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305 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/02/24(木) 18:51:57 ID:1JVwOzh/
「……ここは……」
目が覚めると暗い天井が視界一杯に広がっていた。固いベッドから身体を起こすと鉄格子が目に入った。そして地面には白髪の少女が横たわっている。
「遥っ!?」
その少女、遥に近付いて呼び掛ける。意識はないものの死んではいないようだった。静かに目を閉じて眠っている遥はまるで人形のようだった。遥に近付こうとするが――
「っ!?……手錠……」
右手には冷たく光る手錠がベッドまで繋がっている。がむしゃらに引っ張るが取れるはずもなく、俺はベッドを降りることすら出来なかった。
「くそっ……また、また傷付けちまった……」
誰も傷付けないように朔夜と一緒にいたというのに、結局俺は仲間を傷付けてしまった。やはり俺は皆と一緒にいるべきでは――
「……カナメ?」
「えっ?」
聞き覚えのある幼い声。無意識に顔を上げるとそこには身体中に擦り傷がある里奈がいた。里奈は俺が閉じ込められている鉄格子まで音を立てないようゆっくりと近付いてくる。
「り、里奈……?」
「カナメ……やっと…見つけた……」
ふらふらと近付き倒れそうになる身体を何とか鉄格子で支えていた。どうやらここに来るまでに相当体力を消耗したらしい。たかが10歳の少女まで俺は――
「鍵……持って来たから……出よ?みんな……待ってるよ」
「……止めてくれ」
「カナメ……?」
「止めてくれ!俺は……俺はもう誰も傷付けたくないんだ!」
鍵を開けようとする里奈に俺は叫ぶ。それはまるで自分の心の叫びのように思えた。



306 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/02/24(木) 18:52:58 ID:1JVwOzh/

桜ヶ崎駅から2時間ほど電車で行ったところにある東雲駅。その東雲駅から東に20分ほど歩くと大きな森がある。私達はその森の中を歩いていた。
「本当に……ここに要がいるのかな」
すぐ後ろを歩く英が私に質問する。森の中に入ってかれこれ2時間。確かに疑問に思っても可笑しくはないし、現に私も歩いている最中何度もそれを考えた。
「……近くの住民が要と赤いワンピースの少女がこの森に入ったと教えてくれた。それを信じて進むしかないな」
「まあ会長について行けば大丈夫だろ?心配すんなよ英!」
先陣をきってどんどんと前に進んでいる亮介が当たり前のように答える。英は少し亮介を見つめた後、溜め息をついた。
「……皆が亮介みたく能天気なら幸せな世の中だろうにね」
「ああ!……ん?なんか馬鹿にされてないか、俺!?」
「こっちに来なくていいから!無駄に体力を消耗するよ!」
「おいっ!英!やっぱり馬鹿にしやがったな!」
いきなり英と亮介が追いかけっこを始めた。よくもまあこの状況下でふざけあいが出来るものだ。
「やっと……私達らしくなってきたな」
「お嬢様?……楽しそうですね」
「私にもやっと分かったよ……要が何故あそこまで要組というものにこだわっていたのか」
桜花は私の隣を歩いている。彼女の話では里奈が昨日の内に家からいなくなったそうだ。私達の会話を聞いていたとするならばおそらくこの東雲に来ているはずだが。
「……とにかく進むしか――」
「会長!おい会長!」
亮介が急に大声を出して私達を呼ぶ。何事かと駆け足で近付き亮介の指差す方向を見ると、そこには灰色の物体があった。
「あれは……?」
「小屋、かな。こんな森の奥地に小屋なんて珍しいね」
英が小屋らしき物体を見つめながら呟く。ゆっくりと近付くとやはりそれは灰色の小屋だった。小屋の辺りにだけ日が射しており何とも神秘的な景色になっている。
「……とりあえず中に――」
「こんにちは」
「っ!?」
さらに小屋に近付こうとしか瞬間、声をかけられた。私達が一斉に振り向くとそこには真っ赤なワンピースを来た女の子が立っていた。
長い黒髪に整った顔立ちをしているが、何処がただならぬ雰囲気を醸し出しているような気がした。
「……君…もしかしてこの家に住んでるのかな」
英がゆっくりと少女に声を掛ける。英の質問に少女は満面の笑みを浮かべた。
「うん!私達の世界なんだ、その家は!」
「私……達?」
英が思わず聞き返す。亮介も英と同じように疑問に思ったらしく、辺りを見回していた。
「そうだよ。ここは私と……私と要の世界なの!」
「か、要だと!?」
少女が満面の笑みを浮かべながら答えたその言葉に私は無意識に反応してしまっていた。
そういえば要は赤いワンピースの少女と一緒だったという情報があった。目の前にいる彼女こそその少女だったのだ。
「ふふっ、あまり取り乱さないでよ。……美空優さん?」
「なっ!?」
「お嬢様の名前を……!」
少女は私をじっと見つめる。笑みこそ浮かべてはいたが、それはとても意地悪いものに変わっていた。少女はそのまま私に近づいて来る。
「お前は……誰だ!?」
私の叫びにも動じることなく少女は相変わらず意地悪な笑みを浮かべていた。そして私達との距離をある程度保った所で止まる。
私達の誰もが少女を見つめることしか出来なくなっていた。
「私の名前?……ま、いっか。私は朔夜。よろしくね、英に亮介に桜花」
「僕達の名前も……」
「……分かってるってか」
何故だろう。この朔夜という少女こそが私達の求めている答えを知っているはずなのに聞けない。
いや、聞くことを躊躇してしまうのだ。この朔夜の威圧するような雰囲気と意地悪な笑みによって。



