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607 :溶けない雪 ◆g8PxigjYm6 :2008/01/06(日) 19:06:13 ID:MdISYtqU
9
「そういう水無月さんだって、20分前行動じゃないか」
そう言いながら、振り向く。
視界を変えた先に立っていたのは、水無月さん。
「確かにそうだね」
そう言い、水無月さんは軽く微笑む。
そんな表情に一瞬ドキリとしたが、直ぐにいつも通りに戻る。
「まぁ、二人共しっかりしてるという事でいいか。
それで、何を買いにいくの?
さすがに荷物持ちと言っても、数十キロとかの荷物は持てないからね」
少し冗談を言い、水無月さんの反応を伺う。
さすがに、只の買い物で数十キロなどいくわけがない。
そんな事を聞いた水無月さんは、少し考える様な仕草をして、
「分かった、9キロ位に抑えるね」
「え?」
返ってきた水無月さんの言葉に、思わず驚いてしまった。
「冗談だよ。今日は、少し雑貨屋にでも行こうかと」
冗談か…
力にはそこまで自信がなかったという理由から、
安心してしまった自分が少し情けない。



「うわぁ……案外面白い所だね、ここは」
雑貨屋に入った時、思わずそう言ってしまったのは無理もない。
入った瞬間に視界に写る、見渡す限りの物、物、物。
数えきれない程の物が置いてありながら、
ぬいぐるみ、コップ、お菓子、香水、椅子、etc……と、種類もかなりある。
少し遠くから、音量が高い歌も流れてきて、耳に届いてきている。
少し前に流行った曲で、僕は今でも聞いている。
人の姿も、それなりに居る事も分かる位、入り口からでも人が視界に入る。
雰囲気や、中の様子が想像とはかなり違った。
何故かは分からないが、質素なイメージで、
あまり人がいない様なイメージが自分の中で勝手に定着していたのだ。
「あまりこういった所には来た事ないの?」
「いや、来た事はあるかもしれない。
だけど来た憶えが全然ないかな」
来た事があったとしても、その事を全く憶えていなければ来た事がないのと同義だ。
「へぇ……
やっぱり男の人はこういった物にあまり興味がないのかな?」
そう言いながら、水無月さんは目の前の棚に置いてある少し大きめの、
丸い形の豚のぬいぐるみを手にとり、こちらに差し出す。
「多分そうだと思う……かな?でも僕としては、
とりあえずこの店には興味があるよ」
目の前に差し出された、豚のぬいぐるみを手に取る。
「うわぁ………これで2000円もするものなのか」



608 :溶けない雪 ◆g8PxigjYm6 :2008/01/06(日) 19:08:09 ID:MdISYtqU
「結構ぬいぐるみは高いよ。
だから私は買うとしたら、いつも手の平サイズ位の大きさにしてるよ」
「という事は、これは大体サッカーボール位の大きさだから買わないというのか」
手にあるぬいぐるみを元の棚に戻す。
僕の手によって棚に戻ったぬいぐるみは、
寂しげな目でこちらを見ている気がした。
「残念ながら、ね。
もう少し安かったら買っていたと思うんだけど……」
そういうわけだってさ、と、豚のぬいぐるみに視線を送る。
「なるほどね……
ところで、いつまでも同じ棚の前に居るのもなんだから、奥に進もうか」
「じゃあ、あっちからでいいかな?先に見たい物があったから」
水無月さんは右側を指差した。
指差した方向を見ると、どうやらあっちの方には食器類を主に置いているようだ。
「元々僕は付き添いだから、水無月さんの行く方向についていくよ」
「………うん、そうだね。じゃあ、行こうか」
今の間が少し気になったが、
水無月さんが、先程指差した方向に既に歩きだしていたので、足早に追いかけた。


水無月さんの目的の場所に着いて周りを見ると、
さっきは基本的にぬいぐるみをメインに置いてあったのだが、
ここは食器をメインに置いてあるようだ。
目の前の棚で見かける食器としては、コップやご飯茶碗が一見して多い。
「コップでも買うの?」
そんな棚の前でしきりに品を見ている水無月さんを見て、
疑問に思った事をそのまま口にする。
「うん、その通りだよ。と言っても、なかなかいいのが見つからないんだけどね」
「どんなコップが欲しいの?」
「うーん………マグカップが欲しいかな?」「マグカップねぇ…………」
そう呟きながら、周りの棚を法則性なく見回す。
ふと、棚の一番右、上から3段目の棚にある白いマグカップと、
その右隣に配置されている黒いマグカップに目が止まった。
見ると、そのマグカップの表明には色しか目に写らない。
棚に向いている方に模様があるのかと思い、白いマグカップを手に取ってみる。
手に取ってマグカップを右に回しながら見るが、続くのはただひたすらの白。
何も無い事が分かったので、白いマグカップを元の位置に戻し、
今度は右隣に置いてある黒いマグカップを手に取る。
先程の白いマグカップと同様に、右に回しながら見るが、
今度は白と対象的とされり、黒が続くだけ。
模様があるかもしれない、という事に期待していたわけではない。
なので、何もないと分かると同時に、何の未練もなく、マグカップを元の位置に戻す。
そんな今までの僕の様子を、隣で見ていたらしい水無月さんが、
棚に戻したマグカップに手を伸ばし、白と黒、両方を手に取る。
しばらくそれらをじっと、見つめていた後、「これにしよう」
「ん?それでいいの?」



