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450 名前:リッサ[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 00:53:59 ID:bGk.6IDk [2/8]


駅から学校に至るまでの道のりは開発もされていないせいか本当に何もない、しかし広い道と歩道、そして木々の合間を抜けたその先、一
本道を外れ、歩道の奥に向った先にそれはあった。
この何もない歩道のさらに奥まった場所に存在する、レストランと地下のダンスホールを備えた複合型の廃墟だ。
設計者や所有者は良く解らないが、どうやらその昔計画された、この辺一体の開発計画に合わせて作られたものだったらしい。
僕は自転車を近くに止め、そして黄色いテープやロープでくくられ立ち入り禁止になった内部に侵入し、そっと裏口の扉を開ける。
裏口の鍵は消火器を収納する鉄製のボックスの内部にある、たぶん今もそこにあるのだろう。

ぎいい…と不快な音を立ててさび付いたボックスの取っ手を引き、中に置かれた…といってももう誰も使うことはないであろう、錆だらけの
消火器を無視して鍵に手をかける。
鍵に付いていたプラスチック製のキーホルダーは二人で取ったプリクラのシールが貼られていた。
この鍵すらもあと数年も放置しておけば、シール同様に劣化し、ゆっくりと朽ち果てて行くのだろうか。
愛との思い出と共に全ては塵のように、時間という空間に霧散して消えていく、そんな考えが脳を巡る、嗚咽は出なくても、目から流れ出る
涙は止まっていなかった。
愛…愛、何で君は死んでしまったんだ、僕は、そう僕は…君を受け入れた、あの時選んだ結末は二人だけがハッピーエンドへと続く路だったはずだ。

愛のことを考えること自体は僕の心をマイナスの思考で縛り続けるようなものだった、それこそ全身を鎖で縛り付けて泥沼に飛び込むようなものだ。
僕の思考はあれからどれほど努力をして、何とか生きていこうと考えて、それでも全くといっていいほど後ろを向き続けている。
しかし手はまるで別の生き物のように動き、がちゃりと音を立てて廃墟の鍵を開ける。
薄暗い廃墟の内部に置かれているのは彼女が用意した家財道具の数々だった、どうもこの廃墟自体もよく解らないが彼女の父親が所有している物件の
ひとつだったらしい。

「ここを僕たちの新居にしよう…なあに、世間や学校なんてもう僕らには必要ないじゃないか?最初からこうすればよかったんだよ…最初から、ね?」
あの日、思い切り頭部を殴られ気絶した僕をどうやって彼女はあの身体でここまで運んできたのか、僕にはよく解らない、少なくとも相当な距離はあっ
たはずだ、冷静に考えればこの家財道具なんかもどこから持ってきたのか…愛が死んだ今となってはよく解らない。
ひとえに愛の力のなせる技なんだろう…愛だけに、彼女は誰よりもそれに忠実だったのだろう。
愛は僕にここで暮らそう、世間から離れて二人きりになればきっと幸せになれるはずだ、もう誰のことも気にしなくてもいいんだから…そう、まるで子供が
いたずらのいいわけでもするかのような口調で僕に語りかけた。
彼女も多分おびえていたのだろう、この期に及んで僕に拒絶されるということに、僕に嫌われてしまうのではないかということに。

451 名前:リッサ[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 00:54:52 ID:bGk.6IDk [3/8]
すみません、タイトル忘れてました

「日曜日の朝が来る」



悪く言えば愛は我侭だった、誰よりも愛情を欲し、それを最大限に求めるあまりに壊れていたのだろう、そしてそれを突破して、僕を不幸にすると考えるよう
な事に及んでまで僕に嫌われることを気にしていた、ナルシストで我侭で、それでいて愛に飢え、誰よりもそれを求めていた。
不快だったか?いや、構わなかった、救いたいなんていう言葉は多分ただの虚飾だ、僕も彼女が欲しかった、愛していた。
埃の溜まった室内を歩き、二人で何度も夜を共に過ごしたベッドに横になる、広い室内に点った野外灯の明かりは煌々と辺りを照らしていた。
うちっぱなしのコンクリートに僕との思い出の写真を貼り、机にはレースのテーブルクロスを置き、そして寝室も出来るだけ女の子らしく飾り付けた。
キッチンや風呂、トイレを完備した、元レストランホール件二人の愛の巣、愛の城としか言い様の無いその建物の中で、それでも彼女は手錠で拘束された
抵抗すら出来ない僕におびえていた。
昔からの付き合いだ、恋人の考えなどよく解る、彼女は結局僕を不幸にしても心の飢えは満たされない、それどころか一番大事なものを失っていくということを
恐れていたのだろう、たった一言の拒絶が、ナイフよりもはるかに精神を傷つける武器になる…そんな事すら忘れるほどに彼女は僕を必要としていた。
僕は彼女に囁いた、君が望むならこの全ても受け入れようと、この命を捧げようと、人生の全てを捨て去ろうと。
覚悟は出来ていた、愛する彼女が自分の他に誰も傷つけないのなら、自分のみを求めてくれるなら、地獄の果てまでもそれに付いて行こうと。
結果僕はどうなったか、愛はその言葉をいぶかしむどころか僕をあっさり解放した、そして言葉で愛を求める彼女を抱きしめて何度もキスをした、そして
稚拙ながらも愛を誓い、お互いに言葉を交わし、濃厚なキスを交わして交じり合った。

