※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

346 名前:にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE[sage] 投稿日:2011/05/08(日) 03:01:55 ID:5tFhSyRk [2/9]
今日は、世間一般的に言われる卒業式だった。
卒業式、なんて聞くと別れの涙や出会いへの期待をイメージするのではないだろうか。
ちなみに俺はと言うと、高校の三年間と言う学務期間を終えて、無事に合格した県外の大学への進学が待ち遠しく思えていた。つまり後者だ。…………とかいう、青春めいた事は今回の話には関係はない、事もないかもしれないが。
とにかく、今日一日の騒動の始まりは、後輩の一言であった。

卒業式が終わり、生徒たちが帰路につく中で、三年間着続けた丈の長いブレザー(一年の時に買ったのだが、予想以上に身長が伸びなかった)を一度ビシッ、とキメて、俺こと佐波礼人(さなみれいと)は、校舎を懐かしみながら歩いていた。一年、二年、そして三年の教室を順に見ていくと、自分の成長過程が目に見えて分かるようでちょっと嬉しかった。
 「佐波先輩」
そんな最中、不意に。背後から声がかけられた。
その声の綺麗なソプラノボイスから、声は後輩である秋宮奈留(あきみやなる)だと俺は即座に分かる。
ショートカットの黒髪で、百五十センチあるかないかくらいの小動物みたいな身長で、いつも大人ぶってクールにふるまっている可愛い後輩が、秋宮奈留である。
秋宮は俺と同じ図書委員として一年間共に働いて行くうちに、仲良くなった数少ない後輩の友達だ。そんな秋宮から話しかけられた俺は少し嬉しくなりつつも、振り向いた。
 「よ、後輩」
 「……………奈留です」
できるだけフランクに、片手をあげて話しかけた俺であったが、〝後輩〟と呼ばれたのが気に障ったのだろう。頬を少し膨らませるようにして、それでもクールぶって、秋宮は訂正を促してきた。
 「はは、ごめん。でも、秋宮、でかんべんな。恥ずかしいし」
俺が話している途中から、秋宮の様子が少し不機嫌に変わる。奈留と呼んで欲しかったのだろう。ぶっすぅ、とした顔で、ちょっと睨むような可愛い顔で、俺を見ていた。
しかし、言葉を言い終わるくらいから、何かに気付いたのだろうか……急にほっとしたような嬉しそうな顔をした秋宮は、いつものクールな彼女からは考えられないような仕草を――小さくガッツポーズをした。それに小さく喜びの合槌を入れて。
 「………………………っし」
 「お、珍しいな。何がそんなに嬉しいんだ?」
 「ッ! ぁあ、ん……ごほん」
先ほどの自分の行為を思い出して恥ずかしくなったのか、秋宮は一度咳払いをして……。
そして、今回の騒動の始まりの一言を、言った。

347 名前:にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE[sage] 投稿日:2011/05/08(日) 03:02:38 ID:5tFhSyRk [3/9]

 「先輩……それ、わ、私にくれませんか」

いつもクールな秋宮には珍しく、頬を少し朱色に染めながら指を指した。
その綺麗な白い指……雪のように、と言うのは少し幻想的で儚げで、まるで病人を指すような表現になってしまうが、そんなマイナス的な意味ではなくプラスの意味で。
芸術品、と読んでも過言ではないような指が、俺に向かって指されていた。

