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114 :風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:36:40 ID:F6GxV0Wo
7月の終わり、学校で儀式・・・ではなく、終業式が朝の猛暑の中行われた。
全校生徒が蒸暑い体育館で終わりが見えない校長の話を聞いている頃
俺は人気の無い校舎の屋上でただ1人、風に当たっていた。
夕美が目の前で倒れたあの事件から1ヶ月が経ったのに
俺は理由も分からない責任に縛られていた。
救急車で運ばれた夕美は手首を縫う手術を受け
2日後に意識不明のまま実家の方の病院へと移された。
移される時に来た両親は『夕美の事は気にするな』と言ってくれたが
俺が夕美の事を気遣っていればあのような事にはならなかった。
けれども『気遣うって具体的にどうすればよかったんだ?』という考えが浮かび
その先の考えが見つからず苦悩する日々が続いていた。

「本当は?」
「いや、この気持ちは本物だし」
「と見せかけて?」
「いや、だから・・」
「と言いつつ?」
「くどい!!」

ムカつく質問をしてくるほうを振り向くと、そこには・・・老人?

「なんでここにいるんですか。校長」
「ここが職場じゃから」
「いやそういう意味じゃなくて、今、終業式の真っ最中ですよね?」
「そうじゃな」
「ここにいていいんですか?」
「だから、ここが職「同じボケは通じませんよ」
「ちょっと飽きたから教頭の目をぬすんで抜け出してきたんじゃよ」
「『校長先生の話』は終わったんですか?」
「抜け出した時がそれだった気がするんじゃが・・・年を取ると記憶がなぁ」

こんなのが校長でこの学校は大丈夫なのだろうか?
親指を立てて「大丈夫。問題ない」とか言ってるけど、問題ありすぎだろ。

「そういう君はなぜここにいるんじゃ?」
「日本は自由の国ですから、自由に行動してるだけです」
「じゃあ、ワシも」

残念だけど、あんたら教師は『職務』という名の鎖で縛られているから自由はないんだよ。
風に当たって涼もうと思っていたのに、隣の老人の所為で全く涼めない・・
そんな事を思っていた俺に隣の老人は意外な話題で話を振ってきた

「そういえば妹さんの事聞いたよ」
「!?」
「何でも殺し損ねたとか・・」
「誰です?そんな誤情報流してるの」

1人思い当たるけど。

「美影くんじゃよ」

ですよね~ww


115 :風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:38:55 ID:F6GxV0Wo
1ヶ月前、夕美は隼先生がいる『烏羽総合病院』に運ばれた。
手術を受けているあいだ、隼先生は話し相手になってくれて俺の不安を和らげてくれていたのだが
その光景を美影先生に見つかり、俺は半殺しにされた。
危うく、親よりも先に河を渡る事になりそうだった。

「『殺そうとした妹を病院に連れてくるとは考えが狂ってる』と、彼女は言ってたぞ」

だからそれ誤解だし。先に校長の誤解を解きたいところだけれどなんて説明すればいいんだ?
『妹が自分で手首を切りました』なんて言ったら、たぶん理由を追求されるだろうな。
『妹が俺に溺愛してて振られた腹いせに・・・』本当の事言っても信用されるかどうか・・・
とか考えていたのに俺はそれを校長に話した。
本当のことを言って信用されなかったら嘘ネタを考えればいい。そんな事を考えていた。

「・・・・・」
「と言う訳なんですよ」
「・・・・・・・・・」
「(さて、嘘ネタを「うらやまし~~~~~~~~~~~~~~~ぃ!!」
「!!?」
「妹に溺愛されるとか、どこのエロゲーだよ!!ww」
「こ、校長?」
「『お兄ちゃん』とか『兄貴』なんて呼ばれちゃったりして・・ヒャッホーーーーー!!」
「・・・」
「あぁ、ダメだ。ワシはお前を孫としか見ていない。
 お前がどんなにワシの事を好きでいてくれても、それはダメなのだ」
「(あれ?妹ネタではしゃいでたんじゃ?つうか、妄想の世界に行っちゃったし・・・)」
「おぉ。見ない間にこんなに成長したんじゃな、よし今日は朝まで寝かせないぞ」
「・・・」
「もっと、もっとじゃ!!もっと強くやってくれーーー!!」