307 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/02/24(木) 18:53:45 ID:1JVwOzh/
「それで優はここに何をしにきたの?散歩……じゃないよね」
「朔夜……君と一緒にいる要という男を……」
「ふふっ、返して欲しいんでしょ?……分かってるよ。優の苦しみ」
朔夜はにやにやしながら私を見つめてくる。まるで蛇に睨まれた蛙のように私は一歩も動けない。そんな私を嘲笑うかのような眼差しを彼女は向けてきた。
「ずっと一人で寂しかったんだもんね。やっと自分のことが分かってくれる人、見つけられたんだもんね」
「何を……」
「でも駄目だよ。優じゃ、また繰り返すだけだから。また要に……拒絶されちゃうよ」
「っ!?」
朔夜は微笑みながら私の心を抉ってくる。まるで私のことを知っているかのようだった。そう、私は要に一度拒絶されたのだ。今度もまた拒絶されてしまうかもしれない。
「ふふっ、そうだよ。拒絶されないわけがない。だって優は……あの時と何も変わってないもの」
「わ、私は……」
そうなのだろうか。私はまた拒絶されてしまうのだろうか。結局私には要と並ぶ資格などないのだろうか。考えれば考えるほど自分が惨めに思えてくる。
「その程度で要を好きだなんて……死んじゃえば?」
「か、会長!逃げろ!」
「お嬢様っ!?う、動けない…?」
視界にはゆっくりと手を挙げる朔夜の姿が写っている。動こうとしても動けない。このまま私は死ぬんだろうか。このまま要に会えずに――

『それでも、何度でも立ち上がるの。自分の気持ちに嘘をついちゃ駄目。そう誓ったんでしょ』

「っ!」
「……えっ?」
朔夜が手を振り下ろす直前に身体が動くようになった。咄嗟にサイドステップでそれをかわす。そんな私を朔夜は信じられないという表情で見ていた。
「そう……私は誓ったんだ。もう誰にも要を渡さないと」
「……へぇ」
私の回し蹴りを難無くかわしながら朔夜は私達と距離を取った。身のこなしは半端ではないが表情には少し焦りが出ている。
「あ……動ける」
「距離を取れば動けるようになるのか……?」
英と亮介が私に駆け寄って来る。桜花も朔夜を警戒しながらこちらに来た。
「お嬢様一体どんな技を……?」
「ただ当たり前のことを思い出しただけだ。要は私のものだ。どんな手段を使ってでも側にいてもらう」
もう迷いはない。例え拒絶されても何度でもアタックすれば良いだけのことだ。私は絶対に諦めない。
「例え……要が嫌がってもな……ふふっ」
「なんか……僕達には無理な技みたいだね……」
「と、とにかく早く要を助けようぜ!」
私は朔夜を見据える。この泥棒女を払いのけて要を取り返す。



308 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/02/24(木) 18:54:35 ID:1JVwOzh/

