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288 名前:忍と幸人 第五話[] 投稿日:2011/05/05(木) 00:23:30 ID:j9.VA8uo [2/8]

 「これ、くれるの?」

 幸人が明るい笑顔を見せてそれを受け取る。

 「気に入ってくれたかな?」
 「うん! ありがとう、お姉ちゃん」

 幸人が持っているのはボールペンだ。色は紺のメタリックカラーになっていて、なかなか見掛けは良いと思う。幸人は結構お気に入りの様だ。

 「出来れば、何時も肌身離さず持っていてほしいのだが……」
 「分かった。大切にするね」

 ボールペンをポケットに仕舞う。本当に嬉しそうで、ニコニコと微笑みが絶えない。
 普段は公園で二人の時間を過ごすところだが、今回は場所を変えて私の部屋へと彼を招待している。彼も私がどんな所に住んでいるのか興味があったみたいで、随分と乗り気だった。
 「お姉ちゃんのお部屋って色々な物があるね」と彼が言った。「そんなに珍しくはないはずだが」と思って、さっと自室を見渡す。壁には額に入った、大海原を駆けるヨットが描かれたジグソーパズルとカレンダーが掛けられており、その脇にテレビとパソコンがある。部屋の角には本棚――そう言えば新しい本棚を買おうとしてすっかり忘れていた――が置かれていて、その手前の床に書籍が山積みにされている。ベッドはパイプで組んである簡素な奴で、あとは小物が入れられているベニヤの棚が壁際に並ぶ程度。どこでも普通に見掛けるレイアウトだと思う。

 「僕んちはママの物だらけだから……。化粧品とかバッグ、あとお洋服かな」
 「幸人は何か集めてたりとかはしていないのか? 例えばホラ、本とかゲームとか……」
 「ううん。みんなママの物。僕が好きに使える物は無いの」

 首を振って答える幸人。彼は事も無げに言うが、それを聞いていた私の胸の中は落ち着きを失っていた。
 あの女に対する殺意だ。蓄積されていたそれがさらに水嵩を増し、頭の頂点にまで達しそうだった。

289 名前:忍と幸人 第五話[] 投稿日:2011/05/05(木) 00:25:28 ID:j9.VA8uo [3/8]
 体の中に詰まったこの怒りを発露する事はできない。幸人が目の前にいるのだ。せっかく遊びに来てもらった彼を怖がらせてしまうなんて以ての外だ。顔に出す訳にはいかない。
 彼の頭を撫でる。やり場の無いこの感情を昇華させたい思いのせいなのか、何時しか幸人との距離を縮ませていた。彼はこちらを見上げ、可愛い左目を向けている。
 目と目が繋がったのを合図に体を密着させ、彼お気に入りの胸枕で彼の頭を包み込む。彼もそれに応える様に私の背に両手を回し、より体を押し付けてくる。冷房が利いている室内、お互いの体温は丁度良い温かさだった。
 私よりずっと小さい体躯の温度を味わっている内に気分が昂ってきた。鼓動が頭の中にまで響く様になり、呼吸が乱れ始める。思考は停滞し、夏の日照りとはまた違った熱さが脳を犯している。私は紛れも無く、発情しているのだと思った。それと同時に、自らを抑える事ができなくなってきている事を自覚する。
 彼の顔に両の手を添え、胸から離す。彼はこれから私が何をしようとしているのかがまるで分からないみたいで、クエスチョンマークを浮かばせている。
 舌で唇を湿らす。端からつつっと一筋零れる。すぐ前にある彼の可愛い顔を私の色で染めたいという支配欲……それに背中を押され、彼の唇と私の唇は結ばれた。
 彼は左目を見開いていた。突然の事に事態が飲み込めないのか、瞳を慌ただしく揺らしている。
 眼尻が緩む。幸人が慌てている顔は可愛かった。距離を離そうともがくのを無理やり捕まえ、唇の感触をとくと感じる。やがて舌で彼の口を抉じ開けて、口内全てを蹂躙するにまでなった。

 「ん……んんぅ……」

 目を硬く閉じ、私の舌を受け止める幸人。頬にほんのりと朱が差してきている。
 彼の口の中を堪能し、唇を離す。ぬるぬるした糸が引かれる。唾液で口の周りが汚れた彼のとろけそうな顔は、とても卑猥で扇情的だった。

 「おねえちゃん……」

 呂律が回らないらしく、赤ちゃんみたいにたどたどしい。彼の熱い頬に手を添えると、それにしな垂れかかってきた。
 再び口付けを交わす。今度は唇が触れる程度の軽いもの。貪り合うのではなく、初な恋人同士がする様な、キスの定番、親愛の印。

