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417 名前:17:00時の女の子 1[sage] 投稿日:2011/03/20(日) 14:00:59.02 ID:i58t1rSX [3/6]
現在、16時59分
バイトが入っていない日のこの時間は、なるべく家にいるようにしている
あと20秒……3…2…1……[ピンポーン]
呼び鈴が鳴るのはいつも決まってジャスト17時、一秒のズレもない
そしてドアの向こうにいるのは、いつもの舌っ足らずな口調で制服姿の女の子
その手には協力プレイのできる一昔前の携帯ゲーム

「おにいちゃん、あそぼ」
「いいよ。で、今日ママは何時に帰るの?」
「………11じ」
「それじゃご飯はうちで食うか? 卵焼きとウインナとご飯しかないけど」
「たまごやき、すき」

この娘はアパートの隣に住んでる女の子、菊池美幸(きくちみゆき)ちゃん。中学一年生
お母さんが女手一つで働いて育てているんだけど、そのせいでいっつも夜は一人ぼっちだった
んで、ちょっとおかず作りすぎちゃった時にミユをご飯に誘ったら、そのまま懐かれちゃったって寸法
同じゲームやってて、協力プレイで盛り上がったってのも理由だけどね
それに、お母さんも申し訳なさそうにしながらも、時間があるときはミユのことをよろしくと言ってたし

「んじゃ、米炊けるまで2・3クエストやるかぁ。ミユは行きたいクエストある?」
「おにいちゃんがいきたいので、いい」

そう言われるのが一番困る
実は俺、ミユと始める前からこのゲーム他のダチとも長々やっていて、もうプレイ時間もカンストしてるほどやりこんでるのだ
よって強いてやりたいものがあるわけでもない。もう続編もとっくに発売されて、今はそっちをやってるわけだし

「んじゃ、ミユがまだクリアしてない面に行こうか。難しいところは兄ちゃん手伝ってやるから」
「うん。おにいちゃんうまいから、あぶなくなったらたすけてね」

そうしてミユはいつもの指定席、俺の膝の上に座って体を預けてくる
正直言って小学校低学年くらいの子供ならともかく、中学に入った娘をこうして座らせるのには抵抗がなくもない
俺はロリコンじゃないと思うんだが、二つにまとめた髪の匂いや女の子の体温は、年齢=彼女いない歴の俺には刺激がいささか強い
しかしこれはミユがここに来るようになってからずっとのことだし、うちにいる時間の大半は膝の上で一緒にゲームやってすごしてる
………うち、テレビないしな。もともとあんまり見ないし、このアパートは地デジ対応してないから買っても仕方ないんだよ

「いやいや、その前に米研がせてくれ。炊飯器にセットしてくるから」
「うん」

渋々俺の膝から降りたミユは、今度は俺のシャツの裾掴んだまんま台所まで着いてくる
伸びるから伸びるからつっても黙殺されるんで、今じゃほとんど諦めてるけどね
つまりこの娘、うちにいる間はほとんど俺から離れてくれないんだ

418 名前:17:00時の女の子 1[sage] 投稿日:2011/03/20(日) 14:01:41.53 ID:i58t1rSX [4/6]
ミユはお世辞にも上手いとは言えない
でも頑張っているのはわかるから、つい俺も援護に熱が入っちまう
もちろん援護だけ。直接的な手出しはほとんどしない
やっぱミユ本人が倒さなきゃ上達もしないし、達成感も薄れちゃうからな

「やった、かったよおにいちゃん!」
「うん。上手くなったね。初めてうちに来た頃は序盤の敵にもやられてたのに、上達してるよ」
「……えへへ」

頭を撫でてあげると、あまり変わらない表情がなんというか……ほにゃっ、とした感じになる
可愛いなあ。できればこの笑顔を曇らせたくないから、俺が調合分まで持ち込んだ回復粉塵を使い切ったということは黙っていよう
ミユも楽しそうにしているし、俺も楽しい。引退して若者を教える教官の気持ちってのがすげえよく分かるな

