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11 :名無しさん@ピンキー [sage] :2008/01/11(金) 01:50:43 ID:WorItLoe

《闇母(やみはは)》

トントンと軽快な音をキッチンに響かせて、私は最愛のあの人に、夕御飯を作る。長年付き合ってきたこの包丁で、私は仕事でくたくたになって帰ってくる彼のために、腕を振るう。
私、織田市代(おだいちよ)が深海市代(ふかみ)となって早12年。

最愛の夫の深海聡史(さとし)と私はご近所の幼馴染みだった。幼い頃にはよく遊んでいた私たちも、中学に上がった頃にはお互いを意識して、疎遠になった。けれど、それが逆に私に彼を意識させてくれた。

彼の何を好きになったかなんて、きっと一生、いや永遠に分からないだろう。分かっていそうで、分からない。解けそうで、解けない。そういうもの。それが愛なのだ。

けれど、これだけははっきり言える。《私は、あなたを愛しています。》


12 :闇母 [sage] :2008/01/11(金) 01:57:02 ID:WorItLoe
「ただいまー」
玄関を開ける音とともに、彼の声が私に届く。その声で私はひとまず料理を中断する。もちろん、彼の労をねぎらうために。
私たちはお互い今年で32歳。20歳の時、二人とも学生だったが、無理言って学生結婚をした。彼の良さは言うまでもなく、その良さ故にくっついてくる『蟲』や後をついてくる『猫』がいた。
私は言いようもなく不安だったのだ。人の優しさ、そして弱さを知っているから。
私は高校に上がった頃に必死になって、彼を自分に振り向いてもらおうと努力をした。料理を学び、オシャレをし、身も心も美しく、理想の女性となるために。
そのおかげで私は自分に料理において特に秀でた能力があることを知った。私の味覚・嗅覚は常人のそれを遥かに上回っていたのだ
。料理は好きだったので、私は料理を極めるため、大学ではそちらの進路をとったところ、先生方から訪問にきた一流シェフの方まで様々な人々に大絶賛を受け何度かヨーロッパにも足を運んだ。
そして、彼の専業主婦として今に至る。シェフの道なんて、彼との生活と天秤に掛けたなら結果は目に見えている。
私の腕は、彼のため。
私の料理は彼のため。
私の愛は、彼のため。
私の刃は、私のために。


13 :闇母 [sage] :2008/01/11(金) 01:58:24 ID:WorItLoe
ただ、私たちの生活にはいくつかの大きな問題があった。それは────。

「お帰りなさーい♪」
私より若干早く、あの娘が彼を出迎えた。まただ。また先を越された。
今年で中学生になった私たちの一人娘の深海茉奈(まな)。彼女は生まれてからずっと、彼にべったりだった。普通の女の子ならば、思春期ともなれば遅かれ早かれ一定の距離をとるもの。私はそう思い、野放しにしておいてしまった。
後に確かに距離はとった。しかし私にだけ。その分だけ彼女は彼にとりついた。まだまだ現役で、短髪の似合う彼はとても若く見え、どうみてもまだ二十歳ほどにしか見えない。
きっとそんなことから、大人の異性の割に親しみを感じる彼になついているのだろう。
今も彼女は私をさしおき、彼の首に腕をまわし抱きついている。まぁいわゆる親子のコミュニケーションの範囲内かな。

あの時までは、そう信じていた。私はこの12年の平穏を通して、『あの感覚』をすっかり忘れてしまっていたのだ。