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673 :五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:12:30 ID:KYVdVBUQ
昼休みの終了の鐘はすぐ鳴ってしまって、冬子と長いこと話せなかった。
席に着く前に冬子に今日は俺と一緒に帰ろうと約束した。

「えっ、いいの……?」
冬子は椅子を引きながら驚いた様子でこちらを見た。

「うん。話したいこととかいっぱいあるし……ほかの人と帰る約束とかなければだけど」

「や、私も話したいことがいっぱいあって……」
教室の扉ががらがらと音を立てて開く。先生だ。

「じゃあ後で」
そう言って目くばせをすると、冬子はこくりとうなずいた。

――――。

「起立、礼」

今日は職員会議らしく、五時間目で授業が終わった。
掃除を済ませ、帰る準備をする。
先に準備を済ませた冬子が俺のそばに来る。

「五月くん」

「うん、行こうか」
教科書を鞄に突っ込んで、肩にかける。
疲労の溜まった左肩にずっしりと、教科書の重量を感じる。
今日は金曜日。明日からゴールデンウィークだ。
ゴールデンウィーク中のバイトは午前九時から午後の三時までなので、
一週間ほどいつもの早起きをしなくてもいい。

上靴を脱いで下駄箱に入れる。
外靴を取って履いた。

「冬子、自転車とってくるから、待っててもらってもいい?」

「うん」
昇降口の前に冬子を待たせて、自転車を取りに行く。
籠に鞄を入れて、自転車の鍵を外す。
自転車に乗って、昇降口まで走る。

「行こうか」
冬子の前で止まり、自転車を降りる。

「うん」

時刻は十五時。
自転車を押して、冬子と並んで道を歩く。

バイトは十七時から。
冬子と歩いて帰っても、時間が余るくらいだ。

「……五月くんは」

「うん?」

「ダイエットでもしてるの?」
冬子は心配そうな表情で俺に尋ねた。

「毎日、昼食がパン一枚ってお腹すかないかな。
ここ最近やつれてるよ」

「えーっと……弁当作る暇がなくて」
苦笑いで答える。
実際、自分でも少しやつれたかと思う。


674 :五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:14:38 ID:KYVdVBUQ
「ダイエットじゃないんだよ」

「そうなんだ……」
冬子は少し考えるようなしぐさをした後に、こちらに向き直って言った。

「私が作ろうか?」

「えっ、いや、いいよ」

「でも……」
冬子は今にも泣きそうなくらいの表情を浮かべた。

「五月くん、死んじゃうよ……?」
思わず、ぷっと吹き出しそうになったが、あながち冗談でもないなと思い、唸った。

「んぐー……」
朝食抜き、昼食はパン一個。夕食は並の量。
この食生活を続けて、まだ二週間ちょい。
体の異変と言えばやつれたくらいだと思う。
若いと言ってもバイト、家事、学校の三つをいっぺんにこなすのだ。
体を壊してもおかしくない。
学校を一日休むだけで、五月は勉強面で大きく遅れをとる。

昼食を作ってくれるという提案は、かなり嬉しいことだった。

「でも、いいの……?」
友人とはいえ、五年ほど前に別れたのだ。
五年ぶりに再会して、初っ端から迷惑はかけられない。

「うん、一人分増えるだけだし」

「そうか、かたじけない……」

冬子がふふっと笑った。

「五月くん、武士じゃないんだから……」

「うむ」
そう答えて、今度は二人して笑った。

それから、彼女が転校してからのことを聞いた。
何度か俺に連絡しようかと思ったけど、踏ん切りがつかなくて連絡をしなかったということを聞いて、
少し、安心した。
冬子がてっきり、俺のことを忘れたのかと思っていたからだ。