290 名前:忍と幸人 第五話[] 投稿日:2011/05/05(木) 00:27:42 ID:j9.VA8uo [4/8]
 彼も吐息を荒くしている。あの女の言うにはまだ精通を迎えていないらしいが、彼も私との一線を越えた触れ合いにドキドキしてくれている。
 胸が熱くなる中、彼に拒絶されたらどうしようかという不安もあったが、それは杞憂だった。彼は私との過激な触れ合いを経ても「スイッチ」を変えていない。あの、感情が抹殺された機械人形の顔は見せていない。血の通った、私を狂わせたあの顔のままだ。
 理性の壁はひび割れた。一度亀裂が入れば、加速度的に崩壊は進む。私は高まる心臓の音に鼓舞していた。
 彼の体に手を這わす。長い髪の毛も優しく撫で、ちょっと緊張しているらしい彼の心を和らげようとする。

 「おねえちゃん……」

 私を繰り返し呼ぶ幸人。

 「どうした?」

 髪をやさしく手櫛で梳きながら返す。

 「すごく……胸が苦しいの……」
 「ドキドキするのか?」

 そう訊くと、コクンと恥ずかしそうに頷いた。
 初な反応だ。数多の客を相手にしてきたとは思えない程、初々しい。
 背中を擦ってやると、背筋を軽く震わせながら吐息を零した。背中に性感帯があるのかと思わせる程に感度が良い。

 「私の事、好きか?」

 呆けた様子の幸人の目を見つめて問い掛ける。彼はコクンと頷いて、「好き……大好きだよ」と、消え入りそうな声で答えてくれた。
 もじもじする彼の唇を甘噛みする。その中で「私も、大好きだ」と彼に伝えると、彼の左の眼尻が下がった。その時にお互いの心が繋がったのを実感した。今まで感じた事のないその高揚感は、酷く中毒性の伴う快感だった。
 如何なる時でも羽織っている、お気に入りの迷彩服を床に落とす。糸で繋がれた人形の様なたどたどしい手付きが、自身の服をめくっていく。
 私は、私が私でなくなってしまったみたいな、奇妙な感覚に犯されていた。体の感覚が麻痺してしまったかの様だ。自分の意識が体から離れて、何かに操られた肉体の行動を独立した意識が第三者の視点から見つめている……。衝動に駆られた人間の心理とはこういう状態なのだろうかとぼんやり思った。

291 名前:忍と幸人 第五話[] 投稿日:2011/05/05(木) 00:30:11 ID:j9.VA8uo [5/8]
 私はシャツ、ブラと手に掛けて、それを躊躇いもせずに解いた。覆うものを無くした裸体を幸人の前に堂々と晒す。彼の視線は私の胸に釘づけにされている様だった。
 彼の大好きなおっぱいを両手ですくい上げ、寄せて見せた。「触っても良いんだぞ?」と言うと、幸人はそろそろと近寄り、ぽふっと頬を吸いつかせた。乳頭を彼の口元に寄せてみると、彼は――意識してか、果ては無意識か――それに食らいついてきた。
 「大きな赤子」は出るはずもない母乳を飲もうとしたのか、乳首を吸い始めた。その吸引はピリピリとした快感を生み、私を震わせた。
 キモチイイ……。
 ほうっと息を吐く。頭が段々と白くなっていく。
 快楽の波がいきなり大きくなる。思わず体を跳ね、声を漏らした。幸人が乳首を甘噛みしたのだ。

 「……ん……あぁっ!」

歯を立てて乳首を責められる。そればかりか、両手で乳房を揉みしだいて、出ない乳を無理やり絞りだそうとする。

 「……ゆきひと……」

 呼んでも返事をしない。幸人は私のおっぱいにしか眼中にないみたいで、一生懸命になって乳搾りしている。
 可愛い……。私のおっぱいを……私を食べている……。
 彼は責めをさらに強めた。乳頭に止まらず、乳房そのものを頬張り、強く歯を立ててきた。

 「っ……痛っ!」

 あぐあぐと何回も噛みついてくる。噛み付いたまま胸を引っ張ったり、両手で思い切り乳房を握り潰してきたり、彼の責めは加減を無くしてきていた。それでも私は、彼のその愛撫に酔いしれていた。
 痛いのに気持ち良い快感が、私よりずっと小さい彼の手によって与えられている……。その私を支配したがっている彼の強い欲望に当てられたのだろうか、体の火照りはますます強くなる。