「馬鹿ぁ!!」
「えっ……」
鉄格子の部屋一杯に響く大声に顔を上げると里奈が大粒の涙を流していた。
「あ、えっと……」
「傷付けるって何!?そんな理由であたしの前から消えたの!?」
突然のことに呆然としている俺に里奈は泣きながら訴える。よほど怒っているのか音を立てながら鉄格子を揺らしていた。
「そんな理由って……」
「ふざけないでよ!!」
「ご、ごめん……」
たかが10歳の女の子にこうもまくし立てられるとは……一部のマニアにとってはご褒美なのだろうが。
「あたしには……あたしにはカナメ達しかいないの!他に家族がいないんだよ!ジュンもいなくなっちゃうし……」
「里奈……」
「トウカと約束したんでしょ……。一緒に……一緒にいてよ!一人は……寂しいよ……」
そうだ。俺は桃花と約束したんじゃないか。

『要様に任せます。……最後まで迷惑をおかけして申し訳ありません』

あの星空が広がっていた夜、俺は彼女に言われたんだ。あの非情で他人を寄せ付けなかった桃花が俺に里奈を託してくれた。
その本当の意味を俺は今まで理解してなかったのかもしれない。
「誰だって人を傷付けることはあるよ!だってそれが仲良くなるってことでしょ!?カナメが……カナメ達が教えてくれたんだよ!」
「里奈……」
涙を流しながら里奈は必死に訴える。その涙を見て初めて俺は今まで自分のことしか考えてなかったんだと思い知った。
ただ自分が傷付きたくない一心で殻に閉じこもってたんだと。
「あたし……カナメが大好きだよ!傷付いても…それでも一緒にいたい!!」
「っ!!……里奈」
そうだ。逃げていては何の解決にもならないんだ。例え潤や遥、優や撫子や桜花が狂気に病んでしまっても俺はちゃんと受け止めるべきだったんだ。

『信じること。一度信じると決めた奴は最後まで信じる。たとえ事実がそれと違ってもね』

亙さんだってそう言ってた。最後まで信じることが……大事なんだ。俺達は仲間なんだから――
「立ってよカナメ!!」
「……里奈、鍵……外してくれないか」
「……カナメ!!」
「ああ、やっと目が覚めたよ。俺が今何をすべきなのか」
恐れることはない。誰かを傷付けずに生きられる奴なんていない。だからこそ俺達はその分絆を深めることが出来るんだ。



309 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/02/24(木) 18:56:32 ID:1JVwOzh/

里奈の持って来てくれた鍵で手錠を外してもらい鉄格子を出るとそこには同じような鉄格子の部屋が広がっていた。
「寒いな……」
「急いでカナメ!早くしないと見つかっちゃう!」
どうやらここは地下室のようだ。一体ここが何処なのか。あの無機質な部屋からどれだけ離れているのか分からないが、早くしないと優達が朔夜に――
「今優達がここに向かってるんだよな!?」
里奈の話では優達が俺を追ってここまで来ているらしい。どうやってこの場所を突き止めたか知らないが大したものだ。
里奈はそれを盗み聞きして一足先に俺を助けに来たらしい。
「うん!早くしないと……あっ!?」
「里奈っ!?」
急に里奈が転んでしまった。流石に体力が限界に来ているのかもしれない。俺は背負っていた遥をそっと地面に下ろすと急いで里奈に近寄った。
「大丈夫か、里奈!?」
「う……ん、大丈夫……ちょっと……転んだだけだから……」
里奈の右膝からは血が出ておりとても走れそうには見えなかった。
「……膝、出して」
「だ、大丈夫だって……」
「強がんな。今止血するから」
「……うん」
ハンカチを取り出して里奈の右膝をきつく縛る。よくみれば全身擦り傷だらけで必死にこの森を抜けて来たのが分かる。
「里奈……ありがとな」
「ふぁ……は、恥ずかしいよ……」
里奈の頭を撫でる。里奈は顔を真っ赤にしながらも黙って撫でられていた。皆俺の為に頑張ってくれている。その想いが俺を孤独から救ってくれているようが気がした。



「くっ!?」
「うわっ!?」
空気すら引き裂くような衝撃波を何とか回避して物影に隠れる。しかし依然としてあの小屋には全く近付けずにいた。
「でたらめだな……。腕を振っただけで衝撃波なんて……」
「ふふっ、要を取り返しに来たんでしょ?早くおいでよ」
朔夜は相変わらず意地悪い笑みを浮かべてこちらに近付いて来る。このまま逃げ隠れしていても埒が明かない。ならば――
「やるぞ英……」
「僕か……」
「今は近くに英しかいないんだ。頼むぞ」
「はぁ……。なんで毎回僕がこの役を……まあ分かってるけどね」
タイミングを見計らう。失敗は許されない。
私達もある程度なら海有塾で鍛えていたが、彼女はそれを遥かに超越しているように思えた。故に朔夜を止めるには武力ではなくチームワークで対抗するしかない。
「……よしっ!」
合図と共に英が小屋に向かって駆け出す。朔夜はすぐに気付いたのか英の方を向いていた。


