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194 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/15(火) 01:09:09.70 ID:1TQotZMA [2/11]
転校した登校日初日の電車の中で私、『西名 梓(にしな あずさ)』は痴漢に遭った。
とても最悪な新しい生活のスタートで私は思わず泣いてしまった。
痴漢犯の荒い息遣いに弄られる下半身に気持ち悪さを感じる。でも、怖くて、恥ずかしくてどうしようもなく怯えて……ただ耐えるだけだった。
でも、そんな私を救ってくれたのは一人の男性だった。

「おい、あんた!なにやっているんだ!」

痴漢犯の腕を捩じ上げて、犯行を糾弾するその男らしい声は私を救ってくれた。

私を助けてくれた男の人の名前は『東宮 佐(あずまみや たすく)』。聞けば私の転校先の中葉高校の新任教師だった。
優しくて誠実そうな暖かい雰囲気に眼鏡が似合う端正な顔立ちをしていた。

恋に恋する年頃の私は当然と言うか、見事に恋に落ちていた。
それが十五の秋、私の初恋でもあった。

教師と生徒立場は違えど、同じく新しい高校での『一年生』ということで共通するところもあってか自然と良い関係性を築くことができた。
あくまで、『仲の良い生徒と教師』というだけの関係性だったけど。

佐先生は私の割り当てクラスの一年二組の副担任となった。
初めは驚いたけど、その時に私は、佐先生と私は運命の糸で繋がっているんだ! 
と驚き以上に嬉しさを感じた。
これからは毎日のように佐先生に会えるんだ……と、そう思っただけで心は弾む。
佐先生のことを考えるだけで胸はドキドキと鼓動は早まって、身体中が熱を帯びて少しクラクラする。




195 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/15(火) 01:11:06.33 ID:1TQotZMA [3/11]
それはまるで初めての体験。なんだか胸の辺りがチリチリとして熱くて、切ない気持ち。でも、気分は悪くなかった。
むしろ、最高と言って良いくらいに気持ちが良かった。

転校してから数ヶ月、私によく告白してくる男子生徒もけっこういたけど、そんなことまるで気にも留めることもなかった。
みんな即お断り。
それほどに私には佐先生しか見えなかった。

そして、私は毎日のように佐先生に色々なことを聞いた。それは自分なりのアプローチのつもり。

「東宮先生って、好きな食べ物は何?」

「東宮先生って何か趣味ある?」

「東宮先生、お仕事って大変?」

「東宮先生、今帰りなの? 途中まで一緒に帰ろうよ」

「東宮先生、メアド交換しようよ」

「東宮先生の好きなタイプって、どんな女(ヒト?)」

「東宮先生って、彼女いるの?」

「東宮先生、好きな人いる?」

徐々に深く、生徒としてではなく、一人の『女』として・・・。

それに佐先生は・・・。

「そうだなぁ・・・。カレーかな」

「趣味は読書かな。まぁこれ!っていう趣味はないかな」

「大変だけど、西名も含めて他の生徒もみんな良い子たちばかりだからすごく助かってるよ」

「少し寄る所があるんだ。すまないけど、一緒に帰るのは今日は無理かな。もう遅いし、早く帰りなさい」

「うーん・・・。すまないが、そういうことは色々と問題になっちゃうかもしれないから難しいな」

「優しくて家庭的な女性かな」

「それは秘密だ。プライベートなので却下かな」

「あ、それもプライベートなので却下ね」

そんな感じでいつも適当という感じにあしらわれている。縮まらない距離に私は少々不満を感じていた。
でも、先生と話せる。それだけで幸せだったから気にはしなかった。




196 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/15(火) 01:11:42.59 ID:1TQotZMA [4/11]
それからしばらくの月日が経った。
私が二年生になると佐先生は別のクラスの担任になった。

とてもショックでかなり引きずった。
もちろん、学校で会う機会がないわけでもない。佐先生の授業だって受ける機会もあると思う。

でも……それ以上に今はダメージが大きかった。

そんな私を気にしてくれたのか、佐先生は担任じゃないけど家まで様子を見に来てくれた。
自分で生徒と深く関わりすぎるのは良くないと言ったくせに・・・。

でも、すごく嬉しかった。
そこでついに私は先生とメアドと電話番号まで交換することができた。
佐先生が私を元気付けるにはどうしたら良いか?と聞いてきたからだ。今更クラス変えはできない。だから、私はそう頼んだ。
長年の念願が成就したようなそれくらいに渇望していた瞬間だった。

