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768 名前:リッサ ◆6l0Hq6/z.w [sage] 投稿日:2011/05/05(木) 05:45:25.52 ID:DOHI9W8F [2/7]
日曜日の朝が来る」

雨は神様の流した涙といったのは誰だったろうか、神の愛の形を示す天からの恵みといったのは誰だったろうか
季節柄しとしとと降り続く雨は、今日も朝から、愛の形のごとく、神の涙のごとく、遠慮なく、そして風流に降りそそぎ
大地を濡らし続けていた。

こんな日でも朝は来るのだ、そう、朝起きて活動を始めなくてはならない、たとえそれがどんな憂鬱な行為だとしても
「んんん…ふぁあ…くぅ…」
だらしなく口から漏れるあくび、まるで甲子園球児のような大きな隈取、ぼさぼさの髪と伸びきった服装、気だるい意識は
軽い頭痛に吐き気を覚えている。
朝だ、とりあえず起きよう、そして朝ごはんを食べよう。
薄暗い、雨の日特有の日差しを浴びて僕は起き上がった。フローリングの床に敷き詰められたゴミの山は昨日も片付かなかった。
実に無気力だ、それでも朝は勝手にやって来る。
部屋の中で着替えを済ませ、そのまま洗面所に向かおうとすると部屋のドアがこんこんと控えめに音を立てた。
「あ、その…おはようございます…空けても…大丈夫ですか?」
「うん、構わないけど…あんまり見られたくない顔をしているんだ」
感情の抑揚を抑えたような、それでいてどこか可愛らしい声が響く、僕は出来るだけやさしい声を出して彼女に答えた。
がちゃりという音と共にドアが開く、そこには黒髪のミディアムボブに、デニムエプロンをセーラー服の上に身に着けた少女が立っていた。
「おはようございます和明さん…その、あんまりいい朝じゃないかもしれないですけど…ご飯は用意しておきましたから、ちゃんと朝ごはん、
食べてくださいね?」
彼女…斉藤裕香は心配そうに僕の顔を見つめながら言葉をかけた。
無理もない、いつも僕はこんな死にそうな顔をしているのだから、彼女もせめて食事くらいはと考えているんだろう。
「ありがとう裕香ちゃん、とりあえずご飯はいただくから、君は先に学校に行っていてもいいからね?」
「だ…ダメですよそんなの!私、その、そんなことしたら和明さんに申し訳が立たないですから…」
彼女は声を震わせてそう言う、その言葉にはどこか引っかかるようなものがあった。
僕はその引っ掛かりを解くべく声をかける、そうすることでどこか心が満たされ、痛みが消えていくような感じがした。
「愛の事なら君は気にしなくていいんだ…君は自分のことを考えていればいい、だから、先に学校に行っていて欲しいんだ…もう、愛は死んだんだから」
愛は死んだ、この言葉をつぶやいたのはもう何回目だろうか。
つぶやくことで心が痛む、それでも認識しなくてはいけない事実、呟くたびに僕の心が楽になった気がした。
「ご…ごめんなさい、私、その…申し訳がなくて…ごめんなさい、ごめんなさい…」
彼女をこの一言で傷つけたかもしれない、そう思うと心が痛かった
でも僕には彼女を責めるつもりはない、そう示すために彼女の肩を優しく叩き、そのまま僕は浴室にむかって歩み出した。
そう、そのまま朝の支度をして学校へ行き、この部屋に閉じこもっている苦痛を忘れるために。
愛は死んだのだ、そしてあと2日で日曜日が来る。
日曜日、僕は何をすればいいのだろうか…。


769 名前:リッサ ◆6l0Hq6/z.w [sage] 投稿日:2011/05/05(木) 05:46:07.31 ID:DOHI9W8F [3/7]