310 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/02/24(木) 18:57:12 ID:1JVwOzh/
私は気配を殺してゆっくりと後ろから間合いを詰めてゆく。
「ふふっ、中々素早いね。でも……終わり」
「来たっ!?」
朔夜が右腕を思い切り振ると轟音と共に生まれた衝撃波が木々を薙ぎ倒し、一直線に英に向かっていった。
「はぁあ!!」
「っ!?」
朔夜が右腕を振り終わったその一瞬の隙をついて私は彼女に組み掛かる。完全に隙をついたにも関わらず朔夜はバランスを崩すことなく私に組み付いた。
「くっ……」
「ふふっ……本当に貴方達って面白いわね。要の言ってた通り」
「これで……衝撃波は使えないだろう」
今ならば朔夜は腕を振ることは出来ない。それを見計らったかのように桜花と亮介、そして何とか衝撃波を回避したらしい英が全速力で小屋へと向かっていた。
合図しなくても動いてくれるとは……いや、私達には本来これくらいは朝飯前だったはずなのだ。
「良いの?一番最初に要を見付けるのが優じゃなくて。誰かに……取られちゃうかもよ」
朔夜は私を挑発するように意地悪い笑みを浮かべ囁く。だが――
「それがどうした?誰が最初だろうと関係ない。誰が狙っていようと関係ない。要は……私のものだ」
「ふふっ、優も……十分狂ってるんだね……!」
「っ!?」
朔夜の力が段々と強くなり私が押されはじめる。まさかこんな小さな身体にこれ程の力があったとは想定外だった。
渾身の力を込めて押し返すが今の均衡を保つのがやっとだ。
「それが本気なら……殺してもいいよね……?」
「くっ……くぁぁあ!!」
朔夜の殺気に思わず逃げ出しそうになるのを叫ぶことで必死に押さえ込む。私はここに何をしに来たんだ。
要を……白川要を取り返しに来たんだ。だから……仲間が彼を見付けるまでは私が……私が要の代わりに仲間を守る。
「ふふっ、優は本当に不思議だね。そんなに心が壊れてるのに他人を信じられるの?」
「……要だけじゃない。皆、皆も私のものだ……!いつまでも私が……皆を縛り付ける……!私の……幸せのために……!!」
私が欲しかったもの。私を愛してくれる人。そして私を美空優として見てくれる仲間。私はどちらも手に入れてみせる。私は……欲張りなんだ。
「ふふっ、あはは!……そうやって壊れてたら……私も幸せだったのかな」
「くっ!?」
身体が少し押し返されていく。腕も既に感覚がなくなり汗が額を伝っていた。朔夜はそんな私とは対照的に"無表情"で力を込めている。
「どうした……意地悪い笑みを浮かべる余裕は……無くなったか」
「……さっさと死んでよ」
急に朔夜の力が増して私を押し切る。急なバランスの崩壊に堪えられなくなった私は思わず両手を話して地面に――
「しまっ!?」
「さよなら」
次の瞬間私の目の前に写ったのは"右腕"を大きく振り上げる朔夜の姿だった。



311 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/02/24(木) 18:58:09 ID:1JVwOzh/