「……仕方ない。絶対に内緒だぞ? 誰にも言うな?」

「うん。私たち二人だけの秘密だね」



197 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/15(火) 01:12:15.09 ID:1TQotZMA [5/11]
それから毎日のように佐先生と連絡を取り合った。メールは一日に何通も送ったり、休みの日には先生の都合をちゃんと尋ねてから長電話に興じたりと学校での距離は広がったけど、心の距離は前以上に近付いていった気がした。
そして、日を追う毎に佐先生への気持ちは高まっていった。もう、自分ではどうしようもないほどに加速していく想い。一日の大半を先生のことを考えることで費やしていった。
無理を言って撮らせてもらった佐先生の写メを自室のベッドの上で見つめながら何度となく想いに耽り、自分を慰めることに使ったかも分からない。『勝手に使って』少しだけ申し訳ない気分。でも、あの快楽は病みつきになってしまいそうだった。
あくまで、佐先生だからだけど。。
夏休みになると自力で先生の借りているアパートを探し当てて、はんば無理にだけど押しかけたりもした。
ちょっとだけ胸が見えるような大胆な私服で出掛けちゃったり。

そんな私を佐先生は困った顔をして始めの二、三度は玄関先で追い返したりしたけど、毎日のように押しかける私についに折れたのか部屋に入れてくれた。

「えへへ……嬉しいな。東宮先生のお部屋……。けっこう綺麗にしてるんだね」

「まぁな。だらしない人間が教師やっても威厳がないからな」

「あはは! そんなこと気にするんだ?」

「西名、お前なぁ……」

「アハハハ。ところで、東宮先生?お昼は食べた?」

「ん?いや、まだ」

「じゃあ、私が作ってあげる」

「いや、それは……」

「私を入れてくれたお礼だよ!」

「本当に……西名はしょうがないヤツだなぁ」

入れてくれたお礼に前々から練習していたカレーを作った。
佐先生は二杯も食べてくれた。なんだかこうしていると新婚夫婦みたいで私は一人で密かに興奮していたりする。

「おいしかった?」

「うーーーん……」

「おいしく……なかった……?」

「おいしかったよ」

「本当?」

「ああ、本当においしかったよ。じゃなきゃ二杯も食べないよ」

「そっか。嬉しいな」

「もしかして、僕が前に好物がカレーだと言ったから、作ってくれたのか?」

「うん。東宮先生に食べて欲しくて」

「そうか。なんか嬉しいな。これだけ美味しいカレーを作れるなら、西名は将来良い奥さんになるんじゃないか?」

「えっ……」



198 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/15(火) 01:12:37.85 ID:1TQotZMA [6/11]
―――ドキリとした。

何気ないそんな褒め言葉が……私にはとても大きく響いて……
優しく微笑んだ佐先生を見たら胸がキュッと締め付けられるように切なくて、心臓は鼓動が早めてバクバクしはじめた。

普段とは違う佐先生の私服姿とか、佐先生の部屋の匂いとか、二人きりの今のシチュエーションとか……色々なことが合わさって、今まで以上に佐先生を愛おしく感じて……。

―――とても……すごく……

―――だから……私は……。

「好き……」

私の佐先生への全ての気持ちを込めた一言だった。

「……え?」

佐先生は先ほどまでしていた優しい笑顔が凍るように強張らせて真剣な表情に変わった。

「東宮先生は優しくて、かっこよくて……私を助けてくれたり……すごくすごく……。だから、私は……」

「西……名?」

「私は……東宮……佐先生が……大好きだよ」

自分の中に積もり積もった恋慕の気持ちの全てを吐き出した。
これが自分の全て。
佐先生なら、受け取ってくれると私はどこか確信めいた浮ついた気持ちもあった。



199 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/15(火) 01:13:05.55 ID:1TQotZMA [7/11]
それを聞いた佐先生はしばらくレンズ越しに見える目を大きく見開く。
時間にすると数時間に感じる数秒だった。

