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131 名前:a childie[sage] 投稿日:2011/04/13(水) 21:34:52 ID:bq34Jn7Q [3/9]
雨が降っている。
無情な雨が降っている。
地面に雨粒が叩きつけられる、
いつまでも、いつまでも続く音が耳に響く。

あの日もそうだった。
義父が死んだ日、妹の葬式の日、自由を逃した日。
悲しいことはいつも雨の日に起きていた。
けれど、雨の日は嫌いになれない。
雨は何でも流してくれる。
血や涙や感情。何もかも、無差別に。
妹の葬式の日に泣いた時も、顔を伝う雨が全て流してくれた。

そのことを思い出す。思い出して、まだ自分を失っていないことを知った。

薬漬けにされてどのくらいが経つのだろうか。三日、四日ではないだろうな。
怪我が大分、塞がっている。彼女の享楽で幾度となく傷口が開いたのに。
ベッドの上で、点滴で生かされ薬で朦朧とした意識で過ごすうちに、
時間というものの概念が失ってしまった。
記憶もいずれ。
拾ってくれた義父、義母、友人、妹、一緒に夢見た人、全て失う。

知っていた。これが人格破壊だと。
彼女の復讐。
彼女は俺を人から物に変えるつもりだ。生きたまま物に落とすつもりだ。

それは地獄なのだろうか。
それとも、天国?

雨が窓を叩く音。
その中に彼女の喘ぎ声が混ざる。

薬から覚めれば、彼女は常に目の前にいた。
今は、飢えていたかのように俺の上で快楽を貪っている。
発情期を迎えた獣のようで、加減も理性もない。
それはいつまでも続く。
果てても、果てても続く。
彼女が気を失うように尽きるまで目合は終わらない。

捕まった時を思い出す。
組から逃げて捕えられた俺に、彼女が行ったのは持っていた拳銃で撃つではなく、
喰らいつくような口付けだった。

今まで起きている現状が理解できない。
夢のように現実感がわかない。
俺は復讐を、制裁を受けている筈だ。だが、これも復讐なのだろうか。
何故、俺は彼女と寝ているのだろうか。
何故、彼女は俺と寝るのだろうか。



誰かが頬を歪ませ嘲る
「お前は知っているだろうが。」



いや、それは思い違いだ。勘違いだ。的外れだ。
認めるわけにはいかない。

確かに俺は彼女に好意を抱いていた。
だが、彼女はどうだったか知らない。
知りたくない。

それも彼女が長になるのと同時に捨てた。
俺は彼女のガードではなくなり、正式に組織の歯車になった。
組のために、彼女のために。

そして、それが家族のためになるように。

132 名前:a childie[sage] 投稿日:2011/04/13(水) 21:36:39 ID:bq34Jn7Q [4/9]

彼女が最後を迎えようとしていた。
声にならない絶叫が、監獄の中で木霊して響き渡る。
快感の全てを喰らい尽くそうと、彼女は自分の中に深く俺を突き挿した。

突然だった。雨音の中で白昼夢を見ていた俺には。
俺は彼女に包まれ、拘束するように締め付けられる。
それは衝撃になり、背筋を通って薬で鈍っていた脳へ届いた。
我慢する理由も、堪える理由もなかった。

自分の中にあった緊縛の糸を彼女は切り落とし、
解かれたそれを、精液として彼女の中に放った。
空の感情の中で、それを放った。

彼女は狂喜の中で受け取る。
絶叫が切れ、背を弓反りに汗にまみれた体を痙攣させ、果てた。
彼女から互いに繋がった一部を通じて震えが伝わる。
快感と苦痛が合わさった物になって体の中を暴れまわり、
彼女に絶望に似て白く濁った体液を吐き出させる。