―――俺の〝股間〟の方に向かって。

 「………………エ?」
つい、カタカナ発音。
 「お、ぉ、お願がいしましゅっ」
あ、噛んだ! あの秋宮が噛んだ、超可愛い!
脳内保存! 八TBぐらい使うぜ! 脳の奥底に保存中・・・・よし、OKだな。
…………とかいう俺の頭の中の一瞬の格闘は置いておくとしてだな。
え、いや……あの、え?
ちょ、秋宮……お前、何がしたいんだ? いや、その……は?
とか何とか。
俺の頭の中がフリーズを起こしてしまった。
あの、秋宮が、だ。あの、クールぶって頭の良くて可愛い後輩の秋宮が、だ。
俺の……股間を、欲しがるだとッ! え、それってやっぱり……物理的に?
………………………………………いや、無理っしょ。
 「いや、あの……お願いされてもね、うん、うん……う~ん、うん! よ~し秋宮、保健の勉強はしてきたか? これはな、着脱式じゃないんだよ、分かるか? マジックテープとかでつながっていて、ビリビリとかするような仕様じゃないの、分かるか? ……って言うか分かれ、これは取れないの!」
結局俺は、秋宮を説得にかかった。かかりつつ怒った。
秋宮も頭の悪い子じゃない、つか俺より頭がいい。だから俺が説明したらきっと分かってくれるはずさ。
そう信じて。
 「……嘘」
裏切られたけど。
 「嘘じゃねえよ! これだけは嘘でも勘違いでも無く言えるぞ! この世の男性全てが共感できるわ!」
再び不機嫌そうになった秋宮は俺の発言を嘘だと捉えたようで、いいからとっとと渡せ、みたいな感じで、じとぉ、とこちらを睨んできた。……睨みたいのはこっちだ。
 「え、でも……引っ張れば、こう……ブチッと」
秋宮は空中で何かを引っ張るようにジェスチャーする。〝ナニ〟かを……な。
その瞬間俺の体がぶるり、と大きく一度震えた。
 「怖えええ! 超怖えよ! ブチッと……何? 俺そんなにデンジャラスでバイオレンスな体験したくねえ!」
俺は憤りをあらわにした。だってそうだ。怖すぎるだろ、男ならみんな分かってくれると共同意識すら持っている事だ。しかし、俺の怒りをどうとらえたのか、秋宮は下を向いたかと思うと、思いつめたような顔をしてぶつり、ぶつり、と何かを話し始めた。
なになに、と俺は恐る恐る耳を澄ます。
 「……もしかして、先輩………………………他の誰かに、あげる約束とか、したん――」
〝ナニ〟をあげる約束……ナニそれ、怖い!
 「するか! してたまるもんですか! いい加減にしねえとこの温厚で知られる俺でもキレちゃうぜ! つか、初めてだよ、お前みたいな要求してきたのは生まれて十八年、今日が初めてなんだよ!」
俺が、初めて、と言った瞬間。
沸騰したお湯のように、湯気を出すような勢いで顔を真っ赤にした秋宮が、両手でほほを押さえて、体を左右にゆすり始めた。ふ~らふ~ら、と。
 「は、初めて……………先輩の、初めて、えへへ……もらっちゃったぁ~」
年よりもずいぶん幼く見えるその姿は、すごく愛らしいものなのだが、今話している会話内容からすると、すごく恐ろしい。
 「そんな初めてはいらん!」
 「もぅ……照れなくても、いいのに………先輩」
 「照れた部分は無いですよね、秋宮さん!(←なぜか敬語)」
やばいぜこの子、会話が全く通じない。あれ、おかしいなぁ、いつもはこんなはずじゃないのに。それにどちらも日本語で話しているはずなのに……地方によって認識の仕方が違うのかな、と。わけのわからない逃避思考をしてみたり。
俺のツンデレ(デレ抜きバージョン)が通用しない、だとッ。いや、ツンになった記憶もないけどさ、と。わけのわからないキャラづけをしてみたりと。
もう、俺の頭の中は、怒りと焦りとで混ざり合い、まともな思考が出来ていなかった。
 「じゃあ……その、ですね……私が、して、あげますから」
そんな奇妙な悶絶を繰り返す俺を見てか見ずしてかそんな事は知らない、どうでもいい。
 「…………へ?」
がさ、ごそ、がさ、と。大事なのは、秋宮がカバンの中をがさごそ探り出した事だ。
やばい、悪い予感しかしないぞ、と。俺は心底焦りまくりで、冷や汗に浸っている気持ちになった。