一通り冬子の話が終わり、疑問に感じたことを質問した。

「ところで、苗字変わってたのはなんで?」

「ああ、えっと。親が離婚する前は母親の姓を名乗ってて……。
お母さん、そういうのこだわりがあったみたいで」

「そうなんだ。今は家事はお父さんが?」

「ううん、私がやってる。
お父さん、仕事が忙しくて。五月くんは?」

「え、あー、今一人暮らししてて」

「そうなんだ……」
少し大きめの交差点に当たる。

「俺ここ曲がるけど……」

「そっか、じゃあまたね」
冬子は手を振って、交差点の横断歩道を渡っていった。

左に曲がって自転車に乗りこむ。

一軒家の庭で躍る鯉のぼりを見ていると、
風で散った桜の花びらが頬をかすめた。


675 :五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:15:30 ID:KYVdVBUQ

――――。

枕もとで携帯が鳴った。
眠りの世界から引き戻され、重い瞼を持ち上げる。
携帯を開けてみると、メールが来ている。

送信者は愛。
ゴールデンウィーク中の暇な日を教えてほしい、とある。

そういえば、昨日あいつ言ってたっけ……。
後でちゃんと返信しておかないと。

布団から起き上がり、目をこする。
カーテンを開け、部屋に朝日を取り入れた。
今日はいい天気だ。窓を開けて空気の入れ替えをする。

洗面所で顔を洗い、タオルで顔を拭いた。

久々の朝食だな……何を作ろう……。

ふと、玄関のドアの郵便受けに、何かが挟まっているのに気付く。

回覧板か……?

郵便受けから、その何かを引き抜いた。
背表紙が赤く、表紙がピンク色をしたノート。

疑問に思って表紙をめくった。
そのノートの中身は、疑問をさらに深めるものだった。
食べ物の名前が羅列してある。

クリームパスタ。グラタン(チーズは控えめ)。シチュー。
水餃子。きなこ餅。辛い物(辛すぎるのは駄目)。
レタス。トマト。ナス……。

何だ、これ……?

そのページは食べ物の名前だけで埋まっている。

首を傾げる。
ページをめくろうとしたとき、インターホンの音が部屋に響いた。

ノートを置き、ドアを開ける。

「おはよう、五月くん」
冬子が居た。

「冬子……」
名前を口にすると、冬子はにっこり微笑んだ。
彼女はワイシャツの胸にリボンをして、黒いカーディガンを上から着ている。
黒い無地のロングスカートをはき、それが彼女の黒い髪にとてもよく似合う。

「こんな朝早くからどうしたのさ……」
俺は部屋を振り返り、時計を見る。

「まだ、六時だぞ……」

「ごめん……なさい……ご飯まだかと思って……」
そういって、冬子は俯いてしまった。
手には重そうな、中身の詰まった鞄を提げている。

「……作ってきてくれたの?」

「……うん」

「そんな、わざわざ……」
冬子は自分のために朝食を作ってきたのだ。
わざわざ作って、ここまで持ってきた。
それに、インターホンで起こさないように、
ドアの前で俺が起きるのを待ったのだろう。
無下に断るのも悪いと思い、ドアを開け、彼女を招き入れる。

「ありがとう。狭いけど、上がって……」


676 :五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:16:18 ID:KYVdVBUQ

「お邪魔します」
冬子は靴を脱いで、部屋に上がった。
床に置いといたノートを取る。

「これ、冬子の?」

「うん……中身見た?」
冬子はノートを俺の手から取り、彼女の鞄にしまった。

「えと、最初のページだけ……」

「そう……」

そういうと冬子は鞄から幾つか、タッパーを取り出した。

「電子レンジ借りてもいいかな?」

「ああ、そっちにあるから……」
俺の指した方向に向かって、冬子は電子レンジの扉を開けた。
冬子が持ってきた料理を温めている間、俺は二人分の食器を出した。


677 :五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:17:09 ID:KYVdVBUQ
腹をさすって、溜息をつく。
今日、もしも冬子が来なかったら、こんな満足感を味わうこともなかったろう。

