※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

300 名前:ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI[sage] 投稿日:2011/05/05(木) 19:34:43 ID:X.3iyClg [2/10]
第二十話『千歳の選択』


運命なんてないさ。
誰だって自分の生き方を選択する。
どんな辛いことがあったって、どんな幸運につつまれていたからって、今いる世界は、自分をとりかこむ全ては、自分の選択の結果なんだ。
しかたない、とか、そんな聞き分けのいい言葉でなにもかも諦めて、なにかのせいにして。
そうやって生きてたら、きっと、自分なんて存在はそこには居なくなっている。
だれだって選ばなくちゃならない。
なにもかも投げ出したまま、未来に到達することなんてできないんだから。


    ♪      ♪      ♪


「千歳」
その日の授業が終わり、放課後になった。千歳はぼんやりと窓の外をみつめている。
御神枢が現われてから、もう一週間がたった。どたばたするものかと思ったが、案外平和で、何もトラブルは起こってはいない。
枢もわりとクラスになじめてきたようで、ナギやイロリ、深紅とも仲良くなっていつも一緒にわいわい遊んでいる。
こんなのも、悪くない。
「千歳、おい、千歳!」
「――んぁ?」
「呆けていたな。まぬけな顔だ。ほら、よだれを拭け、みっともない」
ナギがハンカチを取り出して千歳の口を拭く。
昔から使っているキャラもののハンカチだ。舐められるのは嫌いなのに妙に子供っぽいのがナギだ。
「ん、もう誰も教室にいないな」
「ああ、とっくにみんな帰ったよ」
「イロリと……みんなは?」
「あいつらなら、家庭科室を借りて料理をしている」
「料理か。なんのために?」
「私が知るか」
ナギはむすっとした顔で千歳の頬をつねった。
「いてーな」
負けじとナギの頬をひっぱる。ナギの頬は柔らかく、むにっと横に伸びた。
「変な顔」
「お前こそ」
「……」
「……プッ」
「ふっ、はははははは!!」
そして、二人は笑いあった。
「なぁ、ナギ」
「なんだ、千歳」
「お前って、可愛いんだな」
「っ……!」
「もっと笑えよ。いつも笑ってれば、イロリにも、深紅にも、枢にも負けない。まあ――百歌には僅差で劣るが」
「――っ――ぉま――!!」
ナギは顔を真っ赤にしてうつむいた。
「ほ、褒めるなら、百歌のことくらい抜きにして言えないのか、このシスコンめ!!」
「ははっ、悪い悪い。なんていうか、こんなこと面と向かって言うの、恥ずかしくてさ。つい」
「つい、じゃない! お前、私をなんだと……!」
そこまで言って、ナギは口を止めた。
千歳の目。
千歳は、まっすぐにナギを見つめていた。

301 名前:ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI[sage] 投稿日:2011/05/05(木) 19:35:04 ID:X.3iyClg [3/10]
「ナギ、お前をどう思ってるって?」
「……」
「答えて、欲しいか?」
「……千歳?」
ナギの胸が高鳴る。
千歳がこんなにまっすぐに、真剣な目で見つめてくるときは。決まって何か大切なことを言うときだ。
とても大切なこと。千歳にとっても、ナギにとっても。
だが、大切だからと言って双方に幸せなこととは限らない。
それは、千歳の心を傷つけてしまうかもしれない。あるいは、ナギの。
「……少しだけ、考える時間をくれ」
「ん。そうだな。変なこと言っちまったな。すまん」
「いや、いいんだ。ただ、私が……」
臆病なんだ。
自分の中の真実と向き合うことができない。

