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949 名前:bet all of you ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/05/10(火) 02:35:02.81 ID:7NGZO/yf [3/9]
「…皆様、よろしいでしょうか?」

ディーラーは厳かに、宣言をした。
目の前には人の上背ほどもあるチップ。
そして、その奥でにやついた俺がいた。

俺はベットした同額のチップを隣に置き、軽く指を指す。
――ダブルダウン。
掛金を2倍にすることができるが、次の1枚で勝負が決する。
他の奴らは掛金の大きさからサレンダーをし、実質俺とディーラーの戦いとなる。
…手の内はみえている。
あいつが18より上ということはない。間違いなく。
そして次、間違いなく自分には10以上が来る。
思わず頬が緩む。
今日の晩飯は分厚いステーキにしよう……

ディーラーが忌々しげに自分にカードを配る。
めくると、そこにはハートの女王様。
……21達成だ。
勝利の女神様に感謝をしつつ、正当なる分け前のチップをかき集める。
ディーラーの悔しげな顔を横目に、俺はチップを現金に変えて悠々と店をでる。

そう、俺はプロのギャンブラー。
バカラからポーカー、さっきのブラックジャック
ちょっと変わったモンだがハナフダも、カードであればなんでもござれだ。

しかし、まぁ世の中には金のあるところに人はよく集まる。
例えば、そう、例えばの話だが。
……カジノで大勝ちしたやつのところとかに、ね。

「おう、にぃちゃんさっきはいい勝ちっぷりだったな?」
自分より一回りくらい大きな男が、やけに高圧的な態度でこっちに向かってくる。
「ああ、今回はツイてたよ。今日はごちそうかな?」
ひょうひょうとした受け答えをしながら、金の入ったバッグを握りしめる。
あぶく銭がわいた奴には、大体こんなのが集まる。
「だろうな、だろうなぁ?じゃあ、恵まれない俺にも少し分けてくれないかなぁ?」
べったりとした、それでいて猫の撫でるような声。

……自分で稼げばいいだろクズが。この金は、俺の運と読みで勝ち取ったんだよ…!

「おまえさんに奢る義務はないし、これは俺の老後の貯金でね?人に渡す気なんざないんだ。」
スッと、目の前の男の雰囲気が変わる。
殺してでも奪い取る気なのだろう。右手が後ろのポケットに入った。

「そうかよ、こっちも穏便に済ませたかったんだけどなァっ!」
ポケットに突っ込んだ右手から、白い光が走る。
…ナイフだ。結構刃渡りが大きく、下手に食らったら致命傷モノだ。
となると、俺の取るべき行動はたった一つ。
……逃げる!

「バーカ!お前みたいなド低脳は一生カジノの餌にされてやがれっ!」
無論、捨て台詞も完備。
悪党は常に逃げ口上も考えておかねばならないのだ。



950 名前:bet all of you ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/05/10(火) 02:35:56.06 ID:7NGZO/yf [4/9]
――暫く走り、相手の気配が感じられなくなった頃
俺は大金をバッグに未だにいれたまま、街をさまよっていた。
いや、正直に言おう。
無我夢中すぎて帰り道が分からなくなった。
こういう時はポリ公を頼るのが一番だが、職業柄ポリ公は生理的に苦手だ。
途方に暮れながら、近くの電灯に寄りかかる。

ギャンブラー、己の金と人生を賭けて勝負をする者。
言ってみりゃかっこいい。
だが、それだけだ。
遅かれ早かれ、その命を燃やすほどの生き方は、己を焦がす。
正直、嫌になっていた。
勝てば恨まれる。負ければ蔑まれる。
決して、誰かから認められることのない人生。
……この金使って農家でもやりゃ…少しは報われるかな……
半分自暴自棄な思考になっていた時、
ふと、声が届いた。

「あなた、ギャンブラーでしょ?」
目に入るのは銀髪のロングストレート。
そしてミステリアスな琥珀色の瞳。
…ちょっと自分の人生でも見かけたことがない美人が、
髪をかきあげ、俺の顔を覗いていた。


