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344 :ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:42:58 ID:DJbhkvVU
 どうしてこうなった
 これが、今の千堂善人の心境だった。
 幼馴染のオレ女、色気なんて一かけらもないと思っていた天野三九夜が美少女としてイメチェンを果たした。
 それはいい。
 当初こそ衝撃度は高かったが、三九夜が女性らしい恰好をすることは悪いことではない。
 正直、それから数日たった今でも、随分ドギマギさせられるところだが。
 時折竹刀が飛んでくると、逆に「サクらしい」と安心するくらいだ。
 そう、そうした時でないとサクらしさを感じない。
 もっと言えば、幼馴染が随分と遠い存在になったように感じられるようになってしまったのだ。
 勿論、普段のように一緒に軽口をたたき合いながら登下校もするし、部活でも一緒。
 だが、それでも二人が気軽に話す時間はほんの少しだけ少なくなった気がする。
 もっと言えば―――三九夜とキロトとか言う長身の少年が話す時間が圧倒的に増えた。
 現に、今も彼と熱心に話をしている。
 「あ、笑った」
 その様子を遠目に見て、善人は思わず呟いた。
 三九夜があんな笑顔を善人に向けたのはいつ以来だろうか。
 「むー、また千堂くんよそ見してる!」
 目の前で話をしていた二葉が、善人の顔を前に向けさせた。
 現在は休み時間。
 ちょうど善人と二葉が二人きり談笑しているときだった。
 普段なら、無理やりにでも三九夜が絡んできて3人で、となるのだが、御覧の有様であった。
 「そんなに天野さんが気になる?男の子はかわいい女の子が好きだもんね!」
 「それは君も同じだろ?」
 「ウン、かぁいいの大好き!」
 お持ち帰りしたーい、と楽しげに言う二葉。
 素直にそう言える二葉が、善人には羨ましかった。
 「僕はそういうのじゃなくてさ、単にあの2人ちょっと仲良くなったなって思っただけ」
 「ちょー仲良くなったよね!」
 「一文字違う」
 いや、2文字か?
 それはともかく。
 「やっぱり気になるの、かな?」
 「べべべべべべべべべつにそんなことは無いでござりますですよ!?」
 「キャラ変わっちゃってるよ」
 クスクスと笑う二葉。
 「やっぱり、幼馴染に先に恋人ができちゃうと、さみしい?」
 「ここここここここここ恋人ぉ!?」
 すっかり声が裏返っていた。
 「え?違うの?」
 素で疑問に思われた。
 「いっや、その……」
 改めて、二人の姿を見る。