ふと、なぜ冬子が俺の家の場所を知っていたのか。
疑問が浮かぶ。が、そんなこと、別段気にしてどうなるということでもない。
すぐに、意識を別のところに切り替えた。

冬子はテーブルの上の皿を片づけて、流し台へ持って行った。
本来なら、この家の主である俺が片づけるべきなのであろうが……。

「五月くん、スポンジはこれ使えばいいかな?」

「え、お客に皿洗いさせられないよ」
立ち上がって、流し台のそばまで行く。

「いいよ、私、こういうの好きなの」

「でも……」

「いいのっ!」
冬子は俺とのやり取りを楽しむように笑い、スポンジに洗剤をつけ皿を洗い始めた。

「じゃあ、よろしく」
笑いかけると、冬子はすこし赤くなって俯いた。
その仕草に胸をくすぐられたような感覚を覚える。

畳の上に腰を下ろし、体を捻ってほぐす。

時計を見ると七時半。
八時半までにバイト先へ行かなきゃいけない。

「冬子ー」
皿洗いをしている冬子の後姿に声をかける。

「はーい」

「俺、八時半にバイト行くんだけど……」

「そう……」

「冬子はどうする……?」

「えと……五月くんさえよければ……」
冬子は蛇口をひねり、水で食器をすすぎながら言った。

「あの……ここで、帰るの待っててもいいかな……?」


678 :五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:17:57 ID:KYVdVBUQ

「んー……冬子がそうしたいなら……」

「あ、ありがとうっ!」
振り返って五月くんに笑いかける。

「何時に帰ってくるの?
私、洗濯とか掃除とか……なんでもするから!」

「えっ、いや、えと……午後の三時に帰るけど」

「じゃあ、ご飯作っておくね!」

「あ、ああ、ありがとう……」
五月くんは立ち上がって、伸びをした。
そして、パジャマの前のボタンを外し始める。
つい、ぼーっと着替えを見てしまう。

「見るなよ、エッチ」
ふざけた様に五月くんが笑った。

「あっ、ごめん……」
慌てて目をそらした。顔が熱くなる。

皿洗いを終わらせ、手を拭いた。
五月くんは着替え終わったようで、鏡の前で寝癖を整えていた。

「じゃあ、鍵置いておくから……」
五月くんは靴を履いて、玄関の扉を開けた。

「行ってらっしゃい!」
微笑んで手を振ると、五月くんははにかんで手を振りかえしてくれた。

「行ってきます」
五月くんが外に出て扉が閉まる。
大きくため息をついた。

「さて……と」
することを確認する。
掃除、洗濯、五月くんが帰ってきたときの軽い食事……。

五月くんに頼まれた洗濯物を運び、洗濯機に放り込む。
洗濯機のスイッチを押すと、がたがたと音を立て始めた。

洗濯の間に掃除を済ますことにし、掃除機のコンセントを繋いだ。
掃除機をかけようと部屋に入る。布団が敷いてあった。

「布団片づけてなかったんだ……」
掃除機を置いて、布団を畳もうとしたところで手が止まる。
つい、布団を撫でる。

「…………この布団」
胸が締め付けられる。あふれ出る唾液を飲む。

大きく息を吸い込んで吐いた。

「少しだけ……」
五月くんの布団に倒れこむ。
掛け布団を畳んで抱きつき、ごろごろと布団の上を転がる。
布団の匂いを思い切り吸い込む。
思わず溜息が漏れる。


679 :五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:19:26 ID:KYVdVBUQ
「……はぁ……五月くんの匂い……」
しばらく、布団に抱きついたまま匂いを嗅ぐ。
ふと、全身をくすぐられるような感覚を覚える。
自分の胸を撫で、体を布団に擦り付ける。

「……んぅ……あ……」
抱きついていた布団を離し、広げた。
体の奥が熱くなる。

「ごめんね……五月くん……」
布団の中に体を潜らせる。
カーディガンを脱ぎ捨て、ワイシャツのボタンを外し、ブラを取る。
自分の乳首を擦る。体の奥から熱い吐息が漏れる。

右手で乳首を、左手をスカートの中に突っ込んで、秘部を愛撫する。

「ん……はぁ……ふぅ……」
布団の匂いと、自分の分泌液の匂いが混ざり合って鼻を通る。
背徳感を感じるが、もう、いまさら関係ない。
むしろ、脳の中で背徳感が快感に変換される。
好きな人の布団の中で、自慰をする自分。