幸せだったか?もちろん幸せだった、今まで誰かに愛された記憶の、その全ても持ってしても足りないほどに僕は満たされた。
そして彼女もそう言ってくれた、君とならどこまでも行けると、ずっと一緒に居ようねと。
そして今、僕は一人取り残された、幸せな時間の後に待っていたのは深い深い悲しみと、絶望より深い孤独と悲しみだった。
涙目を堪えてごろりとベッドに横になる、埃っぽいベッドに染み渡る香りは何処か愛のものが混じっているように感じられた。
確実に、今この場所に、彼女の思い出は残っていた、僅かな残滓でも、たとえ地球に隕石が落ちて人類全てが滅んでも、残り続けるであろうそれに僕は涙を
流すしかなかった。
忘れることも消し去ることも出来ないのだ、思い出が、あらゆるものの全てに染み付いている。
僕はそれを求めていた、帰ることのない日々だと解っていても、その全てが戻ってくることを願わずにはいられなかった。

あの日…ここでの生活を始めてから数日たったある日、愛は忘れ物を取りに行きたい、と言って出かける用意をしていた。
僕も行こうかと言ったが、それでは彼女はまたおかしくなってしまうかも知れない…そう気を利かせたのがいけなかったのだろう。
それとも気を利かせずにそう提案したとして、彼女は許してくれただろうか?今では永遠に解らない、笑顔でまた日常生活に戻れただろうか?
ずっとずっとそんな問答を繰り返す、そう、ここは日常と隔絶した、彼女の用意してくれた唯一の空間…それこそ愛の胎内…などと形容したらやはり
笑われるだろうか?
一日たっても戻らない愛を心配して、そっと戻った愛の家で、僕を待っていたのは残酷な現実だった。

452 名前:リッサ[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 00:55:30 ID:bGk.6IDk [4/8]

愛はあの日、家に帰る途中でトラックに跳ねられ、二日後に死亡した、安らかな寝顔ではあったが、口元に出来た傷の縫い後が生々しく、そして人形の
様になった白い肌は僕の心を破壊した。
そう、破壊したと言ったほうが正しいだろう、あの日から今日に至るまで、僕は置き去りにされた愛の日常の残滓となんら変わりない、それこそ愛に依存
しきっていた子供のようになっていたのだ。
二人の失踪に関しては両親に事情を話し、また愛を責めないでくれと土下座してまで頼み込んだ、もちろん僕が生きている以上、死人を責めることは出来
ないだろう、両親にしたってそうだ、いまさらしゃしゃり出てきて僕のことを愛している云々と言われてもお寒いだけだ。

僕だって愛情が欲しかった、甘えたかった、でもそれを両親は完全には満たしてはくれなかった。
枯渇していた愛情を、僕は愛という存在を愛し、愛されることで満たし続けていたのだ。
愛は僕の全てだ、誰よりも僕を理解してくれた、辛いときに一緒に泣いてくれた、話を聞いて慰めてくれた、寂しい僕を迎え入れてくれた。
それなのに、ここに戻ってきても、彼女の家に帰っても、もう愛はどこにも居なかった、残っていたのは思い出だけだった。
彼女は悪いことをしたのだろうか、僕ははっきり言える、何もしていない、愛は悪くなかったと。
そして愛の葬儀も終わり、結局僕は裕香ちゃんの好意に甘えて、愛の家での滞在を続けていた。
一人で居るよりは自殺する可能性も低いだろう…多分了承した両親もそう考えていたんだと思う。