345 :ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:43:16 ID:DJbhkvVU
 三九夜は長身の少年と話していて、随分とはしゃいでいるように見える。
 一方の少年は、いつものように口数は多くないようだったが、善人らに対するものより、とても穏やかな表情をしているように見えた。
 三九夜の言葉に、少年が糸のように目を細めて笑う。
 普段の剣呑な表情と比べて、ずっといい笑顔だった。
 あの無愛想な少年にそうした表情をさせられる三九夜、それだけで、2人の絆の強さが感じられるようだった。
 「女子の間で最近噂だよ!」
 二葉が追い打ちをかける。
 「最近、あの2人付き合ってるんじゃないかってさ!」
 「付き合ってる……ってマジなの?」
 「んー、私も本人から聞いたわけじゃないんだけど、結構信用できる噂だと思うよ!だって『放導官(ルーモア・ルーラー』さんの噂だし!」
 二葉の言う『放導官』の噂は善人も聞いたことがあった。
 なんでも、人に知られていない様々な情報を噂として流す、学園きっての情報通だとか。
 「アイツ、そんなこと一言も言ってなかったのに……」
 「やっぱり、照れ臭かったのかもよ。そう言うのって、親しい間柄だと逆に言いだしづらかったのかも」
 二葉の言う通りかもしれない、と善人は思った。
 ただでさえ、以前から『女らしくない』、『色気なんて全く無い』と三九夜に言い続けていた善人だ。
 そんな相手に「恋人ができた」と言った日には……
 「指さして笑われるって思われたのかなぁ」
 「何気に千堂くんってキッツイところあるもんね!」
 「そう?」
 善人自身はあまり自覚は無いのだが。
 むしろ、自分のことを白い鳩のように穏やかな男だと思っていたのだが。
 「ソレって、実はそんなことないって言うフラグだよね!」
 「人の心を読まないでよ……。やっぱり言うことキツいかな、僕」
 「ちょっとキツいよ!」
 「そっか……」
 「私は好きだよ!」
 と、勢いよく言ってから顔を真っ赤にして目を逸らす二葉。
 思わずこちらまで赤くなってしまいそうなので、そういうのは止めて欲しい、と善人は思った。
 「ええっと……ありがとう?」
 「い、いえいえ」
 たがいに目をそらしながら言う善人と二葉。
 「なんて言うか、キツいって言っても千堂くんってキホン良い人だし、話してるとスパイシーって言うか面白い、って言うか……ウン、そんな感じで、良い、と思うよ」
 何故かつっかえながら、二葉は言葉を続けた。
 それは、一体どういう意味での『良い』なのだろう。
 そう言えば、キロトと呼ばれる少年も『良い』という言葉を使っていた。
 以前、善人と三九夜の関係を聞いてきて、善人が幼馴染の腐れ縁、と答えた時に。
 「良いな」
 と。


346 :ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:43:34 ID:DJbhkvVU
 授業中も「三九夜とキロトが付き合ってる」という噂が、善人の頭から離れなかった。
 なぜだろうか、と善人は考える。
 彼にとって、三九夜はいつも乱暴で、いつも口が悪くて、その癖いつもベタベタひっついてきて、いつも一緒にいる幼馴染で、それだけのはずだったのに。
 いつも。
 その、『いつも』がどれだけ当り前になっていたのかが気付かされる。
 当り前で、どれだけ大事だったのか。
 幼いころから、善人と三九夜は一緒にいた。
 この夜照学園に2人で進学することが出来たときも。
 剣道でボロ負けしたときも。
 嬉しいときも、悲しいときも、一緒にいた。
 一緒にいて、その想いを共有してきた。
 共に笑い、共に怒り、共に泣いた。
 それがどれだけ大切なことだったのか、大好きなことだったのか、気付かされた。
 善人は、三九夜と登校するのが好きだった。
 善人は、三九夜と遊ぶのが好きだった。
 善人は、三九夜と剣道をするのが好きだった。
 善人は、三九夜と話すのが好きだった。