292 名前:忍と幸人 第五話[] 投稿日:2011/05/05(木) 00:33:06 ID:j9.VA8uo [6/8]
 幸人と目が合った。そのほんの一瞬の事ではあるが、さっと頭の中が冷めた。彼は両目を開けてこちらを見つめていたのだ。普段閉ざされ、開ける事のなかった右目がうっすらと開き、その白く濁った瞳を私に見せている。勿論視力を失っているから私を映す事はないはずなのだが、その目は私の見てくれだけではなく、心の中まで見通そうとしている様に思えてならなかった。

 「……っ!?」

 体がビクンと跳んだ。電気ショックを受けた様な衝撃だった。直後、汗が一気に背中に噴き出してくるのが分かった。そして、乳首には強い痛覚が……。

 「ゆっ……幸人……っ!」

 甘噛みされたなんてものではない。力の入った歯を乳首に立てられたのだ。噛み千切られると恐れた程痛かった。咄嗟に幸人の頭を両手で押さえる。
 彼は黙ってこちらを見ていた。また右目が開かれる。焦点も定まっていない、機能を失ったその目を真っ直ぐ私の視線と交わしている。
 あのスイッチが変わった時の顔ではないのに、彼の右目はその冷たい側面を担っている。感情が無く、人をそこら辺の石ころ程度にしか認識できないガラスの眼球がそのまま彼の顔に埋め込まれている。幸人の顔は涎でぬらぬらと光り、頬も赤い。左目はとろんと弛緩して、涙を浮かべている。息も荒々しく、私を犯そうとする雄の衝動に突き動かされているのが一目で見てとれるのに、その右目は死体のそれと何ら変わらない。
 体が何かに呼応したのだろうか。脳に伝わる快感がさらに増している気がする。幸人の手と口の温もりがより感じられ、全身の筋肉が強張っていく。もはや愛撫と言えない程の執拗な責めなのに……。
 頭の中が真っ白に弾けるまでに、そう時間は掛からなかった。

 「お姉ちゃん、大丈夫?」

 体中が快楽の海に漬けられる中、幸人が私の顔を覗き込んできた。

 「あ、ああ……大丈夫だ」

 息も絶え絶えにそう言う。彼は頬を赤くし、少し気恥ずかしげだ。

293 名前:忍と幸人 第五話[] 投稿日:2011/05/05(木) 00:35:29 ID:j9.VA8uo [7/8]
 「結構大胆だな、幸人。少しびっくりしたぞ」

 私が茶かすと、彼は顔をさらに紅潮させ、しおしおと身を小さくする。小学校に上がっている歳でありながら、おっぱいを貪欲に欲していた己の姿を省みたのだろう、申し訳なさそうに委縮している。

 「ご、ごめん……」
 「気にするな。お前さえ良ければ、いつでも胸を貸してやる」

 頭をぽんぽんとはたく。幸人の顔はしばらくトマトのままだった。
 楽しい時間はあっという間に過ぎていくもので、気がつけばもう四時を過ぎていた。幸人は何時もの様に母の影に怯えた様子を見せつつ、腰を上げた。
 片足が不自由――外傷によるもので、いずれは治るらしいが――な彼を一人で歩かせるわけにはいかないので、あの女と鉢合せする危険性を思いながらも、彼を抱えて家まで送った。これまでと違い、幸人と私は図らずも、ボーダーラインを跨ぎ始める地点まで来た。あの女に私達が揃っているところを見られたら、恐らくすぐに見抜いてくるだろう。
 幸人を送る道中は必要以上に神経を尖らせた。その反動か、無事に送り届けられた時は一気に力が抜けた。家に帰り着いた今もだるく、ベッドに身を任せてから微動だにできない有様だ。
 ストレスだけでなく、心から剥離した欠片から生まれ出てきた何かが、胸を内側から叩いてくる。欲望と情念が入り混じった「想い」が唸りを上げながらグルグルと回っているのが分かる。
 ここまで来たからなのか……。不確定要素の多いこのプランに私は期待している。だからこそ、その局面に至るその瀬戸際で、全てが覆るのを恐れているのかもしれない……。
 だが、反対に、愛しいあの子が手に入る事の期待が募っていくのも感じる。
 ヘッドホンを付けてみる。遠い所の音声が耳に入ってくるのを確かめた。その中に、幸人の愛らしい声もある。
 ふふふ……幸人……私はあらゆる汚い手を使ってでも、お前を助け出してやるからな……。