でも、それでも結局今日、学校に通ってみても…僕は何一つ変わっていなかった、抜け殻は永遠に抜け殻のままだったのだ。
もう限界だった、このままどこか遠くに行ってしまおうか、いや、そんな気力もない、外にも出たくない…出来ることなら、あの部屋ではないここで
そう…ここで永遠に愛を思って、泣いて悲しんで過ごすのも悪くない、ここは一番強く思い出の残っている場所だ、だからこそ、ここにいたかった。
意識がベッドに飲み込まれるように沈んでいく、とても眠い、あまり動く気にはなれなかった。

453 名前:リッサ[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 00:55:49 ID:bGk.6IDk [5/8]

僕は眠り続けた、幸いに食事などとる気は起きなかったし、風呂に入るような気力もなかった。
ただ睡眠のみを必要として、赤ん坊のように眠り続ける…そんなことを繰り返していた。
もうどうなっても良かった、生きているのが苦痛なら、後は死を待てばいいだけの話だ、そう考えてまた欠伸をする。
酷く胃が痛い、しかしまだ眠い、もう一眠りしよう、そう考えてベッドに横になる。
その時がちゃり、と、鍵を開けた扉をあける音がする。
誰だろうか?控えめな足音は次第にこの部屋に近づいてくる。
物取りだろうか?それにしては音が小さい…しかし別にいまさら命乞いをする理由も必要もなかった、来るなら来いだ、来るものは拒む理由もない。
そう思いゆっくりと首を上げる、その先に居た人物に僕は声を上ずらせた…ごくりと喉がなる、そしてゆっくりと声を出す。
「誰だ……?…裕香…ちゃん?」
彼女…斉藤裕香は姉と全く同じ服装と、髪型をして僕の前に現れた、そう、あの日、永遠の闇に旅立った姉の愛に合わせる様な服装のまま…。
彼女なりに僕を心配してやってくれているのだろうが、それでも今の僕にその姿は辛すぎた。

「はい…ここにいたんですね…でも、今は…愛と呼んで下さい、そのほうが…その、きっと…和明さんも癒されると思いますから…ほら、私、妹ですから…」
「無茶を言うなよ、君だって知っているだろう?君と愛は似ても似つかない…それに…そんなことをして何になる?君は好きでもない僕の前でその姿をして
…それで幸せになれるのかい?そんなのお互いが傷つくだけじゃないか!?」
「そんな事…そんな事ないです!私!私は…傷つきなんかしない!お姉ちゃんになってみせる!いや、僕になら…僕になら…また和明を癒すことが出来るんだ!
僕はもう君を一人にはしない…だから行こう?和明…僕には君のその姿を見ているのは辛すぎるんだ、もう悲しませたくない、君が涙を流すところなんて見たく
ない…そうだよ、事故にあって死んだのは裕香だったんだ!それなら問題はない…そう、問題はない、だから、だからぁ…行こうよ?行こうよ和明…僕はもう
何も…何も失いたくないんだ!!」
最後には声はうわずり涙目になり、ひくひくとしゃくりあげるような声で彼女は言った、愛をまねた口調はずしんと心に響くものがあった。
無理をして姉の服を着て、嘘でもいいから僕を現実に引き戻そうとしているのだろう…その姿には見るに耐えない辛いものがあった。
涙を流してうわずった声で、それでも彼女は愛のマネをしてまで僕を求めている?…いや、求めているのは多分僕と同じ、日常が戻ってくることなんだろう…。
愛は愛されていた、彼女にも、そして周りにも…本当に消えるべきは僕だったのかもしれない、コレだけ周りを悲しませて、僕も同じところに行こうとしている
のだから…彼女を…裕香すらもここまで追い詰めて何になる、僕はこれほどまでに尽されて、それでいて何になった?…ぐるぐると頭の中で問答を繰り返す。
僕は最低だ…やっぱり誰も愛してはいけなかったんだ…それでも、それでも…愛のことを好きだった、愛していた…だから傷ついて…そして裕香すら悲しませた。
しゃくりあげた裕香に震える手でハンカチを手渡す、そして精一杯の笑顔を浮かべて立ち上がる、そう…せめて、この子だけでも、悲しませてはいけないんだ…僕はもっと
強くならなくてはいけないんだ…。

