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561 名前:天使のような悪魔たち 第19話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2011/02/27(日) 10:44:05.79 ID:somyW2xH [2/8]
目が覚めた…と言うには語弊がある。なぜならここは、現実ではない空間からだ。
もう何度目になるだろうか。ここを訪れるのは。
確か俺は斎木によって、致命傷を受けたはず。それでもここにいるという事は、俺はまだかろうじて、生きているのだろう。

「灰谷…いるのか?」
「僕はここにいるよ。」

いつの間にか、俺の真正面に灰谷がいた。

「なあ…教えてくれ。どうしたらあいつを止められるんだ? 俺はまた何もできないのか?
結意を…守れないのか…?」

すがりつくように、俺は灰谷に尋ねた。

「1つ、方法があるよ。彼女は一度死んだ身。彼女の存在は因果率に反しているんだ。
隼の力を最大限まで発揮すれば、彼女の存在を"修正"できる。
だけど…隼がそれをするかな? なぜなら隼は、彼女を深く愛していたんだから。」
「そんな…だけどあいつは!」
「君ならわかるはずだよ。
言ってみれば、明日香を死なせる要因の一つとなった結意ちゃんを、君が殺すようなものだ。」

俺が…結意を…? そんなこと…できるはずがない。
だって結意がいなきゃ俺は…

「できないだろう? こればかりは、僕や君の意志ではどうにもならない。
本来なら僕が出向いて、彼女を止めるべきなんだけど…僕の体は、今は僕の自由にならないんだ。」
「いつもそうだ…あんたは、助けには来てくれない。明日香の時も、姉ちゃんの時も!
知ってたんだろうあんたは! なのに何故、動けないんだ!?」
「優衣の体は、元々は僕のものだからだよ。」
「…どういうことだ。」
「………彼女の願いは、隼の子を宿せる体を得ること。なおかつ、永久に添い遂げる事。
遺伝子の違いを、後天的に治す事は不可能。
そこで僕は、優衣の精神を消去し、僕の中に再生したんだ。…隼に対する、罪滅ぼしのつもりでね。」

そんな事ができるのか、こいつは。…人間のレベルを超えてやがる。

「ところが反発がすさまじくて、僕は3年程寝たきりになっていた。
目を覚ましたのはついこの前。目を覚ましたら…すっから僕の体は優衣そのものに変わっていた。
僕は深層意識でしか存在できず…こういう形でしか、君と話ができない。」

…そうか。だから斎木は、あの力が使えたのか。

「最早僕の体を僕自身に取り戻すには、隼の力を借りるしかない。結末を…見届ける事しか僕にはできない。
…もう戻りなさい。君はまだ、死ぬべき人間じゃない。」

灰谷は最後にそう言い残し、消えた。
少しずつ、体に痛みが戻ってきた。意識が、現実に帰ろうとしているんだろう。
結末を見届ける事しかできない。それは俺だってそうだ。
どうして俺だけが無力なんだ…。

562 名前:天使のような悪魔たち 第19話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2011/02/27(日) 10:45:20.93 ID:somyW2xH [3/8]

* * * * *

意識が覚醒すると同時に、鋭い痛みと、むせ返りそうな血の匂いを感じた。
ふらつく体を起こそうと、手を床につく。その箇所が生暖かく、ぬるぬるとした。
ぼやける視界が少しずつはっきりしていく。辺りを見回すと、信じがたい事態になっていた。

「な…んだよ、これ…」

まさに血の海。返り血は壁まで汚し、俺の周りには佐橋、姉ちゃん…そして、結意が倒れていた。

「結意…? おい、返事しろよ…。」

肩を揺さぶってみる。すると、かすかに吐息を感じた。

「ぶじ…だったんだぁ………よかったぁ…」
「馬鹿やろう、自分の心配をしろよ…。」
「えへへ…ごめんね…。わたし、かてなかった、よ…。」
「!」

まさか、結意は。斎木と闘おうとしたのか。
ばかな。相手はもはや人間じゃない。悪魔だ。勝てるはずなどないのに!
明日香の最期が、脳裏を再びよぎる。

『お兄ちゃん…大好きだよ。』
「飛鳥くん…大好き…」

その光景と、結意の姿がだぶついた。

「あら? まだ生きてたんだ、あなた。」
「…っ、斎木ぃ! てめぇ…」

斎木は血の海の中に立っていた。白い衣服は返り血を浴びて赤に染まっている。
佐橋の見た光景が、現実のものとなってしまったのだ。

「飛鳥…やめ、なさい…。」姉ちゃんの、か細い声がした。
「逃げて…彼女は…狂ってる…。」
「狂ってる、ですって?、貴女に言われたくないわね。」斎木が不快そうな表情を浮かべると同時に、俺の横で、姉ちゃんの体から血が吹き出した。
「っ…、あす…か…」