 
僕と彼女…裕香の通っている学校までは電車と自転車を経由するためにそれなりの距離がある。
田舎のためか朝の電車はそれほど人も少なく、痴漢にあう心配もあまりないのだが、それでも隣家の幼馴染である愛と裕香の両親の心配はさしたるものだっ
たろう、海外出張が多い両親に代わり、僕は二人のボディガードを勤め、いつも一緒に電車に乗って、その後さらに自転車をこいでは学校に向かっていた。
何故だろう、たった数ヶ月前には当たり前だった光景が、今はどこか遠く消えかけた記憶のように思えるのは。
がたごとと揺られる電車の中、向かい合って座る僕と裕香の間に会話はない。
「そんなに見詰め合ってて…まさか和明、僕よりも裕香に気があるんじゃないでしょうね?」
愛がここに居ればそんな冗談を飛ばしていただろうか?それともあのときの彼女にはもうそんなことを言う気力も無かっただろうか?
参考書と単語カードに目を通す僕はそんなことを考える、裕香はそれをちらちらと観察するように視線を送りながらも文庫本を読んでいた。
「あの…大変そうですね、勉強…私なんかぜんぜんダメなんですよ、暗記とか苦手って言うか…和明さんはいつも30番代はキープしてるのに…駄目、ですよね?」
自嘲気味に話しかける彼女に目をやり、そんなことないよと首を振る、できるだけ優しく頭も撫でてあげよう、僕もそうされたように
「そんなことないさ、裕香ちゃんはとてもよく出来た娘だよ…料理も上手いし可愛いし、それに手芸だって得意だ、勉強しか出来ない僕なんかよりもとてもスゴい
…それに僕だってもう、どれだけ勉強が出来るか、わかったもんじゃないからなあ…いっそ永久就職でもしてしまおうか…」
今度は僕が苦笑しつつも自嘲気味に語る、ここ数ヶ月学校に行っていなかった僕は果たしてどこまで授業についていけるのか、不安はあった。
でもそれもどうでもいいことだ、勉強をすることの価値はどれほどのものか、それがどんな意味を成すか、愛という存在の前ではそんな些細なことは全て無意味だった
電車の揺れは続く、二人で出来るだけたわいのない話を繰り返し、そして時間が過ぎていく。
駅に到着し、改札を出てから自転車置き場に向かい、鍵をかけて自転車を走らせ、僕たちは学校に向う。
愛という持ち主を失った自転車は僕らの止めた自転車の近くでそのまま放置されていた、彼女がこの世に残したもののひとつだ。
散らかった部屋の思い出同様、できるだけ早く片付けてしまいたいが、それも拒まれるほどに僕の気分は重かった。
このまま彼女がこの世に残した足跡を全てふき取って何になるのだろう?確かに部屋も駐車場も片付くかもしれない。
でもそれでいいんだろうか?そんな事をして完全に彼女を忘れることは出来るんだろうか?
「自転車…後で、取りにいきましょうね?」
「ああ、あれ…片付けないとね…」
そんな考えをめぐらしているせいか、返事はどこかあさっての方向を向いている。
そんな調子でも山奥に立てられた学園に僕らはたどり着き、そしてそのまま駐車場で僕らは別れることとなった。
時間はただ過ぎていく、それはあの部屋に居ても、学校に居ても、どこかに遊びに行っても変わるものではなかった。
無慈悲に確実に、そして正確に過ぎ行く時間、僕が思っていたそれに意味を与えてくれていたのは愛だけだった。
だからこそ時間の流れはとても速く感じられるのだろう、そして過ぎていくことがむなしくもあり、ほっとしているのだろう。
このまま一気に時間が過ぎて、老人になって死んでいければ幸せだ。
そうすればもう一度愛に会えるかもしれない。
僕の心は死を純粋に求め、乾き続けている。
裕香もそれは同じなのだろうか?きっと同じだろう…でも、そこには僕と彼女の思考と、愛との関係性での隔たりもあるのだろう。
お互いに水を砂漠にまいては、わずかな湿り気で安定をえるような日々、いっそ彼女を傷つけて、全て終わりにしてしまえばいいん
だろうか。
僕に答えを出すことは今のところ出来ていなかった

770 名前:リッサ ◆6l0Hq6/z.w [sage] 投稿日:2011/05/05(木) 05:46:56.93 ID:DOHI9W8F [4/7]
3

久久の学校生活は期待通りのものだった。
進学クラスに在籍している分これと言った友人も少なかったが、それでも僕を見るクラスメイトの、まるで幽霊でも見るかのような、どこか違和感を感じるような
同情と哀れみを込めたような、そして半分興味本位の視線は、僕に愛という存在を忘れさせ、さらに休み時間も、まるでいつもと別人格のように陽気に振舞わせる
のにはちょうど良かった。
こうしていれば他の事に気を取られていて、愛のことを考えずに済むからだ、愛を思い出さずに済むからだ。
一月ほど学校を休み、悲しみにくれてはいつも愛のことを思い出していた日々とは全く違う、有意義な生活を僕は送っている。
そう信じるしかない、いつまでも一人の女性のことを引きずっていては人は生きていけないはずだ。
そうだ、もっと授業に集中しよう、そうすれば思い出なんか思い出さないはずだ