頭の奥底で何かが切れる音がした・・・



「ちょっ、待って・・老人をいじめちゃダメじゃろ」

何が老人だ。あんなオタク以上の妄想をしやがって。
まぁ、さすがに殴りすぎたと自分でも思ってはいるけど。

「いい年をした老人がオタクの真似事なんかするものじゃないと思いますが」
「真似事ではない!オタクだ!」
「(自慢できる事じゃねぇだろ)」
「じゃあ、逆に聞くが、こんな老人を愛してくれる女性がこの世にいると君は思っているのか?」
「へ?」
「こんな老人を愛してくれるのは2次の女性だけだぞ!じゃからワシは自分がオタクだという事を
 恥だと思わん!」
「・・・」
「そもそも貴様のようなリア充がおるからワシらは荒んだ目で見られるのじゃ!」
「・・・」
「リア充、爆ぜろ!」
「・・・校長」
「なんじゃ!」
「生徒に向って爆ぜろはないと思いますが・・・」
「たとえ生徒でもリア充は全員敵じゃ~~~~!!」

・・・この脳みそ、叩いたら直るかな?


116 :風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:40:00 ID:F6GxV0Wo
「それで、君はどうしたいんじゃ?」

叩いたらいつもの校長に戻った。血の跡が生々しいが、あえて触れないでおく。

「妹とは今までの関係でいたいんです。けれども、次にあったときにどのように振舞えばいいのか
 分からなくて」
「・・・君は大丈夫だ」
「は?」
「悩みの理由がわかっているという事は答えもいずれわかるという事じゃ。
 問題のない数式を答えるのは不可能だが、問題が存在する数式は試行錯誤すれば
 解くことができる。そんな感じじゃ、分かったか?」
「・・・なんとなく分かるんですが、一つ聞いてもいいですか?」
「なんじゃ?」
「その“試行錯誤”のやり方が分からなくて悩んでるんですが・・・」
「・・・それぐらいは自分で見つけんと人生は楽しくないぞ。
 ゲームだってそうじゃ。チートを使えば楽に進めることはできるが全然楽しめん。
 苦があるから楽があるのじゃ」

誤魔化したな。あと、例えがゲームって・・・。
そんな事を考えていたらドアが勢いよく開いた。

「校長!こんな所にいたんですか!!」
「ゲッ、教頭」
「さぁ、おとなしくお縄についてもらいましょうか」
「フッ、簡単に捕まる物か!風魔君、一緒に変身じゃ!」
「へ?」

戸惑う俺をよそに校長が上着を脱ぐと違和感を感じる物が現れた.
まさか・・・玩具のライダ●ベルト?

「へん『ガシッ』
「ほら、行きますよ校長」
「あぁ、待って、せめて変身だけでも「いいから行きますよ」
「イヤァ~~『バタン』
「・・・・・」

後に残されたのは俺と、その俺の周りをいつものように吹く風だけ。
校長の話(ほんの一部だけ)を頭に刻み、他を記憶から消そうとしたとき
再びドアが勢い良く開いた。そこにいたのは

「やっぱりここにいた」
「・・・舞」

目の前にいるのはいつもの舞、のはずなのにそれを取り巻く風は異状に黒かった。
「何か嫌な予感がする」と耳のそばを通った風が言っていたのに
俺は舞に目を奪われ、聞いていなかった。


117 :風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:40:55 ID:F6GxV0Wo
「そういえばさ」

黒い風に気を取られ話題を振らない俺を気遣ってくれたのか、舞が口を開いた。

「最近暗いけど、何かあったの?」
「いや・・」

思えば、こうやって舞と会話するのは1ヶ月ぶりだ。
ほとんどが俺の無視による会話の終了だった。

「1ヶ月も暗いから、少し気になったの」
「・・・」
「翼の家に救急車が来てたけど、もしかして、それと関係があるの?」
「え?」

何で舞が救急車の事を知ってるんだ?
事件の事は誰にも話していないから、病院にいた先生2人と校長以外は知らないはず。
なのに何で?

