401 :弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 最終話:2011/05/12(木) 09:38:08 ID:iv34jsSE
それから二年、僕たちの周りは大きく変わった
人間たちのと間に二つの懸け橋ができたことで、名実共に共存が可能になったんだ

「ほらエレ様、しゃっきりしてくださいな
 今日中にあと九つのお城を回らなくちゃいけないんですよ」
「……だりぃ。もう飛ぶの疲れた。ミリルは乗ってるだけだからいいだろうが、俺はきついんだぞ」
「その代わり交渉はみんなわたくしがやっていますわよ。ほらほら、頑張りましょう」
「くぁ~~~、スカルエンペラーの広範囲転移魔法が欲しいぜ、ったく」

一つ目はミリルさんとエレキインセクト
エレキインセクトはまだあの戦いでの恨みを持つ人がいるからあまり表舞台には出ない
その代わりといってはなんだけど、ミリルさんがすごく頑張ってくれている
もともとは没落してしまったとはいえ名士の家の出
しかも夫は魔王直属軍の将軍の一人なのだから、どちらの陣営にしても影響力は計り知れない
人間と魔族にとっては最大の懸け橋だ
それでもう一つなんだけど、正直僕は意外すぎてびっくりした
まさかこんなことになるなんてね。男と女は本当に分からないものだと思ったよ
……偉そうな事言ったけど、今もわかんないんだけどね

「………」
「………ということで、我々魔族は人間との共存を望んでるッス。そんでそれは、セリク王息女、エリス嬢も同意してくれたッス」
「(コクコク)」
「我々としても争いは好みません。魔族との共存は喜ばしいことですし、しかもかのエリス姫が同意となれば
 わが国としても協力したいと思います」
「おお、ありがてえッス!」
「~~♪」
「しかし一つお聞かせ願いたいのですが、あなたはどなたなのですか?
 魔族、しかも高位の方なのはその出で立ちからも分かるのですが。それに、何故エリス姫をお連れしているのですか?」
「ああ、また説明すんの忘れてたッス! ワシはスカルエンペラー、魔王直属軍将軍の一人ッス
 そんでワシがエリスちゃんを連れてんのは、もともとワシの患者で仲良くなった友人だからッス」
「!」
「あたっ! 叩くのはやめてほしいッス………(伝心魔法:恋人なんて、やっぱワシなんかふさわしくないッスよぉ……)」
「!!!」
「あたたたたた!!エリスちゃん!折れる!折れるッスゥゥゥゥッ!!」
「……あの、エリス姫は目も耳も不自由だとお聞きしていましたが」
「ああ、ワシらが治したッス。耳がまだ全快には程遠いんで言葉は不自由ッスが、近いうちに全快させてみせるッスよ」
「素晴らしい技術ですな。我々もぜひ学びたいものです」
「隠す事じゃねーッズ。治療法はみんな等しく知るべきことッス」


402 :弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 最終話:2011/05/12(木) 09:38:30 ID:iv34jsSE
もう一つは、スカルエンペラーとエリスちゃん
以前に目を治してから、エリスちゃんが主治医?であったスカルエンペラーに一目惚れ
それから今もずっと彼女の猛アタックが続いてるんだ
スカルエンペラーの城内個人医院に押しかけ看護婦さんとして就職する
ミリルさんやシアンちゃんくらい四六時中思い人の傍にべったりくっついてる
休みの日はいっしょに医学の勉強。押しかけとはいえ看護婦さんとして彼の役に立ちたい、って言ってたらしい
仲が良くて何よりだし、もうつきあっちゃえばいいのにとも思う
でも容姿にはまったく自信がないスカルエンペラーが言葉を濁してエリスちゃんに叩かれる
もしくはよけいにべったり張り付かれる、というのがいつもの光景になっちゃってるんだ
エリスちゃんの父親であるゼリク王も始めは躊躇していた
けれど、目を治した本人が娘の思い人だと分かってちょっと苦い顔をしながらも祝福してくれたんだよ
もともとは政略結婚として僕に嫁ぐはずだったエリスちゃんだけど、相手が将軍クラスなら身分としても問題なし
めでたしめでたしだ

