※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

510 名前:禁忌の一線 1[sage] 投稿日:2011/05/19(木) 10:31:52 ID:t4WgwQzo [2/6]
「姉さん、飯持って来たよー」
「………」
「今日は下で食える? それとも入っていいかー?」
「…………」

[I'm a thinker.I could break it down.♪
I'm a shooter. A drastic baby♪]

着信
ってことは今日は無理ってことかね?

「もしもし、姉さん?」
『……ごめん、出れない。持ってきて………』

許可を得たので遠慮なく部屋に入る
すると、まあ、なんということでしょう
目の前にはゴミ屋敷が広がっているじゃありませんか。これには匠も思わず苦笑い
よくこんなところで二年間も引きこもっていられるなと感心してしまいます
他人が怖いと言っているので、こういう部屋のが安心できるのかもしれんが
で、姉さんは……いた
ベッドと壁の狭いスペースに細い体を無理矢理ねじ込んでる

「狭いとこが落ち着くの?」
「……うん。もしもパパやママが急に入ってきても、すぐに隠れられるし」
「今日は水曜。お袋はパートで22:00まで帰ってこないし、親父も出張に行ってるぞ」
「あ、そっか」

だからサンドイッチくらいしか作れんぞ、という前に、皿の上のタマゴサンドがもうなくなってる
まるでハムスターみたいに両手で持って一生懸命食べてる姿は、わが不肖の姉ながらも可愛いと想う

「……野菜、嫌い」
「ハムサンドのトマトとレタスくらい食べなさい」
「……うう」
「昨日は何にも食ってないだろ? 我慢して食べてくれよ
 ただでさえ不健康な生活してんだから、せめて栄養くらいはキチンと取ってくれ」
「心配してくれてる?」
「当たり前だろ」

そう言うと、嫌そうな顔をしながらもハム野菜サンドにかぶりついてくれた
えらいえらい、と二年間ろくに整えられていなかった長髪を撫でる
その髪からは、お風呂にもあまり入ってくれないので独特の異臭がする
けれども、俺は気にもせずに撫で続けていた

511 名前:禁忌の一線 1[sage] 投稿日:2011/05/19(木) 10:32:18 ID:t4WgwQzo [3/6]
俺は竹村 良(りょう)、19歳の浪人生
んでこれは姉の沙織(さおり)。二つ年上の元大学生
そこでずっといじめられていたらしく、対人恐怖症を発症
大学は休学状態で引きこもってる
両親も初めは黙認していたけど、今じゃ我慢の限界が来たのかドア越しに怒鳴ったりしてる
しかも飯を二日にいっぺんしか作らなかったりしてんだから陰湿なもんだと思う
だから、二人が家を開ける水曜と金曜
その日だけは、ロクに料理できない俺の飯とは言えどもしっかり姉さんに食べてもらってるんだ
しかし食えない日も確かにあるため、すっかり痩せちゃってる
本当はもっと食わせてあげたいんだが、お袋にバレると面倒くさいことになる
俺はもう説教慣れしちゃってるが姉さんはいちいち怯えて泣きそうになる
だからこそコッソリと食べさせてあげるしかないんだよこれが

「……けぷ。ごちそうさま」
「はい、おそまつさま」

それじゃ、さっさと洗い物しなきゃ
皿洗って拭いて棚に戻す。お袋に気づかれないための証拠隠滅はお手の物よ
……しかし、服をつかまれたままでは下の階に行けないのだが

「姉さん、ちょっと放してくれん? かたづけしなきゃいけないからさ」
「…………五分だけ」

ああ、五分だけいっしょにいてほしいってのか。いじらしいねぇ
なんてふうに思うのは、俺の姉さんのことを良く分かっていないやつだ

「五分で片付けること。すぐに帰ってきてね」
「へーいへい」
「絶対だよ。五分で帰ってきてよ」
「何度も念を押さなくても分かってるよ」

まったく、対人恐怖症のくせに寂しがり屋って矛盾してんじゃないのか? よく分からんが

512 名前:禁忌の一線 1[sage] 投稿日:2011/05/19(木) 10:32:46 ID:t4WgwQzo [4/6]
しかし、この展開は予測できていたため、他の洗物やゴミは既に片付けてある
だから5分で戻るなんて余裕だ。タイムアタックだってできちゃうぜ
皿洗って、拭いて、棚に戻して、うっかり小皿落として割って、掃除機と雑巾で片付けて、割れた皿は庭に埋めた
……ちくしょう、10分オーバーか