「あの日、心配になったから家に行ってみたの」
「・・・よく家にまでこれたな」
「アドレス交換した時に住所知ることができたから」

何でだろうか、少しばかり心臓の鼓動が早くなっている。
別に不穏や恐怖に感じることでもないだろう
住所を知ってるんだから家にこれて当たり前だ。

「ねぇ、あの日、何があったの?」
「いや、たいした事じゃない」
「ねぇ、何があったの?」
「だから、何もなかったって」
「何を隠してるの?」
「隠してるわけじゃ「じゃあ教えてよ」

目の前の舞はものすごい笑顔。なのに怒っている様に感じる。
その感情を感じ取った為か腕に鳥肌が立ちまくる

「ねぇ、教えてよ」

校長と同じことを聞かれているのに答えられない。
話すのが怖い、のどが渇く、瞳孔が開いているのが自分でも分かる。
俺は何でこんなにも恐怖を感じてるんだ?
何で?

「翼?」
「!?」
「おしえてく・れ・る・よ・ね?」

気付いたら舞は俺に密着し、黒い風が取り巻く視線で俺を・・睨んでいた?
その恐怖から、俺は首を縦に振ることしかできなかった。


118 :風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:44:44 ID:F6GxV0Wo
「へ~、そんなことがあったんだ。大変だったね」
「・・・あぁ」

何で俺は屋上の冷たい床の上に正座しているのだろうか?
舞の威圧感に負けたからかな?本当に俺って精神面弱いよな・・・。
舞には校長に話した言葉でそのまま説明した。とりあえず理解はしてもらえたようだ。

「で、何でその事を隠していたの?」
「別に、話す必要も無いと思ったから」
「話さなくていいことなの?」
「え?」
「人に相談しないで、自分で解決できるような事で1ヶ月も悩んでたの?」
「・・・」
「そうやって苦しんでいる姿を見せ付けられてる側の気持ちも考えてよ。
 私は翼を助けたい、前にも言ったよね?『翼は私が守る』って」

見せ付けられている側の気持ちねぇ・・・。
いつからだろうか。辛い事や苦しい事があっても人に相談できないようになったのは。
自分でも気付かないうちに当たり前になっていたと思うと、少しばかり悲しくなってきた。
俺ってば本当に心を許せる人がいなかったんだな・・・。

「だから、翼は私に頼っていいの。ううん、私だけを頼ればいいの」
「だけ?」
「そう。翼に近寄る人間はすべて翼に不幸を招く。
 だから、唯一翼に不幸を招かない私だけを頼ればいいの」
「・・・それって、他の人とは関わるなって事だよな?」
「そうだよ」
「でも、会話とかは「ダメ」
「挨拶」
「ダメ」
「会釈」
「ダメ」
「アイコンタクト」
「視界に入れちゃダメ」
「・・・全て無視?」
「そう」

さいごの『そう』が少しばかり明るく嬉しそうに感じ取れた。


119 :風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:45:45 ID:F6GxV0Wo
「・・・考えとく」
「何言ってんの、考えるも何も明日から、ううん今からそうするの」
「まさかとは思うけど・・・本気で言ってたのか?」
「え?冗談だと思ってたの?」
「・・・」

答えられなかった。聞いてきた舞にものすごい恐怖を感じたし、
黒い風がいっそう増して、話す気が失せた。

「ねぇってば、冗談だと思ってたの?」
「悪い、今日は先に帰る」
「逃げないでよ」

その場を離れようと屋上のドアに進行方向を向けた俺の両方の腕を両手でつかみ
力づくで180度回転させられ、舞と真っ向正面になった。
舞の周りの黒い風は濃さと同時に吹き荒れる力も強くなっていた。
時々、黒い風から気味の悪い声が聞こえてくる。

