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175 :青鬼の鬱日和  ◆C3CeMGDjT2rQ :2011/02/21(月) 23:38:52.63 ID:JJfOFaKd

我が家に姉が来た翌日、学校は異様に騒がしくなった。
 騒ぎの中心に居たのは、不本意ながらも俺。
 ……というよりも俺と腕を組んで登校した姉さんだった。

 智弘の言っていた『100人に90人が振り向く美貌』とやらを思い知った気がする。
 こちらを見る視線は驚愕の二文字。
 男子に限っては殺意すら篭っていた気もする。

 教室に入るなり智弘が掴みかかって来て、俺は黒板の反対側の壁に押さえつけられた。
 「何やってんだテメェは!」
 智弘の手にはいつになく力が篭っていて、力強く俺の襟首を絞める。
 「何…が…だよ」
 襟を掴み挙げられて呼吸が苦しくなる。
 顔が妙に熱くなってきた。酸欠か?
 「何でテメェが、澤本先輩と、一緒に、登校してるんだよォ!!」
 掴んだ手で俺の身体をテンポ良く揺さぶりながら智弘が叫ぶ。
 揺れるたびに後頭部が壁に打ち付けられてかなり痛い。

 「おいそこ、何やってる!」

 教室に入ってきた担任の一声で我に返った智弘は一つ舌打ちをして席に着いた。
 今日、俺は最高に厄日だった。



176 :青鬼の鬱日和  ◆C3CeMGDjT2rQ :2011/02/21(月) 23:39:21.28 ID:JJfOFaKd

昼休み、購買に昼食を買いに行こうとしたところ、下級生と思しき女子生徒に体育館へ呼
び出され、買ったパンを手早く平らげて体育館に出向く。
 そして体育館の扉を開けた先には異様な光景が広がっていた。

 ずらりと並ぶ、生徒、生徒、生徒。(男子:女子=8:2)
 学年もクラスもバラバラな集団。

 『来たか、青崎孝助!』

 拡声器で体育館中に響き渡る声。
 ……智弘の声だ。
 そこに居る全ての生徒が一斉に俺を睨む。
 何となく先が予想できたがあえて疑問をぶつける。
 「なぁ、これって何の集まり?」
 『知れたことを!我ら澤本絵里親衛隊!』

 意外にもこの大人数の中でも俺の声は聞こえるらしい。
 「それでこの人数はなんだよ?」
 『被告人・青崎孝助!貴様は我らの敬愛する澤本先輩を穢したのだ!(中略)』
 「は?」
 予想以上にブッ飛んだ台詞が出てきた。
 姉さん、アンタすごい人気者だね。

 『(中略)……よって貴様を粛清する!!』
 「「「「オオオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーーーーッッ!!」」」
 「マジかよ!?」
 その場に居る全員が右拳を天に突き上げ、闘志を燃やす。
 『フハハハハ!謝罪するなら今のうちだぞ青崎孝助!』
 「いや、何この理不尽な裁判?」
 『懺悔することがあるなら申してみよ!』
 「俺に後ろめたいことなんて何も無ぇ!」
 『反省の意思は無いようだ。皆の者、殺ってしまえぇーー!』


177 :青鬼の鬱日和  ◆C3CeMGDjT2rQ :2011/02/21(月) 23:39:54.19 ID:JJfOFaKd

……………… 
 …………
 ……

 やってしまった……。

 後悔しても時既に遅し。
 ガタイの良い体育教師たちに囲まれた俺は反論もできずに停学処分を食らっていた。

 まず襲い掛かってきた顔も知らぬ男子生徒を殴ったことから始まった。
 俺の黒歴史、かつて青鬼なんて呼ばれていた頃の感覚が蘇る。
 迫り来る自称・親衛隊員たちを片っ端から蹴倒す、殴る、突き飛ばす。
 多分、女子の顔も殴っていた。
 男として最低の行為だと思う。

 『澤本絵里親衛隊を名乗る生徒たちにリンチされそうになり、抵抗しました』

 そんなこと誰が信じるものか。
 実際、駆けつけた体育教師に足払いを極(き)められた時に肩を床に強打したくらい
で、俺はほぼ無傷。
 対して自称・親衛隊連中は身体のどこかに痣を残す者が三十数名。
 教師のほとんどが、俺が生徒を無差別に襲ったように見ている。
 しかも元・不良と噂される生徒だ。信頼の度合いは極めて低い。

