165 名前:girls council ◆BbPDbxa6nE [sage] 投稿日:2011/04/01(金) 01:01:01.71 ID:YsyX24qY [2/6]
 「とても優しく、とても慈悲深い私だから、あなたに選択肢を用意してあげるわ」
ガチャ、と。
尻もちをついた俺の眉間に、冷たい鉄の感触が広がった。
非日常的であるが、誰もが知っているモノ。
非日常的なものであるのにもかかわらず、日常的なものだと錯覚してしまうモノ。
テレビや漫画でよく出てくる、人を殺したり脅したりするモノ。
―――その名は拳銃。
そんなモノを、俺に向けた少女は、長い黒髪をなびかせて、潤った唇がはじけるように、選択肢を、俺に言い渡した。
 「私に服従するか、それとも私たちに従属するか、あなたはどちらがいいかしら?」
…………、おいおい。
 「……悪い、俺も学がある方じゃないから良く分かんないけどさ、どちらも同じような意味じゃないのか、それ」
俺は心に思った事をそのまま口にしたのだが、目の前の少女はその答えが気に食わなかったのか。
はたまた予想道理の答えだったのか。
とりあえず、深いため息をついた。
 「はぁ……。全然違うわ、服従は小規模なモノに。従属は大規模なモノに。
一概にそうとは言えないけれども、指定がない場合はそう見分けるの。
……あなたはバカなのね。いえ、こういう場合は常識がないっていうのかしら」
 「お前だけには言われたくねえよ!
初対面の相手にいきなり銃口突きつけてくる奴に、常識とか何とかさぁ!」
 「いえいえ、アメリカではこれが日常的挨拶なの。
知らないの? だっさーい、超ダサいんですけど、遅れてるって言うかぁ~。
……ゴホンッ。私はアメリカ人だから毎朝お父さんとお母さんにこうして銃口を押し付けていたわ。ぐっどもーにんぐ、って」
目の前の少女は、綺麗に整えられたかのようなその美しい顔をピクリとも動かさないまま、
口調を崩したから少し恥ずかしくなったのだろう。
それとも自分には似合わないって気付いたのか。
途中にせき払いを入れた後、何事もなかったかのように語り続けたが、最後の〝ぐっどもーにんぐ〟はすごく棒読みだった。
 「嘘をつけ、嘘を!
お前どう見ても日本人だろうが、その長い黒髪や綺麗な容姿も、大和撫子醸し出してるだろ!
つか、ぐっどもーにんぐって、棒読みが過ぎるわ! そして、もし、それをお前が実行していたのだとしたら、お父さんとお母さん悲しすぎるだろ! 何が楽しくて毎朝娘に銃を突き付けられなきゃいけないんだ!」
 「あ、ごめんなさい。妹を加え忘れたわ」
 「そういう問題じゃねえよ!」
ハァハァハァ、と。
俺は一気に言葉を連ねたせいで、息切れしてしまい、吐息を洩らす。
心臓が、走ったみたいにバクバク言っている。ちょっとムキになりすぎたようだ。
 「ハァハァハァ……」
 「ごめんなさい。こんなところで性的興奮をしないくれないかしら」
 「性的興奮じゃねえ!」
「いくら万物を愛そうと志す私、篠原瑞希(しのはらみずき)であっても、今のあなたは……気持ち悪いわ」
「正直すぎる! ……つか、篠原瑞希って確か……、あれ。どっかで聞いた事のある? いや見た事のある名前だな」
俺は、篠原瑞希、という名前を聞いた瞬間、頭の中にひっかかりが出来た。
どこかで聞いた事のあると最初は思ったのだが、違うか。
最近、そう。俺、鳴宮拓路(なるみやたくみち)がこの学校の二年生枠に転校してきた時の……パンフレットだったかな。そこに、篠原瑞希の名が……。
と、俺が思考を進めている間に、篠原はあきらめたのだろう。
先ほどよりも一段と大きなため息をついたと思うと、先ほどまでの冷静な顔の目元や口元が少し崩れて、悲しげな表情に変わる。その表情のまま、まるで泣きそうなくらいな声で、俺に言葉をかけた。それも俺が必死に耳を澄まさないと聞こえないくらいに、小さな声で。
「…………あなたは本当のバカなのね。でも、忘れてしまった事は仕方ない。それはとても悔しくて、悲しい事だけれども、今から一から刻めばいい。私たちにはまだ、その時間がある」
「?」
状況の読み込めない俺は、少し首を傾げていた。
そんな俺を一瞬ちらりと見たかと思うと、篠原は何度か首を振った後に、また先ほどのような冷静な顔を俺に向けた。
 「いいわ。あなたのような下等な生物にも私を分かってもらうために、自己紹介をしてあげるわ。……宮越高校第二生徒会会長、通称女子生徒会会長、篠原瑞希」
 「第二……生徒会?」
 「そう、そしてあなたを―――」
篠原は改めて銃の照準を俺に合わせて、言った。
 「―――第二生徒会書記に任命します」
夕暮れ時の、一コマであった。

