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174 :girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00:26:31 ID:0tpXFGR6

第三話

 「例え話をしましょう、鳴宮君」

 「女の子が、一人います」

 「可愛い可愛い、女の子です」

 「骨があれば肉がある」

 「肉があれば皮がある」

 「目があれば口がある」

 「心臓だって脳だってある」

 「どこからどう見ても、あなたと変わらない〝人間〟に見えます」

 「でもその女の子には〝感情〟がありません」

 「嬉しいと感じることすら、悲しいと感じることすら、痛いと感じることすらできません」

 「さて、この女の子は、はたして〝人間〟でしょうか?」

 「…………」
ふざけた話だ、と。
俺は無下に扱おうとした。だってそうだ。この俺の目の前にいる少女、篠原瑞希はいつだって突拍子もない事を言い出し、いつだって俺の事を嘲るために頭を使う。
そんな篠原がいきなりこんな事を言い出しては、また俺を陥れる策ではないかと考えるのは当たり前だった。
 「〝バケモノ〟なんじゃないのか、そんな気持ちの悪い奴は」
だからこんなぶっきらぼうな言い方で、無責任な言い方で、返答した。
 「………そう」
だから篠原の瞳を、俺はこんなにも歪めてしまったのだろうか?


175 :girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00:27:04 ID:0tpXFGR6
俺が篠原瑞希に銃口を突き付けられてから、もう一週間、つまり、入学してから二週間も経った。
 「……………」
おかしい。
 「……………」
絶対におかしい。と、俺は心中焦りまくりだった。
何がおかしいかと聞かれれば何もおかしい事はなく〝正常〟であるのだが、俺こと鳴宮拓路と、目の前に豪華なイスに優雅に座る少女、篠原瑞希との関係は〝正常〟であることこそが〝異常〟であるために、俺は焦っていた。
……何も言ってこない、だとッ。
あの篠原が、だ。
いつも通りに生徒会室に来て、いつも通りに暇な時間を過ごしながらももう二時間は経った。もうすぐで完全下校時刻であるのに、篠原は俺に向かって何一つ言ってこない。
嘲る事も、貶す事もしない。無茶ぶりも言ってこない。
何だ、この平和。何だ、この違和感。
もしやこの目の前にいる少女は、俺の知る篠原瑞希とは別モノではないのだろうか。
偽物?
そう言った非現実的な事を考えた方がよほどしっくりくる。
暴言がない今。幸せなはずなのに、心にどこかモヤモヤ感を持ちながらも、じれったくなった俺は篠原に話しかけた。