……でも、姫とエリスちゃんはすっごく仲が悪いんだよね
エリスちゃんは姫がスカルエンペラーを怖がらせたことを今も怒ってるし
姫も姫で今はともかくもともと僕の婚約者として来たエリスちゃんが気に食わないみたい
ミリルさんやシアンちゃんはお姉様って言って慕ってるだけに
二人には仲良くなってほしいと親心として思ってしまう今日この頃だ



それからもう一つ
実は僕、魔王をやめちゃいました
もともと魔族の全てを背負って立つなんて僕には荷が勝ちすぎてるし、自信もなかったしね
本来なら新魔王が経った時点で旧魔王は処刑されるのが魔族のならわし
それでも現魔王の決定により僕は処刑どころか秘書官を任せられている
で、誰が今の魔王をしているのかというと………


403 :弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 最終話:2011/05/12(木) 09:38:55 ID:iv34jsSE
「ほらほら起きて起きて。もう朝だよー」
「むぅ~~。ねえお父様、今日のボクのスケジュールは?」
「朝から夕方までずーっと各国王への顔見せを兼ねた挨拶回り」
「ええーっ! あれ退屈だよぉ~」
「ブツブツ言わないの。僕もついていくから頑張ろう」
「当たり前だよ。だってお父様はボクの秘書なんだから」

うん。僕の娘……兼、妻になった姫が魔王をやってるんだ
就任会議で[若すぎる][人間じゃないか]なんて意見が出ることも覚悟してた
でも蓋を開けてみれば、満場一致で一発可決
姫がどれほどみんなに慕われてきたのか良く分かるね
でも変わった事といったら、僕が[先代様]、姫が[魔王様]って呼ばれるようになったことくらい
それに魔王になっても相変わらず、みんなのマスコット的な扱いは変わっていないみたいだ
ああ、それから新し法律ができたんだっけ

[高位の魔族は秘書(および副官)と常に行動すること。これにはプライベートタイムも含まれる]
[異種間結婚は大いに奨励するものである]
[高位の魔族は離婚を許さない]
[婚姻者を誘惑、不倫関係になった者は、誘ったもの、応じた者共に厳罰に処す]
[夫婦は仲睦まじくあるべき事。仕事よりも家庭を大切にすること]

この五つ
姫が会議にかけたら即可決されちゃったんだよね、これ
何でこの法案がすぐに承認されたのか、その会議の議長に聞いてみた結果がこれ

[魔王様は我々魔族の繁栄のためを思ってこの法案を提出しましたです
 そのお気持ちを無碍にすることなんてあたし達には絶対にできませんです
 それに、かわいいじゃないですか。先代様を放さないための法案を作っちゃうなんて
 その上法案には[高位の魔族]ってなってるです。ってことは、隊長にもそれが適応されるです
 そうすれば、あたしも隊長とず~~~~っと………し、私情なんかじゃないです!
 えっ?浮気程度で厳罰は厳しい? 何を言ってるですか!浮気なんて絶対に許さないです!
 もしも隊長にそんな女が現れたら裁判なんか必要ありませんです! あたしの毒で昇天させてやるです!!]

何が問題かって、議長一人と副議長二人なんだよ
議長がシアンちゃん。副議長がミリルさんとエリスちゃんなことかな
夫達は小難しいことは嫌いだといって出なかった結果がこれ(スカルエンペラーはたまに来るけど)
普段の会議はとっても理知的に進むんだけど、こういった男がらみの法案は過程をすっ飛ばして一発可決されちゃうんだ


404 :弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 最終話:2011/05/12(木) 09:39:17 ID:iv34jsSE
この法案が可決されてから、また姫は僕をお父様と呼ぶようになった
これでもうお父様を取られることもないだろうから、背伸びするのはもうやめたと言われたときは
不覚にもドキッとしちゃったなあ

「早く顔洗って目を覚ましなさい。着替え持ってきてあげるから」
「着替えさせてー。ボクまだ眠いよー」
「バカなこと言わないの」
「……魔王の命令なのに」
「良妻はそんなこと言いません」
「ぶー」

もうすぐ成人しようっていうのに、女の子が頬を膨らませるものじゃありません
でもその姿を可愛いと思ってしまうのは親バカ兼妻バカなのかな
もう少し強く言ったほうがいいのかな?
と思ったとき、突全姫に強く手を引かれ、ベッドに倒れこんでしまった

「ボク、また新しい法案を考えたんだ」
「……言ってごらん」
「[魔族の血統を絶やさないために、世継ぎを作るための営みも公務の一つとしてみなす]っていうのは?」
「あのねえ、それはちょっと―――」
「では、その法案を会議場に持ち込んできます」