「私は翼を守ろうとしてるんだよ。なのに、どうして私から離れようとするの?
 私から離れたらまた災いに巻き込まれるんだよ?なのにどうして!?」
「ちょっと、落ち着け・・・あと腕痛い」
「おかしいよ。おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。
 安全な人がいるのに自ら危険な人達のところに行こうとするなんて。
 ・・・もしかして、妹さんに何かされた?」
「だから・・・手、離せ」
「そっか、妹さんが・・・・」

ダメだ。俺の話なんか聞いてない。そもそも舞ってこんな奴だったか?
いつも、俺のそばにいて気を掛けてくれたりはしていたけど、だけども今の舞は明らかに異常。
100人に街頭アンケートを取ったら・・・考えるの面倒になったからやめよう。

「翼」

不意に舞に呼ばれる。視線を向けると光のない目と目が合った。

「翼は私が治してあげる」
「は?」
「このあいだの事で妹に変なことされたんだよね?
 だから、私の考えを、提案を、思いを全て否定するんだよね?」
「否定・・って」
「今日から、ううん。これから一生私の側にいなよ、そうすれば安心して暮らせるよ?
 うん、決まり!じゃあ、ずっと一緒にいるために一緒に暮らそう。
 翼の家が学校に近いから、翼の家で・・ううん学校なんか行く必要ないよ」
「ま・・い?」
「ナァニ?」

俺の呼びかけに答えたのは・・・俺の知っている舞じゃない。
舞ならばこんなに恐怖を感じるはずがない。目の前にいるのは俺の嫌いな・・・ただの“人”。
その考えが頭によぎった瞬間、全身に鳥肌が立った。
早く離れたい、逃げたい。これがいない場所へ。
周囲を見回すと舞の黒い風が俺たち2人を囲んでいた。
外部から誰も入れない。内部から誰も出さない。そんな風の考えが感じ取れた。

「っ!?」

舞の手を振り解き、黒い風を突っ切り転がるようにして校舎に入ると
逃げるように帰宅・・・じゃない。舞から・・・ただ逃げた。
小説で表現されるように『何も考えずにただ走った』をしたかった。
けれども、何も考えないようとすればするほど、舞のあの目が想像の中から俺を見つめてきた。
家に着き、深呼吸をして自信を落ち着かせようにも全然落ち着かない。逆に鼓動が早くなる。
ふと携帯に手をやると、不在通知が20件、着信メールが46件と画面に表示されていた。
すべて、舞・・・あの“人”からの物だった。それを見た瞬間、さらに恐怖が押し寄せてきた。
けれども、明日からは夏休みだ。その“人”とは会う機会が無いと安心しようとしたのだが
『あいつは俺の家を知っている』『夏休み中でも部活があって、あいつに会う』
そう思った瞬間、体から力が抜け玄関に座り込んでしまった。
そのとき、背後のドアの向こうから音が聞こえた。
驚いて自身が音を立てた瞬間、その音は人の声に変わった。

「あ、いた。ねぇ・・・・あけて?」


120 :風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:47:12 ID:F6GxV0Wo
8月上旬、部活の大会のために市内の体育館に向う俺の側には“人”がいた。
終業式のあの日、家に入れず同棲を阻止した物の常に一緒に行動するようになっていた。
24時間休みなし、これがバイトの条件だったら法律違反で相手は逮捕(?)俺は助かる。
けれども、プライベートにはそんな法律はない。今朝もよく眠れてない。
俺は隣でニヘラニヘラと笑っているこの不幸の根源が憎い。ウザイ。殺したい。
そして、そんな黒い感情を抱く自分が嫌いになっていた。

「今日の大会、応援するから優勝してよ。私も頑張って優勝目指すから応援してね」
「・・・・あぁ」

前なら『優勝は無理でも1勝ぐらいはしたいな』とか『初出場で優勝するのは無理だろ』
といった、すこしネガティブな返答ができたけれども、今では返事だけ。
こいつとはあまり会話をしたくない、という考えが頭の中に在住している。