「ねえ、君…僕の家の隣に引っ越してきたんでしょ?なら、一緒に遊ばない?あそこの公園ってね、楽しい遊具がいっぱいあるんだよ?」

初めて声をかけてくれた、まだ変声期に入っていなかった頃の、可愛らしい彼女の声と、女性らしい長髪に、男の子のような出で立ちを思い出すこともない。

「一緒に遊ばないと苛めるからね?ほら、うちに帰るまでランドセル取りじゃんけんしよう?」
控えめな裕香がまだ保育園に通っていた頃、日課のように二人きりで家まで帰っていた、女の子と遊ぶことを恥ずかしい、なんて思うのも持っての外、彼女は
誰にでも好かれる男まさりな性格の分、ぐいぐいと僕を引っ張っては一緒に遊ぶことを強要していた。

「もういっぺん言ってみろ!和明はオカマなんかじゃない!!」
時に僕が女の子しか友達の居ないオカマ野郎、なんてからかわれれば、いつもムキになっては男を相手に喧嘩までしていた、たとえ多人数でも一歩も引かずに
こぶしで勝利を収める彼女には、正直頭も上がらなかったが、それ以上にだんだんと僕は彼女を好きになっていった。
裕香という妹分が出来たせいか、僕もどこか愛に負けたくない一心で勉強を頑張り始めた、習い事も…強くなりたい一心で拳法を習い始めた

「へえ、和明でも僕の背を追い越せるんだね…関心関心♪」

中学生になっても続いていた関係、成長期に入り、彼女の身長を追い越した僕を見る彼女の目は、口でいくら庇っていてもどこか寂しそうだった。
次第に肉体的にも勉強でも、彼女を追い越していった僕を見る度、喜んでいる彼女の顔は少なくなり…ついに冬のあの日、彼女は言った



771 名前:リッサ ◆6l0Hq6/z.w [sage] 投稿日:2011/05/05(木) 05:47:10.92 ID:DOHI9W8F [5/7]
「…和明、やっぱり嫌だよ、僕は君に一緒に居て欲しいんだ!君が必要なんだ!、僕から離れないでよ、お願いだ!…僕は君が好きなんだ!!愛してる!
いくらでも言う!愛してる、君が誰よりも必要なんだ、だから僕から離れないでくれ!!僕はあげられるものなら何でもあげるからっ!!」

彼女が涙を流して、まるで駄々をこねる子供のようにこういう言葉を口にするのは初めてだった

彼女は泣いて話し始めた、クラスの皆は君を格好いいと言っている、学園で一番美人なんて言われてる先輩は君をよびだしたそうじゃないか、と

彼女は嗚咽を漏らして話した、僕と一緒に居てくれと、君にどんどん追い抜かれていって、いずれ君が僕の元を去るんじゃないかと思うと悲しいと

彼女は涙ながらに僕を抱きしめて話した、ずっと昔から僕のことが好きだったと、君のためなら何でも出来る、いや、何でもする、女の子らしく変わってみせると

僕は答えた、僕も君が必要だ、君しか見えないと、先輩の告白も断った、と、そして、君には今のままでいて欲しい、それが一番魅力的だから、と

彼女と僕は抱き合って同時に答えた、君が大好きだ、と

抱き合った体の感触、全て覚えている、唇から皮膚、舌に至るまで、その体温も匂いも、涙の味も、愛を誓い合った言葉も、彼女が裕香に教わって作った、美味くも
ないがまずくもない弁当の味も、バレンタインに手作りで作ったトリュフの味も、つないで帰った手の感触も、卒業式の日に後輩の女子にお互いともボタンをむしられて
あげるボタンがワイシャツのものくらいしか残っていなかったことも、高校に行ってからの裕香と3人でのたわいのないやり取りも、消えることなく、全部覚えている…