こんなに近くにいるのに。本当の気持ちがいえない。
誰もが、こんな苦しみを抱えている。

――あなたが好き。

それだけで、いいのに。

「よし、ナギ。今日はちょっと遊びに行かないか!」
「お、おい、いきなり何を」
「どうせ暇だろ!? ちょっとくらい付き合えよ!」
千歳はナギの手をとって走り始める。
(ったく……)
この男は。千歳というやつは、わかりやすい性格をしているが、全然意味のわからないことをするときがある。
こんなデートの誘いがあるか。バカ、女の子に嫌われるぞ。
(私も、女の子だけど)
女の子。
千歳と一緒にいるために、ずっと自分は女の子であることを表に出そうとせずにいる。
恋人になりたいわけじゃないから。ただ、大切な場所だから。
千歳の近くが、自分の唯一の居場所だから。
女であろうとすれば、恋をするか、そうでないかしかない。
だけど、千歳は男として、人間として魅力的で、それにつりあう女の子が既に何人もいる。
自分は、そうじゃない。女としての、なんの魅力も持ってはいない。
だから女ではなく、ただの幼馴染のナギになった。

それでいい。それでいいんだ。

(――でも)
繋いだこの手を、放したくない。



    ♪      ♪      ♪

302 名前:ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI[sage] 投稿日:2011/05/05(木) 19:35:26 ID:X.3iyClg [4/10]
「ちーちゃーん!! 私の特製ケーキ食べてくれるよねー! 愛情特盛、お届けしちゃうよー!」
「ふふふ、イロリさん、料理とは計算です。愛情など、緻密な計算と理論に基づいた私の料理の前では無力! 千歳君もきっとこのケーキを食べてくれるはず!」
「あらあら、まだわかっていらっしゃらないのですね。料理においてもこのわたくしがナンバー1ですのよ。この御神枢、苦手なものなどございません。むしろ全てが得意科目。料理も例外ではありませんわ」
それぞれ言いたいことを言いながら扉を勢いよくあけ、イロリ、深紅、枢が教室に飛び込んだ。
が。
「あれー?」
「誰もいませんね」
「千歳様はいずこに?」
目当ての千歳はそこにはいなかった。
「もう、ナギちゃんに帰らないよう見張っててって言ったのに!」
「誰が一番料理が上手いのか対決は延期ですね。(勝手に決めた)審査員の千歳君がいないのであれば」
「まったく、わたくしのケーキを食べられないなんて、千歳様も随分愚かな選択をしてしまいましたわね」
「なにー、ちーちゃんをバカにするなー! そもそも枢ちゃんのケーキより私のケーキのほうがおいしいんだから!」
「言いますわね、御神家秘伝のレシピに貧弱一般人がかなうかどうか、今から確かめてもよろしくてよ」
「まあまあ、醜い争いは止めてくださいよお二人とも。どうせ私の圧勝なんですから」
「「黙れメガネ!!」」
「私の扱い酷くないですか!?」
「こうなったら私たちで食べあって対決だ!」
「望むところですよ。ふふ、このおいしさにきっとお二人は床を転げ回った挙句窓の外に向かって『うまいぞー!!』と叫ぶことになるでしょう」
「千歳様のために作ったというのに、不本意ですが仕方ありませんわ。明日まで待てば鮮度が落ちてしまいますものね。ここで決着をつけることといたしましょう」
三人は三つの机をくっつけ、ケーキを置いた。
「どれどれ、じゃあ私は深紅ちゃんのやつから」
イロリはどこからともなく取り出したフォーク(『いろり』とひらがなで名前が書いてある)を深紅のケーキに突き刺した。
三分の一くらいを切り取って口に運ぶ。なんとも一口がでかい。
「むぐむぐ。もぐうぐぐうぐぐ、ぐもももも!!」
「食べながら喋らないでください!」
「ごくん。……ふ、ふん、ま、まあまあと言ったところかな。丁寧には作ってあるけど地味って感じ」
「よだれ垂れてますけど」
「そ、そう、愛情だよ、愛情が足りない!」
「精神論ですか?」
「これはもっと調べる必要があるね、もう一口!」
「残りの三分の二は私の分と枢さんの分なのでダメです」
「えー!!」
「露骨に嫌そうな顔してますね」
「次はわたくしですわ!」
枢が続いて差し出す。見た目は普通のケーキ。御神家秘伝のレシピと言っていたが、どれほどのものなのだろうか。
イロリと深紅は、おずおずとフォークを口に運んだ。
「……ど、どうですの?」
「まずっ」
「産業廃棄物ですね。産廃ですね」
「なぜ二回言いましたの!?」