これ以上はいけない。という理性。
もっと感じたい。という本能。
二つが混ざり合い、体の中をさらなる快感となり駆け巡る。

「んぅ……あ……っく……」
頬に汗が伝う。吐息はさらに熱く。
自分の体を慰め、愛撫する手指の動きは、さらなる快楽を求めて激しさを増す。

呼吸が早くなり、火照る顔には一筋、もう一筋と汗が流れる。
快感の波が押し寄せてくる。

「……はぁっ……あっ……!」
足をぴんと伸ばし、全身を反らす。
秘部から全身に、どろりとした甘い絶頂が注がれる。
軽く痙攣したような、感覚。首の後ろがピリピリと痺れる。

「五月……くん……」
絶頂の快感が身から引き、大きくため息をつく。

しばらく余韻に浸ってから、体を起き上がらせる。
ブラをつけ、着衣の乱れを直す。

パンツに手で触れると、べとべとになっている。
こんなこともあろうかと、カバンの中には替えの下着が一組だけ入っている。

……我ながら、変なところが用意がいいと思う。
下着を替え、布団を畳んで押入れにしまった。


680 :五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:20:17 ID:KYVdVBUQ
「ただいまー」
玄関の扉を開ける。
玄関で服についた水滴を落とした。
ちょうど、バイト先から帰るときに雨が降り始めたのだ。
靴を脱いで部屋に上がる。

「おかえり、五月くん」
ふと目をやると、洗濯かごの中身が消えていることに気づく。
よく見ると、部屋の床も綺麗になっている。
冬子が掃除をしたらしいとすぐに分かった。

「ありがとう……なにからなにまで……」

「気にしないで、私こそお邪魔しちゃって……」

冬子は申し訳なさそうに俯いて、上目づかいにこちらを見た。

「いや、そっちこそ気にしないで……本当、助かってるし」

「そっか、ありがとう。軽い食事作ってあるから、食べて。
お昼まだでしょ?」

「ん。ありがとう」

冬子は盆に料理をのせて、テーブルまで運んだ。
クリームパスタだ。
ベーコンとほうれん草が入っていて、視覚から食欲をそそられる。

「じゃあ、いただきます」

「ふふ、どうぞ」
パスタを箸で口に運ぶ。

「うん、おいしい」

「本当?よかった……」

「冬子は料理が上手だね、きっといい嫁さんになれる」

「えっ、そんな、あは……」
冬子は顔を真っ赤にして照れる。
彼女の表情を見て、思わず笑みがこぼれる。

「ふぅー。ご馳走様」
量は少し足りない感じがするが、今の時刻は午後の四時。
夕食間まであっという間だ。足りないくらいがちょうどいい。

「あ、そうだ、勉強教えてほしいんだけど……いい?」
食器を流し台に運び、水にさらす。

「うん、いいよ」
鞄の置いてある部屋に行き、数学Ⅰの問題集と筆箱を鞄から取る。

「12ページから……えっと」
ぺらぺらとページをめくる。

「16ページまでだよ」
冬子はにこにこしている。
問題集をテーブルの上に置く。椅子に腰かけると、冬子は俺の隣の椅子に腰かけた。

「じゃあ、とりあえずできるところは自分で……。
分からないところあったら言ってね」

「ん。ありがとう」
ノートを開いて、問題と答えを書いていく。
かりかりという音が部屋に響く。
冬子が俺の手元を凝視している。俺と冬子の距離が思ったより近くて、少し緊張する。

「五月くん、そこの公式違う」
冬子の声で我に返った。

「えっ、ああ、そっか……」
慌てて計算式を消し、新しい計算式を書きこむ。
それから何度か冬子に教えてもらったり、訂正をされたりで、久々に実のある勉強をした気がする。

俺が問題集を閉じるころ。時計を見ると六時近くになっていた。


681 :五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:23:20 ID:KYVdVBUQ
「そろそろ家帰った方がいいんじゃないか?」
五月くんは時計を見て言った。
帰れ。と言われているわけじゃなく、
単純に心配してくれているのだと分かっていても、寂しさを感じる。

