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810 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/26(土) 18:03:18.84 ID:1Ea0/GzN [2/5]

 どうにも、夢を見ているらしい。
 
 目が覚めると、周囲にある全てのものが別のものに見えた。
床やベッド、窓から他の家具に至るまで、すべてが記憶と同じ形を保っていない。
……木の床は畳、四本脚のベッドは布団、四角い窓は丸い窓、
そんな感じにまったく別のものへと変わっている。

「いったいどうなっているんだ」
 
 記憶との相違に戸惑い、俺は呟いた。
こんな状況に戸惑わないことの方がどうかしている。
 
 不意に、頭痛と吐き気が襲ってきた。
腹の中のもの全てを吐き出したい気分だ。
だが気持ち悪さのおかげで思考はクリアになっていき、
断片的にだが記憶が戻ってくるのを感じた。
 
 確か、居酒屋で見知らぬ女と話をしていたはずだ。
女の歳は十六、七といったところで、黒く長い髪は清楚な印象を与えていた。
そう考えると此処は女の家なのだろうが、どういう経緯で話し合い、
泊めてもらったのかが分からないので、
二度寝でもして現実逃避したい気持ちに駆られる。
 
 階段を上がってくる音が聞こえた。続いて襖を開ける音。
視線を向けると、そこに昨夜の女がいた。

812 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/26(土) 18:04:37.45 ID:1Ea0/GzN [3/5]
「おはようございます。酔いは覚めましたか?」
 
 女は優しく微笑む。
しばらく呆然としていると、白く、ひんやりとした手で俺の額に触れた。

「熱はないようですね、安心しました」
 
 随分と親しげに感じる。好意を向けられているのはありがたいが、
何しろ記憶がない。少し罪悪感を感じた。

「心配してくれてありがとう」

「当然のことですよ」

「ところで、昨夜、君と居酒屋にいたことは覚えているけど、
どうして此処で寝ているのか、何を話したかが分から……」
 
 そう言いかけて、口をつぐんだ。
彼女は暗い瞳で、無言のまま俺を見つめている。
そこに妙な不気味さと重たい空気を感じた。

「祐一さん、冗談ですよね」
 
 背筋に寒気が走った。彼女は薄ら笑いを浮かべている。

「昨夜、彼女にしてくれるって言いましたよね。
それとも、あの女の顔を見なきゃ思い出せませんか?」

 無表情のまま彼女は続ける。 

「酒に酔い、泣いて悲しんでいるところを狙ったのは悪いと思います。
でも私の告白に頷いてくれたし、抱きしめてくれましたよね。
あれも覚えていないんですか?」

 抑揚のない声が、逆に怒っていることを表している。
俺は思わず首を横に振り、否定を表した。

「すまない、紗耶。酔いのせいで少し混乱していた」
 
「私も取り乱して申し訳ありません。
お水、持ってきますから、
……そこにいてくださいね」

 紗耶は踵を返し、階段を降りていく。昨夜の出来事は覚えていないが、
彼女のことを土壇場で思い出せたのは不幸中の幸いだろう。

814 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/26(土) 18:05:44.20 ID:1Ea0/GzN [4/5]
 柊紗耶、俺が告白して振られた女、夕香の妹だ。
夕香は俺と同じ高三で、茶髪のボブカット、澄んだ目が特徴的である。
同好会内では男女問わず誰からも好かれており、
昨日、男三人でいっぺんに告白して全員玉砕した。

「みんなとは友達でいたいから」その言葉は俺達の心に傷をつけ、
飲み会という名の自棄酒大会の後、お互いの友情はより固くなった。
未成年のくせに飲み足りず、更に潰れるために一人で行った居酒屋で、
紗耶とは何らかの会話をしたはずだ。

「お水、持ってきましたよ」

 物思いにふけている間に、いくらか時間は経っていたようだ。
ピンク色の可愛らしい湯呑に並々と水が注がれている。
俺が湯呑に口をつけ飲んでいると、紗耶は口を開いた。

「もし昨夜のことを忘れているのなら、
哀しいことですがそれで構いません。
けれど、祐一さんは私の告白を受け入れた。
その事実だけは覚えておいてください」

 紗耶は俺の頬に触れ、そっと撫でた。
その顔は妖しげに笑っており、影を含んでいる。
俺は黙って頷いた。