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570 名前:忍と幸人[sage] 投稿日:2011/03/22(火) 21:25:10.98 ID:yuKj7wwx [4/12]

 夏の日差しが連日降り注いでるおかげで、このところの平均気温は三十を下らない。
 日によっては三十七度を観測する事もあり、熱中症に悩まされる人々が連日テレビで紹介されている。この猛暑は記録的だとワイドショーで取り沙汰されており、「今年の夏はおかしい」と誰もが口にしていた。
 日程を考えるべきだったと、私は焼ける様な道路を歩きながら思っていた。
 今日は日曜日。兼ねてから約束していた友人と外出していた。他愛の無いショッピングを楽しんだその後に友人と別れて、今は一人ホームセンターへと向かっているところだ。
 書物を纏めるのに本棚が欲しくなったので、休暇である今の内に用意しようと思い、そのまま直行しようとしたのだが……強い日差しの下を長く歩き続けたせいか、些か頭がクラクラしてきた。
 友人とのショッピングで購入した、本や雑貨といった荷物の重みをより強く感じる。足を引き摺る様になってきたのを見て、いよいよ危うさも感じ始めてきた。
 日陰で休もう。朦朧としてきた意識の中でそう思い、近くの公園へと立ち寄った。
 私はタフネスには自信があるつもりだ。大抵な運動では息を上げないし、腕力だって男に負けはしないと自負している。
 そんな私だが、流石に炎天下の中で水分補給を疎かにしたおまけに、冬季仕様の迷彩服を常に羽織るという「こだわり」を貫き続けるのは無謀であったらしい。
 木陰にベンチがあった。お誂え向きに、その傍に自販機まである。
 有り難い。私はベンチに荷物を置き、すぐさま自販機にかじりついた。
 購入したペプシコーラを一気に煽り、一息吐く。爽快な炭酸の後味が喉を刺激する。本当はアクエリアスといったスポーツ飲料が良いらしいと聞いてはいたが、今は炭酸飲料が飲みたかった。
 コーラの甘味が渇きを促進させる。それをボトルを再び煽る事で潤す。
 それを何回か繰り返していると、ふと視線が砂場へと向いた。その砂場の真ん中に、髪の長い小さな背中がポツンとしていた。


571 名前:忍と幸人[sage] 投稿日:2011/03/22(火) 21:27:31.89 ID:yuKj7wwx [5/12]
 視線を左右に向ける。ブランコで遊んでいる子供達がいるし、ジャングルジムではしゃぐ子供達もいる。男の子も女の子も一団となって遊んでいるのが分かる。砂場にいるあの子だけ、一人ぼっちになっているのだ。
 親しい友達がいないのだろうか。そんな事を思いながらボトルを傾ける。
 その小さな背中は、一人でせっせと山を作っているみたいだった。特別な装飾も何一つ無い、ただの砂山だ。脇から砂を寄せ集めたり、上から被せたりと、一つの山を作り続けている。
 寂しい背中だ。周囲は楽しそうなのに、あの子だけ孤独になっている。
 ベンチから立ち上がる。ボトルがチャプンと音を立て、中のコーラが揺れた。
 ゆっくり歩く。近づくにつれて、その背中が酷くくたびれている様に見えてくる。
 さらに近づく。白いシャツの背中には戦隊ヒーローが終結している絵がプリントされているが、節々が擦れているみたいだ。白い生地には薄黒い汚れが点々とある。
 脇にちょこんとしゃがみ込んでみる。チラッと覗き見る様に顔を向けてきたが、すぐに背けてしまった。
 可愛い男の子だ。素直にそう思った。
 長い黒髪は手入れ不足を思わせるが、顔は中性的で、成長すればなかなかの美男子になるのではないかと思わせる(何故か片目を閉じているが)。細い手足を抱える様に丸くなっているのもあって、小動物みたいなか弱い存在に見える。
 思い切り抱き締めてみたい――胸がトクンと高鳴った。
 私を警戒する様子は無いみたいだ。今もこうして隣にいるというのに、彼は気にもしていない。
 私はよく子供に怖がられる。というのも、私は背が百九十五センチで肩幅もがっしりしており、目尻が吊り上っているおまけに三白眼なのだ。
 小さな子供達は体が後ろにこける程見上げなければ私の顔を見られないし、見たら見たで「目が怖い」と怯えられる。


