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30 名前:girls council ◆BbPDbxa6nE[sage] 投稿日:2011/04/07(木) 21:26:18 ID:0tpXFGR6 [2/13]
  第二話

自宅と言うモノは一番落ち着ける場所だ。
 「結局にぃにぃはどうするのかな?」
俺の目の前には、セミロングの黒髪で、どこかおっとりとして、幼い雰囲気をまとった少女、鳴宮美帆がいた。俺の妹。俺とは一つ違いで共に宮越高校に通っている。
もぐもぐと。動く口元が可愛いし、俺への呼称、〝にぃにぃ〟とは素晴らしいな。
……とかはともかくとして。
本当によくできた、本当に可愛い妹だ。どこに出しても恥ずかしくないくらいの。
……どこにも出す気はないけど。
 「……一応、入るよ。でも間違いなく女子生徒会の人気は落ちるだろうなぁ、俺が入ることで。篠原は何を考えているのやら」
ただいまの時刻は二十時十五分。
現在二人で夕食中。美帆が作ってくれた料理を俺達は今食べているわけだが、これがまたうまい。良くこんなにうまいものを作れるなと、感激する。
やっぱり本当によくできた、本当に可愛い妹だ。どこに出しても恥ずかしくないくらいの。
……どこにも出す気はないけど。大事な事だから二回言ったぜ。
何ならもう一度言おうか?
 「ふぅん……そう、なんだ。でも、わたしはやめた方がいいと思うなぁ。だってにぃにぃだし。にぃにぃだし。……にぃにぃだし、にぃにぃだし、にぃにぃだし」
俺だから何だというんだ。と、心の中で少し文句じみた事を呟くものの、でも、やっぱり〝にぃにぃ〟と呼ばれるのが嬉しい。
そんな毎日の日課と化している妹愛でを脳内で行いつつも、今妹と話している内容――第二生徒会書記に俺が任命されたことについて、もう一度おさらいしてみることとしよう。
第二生徒会、通称女子生徒会会長篠原瑞希の脅迫により、俺は書記にさせられた。
うん、一行で終わったな。
つまり、今夕食を食べながら、書記に任命された事を話しているところだ。
初めに話した時は「へぇ。にぃにぃ生徒会役員さんになるんだ。格好いい~」と笑ってくれたのだが、どうも……女子生徒会だと知ってからの美帆は少しおかしい、狂っているとさえいっても良い。いつもは優しい子なんだが、時々何だか機嫌が悪いように話す時がある……どうしてだろうか。
 「……………誰も話しかけないと思ってたのに、甘かったか」
ぼそぼそぼそっと、何かを美帆がささやいた。
生憎俺には聞こえなかったのだが、うつむいて箸を握りしめながらささやいているその姿は、なんだか呪いをかける仙術師の様だった。
 「み、美帆、どうした?」
 「……………何でもないよ、にぃにぃ」
じゃあもっと明るい顔してくれよ。
とか思いつつ、そこから会話が途切れたまま、妹との楽しいディナータイムは終わった。

 「はぁ、疲れたな」
夕食後、風呂に入った後の俺は妹と顔を合わせることなく自室に戻った。
ベッドに横たわった瞬間から体中から抜けていく疲労感と、侵入してくる眠気は、いつもよりも多く感じられた。確実に篠原のせいだけどな。
 「…………篠原、瑞希か」
転校してから一週間。
素晴らしいくらいに俺の悪評が学年中、いや、学校中に広まってしまっていた。
だから俺は一人だった。
だから俺は悲しかった。
だから俺はつらかった。
だから俺は寂しかった。
だけど俺は、誰とも交われなかった。
だって誰かと関係を持てば、その誰かも俺と同じように軽蔑の対象になるから。
篠原瑞希だって知らないわけでは無かろうに。
三年生で生徒会会長をしている彼女に、俺の噂が伝わってないわけないのに。
どうして俺に近付いた?
どうして俺に話しかけた?
どうして俺を誘った?
どうして俺を必要としてくれたんだ?
分からない、何も分からない。
 「………考えるだけ無駄か」
結局そういう結論に落ち着く。俺がいくら考えたところで、その結果もたらされたモノが果たして事実にどれだけ近くなりえるのか。恐らくかすりもしないだろう。俺程度の頭であの毒舌篠原の考えを理解しようだなんて、それこそバカなことだ。
でも、それでも。
どれだけ強がった言葉を並べて、考えて、表現しようとしてみても、俺の心の大半は温かい気持ちに包まれていた。――それは感謝の念。
……ありがとう。
こんな俺に話しかけてくれて。本当に、寂しかった。本当に、つらかった。
 「あり、がとう……しの…………は、ら」
どうせ聞こえるはずはないんだけれども。
俺は篠原に感謝した。そして世界は暗闇に包まれる。
今日は心地よく、寝むれそうだった。

