※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

86 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/11(金) 21:02:02.59 ID:ZEoclIF5 [2/5]
午後十時、俺は暗い夜道を走っていた。
何故、俺は走っているのか。
奴が言うには
『お外は危険なことがたくさんあるから私のお家に一生いてね』
だそうだ。
俺にはやりたい事が一杯ある。それに、ようやく大手企業の就職が決まったのだ。
俺は働いて、結婚して、子供を作って、老後は寿命までのんびり生きると決めている。
だからここで捕まるわけにはいかないのだ。
タッタッタ、とテンポ良く走り始めてから二時間が過ぎた。
しかし俺がマラソン選手並みの体力を持っている筈も無く、
足取りは覚束ず、立ち止まってはいけないという脅迫観念に突き動かされ、
何とか歩きよりは速いというスピードで走っている。
シャツは汗にまみれ、足は悲鳴を上げているかのように痛み出す。
正直に言って、もう限界だった。
だが、休む暇もくれずに奴は追ってくる。
数メートル後方、振り返れば確かに奴がいる。
見た所軽い息切れだけで難なく俺に追いつけそうだった。この化物め。
奴の手にはナイフが握られている。脅しだとしても、怖いものは怖い。
奴の足音が段々大きくなってくる。
あぁ、俺もここまでか、と諦めた時、事は起こった。
キャっと小さい悲鳴が聞こえたかと思うと奴の足音がピタリと止まった。
その次には低い男の声。
「祐、早く逃げろ!俺が時間を稼ぐ」
この声は聞きなれた友人の声。
俺が三十分前にメールを送った。内容は支離滅裂で雰囲気だけは危険を感じ取れるような文章だった。
それでも友人は状況を察してくれたらしい。
俺は返事をすることもなく走る。
ありがとう、そして無事でありますように。

87 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/11(金) 21:02:39.34 ID:ZEoclIF5 [3/5]
友人の助けが入った後、俺は逃げる事よりも隠れることにした。
このまま逃げ続けてもいつかは殺されてしまう、幸い近くには出来たばかりの大きな公園がある。
辺りを見回し隠れるのに適した遊具を探すとドーム状の形をした遊具を発見。
思ったより広いドーム、背の低い出入り口が一つだけ。
もしも奴がここに気付いたら俺は逃げ道がない、だがここしか隠れられそうな場所は無かった。
俺はドームの中に入り腰を下ろす。冷たいアスファルトすこし心地よかった。
乱れた呼吸を整え、しばらくするとかなり落ち着きを取り戻した。
しかし休息も束の間、奴の声が聞こえてきた。
「祐く~んどこにいるの~」
間延びした声、俺は胸に手を当て息を殺す。
「祐く~ん」
―ドクン
「祐く」
―ドクン、ドクン
足音と声が近づくに連れて動悸が激しくなる。
「ゆう」
―ドクン、ドクン、ドクン
治まれ、治まれ、そうは祈っても心臓はバクバクと動いている。
そして、俺のいるドームの目の前で足音が止まった。
出入り口からはスラっとした綺麗な脚が見える。つま先はこちらを向き今にも入ってきそうだった。
南無三と目をぎゅっと瞑る。
遅れて、がっかりしたような声。
「もう、帰っちゃったのかな、祐君。じゃ、また明日ね」
奴はそれだけ言うと踵を返し去っていった。
足音が聞こえなくなった辺りで俺は安堵と不安に包まれた。
友人は生きているのだろうか、また明日という事はまた俺は追われるのか、
拭えない不安がいくつも出て来る。それと同時に睡魔も襲ってきた。
疲弊しきった体を起こすのは無理そうだ。今日はここで寝てしまおう。
アスファルトに寝転がり目を瞑る。
次第に意識が保てなくなり、俺はすぐに眠りについた。
少し気になった点を挙げるとするならば、誰かの足音が聞こえた事だ。


88 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/11(金) 21:03:20.04 ID:ZEoclIF5 [4/5]
俺は夢を見ていた。
忘れられない、ごく最近の俺と奴が別れることとなったあの光景。
誰もいない廃ビルの屋上。いがみ合う女が二人。
一人は奴、もう一人は高校の頃付き合っていた元カノ。
二人は昔、とても仲が良かった。
しかし、今となっては二人は恋敵となり、罵り合いお互いを傷つけた。
とうとう元カノは奴の首に手をかけた。そのまま絞めあげる。
奴はコートのポケットからカッターナイフを取り出し、元カノの手首を切りつけた。
奴は圧力から解放され咳き込み。元カノは切られた手首を押さえている。
そして奴はとどめをさそうと元カノの胸部へカッターナイフを突き刺した。
手首と胸部から血がとめどなく溢れ、元カノはそのまま死んでしまった。
恐らく人の死を目の前で見たのはコレが初めてだと思う。
そして人が人を殺す瞬間も。
俺は止めることが出来なかった。情けなくも俺は腰を抜かして動けなかったのだ。
奴は振り返り俺を見る。今まで見たことの無い位明るい笑顔だった。
そこで俺の夢は終わった。
ゆっくりと目を開くとドームの白い天井が見えた
伸びをしようと腕を真上に上げようとしたが右腕が上がらない。
何かが巻きついているような感覚と鎖のジャラという音。
何気なく右を見てみると奴が俺の腕を抱くようにして寝ていた。
俺の右手首と奴の左手首は仲良く手錠が掛けられている。
背筋は凍りつき、唖然としていると、奴は目を覚ました。
眠たそうに目を擦り、俺を見ると笑顔を浮かべだした。
俺は何も言えなかった。あの日の奴と今の奴が重なる。
「おはよう、祐君」
その声はとても明るく、どこか狂喜染みていた