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398 名前:天使のような悪魔たち 第18話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2011/02/26(土) 11:37:54.82 ID:TKhh3aG8 [2/7]
意外と時間がないかもしれない。
というのは、以前三神から聞かされた話では、佐橋の能力は元々は自らの身の危険を数分前に感知するものだったらしいからである。
今ではその能力は範囲、時間の感覚ともに一定ではなくなっているが、近い未来ではある。
とりわけ、白陽祭は今日と明日の二日間。最速ではたった今それが起きる可能性すらあるのだ。
そこまで考えて、俺はすっかり佐橋の能力を信じきっている事に気付いた。
というよりは、俺の周りで、あまりに非現実すぎる事が起こり過ぎた。
だから、そういった特殊な事象に対して、耐性がついたのかもしれない。

俺と佐橋は並んで歩きながら新校舎の、もといた階に戻ってきた。
しかしやはり、ピアスを8個あけたメイドさんは、悪目立ちするのを避けられないようだ。
本人曰く、佐橋は友達が少ないらしい。
故に、佐橋がメイドに紛していても、それを佐橋だと看破できるのは、クラスメイトくらいだろう。
たださっきも言ったが、ピアスを8つも空けている生徒は佐橋くらいしかいないので、耳を見れば佐橋だとわかるかもしれない。
そもそも佐橋を一度も見たことがない、という生徒にはやはりわからないだろうが。

にも関わらず、何故か周囲の人達の視線が刺さる。恐らくその内の7割は、佐橋を見ているのだろう。

「ずいぶん人気じゃねーか、佐橋。」
「こんな格好の時に人気上がっても嬉しくない。」

まあそうだろう。それはある意味普通な事だ。
視線の集中砲火を背中に受けながら、俺は自分のクラスへ戻ってきた。

「お帰りなさいませ、ご主人さまぁ~♪」

うちのクラスの女子達も、すっかり猫なで声の出し方に慣れたようだ。

「おや…そちらのメイドさんは…」

隼は電卓を叩きながらこっちを見て、

「---ぷぷっ、これは傑作だねぇ、歩"ちゃん"?」と、吹き出しながら言った。
「~~~~っ! わ、笑うな! くそっ…」
「隼。…ちょっといいか?」俺は眉間にしわを寄せる佐橋を傍目に、小声で言った。
「"刺客"について新しい事がわかった。」
「…! なるほど、それで佐橋が一緒にいるわけか。
わり、ちょっとトイレ行ってくるぜぇ。」

隼はレジの隣のメイドさんに一声かけ、俺達についてきた。
俺達は一旦店を出て、人目につきにくい場所を探しながら、歩き出した。
その途中、佐橋は隼に、自分が見た未来を簡単に話した。

「へぇ…そんな事になるのか。それは何としても避けなきゃねぇ…。
ところで佐橋は…"灰谷"って名前に聞き覚えはないかい?」
「灰谷? いや、知らないな。」
「そうか…。その未来を見る能力、彼女のものと似てるんだけどねぇ。」
「…!」

俺はまだ灰谷の話を隼にはしていない。だが隼は、灰谷の存在を以前より知っていたようだ。

399 名前:天使のような悪魔たち 第18話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2011/02/26(土) 11:39:47.96 ID:TKhh3aG8 [3/7]
…それもそうか。隼はいつだって最初から何でも知っていた。そう思い返せば、不思議は不思議ではなくなった。
それよりも、今の口ぶりでは灰谷にも未来予知の能力が備わっているようだった。
それで、夢を通して俺に警鐘を聴かせに来たのか。

隼はさらに続ける。

「………どうやら、来たみたいだぜぇ。」
「何!? どこだ!?」
「いや、まだここじゃない。でも…気配がする。
思い出してみなよ飛鳥ちゃん。俺の力は亜朱架さんの力を相殺できる。
そしてもう一つ。その力を持つ人間の気配…ってのとはまた違うけど、それがわかる。
どうやらそいつは、学校内に入ってきたみたいだぜぇ。」
「…勝てる、のか?」
「………難しいね。亜朱架さんをあそこまでボロボロにしたんだ。力は亜朱架さんより上だ。
それだけは覚悟しといてくれ。」

隼は不意に、今まで歩いていた方向とは反れた方向に足を向けた。

「この先にいる。…やばくなったら、逃げなよ。二人とも。」
「誰が逃げるかよ。」

隼が足を向けた方角には、旧校舎へ行く為の、渡り廊下へ続く扉があった。
隼は扉を静かに開け、未だ雪の降り続く渡り廊下へ踏み入れた。

* * * * *

渡り廊下には先客が二人いた。その二人は策に手を置き、校庭を見下ろしながら、何か喋っているようだ。
一人はメイド服を来た、よく見慣れた女子。もう一人は茶髪の小柄な女の子。こっちもよく知っている。
姉ちゃんと、結意だ。