窓の外に偶然(って姫は言ってるけど……)休んでた伝令烏がそう言って、止めるヒマもなく飛び立っていった
そうして呆然としてる僕の首に姫の手が回され、強く抱きしめられる。その間、数分

「お父様、大好き。絶対放さないよ」
「あはは……もともと僕は法律でがんじがらめになっちゃってるよ」
「大丈夫。万一法律が撤廃されても、お父様はボクからもう離れられないんだよ。ねっ、[お祖父ちゃん]」
「!?」

僕の手が姫のおなかに当てられる
ぼ、僕がお祖父ちゃん?
お祖父ちゃんってことは、つまり僕の娘の子供?
でもでも、それってもしかして僕の子供でもあるのだからお祖父ちゃんはおかしい?
でもでもでももしかしたらひょっとして、あああああああ………

すっかり混乱しながらも、不意に飛び込んできた第三者、伝令烏の言葉ははっきりと聞こえてきた


405 :弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 最終話:2011/05/12(木) 09:39:34 ID:iv34jsSE

「魔王様、法案は可決されました。会議開始早々にミリル様、シアン様、エリス様による強行採決と相成りました
 なお、そのお三方もこれより法で定められた新公務のご予定となるそうです。では」

言うだけ言ってすぐに空に飛んで行ってしまった。一言文句を言ってやりたかったのに
ちょっとだけため息をつきながら視線を戻すと、姫は満面の笑みを浮かべながら僕を見ていた

「姫、僕がお祖父ちゃんって、それは」
「うん。お父さん兼お祖父ちゃんになるんだよ。これからねっ」

これからってことは、まだ僕はお祖父ちゃんになったわけじゃないらしい
やられた。見事に引っ掛けられちゃったみたいだ
まあもっとも、新しい公務ができたからにはそうなるのも時間の問題なんだろうけどさ
深く唇を吸われながら、ちょっとだけ苦笑いをした




8年前、僕が魔王に就任した際にさらってきた女の子
可愛くて、優しくて、誰からも愛されるお姫様
僕の大事な愛娘
そして新魔王であり、僕の大切なお嫁さん
大変なこともあった。辛いこともあった。でも、僕はこの娘を連れてきたことを後悔はしない
娘だった女の子と肌を重ねることに抵抗はない、と言えば嘘になる
でも、姫はもう子供じゃない
その姫が僕を愛するというのならば、僕もその気持ちに応えよう
もう、子供あつかいはしない

「一つ、聞きたいことがあるんだ」
「法を取り消す方法は秘密だよ。それに、魔王であるボクの承認がなくちゃできないからね」
「そうじゃないよ。姫の、本当の名前を教えて欲しいんだ。昔一度だけ聞いたけど、忘れちゃったんだよね」
「ボクの、名前?」
「うん。僕はこれから姫のこと、名前で呼びたいんだ。もう君は僕の娘じゃなくて、僕のお嫁さんなんだからね」


406 :弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 最終話:2011/05/12(木) 09:39:48 ID:iv34jsSE
一瞬だけ呆然としたけど、僕を見据えた瞳からみるみるうちに涙が溢れ出す
顔を真っ赤にしながら、本当に嬉しそうに笑ってくれた

「やっと言ってくれた。ボクのこと、お嫁さんって……」
「待たせちゃったかな?」
「遅すぎるよ。そう言ってくれたら結婚式を開くんだって、ずっと決めてたんだよ」

そう言うと、ベッドサイドの棚の一番上から小箱を二つ取り出す
その中には、シンプルな銀の指輪が一つづつ

「ボクの名前は彫ってあるの。あとはお父様の名前だけ」
「あ、そういえば僕の名前も……あはは、二人ともお互いの本名を知らないで結婚したんだね」
「笑い事じゃないよ、もう。それじゃあ、せーの、でお互いの名前を言い合おうよ」
「うん」

ちょっとワガママで、とっても嫉妬深くて、独占欲が強すぎるお嫁さん
ここで名前を聞いてしまえば、もう絶対に引き返せなくなる
それでも、何一つ恐怖を感じることもなく、素直に声を出すことができた

「「それじゃ……せーの!」」








おしまい
最終更新:2011年05月14日 23:31