「…私ね、一度あなたと戦ってみたかったの。」
茶も出さない、カードと、テーブルと、ベッドだけがある質素な部屋。
こいつの部屋に、俺は招待されていた。
「そいつぁ驚きだね。俺と戦うなんざよほどの命知らずか、金持ちのボンボンくらいだよ。」
まぁ、八割ハッタリなんだが。
「それは、それはそれは好都合。」
女は今のハッタリにビビるどころか、にこやかな笑みを浮かべて返してきやがった。
くそっ…手のひらで踊らされてる気がする。
「…まぁ、戦いたいっていうなら、言うだけの金はあるんだろうな?」
俺が皮肉っぽく言うと、女はベッドの下からジェラルミンケースを2個取り出した。
そして、無造作に中を開ける。空中に札束が舞う。
「……1億ドルよ。これで、受けてくれるかしら?」
1億……1億ドルだと!?
かつてない大金を前に、俺のギャンブラー魂は真っ赤に燃え盛った。
あれほど疲れていた心が、一気に燃え上がる。

――最低だ。俺は最低だ。だが、俺はギャンブラーなんだ……!


951 名前:bet all of you ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/05/10(火) 02:36:40.38 ID:7NGZO/yf [5/9]
「いいだろう。受けてたってやるよ。」
この言葉を聴くと、女は少しだけ、ニタリと笑った。
まるで誘い込んだとでもいいたいかのように。

「そう、では特別ルールを言うわね。
 このゲームはお金のほかに、もうひとつやり取りをするの。」
なんだと?後だしにも程があるだろう!
「言っておくけど、あなたに不利益はないわ。
 …負けなければ、だけどね?」
俺に不利益はない、か。要は負けなければいいのだな。
俺に負ける要素はないんだし、特別ルールとやらを黙認してやるか。
「…で、どんなルールなんだ?」

「ゲームは簡単。
 昔なつかしクローズドポーカーよ。
 ルールは、ベットに対して。
 かけるベットは、己の体。
 …目でも、口でも、腕でも内臓でも、
 好きなところをかけるといいわよ?」

…は?
なんだ、この狂気に満ちているゲームは。

「ベットはノーリミット。
 好きなだけ自分の部位をかけなさいな。
 私の1億ドルがつきるか、あなたの体がつきるか……
 ただ、それだけの話。」
まて、俺の体はいくらだっていうんだ。

「体の値段を、教えてもらおうか。」
「これで、どうかしら?」
女はA4の紙を差し出した。
体の各部位、各内臓の値段が事細かに書かれていた。
どれも高価値。4度勝てればあいつをスカンピンにできる。
これなら、俺は勝てる!

「…乗った。だが、後悔するなよ?」
女は微笑む。
「…あなた、こそね?」




952 名前:bet all of you ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/05/10(火) 02:37:43.62 ID:7NGZO/yf [6/9]
「…ストレートフラッシュだ。」
「あちゃ、負けちゃったなぁ。」
今、俺と女はポーカーをしている。
女が、あまりにもギャンブルに対してド素人だったからだ。
ポーカーなら役も少なく、ルール自体もあまり難しくない。
……それゆえに、心理戦こそが真骨頂なのだが。
現在2連勝。
あと2勝で、俺に1億ドルが入る。
1億ドルもあれば、一生遊んで暮らせるだろう。
もうギャンブルから足を洗うのもいいな。ははははははははは………!

「…さて、君に言ってなかったんだけど」
「ん?」
女が、にやりと笑った。
「フォールドしても、君の部位はもらうから、ね?」
言い分はもっともだ。というかほかに掛けてないのだから。
「掛け金は、残りの半分。」
「それじゃあ、ゲーム開始だ。」
お互い、カードを一枚ずつ引く。
俺のもち札は、Kが2枚のAが2枚。そして3だ。
迷わず3をチェンジする。
するとKが3枚。Aが2枚。
……フルハウスだ。
Kが3枚、Aも抑えた。
フォー・オブ・ア・カインドが怖いが、確率的にまだまだ低い。
ストレートフラッシュなんてもってのほか。間違いなく無いな。
この勝負……勝ったな。
目の前の女にニヤリと笑う。
「一応聞くわ。レイズ、するかしら?」
「無論、レイズだ。」
「……コール。」
相手の全額をレイズしたが、この女は平然とコールした。
バカか?次の瞬間には一文無しだぞ?
俺はあきれながら、ショーダウンした。