572 名前: ◆O9I01f5myU [sage] 投稿日:2011/03/22(火) 21:30:27.82 ID:yuKj7wwx [6/12]
 道を歩けば、子供達はポカンとした顔でこちらを見て距離を離す。ぐずる子供も私を見た途端にきょとんとして嗚咽を止める。そういった反応の数々に友人すらもネタにしてくる始末だ(さらに腹立だしい事に、成人した男が相手でも同様だった。
皆私を見るや子供達と同じく、怯んで二歩、三歩と後退りする。おかげで未だに私は異性との経験が無く、一部の人間はそれを揶揄してくる。止むことのないストレスの根源だ)。
 この子は私に怯える様子も見せないし、あの「変わりものを見る様な」視線を向ける事もしない。先と変わらず、山を作っているだけだ。無視されるのもなんだが、何時もの様な顔をされるよりはよっぽど良い。

 「別の物も作らないか?」

 話し掛けてみる。彼は俯いてた顔を持ち上げ、今度ははっきりこちらと向き合ってくれた。

 「……お山しか作れないの」

 小さくて力無い声だった。
 私はコーラのボトルを一気に飲み干し、水道に向かった。水を汲んでから砂場に戻り、ボトルの中の水で山を湿らせた。

 「砂は濡れると固まる。適度に濡らせばこの山にも一工夫する事ができる」

 濡れた砂山に両手を添え、思い思いに弄り始める。
 まさかこの年になって砂遊びに興じる日が来るとは思ってもいなかったが、途中、ジュースを振る舞いながら、山にトンネル開通させたり、簡単なお城を作ったりと、割と本気で楽しんでいた。
 彼も感嘆の溜め息をしたりと、結構気に入ってくれているみたいだった。
 遠くから聞こえる烏の鳴き声で、ふと時間が気になった。泥だらけの手を水で洗い流して携帯を開いてみると、何と夕方になろうとしていた。この公園にも、もう私達しか残っていない。

 「ついついはしゃいでしまったな」

笑いながらも一つの事が気になった。
 この子の親は一体何時になったら迎えに来るのだろう?
 彼の年齢は、見たところでは小学校に入ってそこそこといったところだ。確かにこれくらいの年齢にもなれば一人で遊びに出歩くなんて普通の事ではあるが、夕刻にもなれば流石に両親も心配するだろう。


574 名前:忍と幸人[sage] 投稿日:2011/03/22(火) 21:32:54.25 ID:yuKj7wwx [7/12]
 自転車は付近には無い事から、彼は徒歩でここまで来たのだろう。ならば彼の足で考えて自宅はこの付近、時刻も五時に近いからそろそろ様子見にやってきても良いはずなのだが……。

 「お姉ちゃん、僕、そろそろ帰るね」

 手を泥だらけにしたまま、彼はすっくと立ち上がった。

 「家は近いのか?」

 訊ねてみると、彼は一つ頷いた。

 「送って行こう。と言っても私も歩きだがな」

 そう申し出たら、首を横に振られた。

 「大丈夫。僕一人で平気」

 水道で手を綺麗に洗い、ついでに一口の水を飲む。

 「ありがとう。楽しかったよ」

 笑顔で礼を言う彼に「こちらこそ」と返すと、彼は手を軽く振って走り去ろうとして、思い切り転んだ。慌てて助け起こすと、顔を打ったらしく、掠り傷が頬にできていて、軽く血が滲んでいる。
 彼の右目を見る。遊んでいた時にもそうだったが、彼はその右目を開こうとしない。常に閉ざしていて、左目だけで視野を保っているみたいだった。病気か何かなのだろうが、片目だけでは遠近感を捉えるのにも一苦労するだろう。
 それに、この子はどうも歩き方が変ではないか? 左右の足での歩幅が合っていない様に見える。まるで片足を引き摺る様な形だ。
 遊び盛りではあるが、体に不調がある子を一人でそのままにするとは、親は何を考えているのだろう。何かやむを得ない事情でもあるのだろうか。