166 名前:girls council ◆BbPDbxa6nE [sage] 投稿日:2011/04/01(金) 01:01:43.75 ID:YsyX24qY [3/6]
結局のところ、結末。
俺は第二生徒会に入る事に決めた。
理由は簡単、明快。死にたくなかったからだ。
篠原が俺に突き付けた拳銃。
実物を見た事のない俺には、本物か偽物かも区別はつかなかったものの、そんなことは問題ではない。
問題が何かと問われれば、〝俺は死ぬ事は許されない〟という事だ。
一パーセントでも、あの拳銃が本物であるという可能性が捨てきれない限り、
一パーセントでも俺が死ぬ可能性がある限り、死ぬ事を許されない俺は相手に従うしかない。
語りたくはないけれども。
それでも詳細は後々語る事になるだろうから、簡潔に俺の家族構成だけを述べておく。
父は、人を殺して捕まった。
母は、ノイローゼになって自殺した。
俺は、中学二年生の頃に喧嘩をしてしまい、それ以来周りの人間とぎくしゃくしている。
妹は、両親の死からそんな俺にべったりだ。
だから今は俺と妹、鳴宮美帆(なるみやみほ)と二人暮らし。
だから美帆を一人にしたくはない俺は死ねない。
美帆に悲しい思いをさせたくない俺は死ねない、そういう事だ。
 「……………」
 「……………」

167 名前:girls council ◆BbPDbxa6nE [sage] 投稿日:2011/04/01(金) 01:02:17.85 ID:YsyX24qY [4/6]
とかなんとか。
つまらない俺の回想はさておき。
今、俺と篠原は第二生徒会室、通称女子生徒会室の中にいる。
俺はその辺のいすに座り、篠原はいかにも生徒会長と言った感じの豪華なイスに座っている。静かに、また優雅に座っている姿に一瞬見とれつつも、俺は尋ねた。
 「そういえば、ちょっと良いか?」
 「何、私のスリーサイズ? 上から八十八、五じゅ――」
 「待て待て待て、違う! 俺が聞いてもない事を語りだそうとしないでくれ! しかも冗談な数値ならまだしも、すげえ現実的だったぞ!」
 「だって本当の事だもの」
 「そ、そういう事は男の人には言わない!」
 「照れているの、可愛いのね」
くそ! 話が前に進まんじゃないか。
と、顔を少し赤らめつつも、話題の修正に俺はかかる。
 「そんなことよりだな、俺がこの生徒会に入るにあたって、三つ、質問がある」
 「三つも?」
 「三つで多いと思ってくれるな!
お前には拳銃とか、その突拍子もない話題変換の仕方だとか、聞きたい事はたくさんあるんだからな! 三つって少ない方だよ!」
 「どうでも良いから、早く言え。時間の無駄」
 「うっ……ああ。まず、何故この学校には第二生徒会があるのか。次に俺のこの生徒会の役割について。そして最後に……どうして、俺なんだ?」
俺が、一つ、また一つと指を突き出し、三本目の指……つまりは三番目の質問をしたときに、篠原の眼光が若干強くなったように感じた。
しかし、それは一瞬のうちに消え去った。
 「まず一つ目の質問に対する返答。
第一生徒会が男子生徒会、第二生徒会が女子生徒会と言われているのだけれども、別に規則として決まっているわけではなく暗黙の了解。
この二代生徒会制度が出来てからの、ね。その理由は主に男子と女子の意見を両方公平に取り入れるため、とされているわ」
豪華なイスから立ち上がった篠原は、傍にある紅茶をからこれまた豪華なティーカップに注ぐ。
 「次に二つ目の質問に対する返答。生徒会には会長、副会長、会計、書記の四名がいる。
実を言うとあなたが三人目。会計は副会長が今日連れてくる算段になっているの。そして……あなたの役割だったわね。通常には日誌の作成とかだと思うわ」
香り引き立つ紅茶を、綺麗な唇に運ぶ。
 「そして最後の質問に対する返答。私があなたを気になっているからよ。この上もないくらいに、ね」
 「…………は?」
理解することが出来なかった。
今までの罵倒の数々の声の調子と、一点も変わりなく口から出すので流しそうになってしまったが。篠原は……今なんて言った? もしかして、篠原って……俺の事が好――。
 「だってあなたが話すたびに、そのアホ毛がピコピコ動くんですもの。ぷぷぅ」
 「――きなわけないですよね! ええ、分かっていましたとも! つか、人のチャームポイントを笑うなよ! 頑張って朝セットしてきてるんだから!」
俺の頭にそびえたつ一房のアホ毛。俺のチャームポイント。それが気になっているっていう意味ね、期待して損したよ!
 「二十分間も鏡とにらめっこしているものね」
 「う、うるせえ!」
俺は顔を真っ赤にする。くっそ、この俺が何たる様、何たる不覚。
恥ずかしすぎる。と、もう篠原の前にいることが我慢できなくなった俺は、生徒会室を出ることにした。
 「どうせ今日は仕事ないんだろ、俺帰る」
バタンッ、と扉を閉める背後で。
 「………ぁ」
と、何か言いたげな篠原がいた事を俺は知らない。
数分後の、家に帰る途中で、一つの疑問に気付いた。
 「あれ、二十分間?」
俺、そんなことまで話したっけ?

168 名前:girls council ◆BbPDbxa6nE [sage] 投稿日:2011/04/01(金) 01:02:45.89 ID:YsyX24qY [5/6]
~拓路くんの、生活記録 video number 32~
六時、起床。瞼をこする拓路君が、超可愛ぃ!
七時、洗顔その他。アホ毛を立たせてるみたい。がんばれ、今日も格好いいぞ!
八時、登校。皆から疎遠されているみたい。でも、これならほかの女は寄り付かないね! 良かった、殺す手間が省けるんだもの。
十二時、昼食。あ~ん、とかしてあげたいなぁ。でも、もぐもぐ動く口も、とっても可愛い! あぁ、鼻血が出ちゃいそう!
十六時、接触。今日、ついに、ついに、拓路君に接触! なんと生徒会に入れることに成功しちゃった。やったぁ! これで拓路君と一緒にいられる。
これで拓路君を……私のモノにできるね。
最終更新:2011年04月20日 12:55