 「なぁ、篠原」
 「死ねばいいのに」
 「即答! え、何その死刑宣告、ひどくね! でもそんな篠原にいつも通りを実感してしまう俺が一番駄目な気がする!」
良かった。とりあえず偽物ではないようだ。……良かったのか?
 「あなたの駄目さ加減に今さら気付いたのかしら」
 「……いや、俺が駄目なことぐらい、俺が一番よく知っているさ」
俺は後ろめたさからか。視線を篠原に合わせることに億劫になって、何もない、目の前の空間に焦点を合わせた。
 「そう、なら良かったわ。あなたはボタンの押せない携帯電話みたいなモノだもの」
 「そこまで駄目じゃねえよ!」
 「あぁ、ごめんなさいね」
 「……何だよ、謝るなんてお前らしく――」
「携帯電話は科学の結晶。いくらでもリサイクルのしようがあるわ。こんな埋め立てゴミと同じに扱ったらばちが当たるわ」
「あぁ今、携帯電話に謝ったのね! ……つか、人を埋め立てゴミ扱いするな!」
「ではあなたは何ゴミだって言うの?」
 「ん? まぁ、何ゴミかって言われたら……生ゴミかな……。って、違う違う違う! まず俺はゴミじゃない! お前の考えは根本から間違っているんだよ!」
 「人の考えを根本から否定するなんて、えげつないわね」
 「お前の俺に対する態度が一番えげつねえよ!」
ハァハァハァ、と。
息を荒くしそうになった俺は、あの初めて会った時の――ごめんなさい。こんなところで性的興奮をしないくれないかしら――という勘違いも甚だしい言葉を思い出して息をひそめた。ふっ、篠原。お前に同じ事は二度言わせんッ!
 「ごめんなさい。こんなところで性欲の権化みたいな顔しないでくれないかしら」
 「今度は顔を責められた! しかも性欲の権化って何? 俺そんな欲求不満じゃねえよ!」
 「……あなたが欲求不満でないことくらい十分に承知しているわ。一日に一度は〝抜いて〟いるものね。……ずいぶん〝妹モノ〟が好きみたいだけど」
ピタッ、と。世界が停止した。
 「…………………………………ちょっと待て、お前が何故知っている?」
やばい、冷や汗が止まらない。
 「乙女の感よ。分からないことなんて無いんだから」
 「半端ねえ、乙女の感!」
 「半端ないのは……昨日のあなたの股間の膨張率じゃないかしら」
 「や、やめろ」
 「ちなみに昨日は……〝お兄ちゃん、私がしごいてあ・げ・る ~発育しすぎた妹に迫られる兄~〟だったかしら」
 「やめろおおおおおおおおおおおおお! そんなことにお前の中にある数少ない乙女を使うなぁあ!」
え、ちょ! 何で知ってんだよお前はああああああああ!
俺ちゃんと確認したぜ! 周りに誰もいないことを確認してから〝して〟たぜ!
部屋にも鍵かけたし。カーテン閉めたし。
どんな透視機能が付いてんだよ、乙女の感!