―――ちゃんと聞こえたよ、拓路君。

31 名前:girls council ◆BbPDbxa6nE[sage] 投稿日:2011/04/07(木) 21:27:16 ID:0tpXFGR6 [3/13]
 「ちょっとそこから飛び降りてみてくれないかしら、鳴宮君」
 「………………は?」
第二生徒会、通称女子生徒会室(五階)に、俺は二度目に足を踏み入れていた。
そこには相変わらず、美しい容姿をまとった悪魔、篠原瑞希が、豪華なイスに優雅に座っていたのだが、お互いに何も話す事がないまま、一時間ほど経っていた。
ただ座っているのに飽きていた俺は、手持ちの小説を読んでいたのだが、不意に話しかけてきた篠原の一言によって、ピクン、と、小さくはあったけれども、俺のアホ毛は揺れた。
ギギギ、とでも言いそうな。ロボットが動き出すときみたいな音を出しながら俺は篠原の方を向いたのだが、何もなかったかのように平然と座っていた。
 「まったく。あなたはもしかして日本語を理解していないのかしら? それとも耳が壊れているのかしら?」
 「いや待て。俺は日本語を理解しているし耳も壊れているわけじゃない……と信じたいために聞く。その、今何て言った?」
 「ちょっとそこから飛び降りて無傷で着地してくれないかしら、鳴宮君」
 「さっきと言っていた事と微妙に違う! ハードルが三千メートルくらい高くなっただろ!」
 「何だ、聞こえているんじゃないのよ。嘘はいけないわ」
 「ごめんなさいねぇ! マジで俺の脳か耳が壊れているんじゃないかと疑ったから聞き返したんだよ!」
良かったね、俺の脳と耳。どっちも悪くなかったよ。
悪いのは目の前の悪魔だったんだ。
 「なら、ほら。早く飛び降りてみて」
 「ほら、じゃねえ! そんな当たり前の行動みたいな感じで提案するな! それに俺が飛び降りることに意味はあるのか? いや、意味があったって飛び降りないけどさ!」
 「え、どうして?」
 「心底意外そうな顔するな!」
俺の憤りを目の当たりにした篠原は一度、はぁ、とため息をついたかと思うと、飽き飽きした顔で、眉間に指をあてながら、心境を吐きだした。
 「………………暇なのよ」
 「暇で人を殺そうとするなよ!」
俺は勢いに載せて指を篠原に向けたのだが、そんなモノに目もくれず、落胆したような声で話し始めた。
 「だって今日は、会計が来るって聞いていたから待っているのに……なかなか来ないのし」
その言葉を聞いて、俺は篠原の昨日の一言を思い出す。―――会計は副会長が今日連れてくる算段になっているの。―――とかなんとか。
 「会計って……そういや昨日言ってたな。副会長が連れてくるって」
 「そうなの……まったくあの子は何を―――」
バタンッ、と。
大きな音が背後から聞こえた。
恐らくこの後に「何を考えているのかしら」と続くはずの篠原の言葉はその音に遮られ、それと同時に俺たち二人はドアの方を見た。
 「………………」
そのドアからは、一人の女の子が入ってきた。決して勝手にドアが開いたとかいうような超常現象の類ではない。
その女の子、霧島翼(きりしまつばさ)は息を切らせて、すぐに机に伏してしまったためにこちらの姿を見てはいなかっただろうが。……畜生、超常現象の方がずっと良かった。
まったく、運命と言うのはひどく強引で、ひどく勝手で、ひどく残酷なモノだな。
 「会長ぉ~聞いてくださいよ。ボク一生懸命に探したんです。でもどの子も「部活があるからごめんね~」とか「あんまり目立つ事はしたくないから」とか言って断るんですよ~」
あくまで、こちらを見ないままに、霧島は幼声で会長に現状報告をする。
 「そんな過程は聞いていないわ。結果を簡潔に、五文字で述べなさい」
そんな霧島の口調とは真反対の篠原は、少し苛立ちを見せながらも、言葉を返した。
つか、五文字って……何気に難しいな。
 「無理でした」
あ、できた。
 「よろしい。いや、とてもよろしくない」
篠原は素直に五文字で言えた霧島の事を褒めようとしたが、途中で任務が、会計を見つけるという任務が、果たせていない事に気付きそのクールな顔で平然と告げた。
 「くそぉ~。……そう言えば、会長は書記を見つけて―――」
 「ッ!」
不意に、目があった。
顔をあげた霧島の大きな瞳と、彼女から目を離す事の出来なかった俺の細い線のような瞳とが、自然にあってしまった。
互いに驚いたまま声が出せない中で、霧島が一言、呟いた。