    ♪      ♪      ♪

303 名前:ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI[sage] 投稿日:2011/05/05(木) 19:35:41 ID:X.3iyClg [5/10]
「千歳、手を」
「ダメだぞ、ちびっこが手を放したら、迷子になるからな」
「バカ、放せ!」
ナギは千歳の手を無理やり引き剥がした。
「ったく、何のつもりだ、遊びに行こう、だなんて。だいたい毎週遊んでるじゃないか」
「家でゲームしてるだけだろ。たまには外で買い物ってのも悪くない」
「インドア派なんだよ私は! 買い物なんて女の子の遊びだ!」
「だったらお前も楽しめるな」
「っ……」
いつもの近くの商店街ではなく、少し離れた繁華街まで来た。
きらびやかなショウウィンドウが立ち並ぶ。ナギは目がちかちかするような気がした。
似つかわしくない。
「そ、そうだ、ゲーセン。ゲーセン行こう」
「タバコくさいだろ、却下だ」
「私とゲーセン以外に行くところなんて無いだろう」
「そんなことは無いさ」
千歳は少し顎に手を当てて考えた。
「なあ、ナギ。そういえば、その髪、伸ばしてるのか?」
「ん、この髪か? いや、切ってないだけだ。髪形とかいちいち気にしないしな」
「じゃあさ、美容院行かないか? 髪型、変えてみようぜ」
「はぁ? 脳に蛆でもわいたか? 美容院なんて、生まれてこの方行ったことがない」
「だから初めて行くんだよ」
「お、おい!」

304 名前:ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI[sage] 投稿日:2011/05/05(木) 19:36:00 ID:X.3iyClg [6/10]
「はい、どうですか?」
美容師に言われ、鏡を見る。
無理やり連れて行かれた美容院。幸い予約なしでもすぐにカットしてくれた。
希望の髪形はなかったので、美容師には千歳の要望が伝えられた。
「――これは」
昔の――千歳に出会ったあのころの自分が、そこにいた。
サイドをリボンで縛ったショートヘア。小学生のころの髪型だ。
髪型にはいちいちこだわっていない。その時の長さとか状態のままなことが多い。
しかし、小学生のときは、リボンで自分を飾っていた。
それは、母がそうするよう、リボンをプレゼントしてくれたから。
千歳のことを母に話したとき、母はとても喜んだ。
――じゃあ、おしゃれして、素敵な女の子にならなきゃね。
そういって、嬉しそうにリボンをくれた。
「おー、似合ってる似合ってる」
「千歳、どういうつもりだ」
「どういうつもりって、どうもこうも無いだろ。たまには髪型かえねーのかなって、思っただけさ」
「このリボンは」
「ああ、それは俺からのプレゼントってことにしといてくれ」
「プレゼント? 貰う覚えはないが」
「俺の気まぐれに付き合ってくれたお礼だよ。あと、普段から世話になってるからな」
――世話になっているのは、昔から私のほうだ。
その言葉は飲み込んだ。千歳はそんなこと全く考えてはいない。そういうやつだ。
自分と関わった人間が幸せだったり、喜んでいたり、無事で過ごせていたりするだけで、幸福になれる人間だ。
たとえ、自分がどれだけ傷つこうが。
「ずいぶん派手に短くしちまったが、よかったか? なんか、俺のわがままで髪型変えさせちまったな」
「別に、かまわないぞ。むしろ、体が随分軽くなったし、涼しいからな」
「そうか。うん、やっぱりその髪型が可愛いぞ」
「か、可愛いはやめろ! そういう世辞はいらない!」
「お世辞じゃないんだけどなぁ」
「ぅー……」
(なんなんだ、今日の千歳は)
なんだか、妙に絡んでくる。それに、歯が浮くような台詞ばかりだ。
別に、嫌じゃないけど。
恥ずかしい、じゃないか。