 失って、初めて分かった。

 善人は、三九夜が好きだったのだ。


347 :ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:43:53 ID:DJbhkvVU
 その後、善人は三九夜と何も話そうとはしなかった。
 どうにも、朝に見た三九夜の笑顔が頭にチラついて離れないのだ。
 キロトと呼ばれる少年に、三九夜が向けた笑顔が。
 それをもう一度見るのが、三九夜が少年に笑いかけるのを見るのが、どうにも辛くて、どうにも胸が締め付けられる思いがして。
 午前中の授業が終わると、善人は昼食も食べずに教室を出た。
 しかし、教室を出ても、
 「ねぇ、知ってる?剣道部の天野さんが―――」
 「ウン、付き合ってるんだって、天野さんと―――」
 「天野部長がレンアイなんてねー ―――」
 「相手が、生徒会の―――」
 そんな噂をする声ばかりが耳に入る。
 聞きたくない。
 どこか、人のいないところに行きたい。
 逃げるように廊下を走り―――気が付けば、教室のある中等部第二校舎の最上階、その更に上まで来ていた。
 ドアを開けば屋上だ。
 本来は立ち入り禁止であり、施錠もされている筈なのだが、ドアノブを回すとあっさり開いた。
 屋上を休み時間に常習的に使っている生徒、九重かなえともう一人が鍵を外していることなど、善人の知る由も無い。
 ともかく、善人は見たところ人のいない屋上に入り、その真ん中で寝転がる。
 見上げると、空が見える。
 広い空が随分と近くなったような気がするが、手を伸ばしても届かない。
 まるで初恋のようだ―――と善人は思った。
 「柄じゃ無い」
 自分のメルヘンチックな考えに自嘲する。
 初恋は実らない、というジンクスはしばしば漫画や小説でも言われることだが、善人の場合でもそうらしい。
 けれども、漫画や小説と違うのは、相手を好きになる何か劇的な理由が無いことだった。
 「ま、だからこそ気が付かなかったんだけど」
 自分の馬鹿さ加減が嫌になる。
 失って初めてその大切さに気がつくなんて。
 そんなことなら、もっと三九夜を邪見にしなければ良かった。
 そんなことなら、もっと三九夜を大切にすれば良かった。
 そんなことなら――――もっと早く、三九夜に言えば良かった。
 言えれば良かった。
 「好きだ」と。
 そんな後悔をしても、もう遅いのだろう。
 噂通り、三九夜と長身の少年はほぼ確実に恋仲だ。
 今だからこそわかる。
 少年に笑いかけた三九夜の顔は、恋する乙女のものだ、と。
 あんな三九夜を見たのは数年ぶりだ。
 その頃までは、あんな邪気の無い顔を善人に向けてきたものだった。
 それが、いつの頃からかシニカルな笑みにとって代わっていた。
 「祝福、してあげるべきなんだろうなぁ、あの2人のこと」
 ずっと剣道をしていて、色恋になんて縁の無かった三九夜のことだ。
 この機を逃がしたら次の恋があと何年後に来るか分かったものではない。(こんなことを考えているから二葉に「キツい」と言われたのだろうが)
 だから、三九夜たちを、三九夜を祝福してやるべきなのだろう。
 三九夜の恋を、応援してやるべきなのだろう。
 理屈では、それが正しいと分かっている。
 けれども、感情の部分がそれに逆らって暴れている。
 どうしようもなく、暴れている。
 自分にあの笑顔を、昔のように向けて欲しい。
 自分ともっと話をして欲しい。
 自分ともっと剣道をして欲しい。
 自分ともっとずっと一緒にいて欲しい。
 「未練、だよなぁ」
 と、善人は呟いた。
 今更、そんなことを想うなんて。
 今までそんなこと全く考えていなかったのに。
 「僕は、ピエロだ」
 そんな呟きが、風に乗って消える。


348 :ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:44:10 ID:DJbhkvVU
 同じ頃、こんな会話がされていたことなど、善人は知る由もない。
 「だーもー!ゼンの奴、学校中走り回って探しまわったのにどこにもいやしねぇ!」
 「走り回ったって……。天野さん、持ってるお弁当、中身大丈夫?」
 「ああ、大丈夫だ、キロト。そこはサイコーに細心の注意を払ってるからな。中身は1ミリも崩れてねぇ」
 「そっか、アマノジャク。良かった」
 「けど、愛妻弁当があってもそれを渡す相手がどこにいるのか、だな」
 「さっき、他のクラスの人に聞いたら、第二校舎の上の方に行く千堂を見たって言ってた」
 「へぇん、聞き込みなんてしてたのか。無愛想人見知りヤローの癖に」
 「情報は得られた。ただ……」
 「ただ?」
 「行く先々で『天野さんと付き合ってるんじゃないの?』って聞かれた」
 「あー、オレも同じよーなことを途中で聞かれたぜ」
 「言葉の意味が全く理解できない」
 「どうしてこーなった」
 「……」
 「……なぁ、大丈夫だよな。ヘンな噂でオレの……その『必殺!愛妻弁当と一緒に告白超作戦』がどうにかなったりとか、しないよな」
 「そのネーミングはやっぱりどうかと思うけど……。でも、大丈夫、他の人がどんな下らない噂してても、千堂がそのお弁当を食べれば天野さんの気持ちは絶対伝わる」
 「だよ、な。しっかし、ゼン。『第二校舎の上の方』ってどこにいるんだ?上の階は探したぜ?」
 「ひょっとしたら、屋上にいるのかも。施錠なんてあって無いようなものだし」
 「立ち入り禁止じゃ無かったか?っつか、何でそんなこと知ってンだよ、キロト」
 「……」
 「ロコツに目ぇ逸らすな。まぁ、ツッコミ入れてる暇はねぇ。早いとこ屋上行くか!」
 「俺も行こう」
 「ああ、そして遂に伝えるんだ。ゼンに、好きだって」
 「大丈夫、何度も失敗して、それでもあんなに努力して完成させたんだ。きっと上手くいく」