32 名前:girls council ◆BbPDbxa6nE[sage] 投稿日:2011/04/07(木) 21:27:52 ID:0tpXFGR6 [4/13]
 「……タクジ」
どこか懐かしい声。
 「…………………タクミチ、だ」
そしてようやく俺も一言発する。
――俺の名前、拓路はよく〝タクジ〟に間違えられる。
そして俺の事を、〝タクジ〟と呼び続けた少女が昔いた。
恐らく世界中で、俺の事を〝タクジ〟と一番多く呼んだ人間だろう。
 「え……でも、どう、して? タクジはこの学校の生徒じゃないはずなのに」
俺の指摘にもお構いなしに〝タクジ〟と呼ぶところは昔と変わっていないのだが、変わったのは外見。まず、当り前だが背が伸びた事。
最後に会ったのは小学二年の時だったから、あれから四十センチ近く伸びているだろう。
後、髪の色が黒から茶色になった。染めたのだろう。
そして何より、女性らしい体つきになった。
エロい意味で言うつもりはないが、良い体をしている。
でも、そんなことは、俺には、どうでも、良い。
 「……………転校、してきたんだ」
 「転校? ボクそんな話一つも――」
 「そういえば、あなたインフルエンザでここ一週間休んでいたわね。昨日から来ていたみたいだけれど……彼の噂とか聞いてないの?」
俺の事を少しも知らないという霧島の態度を見かねて、篠原が弁解してくれた。
 「噂? ッて……あぁ、あれね。そう言えば誰かが言っていた気がするけど、聞き流してた」
えへへ。とでも言わんばかりに霧島は頬を緩ませた。
その緩んだ顔が幼いころの霧島の顔にマッチする。
外見は変わったと言ったが、やっぱりあまり変わっていないのかもしれない。
でも、そんなことは、俺には、どうでも、良い。
 「え、ッていうことは、今年度前期の書記って……タクジの事?」
 「そうよ」
篠原が肯定を示した瞬間、霧島の顔に笑顔の花が咲いた。
 「そっか。そっか、そっか、そっか、そっか、そっか! うんうんうんうん」
そして激しく自分の体を抱きしめながら、まるで踊るように一回転した。
 「またよろしくね! タ・ク・ジ」
本当に顔に「今ボクは幸せです」とでも書かれているような霧島は俺に手を出した。
それは握手を求める、親愛の儀式。
でも、そんなことは、俺には、どうでも、良い。
しつこいかもしれないけど、大事な事だから三回言ったぜ。
 「……………」
黙ったままの俺に、
 「どしたの、タクジ? ほら」
霧島の手が伸びてきて、掴もうと――
 「…………………あら、こんなところにゴミ虫が」
どことなく不機嫌そうな声を出した篠原。何やら俺をひどい言葉で形容したかと思ったら、それこそ光速で、突然その両の手で俺を突き飛ばした。ドーン、と。
漫画なら可愛らしくこんな擬音語がついてくれるのかもしれないが、今の俺を襲った衝撃はそんなモノでは表現しきれない。適切ではない。
あえて言うなら、ドッカーン、だ。……この擬音語もちょっと可愛すぎるな。
とにもかくにも俺は、ゴロゴロゴロと部屋の隅まで吹っ飛んだ。
 「かか、会長! 何をやってるんですか」
その一瞬の出来事を見ていた霧島は慌てふためく。
 「いえ。ただここに大きなゴミ虫がいたから」
 「ゴミ虫じゃないです! タクジですよ。まったくもぉ…………ほら、タクジ、立てる?」
少し頬を膨らませた霧島は俺に近付いて来て、無理やりに手を掴もうとした。
 「――――ッ!」
それを俺は……振り払った。パチンッ、と。
 「……へ?」
 「ぁ…………………俺、今日帰ります」
まだ今の出来事に脳の処理が追い付いていない霧島に対し、俺は一人で立ち上がり、篠原に一言告げてこの部屋を出た。
畜生、本当に胸糞悪いな。
―――俺が女子生徒会室を去った後。
 「にゃ、にゃに?」
想定外の出来事に、呂律が回っていない霧島と、
 「………………また今日も、言えなかった」
誰にも聞こえないほどの小さな声を発した篠原がいた事を、俺は知らなかった。