「ただいまー。ゴメンちょっと遅!?」

額のど真ん中に目覚まし時計がクリーンヒット
ちょっとまて、これわりとガチで痛い

「……遅いよ。良に何かあったのかと思って、下の階に降りちゃうところだったんだよ
「そりゃ、もっとのんびりしてればよかった。……おー、痛」
「あっ、血……」

あんまり深くはないが、少し切れて血が出たみたいだ

「あ、こんなのツバつけてバンソーコーはれば大丈夫だろ」
「…うん、わかった」

分かったって何が?
そう思ったときには、俺の体は姉さんに包まれていた
171cmの姉さんに比べて俺は156cmしかない。うるせえ、チビって言うな
そのまま、姉さんは薄い胸に俺の頭を抱えながら、額の傷を丁寧に舐めている
おいばかやめろ
歯ぁちゃんと磨いてないだろ。それに体も臭うぞ
と考えるが、んなの自分で虚しくなってくるような嘘だ
本当はこう思ってる

[姉とは言え、濃厚な女性の匂いに包まれながら額に舌を這わせられてるなんてラッキー!]

とさ

「はい。あとは自分でやってね。ここに絆創膏なんてないから」
「あっ……わ、わかった」

しまった、つい名残惜しくて声が出ちまった

「あっ? どうしたのかな、もっと舐めてほしかった?」

久しぶりに姉さんの笑顔を見たような気がする
それがこんなふうに俺をからかうような笑顔でなければもっと嬉しかったんだがな
だから、ちょっとふてくされたような顔を作り、姉さんに背を向ける

「うるせー。姉さんこそ対人恐怖症のクセに何でこんなことができるんだよ」
「良だから、よ。決まってるでしょ? この世界でたった一人の私の味方の良だからできるの
 それと……パパもママもいない日くらい、わたしから目を背けないで、こっちを向きなさい」
「だああ!背中にくっつくな! いいからちょっと離れてろ!」

頼む、今は、今だけはそっとしておいてくれ
俺の下半身の射突型ブレードがさっきのことでのっぴきならない状況になってる姿なんて、死んでも見せられるか

513 名前:禁忌の一線 1[sage] 投稿日:2011/05/19(木) 10:33:06 ID:t4WgwQzo [5/6]
それからしばらく、姉さんとなんでもないようなくだらない話をした
今やってる勉強、最近見たテレビ、俺の友人のこと
本当になんでもない会話。それでも、姉さんは本当に楽しそうに聞いてくれた

[アイムシンカートゥートゥートゥートゥトゥー アイムシューターートゥートゥートゥートゥー♪]

「……電話?」
「いんや、アラーム。もうそろそろお袋が帰ってくる時間みたいだ」

そう言うと、ぎゅっと強く手を握られる
最近のお袋は、姉さんがらみのことだったら意味もなく、どんなことでも声を荒げてくる
俺が姉さんの部屋に入ってたなんて知られたら、二人して怒られるに決まってんだ
何で起こられてんのか最後までわかんないままな
タチが悪いったらありゃしない

「ね、ねえ……」
「明日な。お袋が買い物に出ている間にでもまた来るよ」
「良!」

二度目だ。一日に二度も姉さんに抱きつかれるなんてはじめてだぜ
しかも姉さん泣いてるし。俺なんかやっちまったのか? 
今の射突型ブレードはどうにか矛を収めてるってのに、また臨戦態勢に入っちまいそうだ

「私、知ってるよ。良が浪人しても予備校に行かないのって、私のためなんでしょ?」
 私をこの家で一人ぼっちにしないためなんでしょ?
「ばっ、バーカ。んなわけねーだろ。単に俺は勉強が大嫌いなだけだっつーの」

くそっ、図星だ
親父もお袋も姉さんにきつく当たるなら、せめて自分だけはいつも姉さんの傍にいてあげようと思ったんだ

「ありがとう。良がいるから私は生きていられる。良のためなら、私―――」
「ね、姉さん、ちょっとそろそろお袋が帰ってくるから!な!? ごめんな!明日また来るから!」

そう言い残し、転がるようにして部屋を飛び出して一階の風呂に飛び込む
証拠隠滅のために姉さんの残り香を消すためだ
しかしさっきは、目の前に禁忌の一線が見た気がした
あそこを超えれば、自分達は地獄に落ちると直感的に感じた一線
今までも、少し先のほうに、侵してはならない領域をちらりと垣間見たことはある
もちろんそこを越えるようなことはしない。急いで引き返してきた
けれども、今日の一線はいつもよりもずっと近くにあり、姉さんは自分の意思でそこを越えようとしていたように感じた

―――俺の手を握ったまま