305 名前:ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI[sage] 投稿日:2011/05/05(木) 19:36:27 ID:X.3iyClg [7/10]
「なあ、ナギ」
「なんだ」
「あの服、お前に似合いそうじゃないか?」
「……服なんて、母さんが買ってくれる分で充分だ」
「いや、でもお前だいたいパーカーと短パンだろ? たまにはスカートも穿いてみると、気分転換になっていいんじゃないのか?」
「知らん。スカートなら制服で着てる」
「試着してみるだけでもいいって、とりあえずあの店入ろうぜ!」
「お、おい!」
千歳はナギの手をとって、明らかにお洒落な雰囲気といった感じの店に入った。
「店員さん、この服の、もっと小さめのサイズ――この子くらいのやつ、あります?」
「いらっしゃいませ。はい、今お持ちしますね」
愛想の良い、若い美人な店員が千歳の声を聞くと、すぐに店の奥に入っていく。
「どうせ、私のサイズなんてないだろ」
「自虐すんなって、お前くらいの身長の子も案外いるもんさ」
「ふんっ」
そうこうしているうちに店員が戻ってくる。その腕には、ショウウィンドウで見たあの服がかけられている。
「なっ」
「し、試着するだけだからな!」
「はいはい。まあ着てみろよ」
「お客様、こちらへ」
店員はナギを試着室まで導いた。
ナギはぶつくさと小声で悪態をつきながら、試着室へ入る。
「とっても可愛らしい方ですね。妹さんですか?」
店員は、人懐っこい笑顔を浮かべ、千歳に話しかける。
「あ、いえ、同級生なんですよ、これが」
「まあ、素敵です! プレゼントですか?」
「はい、そのつもりで」
「まあまあまあまあまあ!! お安くしますね!」
「ははっ、ありがとうございます」
随分テンションの高い店員だ。
が、まあ悪い人ではなさそうだし、流しておいていいだろう。
少しすると、試着室のカーテンを少し開けて、ナギが顔をだした。
「き、着たぞ」
「ああ、見せてみてくれないか?」
「わ、笑うなよ?」
「笑わねぇよ」
「うそだ、絶対笑う!」
「笑わない! 笑ったら三回くらい殴っても良い!」
「くっ……わかった。じゃあ出てやる」
ナギは顔を真っ赤にしながら、おずおずとカーテンを開ける。
「……!」
そこにいたのは、紛れも無い美少女という生物だった。
「こ、これは……!」
店員も、おおげさにゴクリ、と唾を飲み込む。
「変……だよな、やっぱり」
ナギは顔を赤らめながらもじもじと体をくねらせる。
こんな女の子らしい格好をしたことが無いナギには、そうとう堪えるのだろう。
だが、むしろそういう態度が女の子らしい。
「い、いや、変じゃない。変じゃないっていうかむしろ……」
「むしろ、なんだよ……」
「可愛すぎてビックリした」
「は、はぁ!? 冗談も大概にしろよ! 本気で怒るぞ!」
「いや、マジだって! だよな、店員さん!」
「はい! お客様、まるでお姫様みたいです。とっても素敵ですよ! お持ち帰りしたくなってしまいます!」
最後のは聞かなかったことにしよう。
「も、もういいだろ! 脱ぐ!」
「やめろって! せっかくだから着て行こうぜ! いいですよね、店員さん」
「はい。お会計、こちらになります」
電卓をぱちぱちと押し、千歳に差し出した。
ショウウィンドウで表示されていた価格より随分と低い。これなら財布への負担もそう重くは無いだろう。
というか、これ70%オフとかになってるんじゃ……。
「こんなに可愛いカップルを見せてもらったんですから、そのお礼です」
「カップルって……!」
ナギは何かいいたそうな顔をしていたが、千歳はこの店員の言うことだからとスルーした。