あの鉄格子の部屋を出てからどれくらい経っただろうか。未だに出口は見つからず俺も里奈も疲れきっていた。
「くっ……まるで迷路だな……」
「鉄格子と手錠の鍵は入口にあったのに……入口に戻れない」
目の前には左右に別れた道。何度か通ったような、むしろ今通ったばかりのような感覚に陥る。まさかこれも朔夜の――
「くそっ!……誰かいないか!?」
「はぁはぁ……カナメ……」
昨日から一睡もしていない里奈はかなり体力が低下していた。このままじゃいずれ朔夜がここに戻ってきた時に皆……殺される。
「畜生……!やっと分かったのに……ここで終わりなのかよっ!?」
俺の叫びは虚しく冷たい地下牢に響いた。ここから出る術はないのだろうか。俺達は……もう一度集まることなく終わってしまうのだろうか。
『いてぇ!?』
『大丈夫かい?亮介』
「はは……ついに幻聴まで聞こえてきちまったか……」
『お二人とも急いで下さい!……何ですか、この見るからに怪しい地下扉は?』
「桜花の声まで……えっ?」
真上を見る。幻聴なんかじゃない。確かに真上から声が聞こえてくるのだ。懐かしい声が。
「お、おい!!英、亮介、桜花!!いるのか!?」
『いやぁ……これは……いくら何でも罠でしょ』
『分からないぜ!?こういうのが意外と当たりだったりするんだよ!』
どうやらこちらからの声は聞こえてないようだった。でも確かに真上に彼らがいる。その事実が俺を奮い立たせた。
「つーかコントしてないで早く助けてくれよっ!!」
『……埒が明きません。どいてください』
「うわっ!?」
桜花の声がした次の瞬間、辺りがまばゆい光に包まれる。咄嗟に俺は目を閉じてしまった。
「……あれ?」
気が付けば目の前には階段があり上から三人が覗いていた。後ろを振り返ると小さな鉄格子の部屋が2、3個あるだけだった。
まるで朔夜に幻覚でも見せられたような気分になる。
「マジかよ!?」
「ビ、ビンゴみたいだね……」
「里奈様!?早くこちらに!」
とりあえず里奈と共に階段を上がると見慣れた無機質な部屋が広がっていた。この部屋にあんな地下が……いや、あるいは入ったら出られないような仕掛けが――
「……要」
「……英」
目の前には相変わらず天然パーマの藤川英がいた。
「病院でのこと……僕は謝る気はないよ」
「……ああ、分かってる。俺もやっと分かったんだ。何をすべきなのか」
英はしばらく俺を見つめた後、ゆっくりと頷いた。お互いそれ以上言葉は交わさない。
「……亮介、遥がここに来てたんだ」
俺は背中に背負っていた遥をゆっくりと降ろした。亮介は駆け寄り息があるのを確認するとほっと胸を撫で下ろしたようだった。
そして俺に申し訳なさそうな表情をしながら近寄ってくる。
「……要、俺――」
「よせよ」
「えっ……」
「今は帰るのが先だろ。……皆一緒にな」
「……ああ」
俺の言葉に亮介はしっかりと頷いた後、俺の肩を強く叩いた。
「いてぇ!」
「さあ行くぜ要ちゃん!急いで会長を助けに行かないとな!」
「里奈様はここで遥と待っていて下さい。……必ず戻ってきますから」
「……うん」
里奈を一瞥した後、俺達は急いで無機質な部屋を抜け出した。



312 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/02/24(木) 18:59:30 ID:1JVwOzh/

「……まず一人」
自分の衝撃波で抉れた地面とその中心で血を吐いて倒れている赤髪の少女を一瞥して朔夜は小屋に向かおうとした。
「………………まて……」
力を振り絞ってそれを阻止する。全身に激痛が走り口の中には思い切り鉄の味が広がっているのが分かる。身体は奮え今にも倒れてしまいそうだが――
「倒れるわけには……いかない……」
「……そう」
そんな私を朔夜はまるで苦汁でも嘗めさせられているような苦々しい表情で見ていた。
「要が……要が来れば……!」
「流石は誓っただけあるわね。……優も立派な狂人よ」
ゆっくりと朔夜が近付いて来る。動きたいが身体が全く言うことを聞かない。最早ここまでか。
「…………ふっ」
こんな時なのに何故か浮かんだのは要のことだった。
要はちゃんと逃げられただろうか。
もしもう一度会えたら……私を許してくれるだろうか。
最期にもう一度要のあの笑顔が……あの皆を奮い立たせる声が聞きたかった――
「今度こそ……さよなら」
私はゆっくりと目を閉じた。