「おーい、ふうま~~!」

考え事をしていたせいか意外と早く目的地についた気がした。声の主を探すと・・・いた。
会場となる体育館の入口にこちらに向って手を振る天野の姿があった。
・・・手、振りすぎ。他学校の生徒がお前を生暖かい視線で見てるぞ。

「意外と早かったじゃん」
「まぁな」
「でさ「近づかないでよ」

天野との会話を遮る大空の一言。

「あ、悪い・・」
「何度言ったら分かるの?今ので4回目、次やったら本気で殺すから」

夏休みが始まってからの部活はいつもこんな感じでのスタートだった。
部員(男子)の人達は最初気にせず、俺に話を持ちかけてきてくれたりしたが
今は、舞の姿に対して少しばかりの恐怖を覚えたのか、あまり話しかけてこない。
離れていった天野に高坂が「お前すこしは空気読め」なんて言っていたのがすこし耳に入った。
そしてその後に、「大会終了後に実行するから」という言葉も聞こえた。
・・・何をする気なんだろう?

「おはようございます。翼さん」

さっきの天野の行動で“人”の気分が悪い方に傾いているのを察してくれ。

「またあんた?自殺者」
「私は生きていますのでその呼び方はおかしいと
 何度もおっしゃっているじゃありませんか。大空さん?」
「自殺者の声なんか私には聞こえない」
「そうはいいますが私の声が聞こえているからこうやって会話が成立しているんですよね?」
「うるさい。とにかく近づかないで」

毒嶋先輩ってこんなに強気な人だったけ?ていうか会うたびに強くなってきてる気がする。

「さっちゃん、そろそろ体育館中に移動するから・・・ね?」
「満さんがそうおっしゃるのなら・・・」

そう言うと毒嶋先輩はどこか寂しそうにしながら部長と共にその場を離れていった。
そしてこちらの舞はというと・・・いつの間にか俺と腕を組み、俺に笑顔を向けていた。
“人”と密着、“人”の笑顔・・・・・・・・・気持ち悪い。


121 :風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:48:29 ID:F6GxV0Wo
今回の大会は団体戦、俺の試合のときに応援していた“人”は
天野や高坂の時はブーイングを放ってきた。
そのせいか、俺たち男子は1回戦で負けた。・・・全敗という最悪の負け方。
一方女子は決勝に進出、部長と毒嶋先輩のダブルスは息があっていて見事な試合だった。
そして、シングルスに選ばれた“人”の試合が始まろうとした時だった。

「翼」

試合開始前の練習のラリーを終えた舞が耳を疑うような事を言ってきた。

「試合がんばってくるから・・・・ハグ・・して?」
「・・・ハ?」
「お願い・・そうしたら私頑張れるから」
「やだ」
「ね?おねが「やだって言っただろ」
「じゃあ、優勝したらキスして?」
「・・・それもやだ」
「どうして?」
「やだって言ってるんだから素直に引き下がれよ」
「『どうして?』ってこっちが聞いてるの!!」

巨大な体育館に響き渡るヒステリーに染まった舞の声。
観客席の人や隣で試合をしていた他学の生徒達の視線が一気に集まった気がした。

「ねぇ?私が質問してるんだから翼は答えればいいの。それ以外の言葉は聞きたくない!
 それとも何?理由がいえないの?『やだ』しか言えないの?ねぇ、どうなの!?」

こいつはなんなんだよ。こいつの考えが分からない。こいつが分からない。
こいつにとって俺は何なんだよ?なんでも願いを叶えるランプの魔人とでも思ってんのか?
人の気持ちを潰してでも自分の欲望を叶えたいこいつがウザイ、ウザイウザイウザイウザイウザイ
ウザイウザイウザイウザイウザイウザイウザイウザイ、ムカつく、超ムカつく、ぶっ殺してぇ。

「大空さん。試合が始まりますよ」

負の思いを抱えていた俺は毒嶋先輩の言葉で我に戻った。
俺じゃなくて舞に対しての言葉なのに・・・

「黙ってよ、私は今翼と話してるの」
「大空さんが試合に勝ってくれないと優勝する事ができません。
 つまり、翼さんにいろんな事をしてもらえなくなりますよ?」
「・・・・チッ」

