か聞こえてきたのは、男ではなく女の声だった。
鎧のプレートを一枚一枚外していき、最後に仮面と兜を脱ぐと、
そこにいたのは、ショーツに晒しを巻いているだけというあられもない格好のメディアだった。
「やっぱり鎧はいつ着ても蒸れるなぁ……。汗でべとべとだよ……。
……レギンちゃん、勝手に行動した罰として、汗を舐めてもらいますからね」
メディアに押し倒され、顔に腋の下を押し付けられた。
むせ返りそうな甘い匂いが、レギンの鼻腔をくすぐった。
「ちゃんと舐めないと、お仕置だからね」
気圧される様に、レギンはメディアの窪みに舌を伸ばした。
舌が甘く痺れる。舐めれば舐めるほど、身体が浮いているのではないかと錯覚してしまう。
「あはっ……レギンちゃん、私の汗、んっ……おいしい?」
とろんとしたメディアの瞳に見つめられた。
こんな事、本当は嫌なのに、舌が止まらない。
「うふふ……、急がなくても、あんっ……逃げないから安心して……」
そう言って、まるで子供をあやす様に頭を撫でられた。
子供扱いをするなと言いたいが、後が怖いので口を噤むしかない。
時間も忘れて舐め続けていると、メディアが一旦身体を離した。
「じゃあ次はぁ……」
手を後ろにやって、晒しを緩めると、押さえ付けられていた胸が飛び出した。
「おっぱいを舐めて……」
大きな胸に顔を押し潰される。汗が潤滑油となって抵抗なく擦り付けられた。
レギンは勃起した薄紅色の乳首に舌を這わせ、空いている方には爪を立てた。
柔らかい胸がレギンの手の形に歪む。
「んはぁ……、レギンちゃん、ぁうっ、もっと……、もっと強く……」
メディアの抱き締める力がさらに強くなった。乳肉に気道を塞がれる。
乳首を吸うのを止め、軽く甘噛みすると、メディアは引いてくれた。
と思ったら再び強く抱き締められた。
目の前が白いのは、肌の色か酸欠か、レギンには分からない。
どの道、お仕置きは避けられないじゃん、とレギンは愚痴りたくなった。



645 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に  ◆AW8HpW0FVA :2011/02/13(日) 00:05:42 ID:jfDCykFL
レギンがガロンヌに恐怖を感じ始めたのは、十歳の時だった。
その時はどうしてガロンヌが怖いのかもよく理解できなかったが、
時折見せるガロンヌの狂気めいた目を見た時、本能的にガロンヌは敵だと認識した。
だが、だからといってどうすればいいのかも分からず、ただ流されるだけの日々が続いた。
十四歳頃になると、ガロンヌが自分に対して敵意を持っている事に気付いた。
思春期特有の過剰な自意識を超越したそれは、レギンを大いに苦しめた。
誰かに相談しようにも、周りの群臣はガロンヌに頭を下げてばかりで信頼できなかった。
そんな中で、レギンが唯一心を許せた存在が、二歳年上のメディアだった。
メディアはファーヴニル家に代々仕える貴族の子女であり、
父親の意向で王の生活居住区である後宮に入れられたのだ。
レギンは小さな頃から親しく、メディアを本当の姉の様に慕っていた。
この人ならば、とレギンは自らの懸念をメディアに告げた。
メディアはレギンの告白を笑わず、
寧ろ、レギンちゃんに頼られて嬉しいわ、と真剣に耳を傾けてくれた。
数日もすると、メディアが以前流行った奇妙な噂を持ってきた。
それは、先王はガロンヌに毒殺されたのではないかというものだった。
先王が死ぬ直前、最後に見舞った人物がガロンヌだった事と、
ガロンヌの指示で、この国では一般的な土葬ではなく火葬にしたという事が、
その噂の下地となっていた。馬鹿馬鹿しい噂で片付けてしまえばそれまでだが、
レギンにはそれが真実の様に聞こえた。もともとレギンの勘は鋭い方である。
なぜガロンヌが先王を殺したのか、考えれば誰にでも分かる。
先王が死ねば、王位後継者だったシグナムがいなかった当時、
後継者となるのは必然的にレギンである。レギンを王位に据え、自ら政治を壟断する。
または王位を狙っているのではないかと予想する事も容易い。
これ等が全て推測の域を出ていないとはいえ、用心するに越した事はない。
どうしようかと、考え始めた矢先、メディアが拍子を打った。
「レギンちゃん、いい方法があるわ。今から暗君になればいいのよ」
「えっ?」
いきなりなにを言い出すのか、という表情をメディアに向けた。
メディアは相変らず朗らかに微笑んでいた。
「宰相が気にしている事は、レギンちゃんが政治に興味があるかどうかよ。
下手に政治に興味を持たれでもしたら、対立する事は明らかだし、
そうなったら殺される事は目に見えてるわ。
そこでレギンちゃんには、色に溺れる駄目君子になってもらうの。
そうすれば宰相の目を欺けるし、尻尾を掴む事も容易くなると思います」
「だけど、そんな事をしたら群臣だけでなく、民にも捨てられるんじゃ……」
「宮中の出来事を民達が知る術なんてないから、そんな事は考慮しなくていいわ。
それに群臣達も、レギンちゃんの実力を知れば、おのずと納得するから大丈夫よ」
メディアの策は、全てが運に絡むものだった。
だが、ガロンヌに抱いた不審は一向に消えそうにない。
ここは、自分の勘とメディアを信じるか。レギンは決心した。
「うん……、分かった。姉さんの策に従うよ」
この日から、レギンの擬態は始まった。