306 名前:ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI[sage] 投稿日:2011/05/05(木) 19:37:02 ID:X.3iyClg [8/10]
「ったく、今日はなんなんだ一体……」
なんだか今日は千歳に振り回されてばかりだ。
嫌なわけじゃないが、外で何かするのは疲れる。歩いたりするだけではない、知らない人と顔を合わせなければならない。時には、話すことも必要だ。
人間と話したり、つきあったりするのは、案外体力のいるもので、そう何度も何度も一日の間に繰り返したくは無い。
「千歳、今度はどこに行こうって言うんだ」
「ああ、次が最後だ。もう日が沈むしな」
そういって、千歳はナギを連れ(例によって手を繋いで、だ。ナギはもう振りほどく気力もなかった)、来たのは湖だった。
「湖なんて、なにも面白くないじゃないか」
「そういうなって、知ってるだろ、この湖は――」
「ぁ――」
目の前に広がっていたのは、光の世界だった。
「この時期の、この時間帯に丁度夕日の光を上手く反射して、すげぇ綺麗になるんだよ」
ナギは目を見開き、何もいえなかった。
始めてみた。こんな綺麗な世界。
美しいものになんて、興味はなかったし、きっと出会っても目を奪われることはなかったろう。
だが、何故だ。
こうして今、心を捉えて放さないこの景色は。
「……千歳」
「なんていうか、今のナギに似合う景色じゃないか?」
その湖に沈む夕日の光は血の様に真っ赤で。しかしグロテスクではなく、むしろ暖かい。
「この光の世界から来た、お姫様みたいだな――ってのは、なんかクサすぎるな」
「――これを、見せたかったのか?」
「いーや」
千歳は首を振った。

307 名前:ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI[sage] 投稿日:2011/05/05(木) 19:37:20 ID:X.3iyClg [9/10]
「本当は、俺がお前にプレゼントをしたいって、そんな殊勝なことじゃないんだ。ただ、俺がここで見たかったんだ。夕日でも、この湖でもなく、お前をだよ、ナギ」
「私、を……?」
「その髪も、そのリボンも、その服も、そしてこの場所も。全部ナギのためのものだよ。きっと、今は、お前はこの世界のお姫様なんだ。クサい台詞だけど、やっぱりこういうしかない」
「ば、バカ……恥ずかしいんだよ、お前」
「俺もそう思う。なんか、今日の俺、変だよな」
「変だよ……おかしいぞ、千歳。なにか悪いものでも食ったのか? 絶対、絶対におかしい!」
ナギは、顔を真っ赤にして、千歳をにらんでいた。若干目が潤んで、涙目になっている。
「お、おい、悪かったよ。だから怒らないでくれ」
「怒ってない! 怒ってなんかいない……ただ、なんで、私なんだ。私は、お姫様なんてガラじゃない。もっと――イロリとか、枢とか、そんなぴったりなやつがいるだろう。それに、あの二人はお前のことが……その、好き、なんだろ? だったら」
「お前じゃなきゃダメだったんだ。それは間違いない」
「な、なんで!」
「それは……」
千歳は少し目を伏せ、微笑んだ。
「なあ、ナギ」
「……なんだよ」
「好きって、なんなんだろうな」
どきり。
心臓がはねる。
好き。
好きという言葉。
こんな、こんな気持ちにさせておいて、その言葉を使うのか。
「なんていうか。そう、イロリも、枢も、俺に言ってくれたんだ。好きってさ。こんな、俺にだぞ」
「……」
「好きって気持ち。俺には良くわからない。誰かを独り占めにしたいのか、ずっと一緒にいたいのか。でも、俺には百歌がいる。家族がいる。家族に感じる『好き』と、そうじゃない人に感じる好きって、どう違うんだ?」
「わかるわけ、ないだろ……。私に」
「……だから、答えを探そうと思ったんだ。大切なこと。ずっと一緒にいたいということ。その気持ちの答えを」
「……千歳、お前は……」
「そうやって考えて、考えて……。俺が一番大切に思ってて、守りたいって、一緒に居たいって思う人が、誰か。その人なら、気付かせてくれるかもしれないと思ったんだ」
「やめろ……」
それ以上、ききたくない。
この気持ちが、どんどん大きくなる。
千歳の声、千歳の目、千歳の息遣い。千歳の暖かさ。
それを感じるたびに、どんどん大きくなって、とまらなくなる。
今もこの胸のどきどきが止まらなくて。
張り裂けそうで。
その先に行ったら、きっと。

「ナギ、俺は――」