33 名前:girls council ◆BbPDbxa6nE[sage] 投稿日:2011/04/07(木) 21:28:11 ID:0tpXFGR6 [5/13]
あ~あ。マジねえよ。
こんなに早く過去話とかありえねえって、普通。まだ二話だぜ、二話。
と、誰に説明するわけでもなしに、俺は一人、心の中で悪態をつきながら帰路につく。
いつも見慣れた街並みを歩きながら、ふと立ち止まり、空を見上げた。
吸い込まれそうなくらいの大きな暗闇が、どことなく、今の俺の心境に似ていた。
 「…………」
でも、それでも。
いずれは語らなければいけなかった事が、今、回ってきただけだ。しょうがない。
諦めるしかないな、俺。がんばって説明しろ、俺。
フハハハハ。しかし安心しろ。この俺、鳴宮拓路には人に語りたくない過去など山ほどあり、〝鳴宮拓路と霧島翼の小学生時代〟なんてその中の一つにしか過ぎないのだからな。
まだ私は、秘密の過去を二回残しています。みたいな感じの。
 「…………むぅ」
だから、その……つらい事には、たくさん、慣れてるんだよ。
…………ま、嫌な事は手短に終わらせて、美帆のうまい飯でも早く食べよう。
そのために、この件については四百文字程度で、語らせてもら―――

 「まだ早いですよ、にぃにぃ」

 「その話はまだ早いです」

 「だって今は二話なのですから」

 「それに、にぃにぃが語らなくたっていずれは霧島さんが自ら語ります」

 「にぃにぃは、世話を焼き過ぎです」

 「それに、その話には〝わたし〟が出てきちゃうじゃないですか」

 「嫌だなぁ」

 「にぃにぃには、矛盾に気付いて欲しくないなぁ」

 「嫌だなぁ」

「にぃにぃには、世界が違うことに気付いて欲しくないなぁ」

「にぃにぃには、今、思い出す必要も、知る必要も、ない事だからね」

 「だから駄目ですよ――にぃにぃ!」
ビリッ、と。
青い閃光が走ったと思うと、俺の体は地面に吸い寄せられた。
―――暗転。世界が闇に包まれた。
 「篠原さんに話しかけられて、生徒会に誘われて、浮かれ過ぎです。ちょっと調子に乗りすぎましたね、にぃにぃ。悪い子には……お仕置きです」