348 名前:にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE[sage] 投稿日:2011/05/08(日) 03:03:50 ID:5tFhSyRk [4/9]
 「ん……っと……………にゅむぅ……にゅわふぅ……………?」
秋宮が必死にカバンの中身を探るのだが、その度に口から漏れる声がなんとも……。
 「え、何その声! にゅむぅ、にゅわふぅ……超可愛いんですけど!」
先ほどからテンション高めの俺だが、先ほどの冷や汗が、逆に気持ち良くなるくらいにテンションが上げられそうだろ思った。それほど可愛かった、にゃむぅ、にゅわふぅ。
何だろう、これが〝萌〟ってやつなんだろうか。俺はそちら方面にはすごく疎いのでよく分からないが、秋宮を抱きしめたくなるほどの衝撃が走った事は確かだ。
マジ可愛いっす、秋宮さん!
 「………………ぁった……」
ついに秋宮は目当てのモノを見つけたらしく、それをカバンから引き抜いた。
引き抜いた瞬間から……俺は硬直するしかなかった。
 「………………………………………………………………ぇ、ちょい、待とうか」
言葉が出なかった。だって、秋宮の右手には、裁縫の時に使う大きな裁ち鋏が握られていたから。
そしてその太陽に銀色に反射している鋏が、じょきん、じょきん、と。秋宮の手によって規則正しく音を奏で出した。
どくん、どくん、と。俺の心臓が美しい独奏を始めた。
胸が、心臓が、高鳴る……恐怖で。
マ、マジ怖いっす、秋宮さん!
 「いや、その……な。お、落ち着け、頼む落ち着いてくださいお願いですからって、ぎょわっ!」
先手必勝、と言わんばかりに、俺が平和的会話的民主的(?)解決を行おうと提案していたのに、秋宮は鋏をこちらに向けて突っ込んできたので慌ててかわす。
もちろん、俺の股間辺りを狙っていたのは言うまでもないだろう。
 「く……せん、ぱい! 大丈夫、ッ、ですって」
こら、お母さんに人にはモノ向けちゃいけませんって習わなかったの! とか言って怒ろうと思うにも、秋宮のさらなる追撃に俺はよけることしかできない。
そしてその合間を縫って、返事を返した。
 「何が! この状態で何が大丈夫なんだよ、危険なことしかねえよ!」
 「どうせ、もう……使わないからッ……いらないっ、でしょ!」
 「いるわ! 使わないって何、失礼すぎるだろ! お前は未来から来た人間か? 俺の未来を知ってるのか? 魔法使いになる気なんてさらさらねえからな、俺は!」
いや、しかし……。彼女いない歴=年齢の俺は、まさか、本当に……。
いやいやいやいや、希望を持て、俺。がんばるんだ、俺。きっと素敵な出会いが待っているさ。とか思っていると油断して鋏の先が一度ブレザーを擦れた。
 「きょぇ!」
 「……………まほう……つかい?」
そんな一瞬の俺の危機にも動じず、秋宮は先ほど言った魔法使いという言葉を反芻していた。まぁ、秋宮には意味が分かっていないようだが。……いいんだよ、これは童貞たちの自動的就職先だからさ。
 「チッ、このままじゃ……………ぁ、そうか」
俺は秋宮の攻撃をかわしながらも、この状況を打開する一つの先を考えた。
それは秋宮に背中を見せて。
 「ダッシュ!」
 「ぁあ!」
結局、逃げる事にしました。
よくよく考えると、対面している必要はなかったんだ。
 「……どうして、逃げるんですか、先輩。くださいよ、私だけにくださいよ! ねぇ、先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩! ねえ、お願いですから先輩、ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ! 先輩、逃げないで! 私だけに、ね! どうして……………………どうしてッ……………………先輩ッ!」
でも。
それで終わらないのが今回の話。
クールなはずの、いや、はずだった秋宮は、その鋏をじょきん、じょきんと鳴らしたまま、どこかうつろな表情で、ちょっと狂ったラジオみたいに同じ事をいいながら、俺を追っかけてきたのだ。
 「いいいいいいいいいいいいいいっぃぃぃぃぃぃいぃやああああああああああああああああああああああああああ!!」