 「ありがとうお姉ちゃん。大丈夫だから……」

 私の体に寄り掛かっていた彼がすぐに離れようとしたので、少し強めに抱き締めた。ちょうど胸に彼の頭が包まれる格好だ。
 彼が大人しくなった――というよりも固まっているみたいだが――のを見て、そのまま抱き上げ、自分の荷物を置いてあるベンチまで歩いて一旦腰掛けた。
 彼は私の胸に夢中になっているらしく、抱く手を緩めてもそのまま胸に顔を寄せたままだった。男は幾つであっても、おっぱいが好きらしい。
 ……可愛らしい。私の胸の中で心地良さそうにしている彼がたまらなく愛しく思えた。
 荷物を腕に通し、彼を抱っこしたまま再び立ち上がる。夏の日中は長いので未だに太陽は健在だが、風が吹き始めてきたので幾分楽だ。


575 名前:忍と幸人[sage] 投稿日:2011/03/22(火) 21:35:14.61 ID:yuKj7wwx [8/12]
 「そう言えば、まだ君の名前を訊いてなかったな」

 背中を擦りながら話し掛けると、「佐原幸人(サワラ ユキヒト)です……」と返ってきた。

 「ほう、君も佐原というのか。私は佐原忍(サワラ シノブ)だ。宜しく」

 背中に少し手を押さえて、胸に彼――幸人の顔を埋める。胸の中から「よろしく……」と、消え入りそうな声がした。
 気持ち良さそうにしている幸人の顔を見ていると、自然に頬が緩んでいく。
 ……本当に可愛い。
 胸に甘えたままの彼の案内で、結局家まで送る事になった。
 着いた所は公営団地だった。
 名残惜しそうに胸から離れた幸人は、「ありがとうございました」と深々と頭を下げた。

 「お母さんかお父さんはいるのか?」

 一言だけでも挨拶をしておこうと思ったのだが、幸人は「いない」と答えた。
 家にいないのか……。家の鍵は持っているのか?
 それを訊いてみると、少し顔を渋くして「……うん」と、遅れて頷いた。
 何か変だ。彼は何かを悟られないようにしている。
 私はそこも追及したかったのだが、流石に躊躇いが生じた。場合によっては、人の家庭内の事にまで言及する事になってしまうからだ。幸人もそれは望まないだろう。

 「……そうか。それなら私はここで……」

 長居は無用だと帰ろうとした時だった。団地全体を揺るがす様なヒステリックな叫びが響き渡った。甲高い、耳障りな声で、思わず顔をしかめてしまう。

 「幸人! 五時までには帰れと何時も言っているでしょう!」

 女だ。ウェーブが掛かった茶色の長髪を振り乱し、ヅカヅカと鼻息荒く近寄ってくる。
 ……何なのだ、この女は?
 その心の問いに幸人が答えてくれた。

 「……ごめんなさい、ママ」

 幸人がやけに抑揚の無い声で謝っている。
 ……ママだと? 少し厚い化粧にセパレートのボディコンシャス、如何にも水商売の恰好をしたこの女が幸人の母だというのか?

577 名前:忍と幸人[sage] 投稿日:2011/03/22(火) 21:37:27.96 ID:yuKj7wwx [9/12]
 顔を見てみると、彼女は器量が良い。化粧は濃いが顔の良さを充分に引き立たせていると思う。スタイルも良いし、女の私から見てもなかなかの美人だ。
 幸人も奇麗な顔をしている事を思えば、なるほど親子だと納得もできる。しかし……。

 「何回言えば分かるのよ! この前も何時まで経っても買い物から帰ってこないで遊び呆けていたくせに!」

 私なぞ最初から存在しないかの様に幸人をなじり飛ばす。一体何を怒っているのだ彼女は。幸人も俯いて言葉を失っている。

 「さっさと来な! どうしようもないグズなんだから!」

 幸人の母親は幸人が黙りこくっているのに業を煮やしたのか、いきなり彼の髪の毛を鷲掴みにして引きずり始めた。
 苦悶に歪む幸人の顔を見て、とうとう私も黙っていられなくなった。