「うん……そうだね」
私は椅子から立ち上がり、スカートの皺を整えた。
五月くんはカーテンを閉めようと窓際まで歩くと、あー、と声を上げた。

「すげぇ雨……」
その声を聞いて、私も窓際まで行き外の様子を見る。
ザーザーと雨に打たれている屋根が、音を立てている。

「冬子ー……どうする?傘貸すよ?」
五月くんの眉がハの字に下がっている。
申し訳なさを感じる。

「もしかして、自転車?」

「うん……」
私がそう言うと、五月くんは大きく息を吐いた。

「雨、止むまで家に居る?」
心の中でガッツポーズをする。
表情は申し訳なさそうな顔のまま保って、私は謝罪した。

「うん、ごめんね……」

「気にするなよ、家事をしてくれたお礼だ」
五月くんは微笑んだ。

「夕飯にしよう」


682 :五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:24:43 ID:KYVdVBUQ
五月くんはそっぽを向いて言った。
まるで、私に表情を見られたくない様に。

「いいの?」

「むぅ……冬子が嫌じゃなければ。
夜中に自転車ひいて帰るのもあれだろうし……」

「うん、ありがとう。
……じゃあ、お言葉に甘えて泊まらせてもらうね」

「着替えとかは我慢してね……悪いけど」

「うん」

「パジャマは貸せるけど……下着はないから」

「ありがとう」

「さて……お風呂沸いてるけど、先と後どっちがいい?」
風呂。という単語に思わず反応する。
先に入るか、後に入るか。
五月くんは私に気を使って、どちらがいいか聞いたのだろうが。
正直かなり迷った。

先か後か。どちらも大きく意味が異なってくる。
先をとれば、私の浸かった湯を五月くんが使うことに。
後をとれば、五月くんの浸かった湯を私が使える。

どちらがより……。
はっと我に返る。
何を私はこんなことに真剣になっているんだろう。
これじゃ、変態みたいじゃない。
そう思うと顔が熱くなった。

ひとまずやましい気持ちを冷ますことにする。

「わ、私が後に入るよ」

「そっか、じゃあお先に失礼」
五月くんはタンスからタオルと着替えを取り出し、部屋を出る。
部屋を出た直後、思い出したようにくるりと私の方を向いた。

「そういや、ここの風呂、脱衣所がないから……」
五月くんは照れるように頬をかいた。

「えと……お互い見ないようにしようね」

「あ……うん……」


683 :五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:26:15 ID:KYVdVBUQ
部屋を出て、風呂場に向かった。

風呂の戸の前で、衣服を脱いでいく。
普段は家に一人きりのため意識してなかったが、
冬子が居ると思うと何か、くすぐったいような恥ずかしさを覚えた。

脱いだ服を洗濯かごに入れ、風呂場に入る。
体を流し、髪を洗う。お湯で泡を洗い流し、湯船につかる。

浴槽のふちに肘を置き、大きく溜息をつく。
ネガティブな溜息ではなく、どちらかというと幸福感から漏れた溜息だ。

思えば、冬子と再会して二日。二日だ。
昔、友人だったと言っても、五年前の話だ。
彼女と以前と同じように、仲良く話せていることに喜びを感じる。
会話にぎこちなさがあったのは最初だけ、
二日という短い期間で、彼女との距離は五年前と同じに縮まった。

俺が、中学生の時。
冬子のことを忘れたと思っていたけど……。
それは、冬子に忘れられたと思い込んで、
卑屈になって、自分から無理に忘れたのかな……。

浴槽の湯を手ですくって、顔にばしゃりとかける。

もしかしたら、ずっと心の奥底。

俺は彼女を想っていたのかもしれない。

浴槽から出て、風呂場の戸を開けた。
湯気と共に風呂場からゆらりと出る。
五月とはいえ、雨が降っているのだ。部屋の空気が冷えている。
火照った体に対して、その冷えた空気が心地よい。

タオルで体を拭く。
下着を身に着け、上からパジャマを着る。
洗面所で歯を磨き、部屋に戻った。

「冬子ー、上がったよー」