609 :溶けない雪 ◆g8PxigjYm6 :2008/01/06(日) 19:08:50 ID:MdISYtqU
水無月さんは手に持っているマグカップに視線を落とし、
「うん、私はシンプルな物が結構好きだからね」
そう言いながら、マグカップを手にレジに向かい歩き出す水無月さん。
水無月さんの後に付かず離れずの距離を保ち、後ろからついていく。
後ろから付いていくと、先程の真っ白なマグカップを思わず思い出した。
改めて認識させられるが、水無月さんの髪はそれ位に、真っ白でいて、綺麗だった。
後ろ姿を見ると分かる、雪のような純白。
正面から見ると目立ちすぎない程度に見栄えを飾る髪質。
そんな髪からは、
純粋という雰囲気さえ醸し出している気がする。

と、また人の事をじろじろ見てしまっていた。
失礼極まりない。


「買ってきたよ~」
僕に見せる様に、水無月さんは、
ビニール袋を持った手を顔の高さ位まで上げて軽く揺らした。
「マグカップなのにビニール袋なの?」
「あぁー……それはね」
結構耳に残る音を発しながら、
ビニール袋の中から薄い黒の箱を取り出した。

「ちゃんと箱に入ってるよ。
でも、箱に入っているからといってビニール袋に入れるのも、
確かに変な感じだね」
割れ物がビニール袋というのは、
どこかにぶつけただけで直ぐに割れてしまう、という不安が生まれる気がする。
「箱が黒いって事は、それは黒いマグカップ?」
「正解~
正解者には景品としてこのマグカップを贈呈」
僕の両手を掴み、おもむろに水無月さんが手に持っていた箱を、その両手に置く。
「ん?
水無月さんが欲しいから買ったんじゃないの?」
「この黒いやつは違うよ。
これは今日の買い物に付き合ってくれたお礼だよ。
大体、女の子に黒いマグカップは似合わないって」
確かに
「そういうわけだから、遠慮なく貰ってくれると助かるなぁ…」
断られるのを心配しているのか、しきりに貰うように催促してくる。
僕としても、お礼というからには、もらわない方が逆に悪い気がした。
「分かったよ。遠慮なく貰ってく」







610 :溶けない雪 ◆g8PxigjYm6 :2008/01/06(日) 19:10:15 ID:MdISYtqU
「それじゃあ、今日はお開きにしましょうか」
雑貨屋を出た後、直ぐに帰る事になった。
どうやら水無月さんはこれからやる事があるらしい。
しばらく繁華街の街並みをぼんやりと眺めながら、
水無月さんと肩を並べて歩く。

これといった事はなかったと思うが、何故か奇妙な沈黙が生まれていた。
前述した通り、理由は勿論分からない


よく分からない沈黙だった為か
「じゃあ、私はこっちだから」
待ち合わせ場所にいつのまにか着いていた、という事に気付いたのは
僕が帰る方向と違う方向を指さしながら、
僕に話かけた水無月さんの声を聞いてからだった。
「分かった。じゃあまた明後日、学校でね」
「うん、じゃあね」
二人で言うと同時に、各々の帰路に進む。

それにしても、買い物といってもあまり時間がかからなかった。
携帯を開いて時刻を見ると、約3時30分。
水無月さんに会ってから1時間30分位しか経っていない。
用事があったようなので、仕方がないといえば、仕方がないが。

お詫びの様な感じで付き合ったわけでもあるし、同時に親交も深められたと思う。
更に言えば、結構楽しかった。
最後の奇妙な沈黙が気になったけれど。



水無月 雪梨視点より
今日は本当に楽しかった。
隣には健二さんが居て、他愛もない物を二人で探して、
雑貨屋で買った色が違うだけのマグカップを二人で分けて……
これはデートと呼んでも差し支えないと思える。
健二さんはそんな気がなかったみたいだったのが、
残念だったけれど。

本当は、これから喫茶店にでも入って、健二さんと談笑をして、
しばらくしたら景色が綺麗な所にでも行って、
良い雰囲気を作る…………筈だったのに!?


全てがぶち壊された。
楽しくなる、至福の時だっただけに、
それが壊された時に感じる怒りは、相当なものだった。
相当というか、ここまで怒りの感情を持ったのは、
初めての事かもしれない。



611 :溶けない雪 ◆g8PxigjYm6 :2008/01/06(日) 19:12:10 ID:MdISYtqU
でもそんな怒りも今は抑えなければ駄目。
これから壊れた元凶………
ううん、壊してくれた人に会うんだから、怒りの感情のままに
アレに会っては駄目だ。
少し冷静になろう。
今日の事は、近いうちにお礼をすればいいだけだ。
私は待つ、あの――――
「ちょっと待ってくれないかなぁ?」
女が話掛けてくる事を―――――