349 名前:にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE[sage] 投稿日:2011/05/08(日) 03:04:30 ID:5tFhSyRk [5/9]
ツンデレラさんに会いました。
 「あら、こんなところで、奇偶ね…………………(やっと見つけたわ)」
 「…………………………でたな、ツンデレラ」
 「ツンデレラゆうな! このあたしが話しかけているのよ、もっと喜んだらどうなのかしら」
 「……………わーい」
 「殺しますわよ!」
秋宮から逃げ出した後。
何とか、追いかけてこない事を確認した俺は、蛇口から出る水を飲んで息を落ち着かせているところだった。そんな時に、背後からの気配。
秋宮様、ごめんなさい! でもホントにこれはずれないんですよ、マジで、着脱式じゃないんです許して下せぇ。とか言いながら慌てて振り返るとツンデレラさんがいた、と言う事だ。
ツンデレラ―――本名、宮藤雅(みやふじみやび)。金髪ツインテイル、ツンデレ、三年のクラスメイト。
これが主な特徴。どこかのご令嬢らしく、最初の頃の一人称は〝わたくし〟だったのだが、「慣れない事を頑張るのも結構だが、個性をなくすのは感心しないぞ。自分の言いやすい方で良いだろうが、俺みたいな友達の前ぐらい、な」と言ったところ〝あたし〟になったのであった。(しゃべり方はお嬢様っぽいけど)
宮藤の事を俺がツンデレラと呼ぶのは、「べ、別にあんたに言われたからじゃないんだからね。あ、あたしが、こっちの方がいいからであって……勘違いしないでよね!」とか一人称騒ぎの時に俺に言い返したことにあった。
 「まったく……これでもあたしは宮藤財閥の令嬢、あなたとは住むところが違いますのよ。そんな人間と話せるなんて、普通、鼻血を出して号泣モノよ」
 「いやだな、そんな光景見たくもない」
鼻血と涙のコラボとか、ツンデレラと話す時はティッシュ常備だな。
 「ところで………あなたは………………」
 「?」
突然、ツンデレラが俺の体を、じとぉ、と見つめてきた。
え、何? とか聞こうと思って口を開こうとした時に、急にツンデレラはにやけた顔になって、呟いた。
 「まだですわよね……………………っし!」
妙な小声と、ガッツポーズを決めて。
………………あれ、この光景、どこかで見た事があるぞ。
 「佐波礼人!」
 「ふぁ、は、はい」
記憶の糸を探ろうとしたところで、ツンデレラさんの声がかかる。
 「あ、あたしは……別に欲しくないのですわよ。えぇ、これっぽっちも、ちっとも。………でも、どうせあなたにはもらってくれるような人はいないでしょうから、あ、あたしがもらってもよろしくてよ!」
 「え、あの……何を? ってか、何の話?」
 「だ、だから………それ、ですわよ」
 「それ?」
ツンデレラさんは、指を指した。
俺の方に向かって指された指の後を追うようにして、視線は動く。そして止まる。
 「…………………」
そう、その指は指されていた。