舞はあきらめて、コートへと向っていった。先にコートに入っていた相手選手は
今のやりとりを見ていたせいか少しばかり怯えているようにも見えた。
そんな怯えたような表情を見せていた選手に舞は負けた。
舞が負けた瞬間、女子からは落胆の声が漏れたが、
俺は心のどこかで『良かった』などと思っていた。
女子は優勝を逃し、舞は俺からの『××』を逃した。
・・・何上手いこといってんだろ、俺。
こんな事が言えるなんて、少しばかり余裕があるのだろうな。
もしもこの余裕が無くなる様な状況になったら、俺はどのような行動に出るんだろうな・・・


122 :風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:51:09 ID:F6GxV0Wo
大会が終わり、帰路につこうとしたときだった。
両手を補則され猛スピードで引きずられた。
誰だ?両手を見ると右手に天野、左手に高坂

「え?ちょっ、何を「いいから黙ってろ!」

高坂に言われ口をつむぐ俺、そのまま引きずられタクシーに無理矢理乗せられ、
その場所を後にした。
タクシーが動き出す瞬間、体育館から慌てて出てきた舞と目が合った・・・



何なのあいつらは。翼をさらった、翼に触れた、私の翼に・・・・
許さない、今まで甘く見てたけど、あの2人は絶対に許さない・・・



タクシーが止まったのは自宅のマンション前だった。
ジャンケンに負けた天野がタクシー代を払い、
俺は2人に連れて行かれるままに自宅へと帰ってきた。

「じゃ、話を聞かせてもらおうか」
「話って?」
「大空の事」

高坂が真剣な表情で聞いてくる

「なんで?」
「最近の大空、なんかおかしいだろ。お前が関係していると思っているんだが・・」
「・・・」
「それに、最近付きまとわれてるじゃん。迷惑じゃねぇのかよ?」
「それは・・・「スゲッー広いな、おまえん家!!」
「!?」
「・・・」
「なんだこのベット!超フカフカ~~!!」
「・・・・」
「風呂もでっけー!!声が響く~~。ヤッホー!!」
「・・・おい天野」
「何?高坂」

しばらくお待ち下さい

「・・・スイマセンでした。反省してるからもう殴らないで・・」
「ならよし。じゃあ話を戻すけど、風魔は大空のことどう思ってるんだ?」
「どうって・・まぁ少し異常だと思ってるし、迷惑って言えば、そうなるし」
「なんかあったんか?」

あまり思い当たらない。思い当たるといえば『翼は私が守る』って言葉。
舞が以上になる前にも言っていた言葉、たぶんこれがキーなんだと思う。
けれども今の現状、守るというよりも束縛と言った方が合っていると思う。
舞が何をしたいのか全然分からない・・・。


123 :風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:52:04 ID:F6GxV0Wo
「舞は、小中での経験で対人恐怖症になっている俺の事を守る。みたいなことを言った。
 その守り方の方向性を間違えたんじゃないかと思う。」
「え!?お前女子に守られてんの?ダッセ~!」

天野の言葉に少しだけ心が傷つく。察してくれた高坂が天野に拳を一発お見舞いしてくれた。

「つまり、お前の事を守るために他の人を寄り付かせようとしないってことだよな?」
「そうだな」
「で、お前はどうしたいの?」
「どうしたいって?」
「このまま一生大空に守られる人生を追うのか、
 それとも大空の束縛から逃れ一人で社会に羽ばたくのか」
「それは、『ピーンポーン』