 六限目の授業が始まる頃、俺は自宅に強制送還された。
 今日から十日間(土日の休日は数えない)の自宅謹慎。
 反省文が思いつかないぜ。


 「何してんのコウちゃん!!」

 夕暮れ時、帰ってきた姉さんの第一声はコレだった。
 同時に何故か平手を受ける。
 「何すんだよ!」
 強烈なビンタをくらった頬を押さえながら俺は怒鳴った。
 「停学処分なんてどういうこと?いつからコウちゃんは不良になっちゃったの!?」
 「うるせぇ!自己弁護もさせてくれないバカどもを黙らせただけだ!」
 「すぐ暴力に行き着く発想がもう立派な不良の証明じゃない!」



178 :青鬼の鬱日和  ◆C3CeMGDjT2rQ :2011/02/21(月) 23:40:28.52 ID:JJfOFaKd

玄関先で怒鳴りあう若い男女。
 ご近所様に誤解を与えてしまいそうな構図だった。
 アレコレと俺が知る限りの事情を説明したが、
 「だから、アンタの親衛隊だかファンクラブだかを名乗る連中に襲われて、殴り返したんだよ!」
 「人様を殴り倒すなんて完全に不良の所業じゃないの!」
 姉さんがややヒステリックに叫ぶ。
 「殺意むき出しの集団に対して無抵抗を貫けと!?」
 「いいじゃない!悪いことなんて何もしてないんでしょ!」
 「教師が到着するまで死なずに済む保障は何処にもなかったよ!?」

 「そもそも姉さんがウチに来るから誤解されたんだよ!」

 姉さんがハッと目を見開く。
 表情はみるみる歪み、酷く悲しそうな顔になった。
 そんな事にはちっとも気づかず、俺は続けた。
 「俺が理不尽なリンチに遭ったのも元はと言えば姉さんが原因だ!」
 姉さんの肩が小刻みに震え、泣き出しそうな面持ちになる。
 「姉さんが来なければ間違いなく俺の学校生活は平和だったよ!」
 自分でも無茶苦茶言ってる自覚はあったが理性よりも感情が勝った。
 「だ、だって家族なん…だよ?…一緒に……暮らすのは良いことで…しょ?」
 弱弱しく途切れがちに言葉を紡ぐ姉さんに俺は理性のかけらも無くトドメを言い放った。

 「アンタなんか家族じゃなければ良かった!」



179 :青鬼の鬱日和  ◆C3CeMGDjT2rQ :2011/02/21(月) 23:40:57.17 ID:JJfOFaKd

絵里・Side

 「アンタなんか家族じゃなければ良かった!」

 コウちゃんが何を言ったのか、直ぐには解らなかった。
 いや、理解したうえで頭が受け付けなかったんだと思う。
 険しい顔をしたコウちゃんは言って、直ぐに踵を返して行ってしまった。

 アンタなんか家族じゃなければ良かった?
 アンタナンカ家族ジャナケレバ良カッタ?
 アンタナンカカゾクジャナケレバヨカッタ?

 コウちゃんが私のことを嫌った。
 たった一人の家族である私を嫌った。
 もうあんな母親を名乗るクズは居ないのに。
 コウちゃんを経済面から守っていた一応の恩ある父親はもう海の向こうなのに。
 コウちゃんはたった一人の家族を嫌うの?

 私にとってコウちゃんはただの兄弟じゃないんだよ?
 愛してるのに。
 家族なんて縛りは私には無いよ。
 コウちゃんもさっきのは不当な被害にあった憂さ晴らし程度なんだよね?
 たった一人の家族なのに、嫌える筈無いもんね?

 コウちゃんが去った玄関で私はずっと座っている。
 酷いことを言われた筈なのに、
 傷つくことを言われた筈なのに、
 ドアのガラスに映った私の顔には、笑みが浮かんでいた。
 「アハハハハ。コウちゃんが私を嫌うはず、無いもんね?」