―――俺の〝股間〟の方に向かって。

350 名前:にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE[sage] 投稿日:2011/05/08(日) 03:04:54 ID:5tFhSyRk [6/9]
 「お前もかよ!」
 「ふえっ!」
俺は思いっきり、腹の底から怒鳴った。
本当に、ツンデレラさんが一度跳ねた。
「ぃ、ぃぃぃいきなり叫ばないで、これだから庶民は」
びっくりするじゃない、とツンデレラさんは少し涙目(←可愛い)になるが、そんなモノは関係ない。
恐怖、再びである。
 「庶民とか金持ち以前の問題だ! そんなもんねだるなよ! 女が持っててもどうにもならないモノだぜ、これ!」
俺は自分の股間に指を指しながら話す。
はたから見れば、女の子に股間を指差しながら話す男の図と言うのは少々犯罪チックの様な気がしないでもないが、今はそんなことは気にしていられない。
これは男のシンボルの問題だ。
 「女がって……まさかあなたそれ男に――」
 「そりゃそうだろうよ! それ以外の用途ありえねえから!」
男に生まれつきついているものですからね! ほとんどの人は生涯を共にする仲間ですから…………息子かな?
 「だ、駄目よ。ダメダメダメダメ、そんなの……駄目、絶対だめ!」
駄々をこねた子供のように、首を振って、いやいや、をするツンデレラさん(←可愛い)。
 「いやいやいやいや。そんな可愛らしい言い回ししたってここだけは譲れないぞ!」
さりげなく、ツンデレラさんの可愛いという事を言ってみたのだが、ツンデレラさんはまるで聞いてなかった。瞳が虚ろになって下を向いて独り言をぶつぶつつぶやき始めた。まったく聞こえないか細い声で。なんだか、呪いみたいだ、とか思いつつ。
 「……………………そんな………部屋を盗撮しているとこにはそんな〝気〟は一切なかったのに。そういう本や動画には、金髪系が多くて喜んだのに。どうしてッ! ……いつ、道を間違えたの? いつ、どこで、誰が? ッ………………………あたしが知らない情報があったなんて。諜報部員のやつらは死刑ね。家族ともども島流しにしてやるわ……………あの女の入れ知恵? それともあっちの女?…………はないか。自分も対象外になることなんてやらないだろうし………て言うか相手は誰? サッカー部の宮田? 野球部の清水? まぁ、誰だとしても手を打っておくとして……ぶつぶつぶつ」
 「お、おーい。ツンデレラ?」
 「………でも、これはすぐに強制しないとまずいわね、これからの二人の未来に支障が出る可能性があるわ……………せっかく、同じ大学にも行けるしと思って軽く考えていたけど、ここまで重傷なら………いっそここで……………………ぶつぶつぶつ」
駄目だ。
俺が、話しかけても見向きもしな―――
 「……………にゅむぅ…………にゅわふぅ。あぁ、やっと見つけた……………せぇんぱい。どうして逃げるんですかぁ? さっき、私が、話して、いましたよねぇ」
じょきん、じょきん、と。
規則正しいハサミの音と、秋宮のにゃむぅ、にゃわふぅ、の可愛いボイスを聞いた途端に、俺は走り出していた。
 「もう、ご勘弁をおおおおおおおおおお!」
ツンデレラさんを置いて、また追いかけっこが始まってしまった。

後はこんな事の繰り返しの連続だった。
秋宮から逃げ切ったところに現れた、幼なじみである、南雲美夏(なぐもみなつ)に遭遇。
 「礼、わたしにさぁ~……それ、くれるんだよね。だってもう十年以上経つんだもの。もちろん私を選んでさ、渡してくれるよねぇ~」
後ろから抱きついてきたと思うと、股間に手を伸ばしつつあったので、頬を赤らめつつ俺は振り払った。
 「十年以上の付き合いのやつにでもな、これをやれるわけないだろ!」
そして口論している最中に、鋏を持った秋宮が追い付いてきた。
反対側の道に逃げようとしたら、そこからはビリビリビリビリ青い火花を出すスタンガンを持ったツンデレラさんがいたので、再び恐怖!
とっさに、部屋の中をすり抜けてベランダを渡って違う教室から逃げ出した。