「…………ふぁ」

時間は22:48、そろそろかなと思ってたが、だいたい予想はほとんど外れてない
一度ミユがあくびをしたら、そっからはもう吸い込まれるようにこてんと眠っちまう
歯を磨かせられなかったのが心残りだが、まあご飯も食べたしお風呂にも入らせたし
それにもうすぐお母さんも帰ってくるちょうどいい時間だ
んじゃ、こっそりミユのデータをセーブして、寝かしといてあげるか
………そうして23:00、控えめにノックの音が響く。ミユが時間に正確なのはお母さんゆずりだ

「あの、美幸はおじゃましていますか?」
「ええ。奥で寝てますからおぶってきますよ。歯をみがかせられなかったのが残念ですけど」
「いつもいつも本当にすみません」
「いえ、自分も妹ができたみたいで嬉しいですよ。お気になさらず」

お母さんの恵理子(えりこ)さん。もう30半ば差し掛かりかけだとミユから聞いたが、まだ20代後半で通用するような美人
その上外ではバリバリのキャリアウーマンだってんだから、天は一物もニ物も与えてるんだなあと思うよ
んで、ミユを隣で寝かしてからうちに戻って冷蔵庫を開ける

「恵理子さん、晩ご飯食べました? まだだったらミユと一緒に食べたウインナと卵焼き残ってるんで、チンできますけど」
「……すみません」
「謝んないでくださいってば。別に大したことしているわけでもないんですから」

そう、本当に大したことじゃない
それなのにこうも恐縮されると、むしろ俺のほうが申し訳ない気持ちになってしまいそうだ

419 名前:17:00時の女の子 1[sage] 投稿日:2011/03/20(日) 14:02:32.40 ID:i58t1rSX [5/6]
「私たち、来月の頭に引っ越すんです」

そんなことを言われたのは、恵理子さんがご飯を綺麗に食べ終わってからだった

「ええ!? 初耳ですよそんなの」
「すみません。あなたと楽しそうに遊んでいる美幸を見ていると、どうしても言えなくて……」
「そこのところはご家庭の事情もあるでしょうけど……って、それってミユにも言ってないってことですか?」
「………はい」
「いやいやいや、それはまずいですよ。ミユも友達やクラスにお別れしなきゃいけないし、時間的余裕をあげなくちゃ」
「その必要はないんです」
「え? どういうことですか?」
「……あの子には、友達も、報告するクラスメイトもいないんです
 あの話し方や、人見知りが激しくて臆病な性格のせいで、クラスでもすっかり孤立してしまっているみたいなんです」

顔を伏せて、苦しそうに話す恵理子さん
そりゃ、こんなことを母親が言うのは本当に辛いことだろうし、自分の配慮が足りなかったと思う
けど、考えてみれば符合することが多い
学校が終わってすぐ帰る。自分事だから正確じゃないけど、中学の頃の下校時刻は大体五時くらいだった気がする
それにミユは制服のブレザーを着たままうちに来ている、ってことは学校終わってそのままうちに来てんだろう
それも俺がバイト入ってない日は毎日。まさかフリーターの俺にミユが時間合わせているはずもないだろうし
それはつまり、ミユはいつも学校が終わったら、その後は友達との約束も何もなく、すぐに下校してるって事か

「あの子には、あなたしか友達がいないんです。だから、いつもうちで話すのはあなたのことばかりなんです」
「……それで、引っ越しと言うのは」
「私の実家は京都にあるので、そこにある子会社に転属希望を出していたのが受理されたんです
 そこなら私の両親に美幸を見てもらえますし、学校も変えられると思って……」
「そうですか、お話はよくわかりました。でも自分にはもっと早く教えてほしかったですよ。なんせミユの友達なんですから」
「………すみません」
「それで、引っ越しはこれから3週間ちょっとですよね? できればその間も、今まで程度にミユをお借りしてもいいですか?」
「そ、それはもうお願いできるのであれば。私もギリギリまで出社しなければならないので……」

親御さんのお許しも出たし、明日からは忙しくなりそうだ
バイトはもう長年続けてるし僅かながら有給も持ってる
この三週間で、その有給を吐き出してしまおうと俺は考えていた
もうすぐお別れすることになる、ひとりぼっちの女の子のために