646 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に  ◆AW8HpW0FVA :2011/02/13(日) 00:06:31 ID:jfDCykFL
暗君が好むものといえば、酒、女、音楽の三つと相場で決まっている。
酒と音楽は問題なかったが、女に関してはメディアから提案があった。
それは、手を出す女性はメディアただ一人にして欲しいというものだった。
「この後宮に、宰相に通じている女官が入り込んでいないとも限らないわ。
過去にも、大事を起こそうとした貴族の妻が敵方と縁戚で、
そこから情報が漏れてしまったという話もあるし……。他人だったら言わずもがなよ」
明快な理由だった。だが、どこか気が引けた。
演技とはいえ、メディアにいやらしい事をしなければならないのだ。
実の姉の様に慕っているメディアにそんな事をしたくはない。
表情で察せられたのか、メディアはレギンの頭に手をやり、
「私は別にどうなってもいいの。レギンちゃんがこの国の王になって、
しっかりと治めてくれれば、それだけで私は満足だから」
その言葉から壮絶な決意を感じられた。その決意を無下に断る事など、レギンには出来なかった。
極力、女色に走らないようにしようとレギンは心に決めた。が、それは不可能だった。
酒に溺れ、音楽に入り浸る王が、なぜか女にだけは手を出さない。
女が嫌いという訳でも、男色の気があるという訳でもないのにだ。こんなおかしな話はない。
暗君を演じる上で、この三つの色は必要不可欠なのだ。
レギンは心中で謝りながら、メディアの胸や太ももに手を這わせ、吸い付いた。
その度に、メディアは顔を紅くした。嫌がっている事は明白だった。
メディアと二人きりになった寝室では、何度も頭を下げた。
その度にメディアは微笑みながら、次はもっと激しくしてください、と言った。
レギンは居た堪れなかった。早くこの様な事が終わればいいと切に願った。


一年も経つと、レギンの悪評が宮中でも聞こえるようになり、
日に日に諫言をしに来る臣下と、媚び諂いの言を掛ける臣下が多くなった。
それだけでも、群臣がレギンの演技を真に受けているという事は察せられた。
レギンはやる気のない生返事で応答し、呆れ顔をする臣下達を尻目に後宮に帰着した。
既に次の心算は出来ていた。箝口令を布き、群臣の口を塞ぐのである。
これで暗君の評価は確実なものとなる。
レギンはこの事は誰にも告げなかった。だが、なぜかメディアに悟られてしまった。
「レギンちゃんの考えている事だったら、なんでも分かるよ」
とは本人の言である。この発言にレギンは一瞬空恐ろしさを感じたが、
表面上は笑みを浮かべ、姉さんには敵わないな、と言ってベッドに横になった。
ベッドは二人が一緒に寝るには十分すぎるほど大きい。
暗君の演技をする際、寝る時は一緒、と二人で決めたのだ。
メディアがベッドに上がり、後ろから抱き締めた。
「レギンちゃん、その箝口令なんだけど、破った人はどうする事にしてるの?」
「んっ……、命を賭けて諫言する臣下がガロンヌと繋がっているはずはないから、
その時は本当の事を話して、味方になってもらうつもりだ」
「だったら、もっと分かりやすい形で知らしめる必要があると思うんだけど……」
腹案のありそうな声だった。レギンは向き直り、メディアと目を合わせた。
「私が鎧を着て、レギンちゃんの横に侍ったら、いい宣伝になるんじゃないかな」
メディアの案は、流石のレギンでも首を捻るようなものだった。
その様な事をしなくても、諫言する臣下を斬ろうとする動作をすれば、
それだけでも十分宣伝になるはずである。
わざわざメディアが鎧を着て横に侍る理由が分からない。
メディアの気配が変わった。表情は変わらないのに、放つ気がレギンを圧迫した。
「私がレギンちゃんの足を引っ張る様な策を立てる訳ないじゃない。大丈夫、私を信じて……」
真正面から抱き締められた。顔がメディアの大きな胸に埋まり息苦しい。
レギンは少し考えて、形だけだからいいか、と結論を出し、メディアの案を呑む事にした。



