※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

731 :弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 8 [sage] :2011/02/14(月) 02:48:58 ID:wSrsvTRx
意識はある
でも体は痺れてちっとも動かない
医務室のベッドに寝かされているのは分かる
でもあれからどれくらい経ったのかも分からない

(あ、ああ、い、う、えええ、おお)

うん、言葉はちっちゃくなら出るみたい
視線を横に巡らせると、兄様たちがボクのベッドサイドで言い争っている
お兄様たちはとっても強いのに、ケンカなんてめったにしない
少なくとも、ボクはそんな姿をほとんど見たことがない
胸倉をつかまれても、沈痛な顔を崩さないエレキ兄様
顔に青筋を浮かべながらも、悩みを顔に浮かべたポイズン兄様
何の話をしているのか聞いてなかったけれども、ちょっとだけ聞こえた名前

エリス

それは、ボクからお父様を奪おうとした憎い憎い恋敵の名前
今出せる限りの大声を上げて問いただそうかとも考える
でもちょっと待って
もっと冷静に考えてよ、ボク
スカル兄様は泥棒猫を逃がすため、転移魔法術式を使ってその場から二人揃って消えてしまった
エレキ兄様は短剣を出そうとしたことに気が付いて、ボクに電流蟲を貼り付けて気絶させた
二人がボクの敵になった、とは思わない
………いや、正直に言うと、ちょっとそう考えたけど

魔族は粗暴
人間は、まだそう考えている者がほとんどだと思う
確かにそういう者がいないとは言わない
でも得てしてそういう魔物は、力も弱く経験も少ない
獣と何にも変わらないような魔物
それに比べて兄様たちは理性的で感情豊かで、とっても頭がいい
だから自分達を害するもの以外の命を、食べる以外で奪うことをひどく嫌うんだ
それとおんなじ
あの女を逃がしたのも、ボクを止めたのも、誰かが死ぬのが嫌だったから
それだけ
お兄様たちは、ボクの敵じゃないんだ



732 :弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 8 [sage] :2011/02/14(月) 02:49:36 ID:wSrsvTRx
「おいエレキインセクト、どういうことだ。その娘はなんなんだ」
「だから言ってんだろうが……魔王の嫁、になるかもしれん娘だって」
「嫁だと? 姫さんに何の相談も無くか。魔王にとって、自分の娘はそんなに軽い存在だって言うのか!?」
「俺に怒鳴んな。あと唾飛ばすな。唾と一緒に毒液飛んできてんぞ」
「………チッ」

(そうだそうだ! もっともっと言ってよポイズン兄様!)

舌打ちをして手を離すポイズン兄様に思わず心の中でエールを送る
それにボクが起きたことに気づかず、話を続けてくれるのは好都合だ
悔しいけど今のボクには情報が足りない
ここで二人の会話を聞いて、しっかりと現状を理解しておこう
頭に血が上って怒りに任せて叫ぶのなんて、子供のやることだ
お父様はまだあの泥棒猫を妻にしたわけじゃない
最後に魔王様の隣にいるのは当然ボクに決まってる
でも、その途中で気の迷いがあったりしちゃ駄目なんだ
それを止めて、魔王様に間違いを気づかせるのも、当然ボクの役割なんだから

「ポイズン、おめえはどうもキレやすいな」
「貴様にだけは言われたくない」
「冷静に考えろ。俺らの魔王は、姫ちゃん忘れて嫁をもらったと喜ぶような阿呆か?」
「…………」
「これは人間と魔族の友好のための政略結婚だよ。その手付金 兼 人質 兼 妻。それがエリスちゃんだ」
「なるほど、頭の悪い貴様でもわかる単純明快な話というわけか」
「あ? 喧嘩売ってんのか?」
「ほら見ろ。やっぱりキレやすいのは貴様だ」
「ケッ。まあそらともかく、魔王も今のところは嫁だのなんだのの考えは無いみてえだぞ」
「ならばなぜここにいる。連れてくることもないだろうが」
「あー、それは魔王のいつもの病気が出たんだ。不治の病がな」
「………なるほど、おせっかい病か」
「それそれ。その病に効くいい薬しらねえか?」
「さあな。自分が知っていたらとっくに処方している」

……本当に、魔王様はお人よしなんだから
ボクにとってはそんなところがかわいいのだけど、未来の奥さんとしては心配だよ
勘違いした変な女がこれからも寄ってきちゃうかもしれないじゃない



733 :弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 8 [sage] :2011/02/14(月) 02:50:32 ID:wSrsvTRx
「俺はエリスちゃんの話をした。今度はそっちの話だ。姫ちゃんは何でこんなことをした」
「自分が言わずとも分かっているだろうが。姫さんが何を求めているのか」
「………ああ。これはつまりあれだろ? 一人の男を争って、二人の女が対立してんだろ?」
「どうなのか。なにせそのエリスという娘が、魔王をどう思っているのか分からないときているんだ」
「俺だってわからねえよ。伝心魔法が使えるのはスカルエンペラーだけだからな。あいつが通訳に入ってくれないと何ともね」
「なら、あいつのところに行くか。心当たりがある」
「付き合おう。一応ミリルさんとシアンも連れて行くか」

そう言って、二人は医務室を出て行く
普段なら医師のドラッグボーン先生がいるのだけど、今日は追い出されたのか誰もいない
先生には悪いけれど好都合だ
なんだか体の痺れもとれてきたし、体を起こすことくらいはできそう
立って歩けるくらいなら二人の後を追いたいけれども、そこまで上手くはいかない
もうすぐしたら動けそうだから、それからあの女を捜してみよう
あの女がどう思ってるのかは知らないけれど、今は魔王様にその気は無いみたいだし
今はまだ、生かしておいてもいいかも

「うん。でもよかった」

思わず口をついてそんな言葉が出る
もう魔王様は結婚して返ってきた、って思ってたからさ
だってあんな手紙を読んじゃったんだもん
あれで誤解するなって言うほうが無理なお話だよ




「おい、ちゃんと姫さんは聞いていただろうな」
「信用しろって。俺たちが演技を始めたところから、蟲を使ってしっかり覚醒させておいた」
「ま、蟲のことは自分には分からん。専門家に任せるがな」
「おうおう、信用してくれてありがたいねぇ~」
「拗ねるな。しかしこれでエリス嬢を狙うのをやめてくれればいいんだが」
「さあ、どうだか。なんせ姫ちゃんは魔王を死ぬほど愛してっからな。そう簡単には引き下がらんかもしれんぞ」
「……お互い、そんな妻がいるからな」
「お前はまだいいじゃねえか、俺なんか完敗して結婚だぜ」
「嫌か?」
「…………うるせえ。嫌なら城に戻った時点でさっさと追い出してらぁ」