叫びたい。叫んで、この感覚から逃れたい。
だが、喉が潰れた今は叶わない。

今日で幾度目かの性交の終焉。
酸欠で視界が無くなりかけていた脳が、身体に重みを感じた。
痙攣していた身が、空気が抜けるように崩れ、彼女が俺の上に倒れこんでいた。
白い体には上がった体温で赤が差していた。
互いに体が平静を取り戻そうと、荒く息をついている。

彼女の震えが止まらない。
顔の真下にある胸に伏せた彼女の頭を、乱れた銀髪を、
片方だけ残っている鎖で繋がった右手で撫でた。
陰が覆う監獄での彼女の銀色で長い髪は、
とても綺麗で、朧げで、手に絡みついた。

その手を彼女は強く掴む。
そして、俺の顔を覗き込んだ。嬉しそうに、笑みを浮かべて。

「許さないわよ。優しくしてくれたって。絶対に」

俺は彼女の笑顔が好きだった。
棘がある中にどこか拗ねた甘えを、その笑顔から見つけられたから。
俺は彼女の碧い目が好きだった。
その眼で沢山の感情を俺に見せてくれたから。

けえど、今は。
好きだった笑みの中には、大量の憎悪があった。
好きだった碧い眼は、狂気で暗く澱んでいた。

「裏切り者」
「裏切り者」
「裏切り者」

彼女は繰り返す。俺に、自分が犯した罪を再度確認させるために。

そう、俺は彼女を裏切った。

133 名前:a childie[sage] 投稿日:2011/04/13(水) 21:38:02 ID:bq34Jn7Q [5/9]
一緒に夢見た人がいた。その人との自由な生活という、形の無い物に憧れた。
憧れて、手に入れたくて、彼女を裏切った。
天秤で量ってしまった。どちらを望むか。

喉が潰れていて良かった。
見苦しい言い訳をせずに済むのだから。何も言わなくていいのだから。
もう何も口から漏れることはない。
何事も、黙って受け入れられる。
俺は彼女に微笑んだ。

その眼に悲しみが、浮かんだ気がした。
たぶん、気のせいだろう。

俺の微笑みを見て、より一層の笑みを浮かべてから、彼女は口付けを行った。
長く深い口付け。
どこまでも執拗に彼女の舌が俺の舌に絡みつき、離れることがない。
窒息する程まで吸い続けられる。

とても白くて脆そうな細い腕が、片方だけ残った右腕に蔦のように絡みつく。
指と指を絡ませて、けして逃そうとしない。
視界が彼女の右手で塞がれる。
ただ、重なり合った皮膚と舌と唇で彼女を知った。

暗闇の中で自分の犯した罪を、その重みを感じる。
早く死人になってしまおう。
死人は何も言わない、物だ。
望むことはしないし、誰も裏切ることはしない。
このままなら、そう遠くない日になれるだろう。

顔に何か滴が落ちた。雨が届かない、この監獄で。

顔から右手がどかれる。
彼女が、ユリィが泣いていた。


*****************

134 名前:a childie[sage] 投稿日:2011/04/13(水) 21:39:06 ID:bq34Jn7Q [6/9]
私は貪っていた。
飢えを満たすために。
けれども、いくら彼を貪っても満たされることはない。
本当に飢えを鎮めるには彼の全てを、
髪の毛一本残さず喰らい尽くすまでは、とても止みそうには思えなかった。

雨が降っている。
もう何日もなる、長い雨。雨季を知らせる長い雨。
雨が入らない、この巣箱で私と彼はびしょびしょに濡れていた。
私は自身の欲情による発熱で汗をかき、愛液を生んで濡れていた。
彼は皮膚との重ね合いで私の汗に塗れ、性交で愛液に塗れ、
私の舌での愛撫で唾液に塗れ、濡れていた。
蝕んでいた。

果てのない欲情に身を任せ、愛苦を重ねる。
暗く燃えたぎる欲情で身を焼き、踊り狂うように腰を動かす。
腰を振るうたびに、愛液がじゅるじゅると泡立つ。
結びつき、彼が私の奥底を突くたびに身体に雷光の閃光が駆け廻り、快感で頭が痺れる。
終わりのない欲望の道を、息を切らしながら、ただ駆けた。