「ねえ和明、もう僕は駄目だ、君が居なくちゃ何も出来ない…不安でたまらないんだ、だから離れないでくれ、僕と一緒に居てくれ、手を繋いでくれ」

互いに生徒会に抜擢され、部活も忙しくなるうちに彼女との交流は次第に遠ざかり、彼女はまた、例の寂しげな表情を見せ始め、そう言った。

「あの女子は誰なんだ?君はもしかして…その、そんな馬鹿なことはないはずだ!?なあ、そうだろう?そうだと言ってくれよ!!僕は君の言うことを信じる!信じる
から!!」

不安定になる彼女を助けたかった、姉として、何でも出来る娘として、常に人生において一人立ちを強要された彼女は、反面とても脆く、人に甘えたいという気持ちが
強かったのだろう。

僕は出来るだけ時間を作るために部活も辞めた、生徒会の仕事も必要以上に時間をかけずに徹した、彼女との交際時間を長引かせるため、家が近いということを利用して
半同棲に近い生活を送った。

全部彼女のためだ、救ってあげたかった、あの時僕を引っ張ってくれた分、僕も彼女を引っ張っていきたかった、守ってあげたかった。

これこそ愛のなせる業だと思う、理想だと思う、思うだけならば、相手がそれを理解してくれるのならば。


772 名前:リッサ ◆6l0Hq6/z.w [sage] 投稿日:2011/05/05(木) 05:47:55.08 ID:DOHI9W8F [6/7]


それでも事態は悪化した。
彼女は次第にクラスの女子にも敵意を見せ始めた、僕を問いただすだけに収まらずに、他の女子生徒を詰問するようなことを始めた。
孤立していく人間関係を、それでも僕がいてくれればいい、そう言っては僕を求め続けていた。

そして最後には裕香にも敵意を向け始めた、僕と愛の朝食を作ったことに対して、僕を自分の出来ない料理の腕前で誘惑しているんじゃ
ないのか、などというとても下賎な疑惑すら向け始めた。

ついに怒る僕に泣いてすがりつく愛と、泣き出す裕香、二人を見てなんとも言えなくなる僕、何でこんなことになったんだろう、二人ともとても仲の良かった
姉妹だというのに。

この時点で僕はもう、愛と関わることをやめるのも致し方ないと考え始めていた、愛は病みすぎている、このままでは皆が不幸になる。

そしてあの日、僕はついに愛にそのことを切り出した、このまま行けば不幸になるのは僕と愛だけでは済まないかも知れない、だからその心を治そう、依存をやめよう、と
僕は君を愛したい、だからこそきちんと心も元気にしよう、元の皆に好かれる愛に戻ろうと。

「君までそんなことを言うのかい?僕は必要ないって捨てるのかい?」
「そんなことないに決まってるじゃないか!僕は君が好きだ、だからこそ君が僕に溺れて依存するのは見ていられないんだ!君は裕香ちゃんまで不幸にしていいって言うのか?」
「……ごめんね和明、それなら僕は…僕は、君を選ぶ、君を不幸にする、そして…君をモノにする」

ごつん、と僕の頭部に鈍い衝撃が走る。愛の手にはワインボトルが握られていた。
そうか、そう選んだのか、つまりは僕を殺して自分も死ぬと、二人は永遠に愛し合う、と。

………

いつの間にか僕は授業中に泣き出していた、声すらあげないが目には涙が溜まり、嗚咽をあげて机の前で崩れ落ちている。
忘れたいはずだった、授業に集中していればそれは出来ると思っていた。
でもダメだった、そう簡単に、一月足らずであの悲しみが掻き消えるなんて事はありえない。
愛は死んだ、あの日に、確実に死んだんだ。
嗚咽をあげ、鼻水まで垂らして泣きながらそう僕は悟った、もうこの感情は押さえ込めるものや我慢できるものでもないんだと。

心配する教師や、興味半分に覗き込んでくるクラスメート、そして手を貸そうとするクラス委員の手を解き、僕は立ち上がる。
「すみません…保健室に行きます…」
そう言って僕は教室を後にする、そしてそのまま、保健室には向わずに、まるでこの現実そのものから逃げるように学校から立ち去った。
靴を履き替え、裕香が心配するだろうなと思いながらも、僕は自転車に乗って高校から郊外に向う。
そう、あの日死ねなかった僕に待っていた、とても甘い甘い、残酷な処刑場へ…