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90 :機動兵器ヤンダム00 [sage] :2008/01/14(月) 00:06:12 ID:PTqGLfpw
……この世界に“神”なんていない。

私は、ずっとそう思っていたんだ。
だって、いくら祈り続けても、私のお願いを叶えてくれなかったんだもの。
あの頃は毎日、毎日、一生懸命に祈っていた。……祈るしか、できなかったんだ。

“どうか、私を助けて下さい”って。



西暦2XXX年。
宇宙へと進出した人類は枯渇した化石燃料に代わり、宇宙太陽光発電によって新たなエネルギーを手に入れる。
しかし、その恩恵に与れるのは莫大な建造費がかかる軌道エレベーターを有する巨大国家群のみで、それぞれの超大国は全面的な衝突こそないものの、軍事技術の開発による冷戦状態に。
そしてそれらに属さない小国は資源の枯渇による貧困にあえぎ、紛争と内乱を繰り返し続ける。

そんな世界に、突如として“彼ら”は現れた。




「……“ゼノグラシア”、作戦を遂行します」
<了解、あなたの無事を祈っているわ>

ぷつん……と音を立てて通信が切れる。
オペレーターが告げたお決まりの台詞をもう一度思い返し、少女は薄く笑う。

「“祈る”だけじゃ、願いは叶わない。……そうだよね?」


91 :機動兵器ヤンダム00 [sage] :2008/01/14(月) 00:07:10 ID:PTqGLfpw
現場は、数瞬の空隙の後、騒然となる。
新型の機動兵器の公開演習に突如として現れた、純白の人型機動兵器によって。
まるで重力など感じさせず、ふわりと地に降り立ったその機体は、突然の出現にあっけにとられるお披露目中の機動兵器へと右腕部に携えたライフルを向ける。

「野蛮で、無骨で、品性の欠片も感じられない……」

そのコクピット内で、少女は顔を歪め、吐き捨てるように呟く。
機体のカラーリングとは対照的に真紅のパイロットスーツに身を包んだ少女は、そっと手にしたレバーを撫でさすり、同意を求める。

「あなたもそう思うよね? “ゼノグラシア”」

“ゼノグラシア”と呼ばれたその機体は少女の問いかけには答えず、目前の新型機の詳細を分析し、彼女にデータを提示するのみ。
しかし少女は提示されたデータを確認しつつ、満足げにこくこくと頷く。

「やっぱり、あなたもそう思うよね! ……うん、分かる。あなたの考えていること。だって、長い付き合いだもの」

自分と意見が一致したことに少女は嬉しそうに顔を綻ばせる。
……が、その幸福を味わい、噛み締める時間はここにはない。鳴り響く警告音。

「ごめん、嬉しくなっちゃって今が作戦行動中だってこと忘れちゃってた。……大丈夫、あなたには私が指一本だって触れさせないから」

我に返り、謎の乱入者の迎撃へと打って出た“新型”が背部のハッチから誘導式のミサイルを乱れ撃つ。
一斉に迫りくるミサイル群。しかし、少女は、“ゼノグラシア”は動かない。
ぐんぐんとミサイルとの距離が縮まる。縮まり、…………と、ふいに純白の機体の姿が消える。
寸前で目標を失ったミサイルは互いが互いと衝突し、爆ぜる。盛大な爆発音と、立ち込める黒煙。
“新型”はモノ・アイのカメラをせわしなく左右へ動かし、敵機の姿を探す。……見当たらない。

「本当に見苦しい機体……」

影が差す。“新型”のモノ・アイがぐるりと頭頂部へ移動する。
そして、太陽を背に淡い輝きを放つその機体を、“ゼノグラシア”を視界に捉えた瞬間……

「だから、私たちの前から消えて」

両腕に備えた機関銃を向けることすら叶わず、“新型”は“ゼノグラシア”のライフルから放たれた光弾によって打ち抜かれる。


92 :機動兵器ヤンダム00 [sage] :2008/01/14(月) 00:07:53 ID:PTqGLfpw
「“ゼノグラシア”、作戦を完遂。……次の作戦へ移ります」

少女が必要最低限の用件だけを通信で伝えると、再びコクピット内に鳴り響く警告音。
レーダーに映る、無数の機影。……突然に起こったこの事態にようやく対応し、送り込んできたこの基地の機動部隊だろう。
うっとうしそうにそれを見つめ、少女はゆっくりとヘルメットを外す。

「うん、今はこれで我慢してね。これが終わったら……ふふっ、後でたっぷり、ね?」

そう言って、少女はそっと機体のコンソールに顔を近づけ……

「大好きだよ。愛してる。……ずっと一緒だよ、“ゼノグラシア”」

“彼”に口付けを交わす。



武力による戦争根絶を目指す私設武装組織によって、世界は変革を促される。

これはそんな時代を駆け抜けた、一人の少女の物語である。

そう、物語はすでに始まっている。

世界に絶望し、唯一のよすがであった神への信仰も失った少女の下に、“彼”が舞い降りたその時から。