最初、彼が組織から逃げたと聞いた時、
心の中にぽっかりと、穴が開いてしまって何も感じられなかった。
それから自分が今、奈落に落ちている錯覚を感じた。

彼が捕まるまで、死にたくなるほど悲しくて、殺したくなるほど憎くて、
ひそひそと、一人泣いていた。
寒くて、孤独な部屋で泣いていた。

幾つもグラスを割った。憎しみにかられて。
何度も自分を傷付けた。悲しみにかられて。

彼が捕まった時、瀕死の彼を生かすよう言った。
自分の手で復讐をとげたかったから。
約束を破った彼を、逃げ出した彼を許せなかった。

けれど、ベッドの上で拘束されている彼を見た時、私は気付いた。
彼はもう組織の人間ではない。

彼と私との間には何もない。
今までずっと堪えていた欲求を、欲望を叶えることが出来る。

それを理解してしまうと、どうしようもなく下腹部が熱くなった。
また傷で弱り、無防備に眠る彼の姿は、より私を欲情させた。
喉がごくりと鳴った。

135 名前:a childie[sage] 投稿日:2011/04/13(水) 21:39:55 ID:bq34Jn7Q [7/9]
彼を男と見たときから、苦しみは始まった。

最初は認めたくなくて、わざと無視していた。
今までただの幼馴染で目付役にすぎなかった人間に、
そんな気持ちを抱き始めたことを、認めたくなかった。

でも、自分の身を盾に私を守ってくれることから、
意識せずにいられなかった。

その頃には、周囲に私に向けて放たれる害意があることを理解したのと同時に、
何も言わず、血を流して私を守る彼の存在が欠けることが出来なくなったことを知った。
以前は彼の同伴を、邪魔としか感じられなかったのに。

整っているとはとても言えない、ぼさぼさの黒い髪が、
いつも眠そうで、それでいて私を安心させる黒い眼が、
私のために銃を握る無骨な手が、指が、何もかも愛おしく感じさせた。
無理に目を逸らしていた私を焦がした。

男と女がどういうものか知るようになると、
彼に抱かれる夢を見てしまう始末になってしまった。

そばにいるなと喧嘩までした。
彼がそばにいると体がかっと熱くなる自分が恥ずかしくて仕方なかった。
それでいて、彼がいないと探している自分もいて、もどかしかった。

素直になれないでいた私は、とても愚かだった。
父の死で、コインが裏返るように変わった。

私は父の後継者として組織の長へと祭り上げられた。
あの人の娘だったから。
それだけだった。

後継者になって、彼が私のガードから外された。
幹部連中が長い間自分のそばにいた彼を危険視したから。
連中は彼が私を誑かせて組を乗っ取ることを、被害妄想の中で考えていた。

初めて一人になって怖かった。
なにより離れたことで、より一層に彼への欲情を感じてしまった。

彼は殺し屋をさせられ、たくさんの人を殺し、殺されそうになった。
いつ銃弾に当たって、死んでもおかしくない。
それを考え、彼を永遠に失ってしまうことに恐怖した。

私は彼が忠実に仕事を行うのは、私のためだからと思うようにした。
見かけても、すぐ無言で立ち去る彼を見て、そう思うようにした。

そう思って、いつか二人で静かに暮らすことを願い、
夜は彼を牲に自分を慰めた。
彼を思って湿る性器を、自分で慰めるしかなかった。

いつか組織を抜けて一緒に暮らせる日を願って、ひたすら一人耐えた。

だから。

だから、私を捨てて逃げた彼を許せなかった。
絶対に許せなかった。

それとも、

怪我を負ってまで私を守った彼と約束した私が馬鹿だったの?
ずっと、ずっとそばにいてと約束した私が?

もしかして、

私のためでなく、あの女のため?
血が繋がってもいないのに妹と呼ぶ、あの女のために働いたの?