「今度こそ……さよなら」
「止めろぉぉお!!」
朔夜が優に向かって振り下ろすその右腕を寸前で押さえ込む。
その一瞬の隙に英達が優を俺と朔夜から引き離した。朔夜は驚いた表情で俺を見つめている。
「か、要……何で……」
「もう……もう終わりしよう……朔夜」
朔夜の右腕を掴みながら俺は彼女に語りかける。
もう現実から逃げるのは止めだ。俺は……どんなもんだって受け止めてみせる。俺が信じる仲間の為に。
「……ふふっ、要はまだ分かってないんだね。君には何処にも行く場所なんてないんだよ?」
朔夜は優しく囁いてくる。でも俺はもう逃げるわけにはいかない。
「俺には居場所がある。……"要組"が、仲間が俺の居場所だ!!」
「仲間?居場所?……ふふっ、要って本当に馬鹿だね。その仲間は皆狂ってるんだよ?知ってるんでしょ」
「……狂ってても俺がそれを受け入れてみせる。もう、決めたんだ」
俺はしっかりと朔夜を見つめる。朔夜は俺を睨みつけていた。



313 :リバース ◆Uw02HM2doE :2011/02/24(木) 19:00:16 ID:1JVwOzh/
「無理だよ、要には。今だって優を守れなかったでしょ。要には誰かを守るなんて……出来っこない」
「優は優の意思で……俺を助ける為に必死に堪えてくれた。その借りは俺がお前に返す」
「ふふっ、あはは!無理だよ……知ってるでしょ?要じゃ私には勝てない」
朔夜はゆっくりと左腕をこちらに伸ばして来る。咄嗟にそれを掴み両腕で組み合う。
途端に凄まじい殺気と力が俺に加わっていくのを感じた。押し返そうとしても朔夜の身体はびくともしない。
「要っ!……くっ!?」
「動けない……!?」
後ろから英と亮介の声が聞こえるがどうやら助けは期待出来そうにない。俺がどうにかしないといけないんだ。
「要……こんなことしても、また要が傷付くだけだよ。自分の過去、思い出したんでしょ」
脳裏に浮かぶのは父さんの怒鳴り声と暴力、後を追うようにして死んでいった母さん。
……そして俺に依存するようになってしまった妹。それぞれ傷を抱えた"仲間"達。
そんな中で俺は朔夜に出会った。初めて俺が必要だと思った少女に俺は心を奪われたのかもしれない。でも――
「確かに俺達は傷付くかもしれない。でも分かったんだ。俺を命懸けで助けてくれる仲間達がいるって」
「信じられるわけないよ……。他人を……自分と違う人間を信じられるわけ……ない」
呟くようにいう朔夜。気のせいか彼女の力が弱まっているように思える。今ならばいけるかもしれない。
「俺は信じる。だから……閉ざされた世界なんて俺には……必要ない!!」
「っ!?」
力を振り絞って朔夜を弾き飛ばす。朔夜は俺の力に耐えられず小屋の近くまで下がっていた。
「要っ!!」
「大丈夫かい!?」
「……ああ、何とかな」
英と亮介が直後に駆け寄って来た。桜花は少し離れたところで優を手当しているようだ。
「……それが……要の言ってる……私より大切な……仲間なんだ」
朔夜は一切の光を宿さない瞳で俺を見つめる。思わず萎縮してしまいそうになるが、ここでくじけるわけにはいかない。
「……ああ」
「…………そっか」
朔夜の目を見てしっかりと答えると彼女は一瞬……ほんの一瞬微笑んだ気がした。もう一度彼女を見ると少し悲しそうな表情に変わっていた。
「……もう私の知ってた…………は……いない……」
朔夜は何かを呟いていたが小さくて何を言っているのか良く聞こえない。何を言っているのか聞こうとした瞬間――
「あっ……」
「……えっ?」
朔夜の腹部からいきなり銀色の物体が突き出た。赤い液体を纏った"それ"は彼女の腹部を抉った後、ゆっくりと持ち主の白髪の少女の手元へと戻っていった。
「遥っ!?」
「これで……要は……私を……」
亮介がなりふり構わず朔夜の横に倒れ込んだ遥に走り込んで行く。英も亮介の後を追った。
「……ふふっ……最高の……終わり……方……かな……」
「…………」
俺にはもう朔夜の言葉以外聞こえなくなっていた。ついさっき彼女を拒絶したばかりなのに口から血を流す彼女を見つめている。
朔夜はゆっくりと下に川が通っている崖の方へ――
「っ!?ちっくしょおぉぉお!!」
無意識に足が動いていた。ただ見ているだけなんて出来なかった。まだ朔夜には聞かなきゃいけないことが――
「たくさんあるんだ!!」
「あっ……」
そのまま考えもなしに川へ落ちていく彼女を飛び降りて抱きしめる。
「要っ!?」
気が付いた時には俺達は冷たい川に身体を包まれてそのまま意識を失ってしまった。