「行こう、裕香ちゃん…ここはやっぱり来てはいけない場所なんだ…もう、愛はいないんだからね」
力なく、それでも相手に伝わるように、にっこりと笑顔を浮かべ、そのまま手をとって歩き出そうとする、全身酷い筋肉痛でよろける僕に彼女は肩を貸した。
「…はい、でも、約束してください?ひとつだけ…」
「何だい?出来る範囲でならするけど…」
「お姉ちゃんのこと、忘れようとか思わないでください…きっと、受け止めようとするから余計に辛いんですよ?流されてもいいんです、泣いてもいい…だ
けど…だけどそれでもいつか、前を向きながら歩ければ…それでいいんです、だからそうして行きましょう?」
「うん…そう、だね…止めようとしても涙は止まらないものね…そうだよね…無理して忘れることなんてなかったんだ…そうだよね?」
そういい終えると僕はまたわぁわぁと声を上げて涙を流した、裕香はそれをそっと抱きしめる、そして二人で声をあげて泣いた。
悲しみは続く、でも生きる…生きていく、ということは、その不運を受け入れることなんだろう、なら、愛が死んだことで涙を流すのも、立ち止まるのも問題
ではない、いつか、いつか前に進むために、そのために人は涙を流しているんだ。
心なしか心の痛みは少し軽くなった気がした、微笑む裕香はお世辞にも愛には似ていないけれど…それでも、それでもとても…愛によく似た笑顔だった。

454 名前:リッサ[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 00:56:12 ID:bGk.6IDk [6/8]

彼女の涙が収まるのを待って僕は廃墟を後にした、レストランの鍵は裕香に手渡して…いずれ気持ちが落ち着いたらここも綺麗に整理しようと考えていた。
日にちは金曜を過ぎて、さらに土曜日の夜だった…僕のことは皆探していたらしいが、最悪の事態を考えて皆自殺スポット周辺の探索を行っていたらしい。
「きちんと探してくれた人に謝らないとね、僕は死んでいませんって…」
「そうですね、でも…なんだか大分痩せていて…その、幽霊みたいですから、帰ったらきちんと食事とか、取りましょうね?」
一日中眠り続け、痩せこけていた僕の姿を見て、彼女はそう呟く、僕は手渡されたお茶とおにぎりを貰い、それを食べた後にこくりと頷いた。
自転車に乗って帰る途中、僕の心は次第に平静を取り戻し始めていた。
途中、いつも通る道を曲がり、商店街に向う途中の信号近くに自転車を止めた、この信号の交差点をわたる途中で愛は車に引かれ、そのまま命を落とした。
道路には備えられた花がまだ残っていた、僕はそこで手を合わせる、時刻は夜の11時50分、そろそろ日曜日になる時間だ。
「ねえ、裕香ちゃん…明日は掃除をしようか?」
手を合わせた僕に続くように手を合わせる裕香、その目を見て僕は提案した。
「はい…私も手伝います、だから…明日も、一緒にいましょうね?和明さん…」
裕香は僕の手をぎゅっと握り返す、僕も笑顔でそれに答えた。
何日被りに無理なく笑い、食事を欲しいと思って取った、生きている、僕は生きている、悲しいけど、それでも前に歩むことを選んだ。
そう考えて、少し嬉しくなれた、幸せになろう、そう考えられた。

その時、突然激しいクラクションが聞こえた、見れば目の前にはトラックが迫ってきている、慌てて僕は裕香を路肩に押し出す。
ばぁん!!というと音と、全身に響く衝撃、僕は一瞬酷い痛みと浮遊感を味わい…ぐしゃりと、道路に落ちた。
「い…いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!和明さん、和明さん!!!」
必死な裕香の声、でも僕の身体は動かない、痛みもあまり感じない、ありえない方向に手足は向いている、痛みも、血液の熱も、飛び出た臓器も、それ
すらもよく解らなくなった。

目の前が暗闇に包まれる、そしてそのまぶたには笑顔の愛が焼き付いていた。
やっと逢えた、逢いたかった、夢でもいいから逢えて幸せだと…事前に決めた覚悟すら覆すようにそう思った。
次第に世界からは色が無くなってゆく…真っ暗になる、真っ暗に…そう、思考も次第に途絶えていく。
でも、その暗闇に飲み込まれていく感触は、間違いなく愛の抱擁を受けた時と同じ感じがした。
暗い、暗い、でも暖かい、そして、幸せな気分だ、とても満たされた気分だ。
もう何もいらない、そう、一番欲しいものを手に入れられたんだ、僕に日曜日の予定は必要なかった、朝が来ることもなかった。

それでもいい、愛も…そして僕も死んだんだから、この結末なら…もう、本当に二人で居られるのだから…

FIN