176 :girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00:27:33 ID:0tpXFGR6
………………、とかなんとかそんな感じで。
乙女の感と呼ばれるプライバシーを無視した未知の特殊能力について、俺は思考の半分以上を使用していたのだが…………………うん。やっぱりおかしいな。
頭の片隅で、そう俺は素直に思えた。
出会ってから一週間。相手を知っていると言うにはまだ早すぎる期間。
だから俺は篠原の癖や本質まで知っているわけではない。
今俺が篠原で知っている事と言えば、見た目や表面上の人との接し方だけだったりするけれど。ただそれだけで、本当の篠原を知った気にはなれないけれど。
でも、それでも。
今篠原が〝機嫌が悪い〟ということぐらい、俺にでも分かった、読み取れた。
だから。
 「何でお前機嫌悪いんだよ」
率直に聞いてみた。
先ほどまで性欲とか話していたのが嘘みたいに。真剣なまなざしを、篠原に向けて。
 「やめて」
 「…………何を?」
篠原の拒絶的単語に、俺は端的に聞き返した。アホ毛を一房、揺らしながら。
 「〝気持ち悪い〟」
 「……あのな、篠原。こっちは本当に心配して―――」
 「そうじゃない。あなたの容姿的な意味で、言ったんじゃない。私はあなたのその卑屈な態度に言ったのよ」
 「卑屈? 俺がか」
 「そうよ。だってよく考えてもみなさい。あなたは〝何もしていない〟のよ。それなのに、あなたはそんな下手にでて……。本当はあなた怒っても良いのよ。こんな生徒会にいきなり引きずり込まれて、私にいろいろ言われて……霧島とも何かあったみたいだし。それにあなたは、いつだって…………………あの時だって」
最期の方になると、篠原の声はしぼんで聞こえなくなってしまったが、そんなことよりも。
俺は篠原が、ここまで弱気な言葉を発するのを初めて、いや、初めて会った時にもあったし二回目か、に見たので、はっきり言って拍子抜けしていた。
 「お前……自覚あったのか」
 「自覚しても行動に移せない事もあるのよ」
 「ん……あ、あぁ、そ、そうか」
 「…………………」
 「…………………」
一気に部屋が気まずくなってしまった。
俺は篠原を見ている事が出来なくなって、視線を外し、部屋内のあちこちに視線を転々とさせていた。そのまま二分ほど経過したところで、
 「………………………………ぼそぼそ」
もうすぐ完全下校である事に気付いた。
 「ぼ、そ……ぼそぼそ…………………ぼそぼそぼそッ!」
だから俺は、そろそろ帰ろわ、とかいう無難な話題で、この気まずい雰囲気を消そうとしたんだ。
 「な、なぁ、篠原……そろそろ俺〝帰るわ〟」
 「ぼそぼそぼそぼそ……………ッ! か、カか、か、かエる?」
 「あ、あぁ……うん」
したんだが。
どうも篠原の返答がおかしい。なんだか、すごく何かを怯えているようで、すごく驚いたようで、すごく……泣きそうな、そんな感じの返答だった。
それに、さっきからぼそぼそぼそぼそ、何か独り言を言っているようなのだが、聞き取れない。そんな変な点が重なった俺は、篠原の方に振り返ってみることにした。
 「嫌、やだ、やだよぉ」
でもそこには篠原はいなかった。
正確には、俺の知っている篠原瑞希はいなかった。
 「し、篠原?」
 「やだ、やだよ。行かないで、行かないで……拓路君。ごめんなさい。謝るから……、ごめんなさい、謝るから。ごめんなさい、謝るから! 今までの事、全部謝るから。全部全部謝るから。だから………えぐっ……き、きりゃいに、な、にゃ、にゃらないで」
ぎゅ、っと。
俺の制服の袖の裾を、小さく掴む篠原。
顔は伏せていて見えないが、身体が小刻みに震えている事や、途中途中に言葉が乱れることからも、泣いているということは明白だった。
いつもの威厳ある、クールな篠原とは全く別の、真逆の態度。
いつもは寅みたいなくせして、いまは親からはぐれた子猫みたいだった。
 「いつも、いつもいつもいつもいつもいつも。た、拓路君は、か、かか、勝手に帰って……いつも私のせいだって、わ、分かってるのに………………。ご、ごめんにゃ、ごめんなさい。謝るから何だってするから。あの時の事だって、しっかりゆうから。き、きりゃわないで………お願いだから」
 「あ、の……と、とりあえず、落ち着こうか。はい、深呼吸をしよう」
俺は篠原の態度に焦っていたから、あの時とか、拓路君と呼び方が変わっている事にも気付かなかった。
とりあえず、篠原を落ち着かせるのに夢中で。
ただ夢中に、篠原背中を撫で続けた。
 「大丈夫、俺はどこにも行かないよ」
とかなんとか、格好をつけたセリフを口から出しながら。