「Kと、Aのフルハウスだ。」
ま、俺の勝ちで終わりだな……
「ふふっあはははははははははははは!」
な、なんだ?金が無くなって気でも触れたか?
「……ストレートフラッシュよ」
な、なんだと…!?
これでオールインとはいえもち金はイーブン。振り出しに戻ってしまった。
くそっ…千載一遇のチャンスを……
だが、相手は素人。俺にはまだチャンスがある。
勝負は……これからだ!!




953 名前:bet all of you ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/05/10(火) 02:38:25.84 ID:7NGZO/yf [7/9]
「…フォー・オブ・ア・カインドよ。」
――今、俺の目の所有権は、目の前の女に移った。
あれから一進一退、いや、俺が押されていた。
相手はド素人のはずだ。なのに…なんで……っ!?
「これで貴方から取った部位のお金を合わせると…
 あらあら、次のベットで貴方は私のものになっちゃうのね?」
そう、もはや俺の体には、あいつのもち金に耐えられる金がない。
しかし不思議だ。なぜ、こいつは俺の体をそこまで欲しがるというのだ。
「……お前、素人の癖にやけに強いな…
 いや、その前になんで俺の体をそこまで欲しがるんだ?
 値段のつけ方といい、臓器やその他の相場の数倍はしているぞ。」
女は少しキョトン、とした顔をしたが、すぐにまた微笑んだ。
「そうね、それらはポーカーをしながら答えてあげるわ。」

お互い、カードを取り合う。
こんどのカードは、ストレートフラッシュ。
これが、これが決まれば、起死回生の札となる。
「そうね、貴方は覚えていてくれているかしら?3年ほど前の春のことを。」
「…覚えているわけ無いだろ。俺はその日から前は興味が無いんだ。」
突き放すように言う。正直こんなやつに負けたくない。俺の全てを奪われるなんて…まっぴらだ!
「貴方は、一人の花売りの少女にね、お花の代金として、札束をポンっと渡したの。」
「…俺はそんな偽善はした覚えが……」
――あった。たしか、あの時花売りの少女が目に留まって、気まぐれで、札束を突っ込んだ…

「貴方にとっては気まぐれだったかもしれないけど、その少女の世界は変わったわ。」
女が、ダイヤの3、Q、Kを捨てる。

「貴方の気まぐれで、少女の家族は人並みの生活ができるようになったの。」
女が、一枚カードを引く。

「貴方の気まぐれで、少女は恋というものに目覚めたの。」
女が、もう一枚カードを引く。

「貴方がいてくれたから、私は今、ここにいるの。」
女が、最後のカードを引く。

「知ってる?あの一億ドル、私の人生の全てをかけたお金なの。
 今日中に返せば、死神さんは利息分だけの命でいいって。」
女の、手札がそろった。

「……どうして、そこまで」
そこまで、全てをかけてしまっているんだ。
彼女が、こぼれる様な笑みを浮かべる。

「決まってるじゃない。私にとって、貴方は私の命よりも大切な人だからよ。」
……ベットの時間だ。


954 名前:bet all of you ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/05/10(火) 02:39:17.97 ID:7NGZO/yf [8/9]

「レイズ、するのか?」
俺は問いかける。答えはわかっているのに。
「もちろん、レイズするわ。貴方がオールインするまで。」
これ以上、もはや何も言うまい。
この、ストレートフラッシュに全てをかけよう。
最後に勝つのは、きっとこの俺…なのだから……


「……ストレートフラッシュだ。」
ため息をつくように、自分の役を告げる。
これに勝つには、これより強いストレートフラッシュか、ロイヤルストレートフラッシュしかない。
ワイルドカードは、無しだ。
「…最後にもうひとつだけ答えてあげる。
 私が強い理由はね。」
彼女が、手を開く。

「――あなたを、誰よりも愛しているからよ。」

彼女の役は、ハートの、ロイヤルストレートフラッシュだった。