「後者の考えがやっぱりいい」と言う俺の言葉はインターホンによってかき消された。

「はーい、いま出まーす」

家主でない天野が玄関へと向う。けれどもこの景色に少しばかりの違和感を感じた。
その違和感に高坂も気付き、俺に話しかけてきた。

「なぁ、このマンション、1階にオートロックのホールがあったよな?
 何で玄関前のインターホンが鳴ったんだ?」

同感。そして同時に恐怖が湧いてきた。天野を止めないと、玄関に向って天野に叫ぶ

「開けるな!!」

けれどもその言葉を出す必要は無かった。
玄関には肩から血を出している天野と、紅く染まったナイフを持っている舞の姿があった。
舞がナイフを再び振り下ろそうとしているのを見て俺は廊下を走り、
天野の首根っこを掴みリビングの方へと投げた。
天野は人形のように投げられリビングにいた高坂に受け止められた。
・・・怪我人を投げるとか俺って非道だな、なんて考えが頭をよぎった。
けれども、今はそんな事よりも目の前の舞をどうにかしないといけない。
医者でもなんでもない俺が見て分かるぐらい、舞の精神は不安定になっていた。

「つばさぁ、無事だったんだぁ」

ケタケタと笑いながら俺を、俺だけを見つめてくる舞。

「そこどいてよ、あの2人を消せないじゃない」
「なんで、消そうとする・・」
「だってあの2人、翼に触れたんだよ?翼を引きずったんだよ?
 私と翼が話している時よりも、ずっと楽しそうに翼と話してるんだよ!?
 そんな奴等いらない!翼は私が守るの!翼には私だけで充分なの!!
 ・・・だから、そこ、どいて?」

そんだけの理由で人を殺そうとするのか?そんな簡単に人を殺そうと思えるのか?
目の前の舞を落ち着かせたい。ちゃんと話をしたい。けれども俺にはそんな技術も根性もない。
早く何とかしないと、こう考えているあいだも舞いは一歩ずつ近づいてくる。
このままじゃ、本当に2人が殺される。
2人を殺させたくないし、舞に人殺しをして欲しくもない。
けれども、それを可能にできる考えが浮かばない。
ただ、両方とも守りたいのに。ただそれだけなのに、何でできないんだよ!
焦る、イラつく、不安になる、恐怖に蝕まれる、俺は何も出来ないのかよ!?

「だから、お前は甘いんだよ」


124 :風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:54:00 ID:F6GxV0Wo
「嫌いな“人”に優しさを見せるとか、そんな生き方無理なんだよ!
 生き物は何かを傷つけて生きているんだ。
 何も傷つけずに生きるという考えが浮かぶ時点でお前は終りなんだよ」

この声は・・・クロウ?

「時間が無ぇ、俺の質問に答えろ。『どっちを傷つけ、どっちを守る?』」
「なんだよそれ・・・」
「おまえ自身が考えて、選ぶんだ!」
「どっちも守りたい!それだけは譲れない!」
「選べ!」
「いやだ!」
「いい加減にしろ!!」

拳がとんできた。頬に痛みが、そして心に重く響く拳だった。

「このままだと、両方とも守れないぞ!」

両方・・とも?

「俺はお前自身だ!この言葉の意味が分かるか!?」
「・・・どういう意味?」
「今の俺の心境は、今のお前と同じだという事だ!」
「・・・もしかしてクロウも、辛く苦しんでいるのか?」
「・・・それ以上は言わない。さぁ、早く選べ!」

・・・わかったよクロウ。
俺は選ぶ。他者を傷つけないために、俺はこっちを傷つけようと思う。
けれども、俺には実行できないと思う。だから、クロウ。
・・・お前がやってくれないか?

「甘ったれが・・・」



目が覚めた。どうやら現実に戻ってきたみたいだ。
いる場所は自宅のリビング、壁や床にはところどころ赤い斑点がついている。
そして目の前には俺が選んだ方が血まみれで倒れていた。
自分の手が生暖かい血で染まっている。
ごめんクロウ、自分がやりたくないからといってお前にこんな事をさせてしまって。
けれども、やりすぎだ。『傷つける』って俺が想像していたのをはるかに越えてるぞ。
そう心の中で呟き、目の前の血まみれで倒れている人に心のそこから謝罪する。
もしも俺に力があればこんな事にはならなかったのに・・・。

本当にごめん・・・・・舞・・。