 「失礼だが、貴女が幸人のお母さんか?」

 呼び止めると、苛立ちをぶつけてくる様な形相で睨みつけてきた。

 「……そうだけど、あんた誰よ?」
 「公園で彼に会った、単なる通りすがりだが」
 「その通りすがりが何の用よ!?」

 最後まで言い切る前に遮られた。何とも沸点の低い女だ。私も短気だからあんまり長く相手にしたくない。

 「見たところ、彼は右目が悪いみたいだが、病気か何か? それに、足にも何かあるみたいで、歩くにもしんどそうだ。そんな彼を一人公園に置いといて、一体貴女は何をしていた?」

 他人相手なのでなるべく言葉には気を付けていた私だが、あまりにも無礼な彼女の態度に段々と胸がむかついてきた。言葉尻にもなると随分キツい口調になってしまった。

 「あんたに答える必要は無いでしょう!」

 それだけ吐き捨ててそっぽ向いた。話は終わったとばかりに早足で部屋に戻ろうとする。手は幸人の長い髪を掴んだままだ。

 「それが自分の子供にやる事か!」

 堪らず叫ぶと、彼女はぴたっと足を止めた。

 「この子が気に入ったの?」

 ゆっくり振り向いて言った。

 「何?」
 「この子が気に入ったのかって訊いているのよ」

 さっきまでのヒステリックな顔は鳴りを潜め、その代わりに愉悦の入った不快な顔を見せた。

 「この子、結構人気あるのよね。男にも女にも」

 ……この女は一体何の話をしているのだろう?


579 名前:忍と幸人[sage] 投稿日:2011/03/22(火) 21:39:32.01 ID:yuKj7wwx [10/12]
 「男の客ならフェラチオをさせたり、女の客ならクンニさせたり……未成熟なオチンチンにしゃぶりつきたいってのもゾロゾロいるのよねぇ」

 ニヤニヤ笑いながら女が喋る。幸人は電源を落とされたみたいに無反応だ。その左目は虚ろだった。

 「この子のお尻の穴目当てで金を出すのもいるわ。まだ小さいから全部は受け入れられないけど……それがまた受けが良かったりするんだから、変態ってのは分からないわ……本当に」

 幸人の局部を荒々しく擦っている。幸人は僅かに身じろぎしたが、何も言わず、ただされるがままだ。
 ケタケタ笑うこの女の口から出てくる無数の言葉が、私の全身を掻き毟ってくる。
 心臓が騒ぐ。掌に汗が滲んでくる。歯が噛み合ってギリギリと音を立てている。

 「あんたもそんな女なの? この子を犯したいって思っているの?」

 じりじりと距離を詰めてきた。傍に幸人を従えながら、ゆっくりと。

 「この子、感度は良いと思うわよ。お尻を犯されてもオチンチンを愛撫されても……良い声で鳴くわよぉ。射精はまだできないけどね……フフ」

 耳元まで口を持ってきた彼女のその一言に、何かが頭で切れた。
 目障りなその顔を思い切り張り飛ばした。女は体勢を崩し、アスファルトの上に倒れ込んだ。
 息が荒い。胸が上下に揺れる。
 私は何を興奮しているのだろう。何に対して怒り、何に対して殴ったのだろう。
 頭が痛い。脳が興奮物質で漬けられているみたいな感じがする。思考が止まりそうだ。

 「フフフ……」

 女が起き上がる。ゾンビが如く、こちらを見つめて這ってくる。
 目の前で立ち上がる彼女。その手が喉元に絡み付いてくる。

 「随分取り乱しているわね」

 指には力が込められていない。ただ絡みつくだけ。温かみの無い冷たさがひたひたとするだけ。

 「まぁいいわ、気が向いたら来て頂戴。たっぷりサービスするわ。勿論、有料でね」

 背中をこちらに向け、階段を昇っていく。
 幸人は一連の出来事に反応を何一つ見せなかった。自分の母親が叩かれても、倒れても、気にも留めなかった。私にも興味を示す事なく、黙って母親の背中を追った。
 彼の名前を呼んだ。幸人は立ち止まりもせず、振り返る事もなかった。