177 :girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00:28:12 ID:0tpXFGR6
 「もう、大丈夫なのか?」
 「……………えぇ。格好の悪いところを見せてしまったわね。早く忘れてちょうだい」
 「………いや、あれだけ衝撃的なモノを忘れるなんて―――」
 「忘れなさい」
 「…………はい」
結局。
下校時刻も過ぎて、運動部の声が外からしなくなった頃。
篠原は泣きやんだ。と、思ったら、いきなり元通りの篠原に戻った、と言うわけだ。
何事もなかったかのように、ぴたりと。
……本当に、さっきのは何だったのだろうか。
 「では、帰りましょうか」
 「あー、あぁ。そうだな」
踵を返した篠原は、帰り支度をし始める。
それに合わせて俺の方も支度をし始めた。
 「………………なぁ、篠原」
 「なにかしら」
泣いたことで、少しすっきりしたような声をあげた篠原に、俺は二つの事を言ってやることにした。
 「二つ、言いたい事がある」
 「…………なにかしら。愚図ってないで早く要件を言いなさい。時間の無駄よ」
 「じゃあまず一つ目。この間の……ほら、女の子の話に対する回答」
 「あなたは〝バケモノ〟だと言ったじゃない。気持ちの悪いと言ったじゃない…………それがすべてでしょ」
 「あー、ごめん。それ撤回するわ」
 「………じゃあ、あなたは何と回答してくれるのかしら」
二人とも、帰り支度をしているので目は合わせていない。
声のコミュニケーションのみだったが、篠原が興味を示しているの手に取るように分かった。
 「その女の子は、感情がないことはないと思うぜ。だってそんな〝普通〟じゃない〝異常〟な女の子の近くには、いつだって優しい主人公の男の子がいると思うからな。女の子の悩みの種に主人公がぶち当たって、女の子を助けたりしたときなんかに、女の子は感情を――〝恋〟を知るんじゃないのか? それが〝異常〟な女の子の〝普通〟の話だろ、違うか?」
 「ッ! …………え、えぇ。その通りね。本当に、その通りだわ」
何か思い当たる節があったのだろうか?
強く篠原は肯定した。
 「そして後もう一つ。篠原、お前勘違いしてるぜ」
 「勘違い……この私が?」
 「おう。さっきお前言ったよな、本当はあなた怒っても良いのよ。こんな生徒会にいきなり引きずり込まれて、私にいろいろ言われて……とかなんとか」
 「確かに言ったわね。……その通りでしょ」
 「違う」
俺ははっきりと、そう、断言した。
それに驚いて、篠原は俺の方を向いてきた。俺も篠原の方を向いた。
二人の視線が、互いを捉えた。
 「お前の考えは根本から間違っているんだよ」
 「人の考えを根本から否定するなんて、えげつないわね」
 「そうだよ、俺はえげつない」
さっきも同じ様なことを言ったが、今回は終着点が違う。
俺は認めた、自分がえげつない事に。
 「俺は最初に言うべきだったんだ」
 「何を?」
 「お礼を、さ」
 「ッ!」
篠原の瞳に、揺らぎが生まれる。
 「俺は、さ……親父の事とか、中学の時の一件で、その……誰とも話せなかった。寂しかったし、つらかった。………でも、お前は違った」
 「……………」
 「篠原は、俺に、話しかけてくれた。噂を知らないわけがないのに、それでも……俺に生徒会と言う居場所を、人とふれあう場所を作ってくれた」
そして、この後に続く、おれの〝ありがとう〟の言葉。
ただの五文字の言葉なのにどこか恥ずかしくなった俺は、篠原から視線を外して、多分、真っ赤になった顔で、言った。
 「だから、そ、その……ありが―――」
 「大丈夫」
しかし、俺の言葉は、俺の唇は、篠原の人差し指によって止められた。
「そこから先の言葉は――――もう、一度聞いてるから」
 「一度? 何の事だ?」
 「何でもないわ。ただの……乙女の感よ」
そう言って篠原は、柔和な笑みを浮かべた。
それはそれは、今まで見た事のないような、可愛らしい、年相応の笑みで。
……やべえな。めちゃくちゃ可愛い。
こうして俺の一日は幕を閉じた。


178 :girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00:28:37 ID:0tpXFGR6
そして俺は、気付いた。
嫌で。
本当に嫌で、目をそらしていた事―――今日の日付。
六月二十九日。もうすぐ夏が来る手前。
そして、今日が親父の釈放の日。

――――――六月二十九日、親父は死んだ。

 「拓路、お前の見ている世界が違うことに気がつけ! いいか、お前の傍にい――ガハッ!」
約十年ぶりに外に出られた親父の、電話口に聞こえた死ぬ直前の奇妙な言葉と、
 「えっへへ~。にぃにぃ~………………これでやっと、ね。二人っきりだ」
親父の葬式中に、俺にすり寄ってきた美帆の無気味な笑いは、何を意味していたのだろうか?
俺には、分からなかった。
分かりたくも―――なかった。
梅雨が止んで、暗い雰囲気をすべて打ち払ってくれると信じていたのに。
これから、俺の心が、闇に病んでいくことになるなんて――――――


――――――――この時の俺は、自分の周りで何が起こっているのかを、まだ知らなかったんだ。