けれど、

もうどうでも良かった。
もう、彼を手にいれたから。

136 名前:a childie[sage] 投稿日:2011/04/13(水) 21:41:27 ID:bq34Jn7Q [8/9]
「はぁ…..、んぁ…….」
私は喘ぎながら、自分の中で彼の熱を感じていた。
目をつぶって、もっとたくさん感じたくて彼を中に打ちつける。
繋がっている部分から、お互いの熱でとろとろと溶けてしまいそう。
とろとろに溶けて、一緒に混ざりたい。一つになりたい。

「ぅん….、ん……..!」
身体の奥から絶頂が迫る。
もっと、もっと。
ひたすら快感を求めて狂い、唾液を垂らしながら彼を貪る。
結ばれている所は愛液でじゃぶじゃぶで、激しく動くたびに卑猥な音を奏でる。

求めれば求めるほど足りない。

肌を重ねるたびに物足りなさを感じてしまう。
彼は蜜が入った、とても甘い水で、いくら飲んでも喉の渇きが癒えない。
でも、飲まずにはいられない。
口から零れるのも構わずに、次から次へと飲み干す。

甘い蜜は官能的で、麻薬のように私を虜にする。

「………………………….!!」
何か耐えられない衝動が身に迫っている。
何度も味わっても言葉に出来ない、この最果て。
声にならず、ただ叫ぶ。
彼から放たれる全てを一滴残らず奪い取ろうと、体が沸点に達する。
破裂しそうな激情に、愛しい彼の刃を突き立てた。

衝動が私を貫く。
残虐な喜びが、貫かれて空いた穴から湧きあがる。
快感に意識を粉々にされ、真っ白な頭で注がれる精液を感じた。

****

少しずつ、視界が戻ってくる。
気付くと彼の胸の上に倒れていた。
部屋が暗い。昼前に仕事を切り上げ、この巣箱に戻ってから
もう世界は夕刻へ近づいている。
そのまま彼に体を預け、内に広がる充足感に酔った。

彼を手に入れた最初の二日間は無我夢中でよくわからなかった。
お腹をすかせた狼の私は、必死に肉を貪っていた。
疲れて失神していたのを見つかった時、体中が彼の血に染まっていた。

吸っても足らない息も、止まらない震えもそのままに横たわる。
ことん、ことん。
胸の下で鼓動する彼の心臓の音。
彼の大きな手が私の頭を撫でる。
嬉しくて、震えが大きくなった。
心臓の音と大きな手が安らぎを与え、まどろみそうになる。

急に憎しみが湧いた。

撫でている右腕を掴み、怒りで笑みを浮かべながら彼の顔を見下ろす。
無表情な顔がそこにあった。

「許さないわよ。優しくしてくれたって。絶対に」
そう、宣告する。

「裏切り者」
「裏切り者」
「裏切り者」
罪状を忘れさせないように繰り返し呟く。
許すことはないと絶望を与えるために。

彼は何も語らず、
ただ、終わりを知っている殉教者の目で、私を微笑んだ。

留めようもなく出てくる悲しみ。
何とか憎しみで、怒りで塗りつぶし、
復讐を理解しているのに満足して、より大きな笑みを浮かべた。

そのまま彼に口付けをする。顔を見られないために。
迫ってくる気持ちから逃れようと舌を深く潜らせる。
泣きそうになって彼の目を塞いだ。

手と手を握る。
もう二度と逃がしはしないと、きつく強く握る。
怖かった。また失ってしまうことが。
巣箱に閉じ込め、薬で、鎖で繋いだのに、まだ怖い。

ねぇ、幸せでしょ?
顔を離して、言葉にせず問いかける。
堪え切れずに零れだした涙が、彼の顔に落ちた。
右手で愛しい顔から汚い滴を拭いながら問いかける。
ようやく一緒になれたんだから。ねえ、嬉しいでしょ?

ねぇ、幸せでしょ?
ねぇ、リュウジ?