「おや、来てたんですか亜朱架さん。」

隼の声に、まず姉ちゃんから振り向いた。

「その口調…隼くん? 大きくなったのね。」
「ええ、お久しぶりです。」

なんだ。隼が感じた気配というのは、姉ちゃんの事だったのか。
わずかに、俺の中の緊張がほぐれた。

「飛鳥くん!」今度は結意が、俺に声をかけてきた。
「これ…どうかな? 似合う?」
結意は少し照れ臭そうに、俺にそう尋ねた。
「すげ…………可愛いよ。」

想像以上だ。恐らく言ってるそばから、俺は顔が赤くなっているだろう。

「…飛鳥ちゃん。悪いけど、俺が感じた気配は亜朱架さんじゃないんだ。」
「! じゃあ…」
「ああ。もう、かなり近いぜ。」

俺はしかし、隼の言葉を聞いて、すぐに緊張の糸をぴんと張った。

400 名前:天使のような悪魔たち 第18話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2011/02/26(土) 11:43:13.55 ID:TKhh3aG8 [4/7]
俺達が来た方向とは反対側、つまり旧校舎側の扉が、ギィ…と耳障りな音を立てて開かれた。
あれがそうか。目的もわからずじまいだが、姉ちゃんを傷つけ、佐橋が、俺を殺すだろうと予知した人間。
俺はそいつの姿を、目に焼き付けるように見据えた。

「やっと、見つけたわ。」


* * * * *


「そん…な…なぜ…」

隼は、明らかに驚愕した表情で、そう呟く。

「久しぶりね………隼。しばらく見ない内に、ずいぶんメス猫を侍らせるようになったじゃない。」

それに対し、刺客は理解に苦しむ返答をしながら、近づいて来る。
俺達の3メートル手前で、刺客は足を止めた。
その黒髪は、顔つきは、スタイルは、俺の隣にいる少女を彷彿とさせる。
カーディガンとスカート、そして肌は、雪と同化しそうな白で統一されている。
無機質な笑みからは温かみなど微塵も感じ取れず、黒くくすんだ瞳は何も写さないように見える。
その少女は、結意と似ていたのだ。

「しかも一人は、亜朱架さん…貴女、まだ生きてたんだ? せっかく殺してあげたのに。」
「! お、お前が姉ちゃんを!?」
「"姉ちゃん"…? ああ、君は亜朱架さんの弟くんね。調度いいわ、自己紹介くらいしてあげる。
私の名は斎木 優衣。隼の姉よ。」

…そんな、馬鹿な。こんな形で、灰谷の言っていた人物に出逢うなんて。
「斎木優衣という、実の姉が存在する。」という、灰谷の言葉を忘れてはいない。
つまりあれは…俺と血が繋がった姉なのか。
…はは、所詮そんなもんだよな。灰谷の話を聞いた時点で、最初からわかっていたんだ。
俺には肉親などいない。いるのは、記憶を無くし、純粋さを取り戻した姉ちゃん。
そして誰よりも大切な存在…結意だけだ。

「全てを悟ったような顔をするのね。あらかた、あの女から聞かされていたんでしょうけど、無意味よ。
私の弟は隼だけ。他には何もいらないわ!」

言い終わると斎木は、左手で手刀を作り、右から左へ一薙ぎした。
それに合わせるように、隼は手の平を斎木に向けてかざした。
瞬間、何かが弾けたように二人の間で光がまたたいた。

「…どうしてだよ、優衣姉! なんで優衣姉がこの力を持ってるんだよ!?
それにあなたは、死んだはずだ! 冷たくなった優衣姉の体の感触を、俺はまだ覚えてる!
なのにどうして!?」
「それはね…隼に逢いたかったからよ。もうそんなそっくりさんに、私を重ねる必要はないのよ?」

斎木は俺の横にいる、結意を指差してそう言った。

「でももう、みんな用済み。今の私なら、隼とずっと一緒にいられるわ。その為にも、泥棒猫は駆逐しなきゃあね。」

401 名前:天使のような悪魔たち 第18話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2011/02/26(土) 11:44:33.63 ID:TKhh3aG8 [5/7]
「優衣姉っ! ちっ…飛鳥ちゃん! 今すぐ全員で逃げろ!」

隼はこちらを向かずに、大声で促した。結意、佐橋、俺はこの状況を理解できている。
だが一人だけ、理解できていない人間がいる。姉ちゃんだ。

「どういう事なの、優衣ちゃん…?」
「姉ちゃん! 話の通じる相手じゃない!」

俺は姉ちゃんの手を掴み、無理矢理引き寄せた。
そのまま、佐橋が誘導する形で結意から順に校舎内へと逃げ込んだ。

「うふふ…逃がさないわ。隼、少ぉしだけ待っててね?」


俺達はとにかく走り続け、渡り廊下から距離を置こうとした。
姉ちゃん以外はわかっているのだ。あの力の恐ろしさを。
隼の持つ力以外では対抗できず、一瞬で殺られる、という事を。