逃げ回っていると今度は、友人の妹である電波系少女、冨和葵(ふわあおい)に遭遇。
宇宙が誕生してからうんたらかんたらと言う設定から話しだして。
世界のあちこちから発信される電波を受信するのが自分の役目だと言い出して。
俺の股間を指差しながら――
 「…………あなたのそれから有害な電波を受信した、それは危険……………だ、だから、わ、私に渡して」
と、頬を赤らめながら、それを隠すように顔をそむけながら(←可愛い)言ったので、
 「これは人畜無害です」
「にゃわぁ、ま、待って!」
と可愛い電波さんを振り払って、再び疾走開始。

351 名前:にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE[sage] 投稿日:2011/05/08(日) 03:05:38 ID:5tFhSyRk [7/9]
これが代表的な人たちで、後のち、風紀委員やら生徒会長やらいろんな人が俺の股間にむけて指を指しつつ、くれくれ、と言ってくるので、学校中を逃げ続けた。
なんだろう。
今日の俺の股間には、人を引き寄せるブラックホールでもついているんじゃないだろうか。
 「……………いやいや、まさか……」
そう思って、男子トイレに入った俺は、〝ナニ〟を確認してみたのだがいつも通りだった。
じゃあ何が問題なんだろうか、何? もしかして〝ナニブーム〟とか起こってんの?
とかバカみたいな事を考え続けて三十分。俺はある事に気付いた。
 「あれ、男子トイレにいれば……あいつ等はいってこれないじゃん」
あ、じゃあ俺ここにずっといればいいんじゃね?
そうだ、そうしよう。
 「………別に、女子が、男子トイレに入るのは………良いと思いますよ、先輩」
 「きゃああああああああああああ、いやあああああああああああ、入ってこないでえええええええええええええ!!!」
なんだかんだで今日一番に俺は驚いてしまった。
安心した瞬間にこれである。もう、やめて欲しい。
 「ちょ、つか、何でお前はここが分かったんだよ!」
俺は秋宮に向かって指を指しつつ、最大の疑問を言う。
 「………奈留です」
しかし、それに秋宮は答えずに、あえて自分の名前を出した。
つまりは、奈留、と呼べということだろう。
 「秋宮、何で――」
 「……………今回は妥協しません。奈留」
 「な、奈留ちゃん」
 「奈留」
 「な、奈留は、何で俺がここにいるって分かったんだ?」
俺が奈留と呼んだ瞬間に、顔がものすごい緩んだのだが、その緩んだ顔のまま、少し頬を赤らめて、こう言った。
 「ぁ、ぁあ、あ、愛の力です」
一世一代の告白だ、とでも言うかのように秋宮は緊張しているように見えた。
 「え、なに、目(eye)の力? お前ってそんなに目が良かったっけ?」
しかし、俺はどうしていきなり秋宮が目の話をし出したのかよくわからなかった。しかもいきなり英語だし。……窓から俺の姿が見えたから分かったのだろうか?
だとしたらすごく目がいいんだなぁ、秋宮は、と。俺は感心していると、むっ、としたような顔になった秋宮が、止めていた鋏をまた、じょきん、じょきん言わせ始めた。
そしてその鋏で、俺の体をちくちく刺し始めた。
 「………………………………………………この鈍感。えいっ、えい、えい」
 「にょ、ちょ、い、痛い! 何でこんなことすんだよ?」
 「……………勝手に、私から逃げた、罰」
 「いや、それはお前が――」
 「だから罰として、それをもらう、それで良い」
 「だから、無理―――――」
じゃきん、と。
いや、ジャキン、と。
今まで以上に鋭い音を立てた鋏が、俺の首筋に触れた。
驚いた俺は、秋宮に視線を送るが、秋宮の顔も今まで以上に恐怖を掻き立てられるような
そんなものだった。
ゴクリ、と唾を呑んだ。
 「これ以上は言わないよ、先輩…………私、さっきから何度も言っているのに、先輩はほかの女の子と話したりして………一体何を考えているのかな? 先輩のモノは私のモノに決まっているじゃない」
何そのジャイアン方式。とは口が裂けても言えない。
 「その逆も同じ。なのに先輩は………でも、分かってる。私全部、分かってる。………きっと最後には、私の元にくるって………信じてた。先輩も、意地悪だなぁ…………」
いつもクールな秋宮だが、それ以上に今はクールだった。
声なんて絶対零度並み。
 「でも…………あんまり、意地悪ばっかりだ、と――――」
微動だにできない俺の耳に口を寄せて、秋宮は一言、それは俺に男のシンボルを差し出す決心をするのにふさわしい一言をくれた。