やがて、先生は眼鏡を軽く弄った。

嫌な予感がした……。

「そう……か。それは嬉しいな。一教師として……生徒に好かれるというのは光栄なことだ」

そう言った。極めて冷静な表情で。

―――それは……私が求めていた答えじゃなかった……。

―――答えにすら……ならない返事だった……。

それからの後のことはあまり覚えていない。
適当な話をして、私は家に帰って呆然としていた。何もする気が起きないままにその日はベットに寝転がる。

佐先生は元より自分を『女』としては見てくれていなかったのだ。
メアド交換もしたし、電話だって毎日のように……。佐先生だって、困った顔はしていたけど、楽しそうにしてくれてた……はず……。
でも、それらは全部私の空回りで……。距離は縮まっていたはずなのに……届かなかった……無駄だった。

いや、それどころか……言葉のニュアンスとして、私が『生徒』としてでなく、『一人の女』として好きだと言った事に佐先生は気付いていた……。
佐先生をずっと見てきて分かったとこだけど、先生は嘘をつく時に眼鏡を弄る……。

「あの時も……」

思い返せばそれ。

胸が張り裂けるように痛くて、気分が悪かった。最高に最低の気分だった。

その晩泣き通した。
今までの人生で一番泣いたと思う。



200 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/15(火) 01:13:34.86 ID:1TQotZMA [8/11]
その日以降は佐先生のアパートへは行かなかった。夏休みは終わるまではとても長かった。

登校日の朝の気分はやっぱり最悪最低。夏休みの途中からずっとこの状態だ。
とてもではないが学校に行く気にはならなかった。

自室のベッドの上で自堕落に過ごす。
傷心の中、未だに未練がましく携帯の待ち受けに設定してある佐先生の苦笑交じりの……でも優しい顔を見ては出るのは深いため息。消すことができない。
だって、消したら全てが終わる気がしたから。
ずっと考えていた。佐先生のことを・・・。辛いけど、本当に苦しいけど・・・。忘れようと思っても考えてもまるで逆効果。意識してしまう。

嫌われたかもしれない。
気持ち悪いって、思われたかもしれない。
軽蔑されたかもしれない。
もう、元通りの仲の良い生徒と教師の関係すら戻れないかもしれない。

そして、辛苦は増していく悪循環。どうしても忘れられない。どうしても諦めきれない。
こうやって部屋に篭っているとまた前みたいに佐先生が会いに来てくれるかも・・・なんて淡くもみっともない考えが心の隅にあったのかもしれない。
佐先生は来ることはなかった。

「佐先生……先生……私……先生……佐先生……」

毎日のようにそんなうわ言を呟いた。

声は虚空を彷徨うだけで届く先はない。
誰もいない。何もない。天井が寂しくこちらを見ているだけ。
絶望の時間は長く感じるもので何時間、何日と過ぎたかすら分からない……。
こんな苦しい日々が続くんだと心の闇に囚われかけていた

―――でも……そんな日々に変化はいきなり訪れた。

今日もいつもと同じように眺めている携帯画面。そこに一通のメールが着信する。

もしかしたら……。

そんな期待が私の中で生まれる。



201 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/15(火) 01:13:57.00 ID:1TQotZMA [9/11]
逸る気持ちを制御できないままボタンを早押しする。

液晶に映る……。

―――相手は私の待っていた人。

「佐……先生……」

身体中が震えた。
涙も出てくる。
その夜、私は……携帯を抱いて寝た。佐先生を抱きしめるように。

『学校で待ってる』

そんな短くて、言葉足らずな内容だったけど、やっぱり嬉しかった。

佐先生はいつでも私を助けてくれる。救ってくれる。手を差し伸べてくれる。
出会ったあの時も、先生とクラスが離れてしまった時も。そして、今でも……。

「ああ、やっぱり、私……」

好き。大好きなのだ。この想いは消えない。消えるはずもなかった。

また、更に好きになった。

今まで以上に……恋しい……狂おしいほどに……東宮佐を……欲していた。

私は次の日、学校へ行った。

佐先生に会うために。

待ってくれているのだ……。

佐先生は私を……私だけを……。

いつか、もう一度、伝えるんだ。今度は……絶対に……伝えきって……佐先生と……。

「私……絶対に諦めないよ……。好きだよ……先生」

そう呟いて、愛しい人の映る液晶の中の笑顔に口付けをした。

「待っててね、佐先生……」

私の心に差し込んできた一筋の光は佐先生が照らしてくれた優しい光……。それは……黒い……光。