「! 神坂、止まれ!」いきなり、佐橋が叫んだ。
その声に、周りにいた生徒たちの視線が集まる。俺は立ち止まり、佐橋に"何が見えたのか"を訊こうとした。
その時、俺は信じられないものを見た。
カメラのフラッシュのようなまばゆい光が弾けたと思うと、目の前に斎木がいたのだ。

「あの女の力は便利ねぇ…自らを消去すると同時に、行きたい場所に自分を"復元"する。
たぶん、貴女にはできないでしょうね。亜朱架さん?」
「…一体、何を言ってるのよ! 訳がわからないわ! これは何の真似なの!?」

痺れを切らしたのか、姉ちゃんが斎木の言葉に、強く返した。

「? 記憶がないのかしら。まあいいわ。私が始末したいのは三つ。
消去の光を持ち、私と隼の妨げになるであろう、貴女。隼に擦り寄るドブネズミ達。」
斎木優衣は、無機質な笑みを崩さずに、結意を指差した。

「そしてその中でも、何の嫌がらせか私に似た姿で、隼の心を惑わす存在。つまり、貴女よ。
まあ考える必要はないわ。あなたたち全員、ここで死ぬんだから。」

斎木はさっきと同じように手刀を作り、横一線に薙いだ。
次の瞬間、"体中に"切り刻まれたような痛みが走った。

「なっ…なんだよこれ!?」

それは俺だけではないようで、佐橋たち3人も、苦悶の表情を浮かべている。
衣服に、鋭利な刃物で切り裂かれたような傷ができている。その一部からは、切り裂かれた事による出血も見て取れた。

「こういう使い方もできるのよ。真空状態を作り、かまいたちを起こす。
その傷は隼の力では消せない、物理的なもの。
消すだけしか能がない亜朱架さんとは違うのよ。」

だがそれらの傷は致命傷とは程遠い。弄ばれている。俺はそう思った。

「優衣姉! もうやめろ!」

402 名前:天使のような悪魔たち 第18話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2011/02/26(土) 11:48:31.80 ID:TKhh3aG8 [6/7]
隼が、渡り廊下から走ってここまで追いついたようだ。
隼は俺達を庇うように前に立ち、斎木と正対した。

「…どうして庇うの? 隼、貴方には私がいれば十分じゃない。」
「どうしてだって!? こいつらはみんな、俺の大切な友達なんだ!
こいつらを傷つける事は、たとえ優衣姉でも許さない!」
「…そう。隼もずいぶんと毒されたのね。残念だわ。」

斎木は深くため息をつき、肩を落とした。そして…

『うあぁぁぁぁぁぁ!』
『きゃあぁぁぁぁ!』

周りから、叫び声がいくつもこだました。

「そんな…っ 力が、無力化できてない…?」隼の顔が、見る間に青ざめていく。

斎木は生徒達にまで見境なくかまいたちを放ったのだ。
突然の痛みと裂傷に、生徒達はたちまちパニックを誘発した。

「全て、壊してあげる。」

そう呟いた斎木の表情はどこまでも冷徹で、傷つける事に何の躊躇も、良心の呵責もないのだ、と見てわかる。
「うふふふ…あはははははは! みんな、壊れちゃえ!」
さながら悪魔のように、斎木は笑い声をあげた。

どうすればいいんだ。隼の力は、一切の"攻撃手段"を持たない。
このままでは俺達だけでなく、この学校の人間全てが殺されるかもしれない。
最強にして、最悪。唯一の希望であろう姉ちゃんの力も、使えないようだ。
というより、記憶を無くしたせいか、力そのものの自覚がないんだろう。
使えるのなら、迷わず何らかの手は打つ。それをしないということは、力が使えないという事だ。

かまいたちによって出来た傷の痛みが、全身を蝕む。
俺は無力だ。大切な人一人すら守れない。

「じゃあね。」斎木はそう呟くと、手刀を縦に振り抜いた。
それを見たとき、俺の体は勝手に動き、結意を抱きしめた。
わずかな間を置いて、俺の体に今までとは比較にならない痛みが走った。

「え…飛鳥…くん?」
「大丈夫か? 結意。」
「うん…私は…大丈夫だよ…」
「そう、か。よかっ…た……」

力が抜け、どさり、と床に倒れこんだ。
ゆっくりと、意識が遠退いていく。どうやら俺は、ここまでのようだ。
結意が何か言っているようだ。だがそれすら、最早聞き取る事ができない。
俺の意識は、そのままフェードアウトしていった。

「飛鳥…くん…? 嘘でしょ…? ねえ、起きて! 起きてよぉ!
イヤ…嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」