姉ちゃんの声は、そこで途切れた。

「これで邪魔者はいなくなったわ。私達だけの新しい生活が始まるのよ、隼?」

隼は、斎木の目の前でひざまずいていた。

「悲しむ事はないわ。これから続く長い人生に比べれば、ほんの一瞬でしかない。
百年も経てば、忘れるわよ。」
「優衣姉…っ、もう…やめてくれ…」

隼の声色が震えている。涙が混じっているんだろう。

563 名前:天使のような悪魔たち 第19話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2011/02/27(日) 10:46:37.29 ID:somyW2xH [4/8]
「だから、そこのお友達にもお別れしなきゃね。」

斎木は再び手刀を放つ。今度こそ、俺を殺すつもりだろう。
隼に斎木を止める事はできなかった。…俺達は、これでお終いなのか。

「………勝手に、お別れしないでくれるかなぁ?」

…今のは、誰の声だ?
手刀の衝撃が、来ない。隼が消したのか? いや、違う。
隼の力で消せるなら、こんな惨事にはなってない。
じゃあ、誰が…?

「久しぶりだね、兄貴。」

姉ちゃんが、それまで受けた傷、痛みなどまるで意に介さずに、立ち上がった。
兄貴、だと? そんな風に俺を呼ぶのは、一人しかいない。

「私ならあいつに勝てるよ。」
「明日香…なのか?」そんな馬鹿な、だってお前は…死んだはず…。」
「正確には違うかな…私の体はもうないから。まあ、あいつと同じって事だよ。」

姉ちゃんは、いや明日香は斎木を指差して、そう言った。
つまりは、明日香もまた姉ちゃんの中に"いた"のか。

「あら、いきなり強気になったわね。…そんなに死にたい?」
「そういう台詞は、今の状態を自覚してから言うのね。」
「…まあいいわ、また心臓を抜き取って---?」

斎木は、いきなり怪訝な表情をした。

「力が…使えない? どうして…隼なの? …違う。まさか、あなたが?」
「そうだよ。私もあんたと同じ。お母さんと同じ力を持ってる。
あんたの力は、全部封じ込めちゃったから。」
「なん、ですって…?」
「さぁ…今がチャンスよ。これ、返してあげるから。」

明日香がそう語りかけたのは、結意に対してだ。
その直後、空中から木刀が一差し、現れた。それはあの日の事件で、消えたと思われたものだろう。

「うん…わかってる。私が…あいつを…やればいいんでしょ…?」

結意はそれに応えるように、ふらふらとしながら立ち上がった。
木刀を拾い上げ、握りしめる。おぼつかない足取りながらも、斎木の近くまで歩み寄っていった。

「許さないよ…飛鳥くんを傷つける奴は。」
そう言った結意の声は、あの日と同じように、凍てついていた。

「わ、私を殺そうっていうの…無駄よ!? 私の体は、いくらでも再生するんだから!」
「へぇ…でも、足震えてるよ?」ついに結意は、木刀を一閃、振り抜いた。
ばき、という鈍い音と共に、斎木は倒れ込む。

564 名前:天使のような悪魔たち 第19話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2011/02/27(日) 10:48:31.37 ID:somyW2xH [5/8]
「死ぬとか死なないとかどうでもいいの。二度とこんな真似できないように…"壊してあげる"。」
結意はわざとらしく、さっきの斎木の口調を真似てそう言った。
「や…やめてよ…! 隼、助けて! こいつ頭おかしいわよ! 隼…きゃあっ…!」

結意は容赦なく、木刀による打撃を浴びせる。
頭を狙って殴り、腹を狙って突き、血にまみれようとも、やめる素振りはない。

「ごふっ…ぐぇ、あぁぁぁ!」

あまりに凄惨な叫び声が、耳に届く。隼は良くも悪くも、なぜ動かない?

「兄貴、どうしたい?」明日香が不意に、俺に尋ねた。
「あのままじゃあの娘、ずっと止まらないよ。
選んで、兄貴。結意さんを止めるか…あの女の心臓を消すか。」疑念など、浮かぶ余地はなかった。
「…頼む。もう終わりにしてくれ…」明日香がその言葉の意味をどう取ったかは、すぐにわかった。

「! し、隼…っ、たす…け…ごはっ…!」」間欠泉のように、斎木の口から血が吹き出す。心臓を、抜き取られたのだろう。
「優衣姉…ごめん。………さようなら。」
「しゅ…ん………………き……」