 「―――殺しちゃいますよ」

ゾクリと体が恐怖で震えた。

352 名前:にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE[sage] 投稿日:2011/05/08(日) 03:05:58 ID:5tFhSyRk [8/9]
 「じゃ、じゃあ……その、先輩、く、ください」
戻った。
いつものクールで可愛い後輩の秋宮奈留に戻った。
先ほどまでのがまるで嘘のように……。
もじもじした態度ではあったが、手を差し出した。
 「う、うぅぅぅぅぅぅううう。さ、さよなら……我が息子よ」
俺は泣いていた。涙を流していた。十八の男が大泣きである。
秋宮に俺のシンボルを渡すと決心した。
それはとても痛そうだが、それ以上に、男としての尊厳が無くなることを意味していた。
つか、もう男じゃなくなるし。
父さん、母さん、ごめんなさい。
俺は……俺は………。
唇を噛みしめながら、秋宮から受け取った裁ち鋏を見た。
うん、こいつなら、一刀両断してくれるだろう、と。そう信じて。
 「いざっ!」
俺は〝ナニ〟を外気にさらした。ズボンから、そしてパンツから出す感じで。
しかし、覚悟を決めていた俺に、意外なところからストップがかかった。
 「にゃ、にゃ、にゃ、にゃわあああああああああああああああああああああ。な、にゃにしてるんですか、先輩!」
 「へ? だって、おま……奈留が欲しいって」
 「何をですか!」
 「え、何をって……〝ナニ〟をだろ?」
 「ちち、違います! 私が欲しかったのは―――」
秋宮は、俺の股間の方を指差しながら、こう叫んだ。

 「―――先輩の第二ボタンです!」

 「…………第二ボタン?」
 「はい、第二ボタンです」
そう言われた俺は、自分のブレザーの第二ボタンの位置……と言うよりも、この学校のブレザー自体二つしかボタンがないので、下の方のボタンの位置を見た。
すると、普通はへその少し下あたりに来るはずの第二ボタンは、俺の場合は丈が長いせいで丁度股間辺りに来ていた。………ん、むむむ?
 「と、言う事は……もしかしてあれか、卒業式だから、制服の第二ボタンが欲しいとかいう、あの伝説級の青春行事の事か?」
 「そ、そこまで過大評価しなくても良いかもしれないですけど、そうです、それです」
つまり、だ。
秋宮奈留も
ツンデレラさんも
南雲美夏も
冨和葵も
その他大勢も。
もしかして、もしかすると……俺の第二ボタンが欲しかっただけ、とか?
 「………まぁ、本当の、事を言うと………心臓に近い方がいいかも、と思いましたけど、結局……どちらも心臓に近くはないですからね」
 「な、なんだよ………もしかして今回のこの騒動って全部――」
 「はい、先輩の早とちりですね」
 「……………………」
それを聞いた俺は、ブチリと第二ボタンをちぎると、秋宮に渡してやった。
 「わ、わわわ、ふわあぁ…………にゅむぅ……にゅわふぅ………」
それを受け取った秋宮は、まぁ喜んでくれたようだ。
そして何より、にゅむぅ、にゅわふぅは可愛いな、と実感しつつ、なぜか瞳からは、今日の徒労感と虚しさを清算するような涙が二筋流れていた。

―――本当に、何だったんだろうな、俺の卒業式。




あ、そうそう。
次の日に、昨日――つまりは卒業式の日に、俺にかかわった女の子が秋宮奈留以外に死んでしまったというのはまた別の話…………なのかな?