647 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に  ◆AW8HpW0FVA :2011/02/13(日) 00:07:51 ID:jfDCykFL
レギンの横に、ローラン・デュランダルという仮面騎士が侍るようになった。
当然それは、メディアが騎士の格好をしている時の偽名である。
メディアの言う通り、仮面騎士を侍らせると、多くの臣下がレギンを恐れるようになった。
仮面騎士は十分脅しとして通用するものだった。
だが、やはりというべきか、命を賭けてレギンに諫言をする臣下もいた。
婉曲に諌言する者もいれば、直接訴えてくる者もいた。
レギンはその者達に本当の事を話し、時機を待て、と言った。
後に彼らはレギンの政権下で、大いにその力を振るう事になる。


箝口令が布かれてから一年が経った。レギンの周りには媚び諂い私腹を肥やす臣下が集った。
レギンはそれ等の者達を招き大宴会を催した。
彼等の話は全て媚び諂いばかりで、理知の欠片も見当たらなかった。
レギンは緩んだ笑みを浮かべながら、内心で彼等を貶していた。
なんとなしに周りを見回すと、ある事に気付いた。メディアがいないのである。
一緒にいる時は傍を離れない、とメディアが一方的に決めたはずなのに、
こういう事は珍しかった。
「はははっ、酒を飲みすぎると、近くなってしょうがない」
気になったレギンは催した振りをして宴会の席から離れ、メディアを捜しに出掛けた。
当てはなかったので、適当に辺りをうろついていると、大きな物音が聞こえた。
音のした方に向かうと、そこは人があまり使わない部屋だった。
中を覗いてみると、血塗れの死体を見下ろすメディアの姿がそこにいた。
「姉さん……」
思わず大声を上げそうになった。部屋に入り鍵を閉め、メディアに近付いた。
仮面を被っていて表情は窺えないが、メディアの声は嬉々としたものだった。
「こいつはレギンちゃんに近付いて、情報を引き出そうとした愚かな雌豚だよ。
雌豚の癖に、私を介してレギンちゃんに近寄ろうとするなんて、
なかなか小賢しい事を考えるよね」
背筋が凍った。いつもの様に笑っているメディアが、今はとても恐ろしかった。
「怖がる必要なんてないよ。レギンちゃんの行く手を遮る奴は、
私が皆殺してあげるから。だからレギンちゃんは、私だけを見て」
メディアは狂っていた。いつどこで狂ったのかは分からないが、
最早後戻りは出来ないところまで来てしまっている事は十分に理解できた。
この日を境にメディアは変わってしまった。
レギンは幾度もメディアに押し倒され、その身を愛液や唾液で汚された。


目が覚めたレギンの横には、裸のままのメディアが幸せそうな寝顔を浮かべて眠っていた。
顔にはかぴかぴとしたものがこびり付いており、昨日なにがあったのかを如実に表していた。
「ガロンヌは倒せたが、今度はメディアに囚われてしまったか……」
メディアの髪を一通り撫でた後、レギンはすぐに服を着替えた。
片付けなければならない案件が溜まっているのだ。帰ってくるのは深夜になりそうである。
「今日もまたお仕置きかな……」
そう呟いたレギンは部屋を出て行った。
部屋には、メディアの寝息のみが響いていた。