最期は、「好き」と言ったのか。それとも「嘘つき」と言ったのか。定かではないが。
だけどそれを最後に、斎木が口を開く事はなかった。
それでも結意は手を止めない。容赦なく、斎木の体を殴り続ける。

「結意…もう、やめろ…!」俺は震える足を踏ん張り、明日香の肩を借りて立った。
「もう死んでる。これ以上する必要はないだろ…?」

返事はない。俺の言葉が、聞こえてないのか。ならば。
少しずつ、すり足で結意に近づく。俺は後ろから、力いっぱい結意を抱きしめた。

「あ…飛鳥くん…?」
「もういいんだ。…終わったよ。」
「でも…っ、こいつ…ゆるせないよぉ…だって、飛鳥くんを…ぐすっ…」
「…泣くなよ。俺には…お前しか、いない、んだから…さ…」

結意の手から木刀が滑り落ち、乾いた音が響く。
それと同時に結意の体から力が抜けたのがわかった。
…気を失ったんだろう。

「ごめん…俺も、限界かも…」

悪いな、結意。無事な訳がないんだよ。
灰谷にも明日香にも隼にも、外傷を治す力はない。
体中を、寒気が襲う。こういうのはやばいって、何かの本で読んだな。

遠くからサイレンの音が聞こえた。きっと誰かが、警察かレスキューに電話してたんだろう。
その音を聞いて俺は、ようやく安心して意識を手放した。

565 名前:天使のような悪魔たち 第19話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2011/02/27(日) 10:49:43.05 ID:somyW2xH [6/8]

* * * * *


---数日後。


あの惨劇は、世間を大きく騒がせた。
原因不明の切り傷、大量の"負傷者"。
テレビを見れば、好煙家のくせに経済を説くエセアナリストが、的外れな見解をしていた。
まあ誰も信じないだろうな。あんな事実は。
そうそう、あの事件では奇跡的に、"誰も死ななかった"んだ。
斎木の付けた傷は、ほぼ全てが致命傷には至らないものだったらしい。
あの女が手加減をするとは思えない。灰谷が、奴の意識下で力を弱めてたんだと思う。
それきり、灰谷は俺の夢には現れなかった。

姉ちゃんは斎木に襲われる以前の、欠けた記憶を全て取り戻していた。
その再生能力から病院のお世話にならず、斎木の遺体(仮死に近いものらしいが)を隠蔽しに行ってたらしい。
その際には隼も同行したと聞く。

明日香があの時現れたのは、やはり姉ちゃんが明日香の精神を取り込んだからだそうだ。
もともとは同じ一人なんだ。…姉ちゃんには復元能力はないけど、これも灰谷のお陰なのだろうか…?
だけどそれはとても脆弱なもので、姉ちゃんが言うには、もう現れる事はないらしい。
…あいつ、最後の最後で、呼び方が"兄貴"に戻ってたな。

結意はついこの前まで入院してたんだけど、傷は俺より軽く、一足先に退院していった。
ところが俺の傷は酷く、あと一週間はベッドの住人だ。
酷い、といってももう普通に話せるし、用足しだって自分で行けるくらいには回復してる。
あとは傷が完全に塞がるのを待つだけなんだけど…暇で仕方ないんだ。

コンコン、とドアがノックされた。この病室には俺しかいない。誰なんだ?

「…来て、あげたわよ。」

ドアを開けて現れたのは、なんと穂坂だった。
しかし眼鏡はかけておらず、髪も文化祭の時みたいにツインテールにしていた。

「神坂くん一人だけ、傷がひどいらしいわね。」
「ああ。お陰で退屈してるんだよ。」
「…そう。私でよければ、暇つぶしの相手になってあげるわよ。」
「そりゃ助かる。」

566 名前:天使のような悪魔たち 第19話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2011/02/27(日) 10:51:57.27 ID:somyW2xH [7/8]
穂坂はベッドの横にある椅子に腰掛ける…と思いきや、なぜかベッドの上に上がってきた。

「お、おい穂坂…? 何の遊びだよ?」
「…私ね、今まで自分に嘘ついてた。けどこの前の事件、私はかすり傷だったけど、神坂くんは瀕死で運ばれていった。
その時、初めて思った。…神坂くんを、失いたくない、って。」

穂坂は俺の両手を押さえ付け、顔を近づけてきた。

「神坂くん…好き。」

唇と唇が、重なり合った。
頭が混乱してる。これは、どういう事だよ…?

「今は織原さんのものだとしても…絶対、奪い取ってみせるわ。」

そう言った穂坂は、今まで見たことがないくらいに昂揚、妖艶に微笑んでいた。
まだ、悪夢は終わらないのか。
俺はいつになったら、このタチの悪い夢から覚める事ができるんだ…?