349 :ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:45:26 ID:DJbhkvVU
 空を見上げる善人の背後で、屋上の扉が開く音がした。
 「キロトくん……」
 体を起こし、そちらの方を見ると、会いたく無かった相手がいた。
 「俺だけじゃ無い」
 少年の言葉と同時に、1人の少女が姿を現す。
 「サク……」
 「よぉ、ズイブンと手間掛けさせやがって。こんなところにいたのかよ」
 女子制服姿とはいえ、いつものようにシニカルな笑みを浮かべて三九夜が言った。
 長身の少年に向けるような、幼少期に善人に向けたような、満面の笑顔はそこには無い。
 「何の用?」
 「スネるなよ、ガキの頃じゃあるまいし。しっかし、屋上に1人とは、いかにも『悩める青少年』って感じだなァ」
 「……」
 よくよく見てみると、近づいてくる三九夜の、絆創膏にまみれた手には袋に入った弁当箱が握られている。
 扉側にいる長身の少年はどうなのかは分からないが、ひょっとしたら自分の分を持ってるのかもしれない。
 恐らく、3人で弁当を食べよう、とでも誘いに来たのだろう。
 『そして、自分たちの仲の良さを見せつけるつもりなんだ―――!』
 自分の中で、理不尽な嫉妬の炎が燃え上がるのを感じる。
 「なーに悩んでるんだ?青少年」
 そんな内心が分かるはずもなく、三九夜はシニカルな笑みで楽しそうに言う。
 良く見たら三九夜の額には緊張で冷や汗さえ浮かんでいるのが見てとれただろう。
 しかし、それに気づかぬ善人には三九夜の言葉が自分を嘲笑ってるようにしか聞こえない。
 「当ててやろうか。恋か?」
 恋
 その言葉に善人は思わず拳を握りしめた。
 「恋煩いには愛情のこもったモンを食べるのが一番だな、ウン。って、何言ってるんだろうな、オレ。ええっと、まぁ……」
 何故か顔を赤くし、四方八方に目を動かしながら三九夜は言った。
 そんな仕草さえ、善人は見逃してしまう。
 ただ、『愛情のこもったモン』という言葉だけが引っ掛かる。
 誰に対しての愛情?
 決まっている、キロトと呼ばれる少年への愛情に違いない。
 「とにかく、食え」
 ズイ、と善人に弁当箱が差し出される。
 三九夜らしく、無遠慮とも言える仕草。
 けれども、それが善人の想いを逆なでする。
 理不尽だと自覚しながらも、感情が抑えきれない。
 気が付いたら、弁当箱を手で払いのけていた。
 それには飽き足らず、屋上のコンクリートに落ちた弁当を踏みつけにしていた。
 安い作りの弁当箱は、剣道で鍛えた善人の足であっさりと崩壊する。
 それだけでは足りず、何度も何度も踏みつける。
 踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけにして、踏みにじる。
 「食べさせたい相手は、僕じゃ無いだろ?」
 ギロリ、と自分でも分かるほどに激しく三九夜を睨みつけた。
 三九夜が息をのみ、絶望的な表情をするのが見てとれた。
 それを無視しして、出口へと向かう。
 出口の前には長身の少年がいる。
 「やぁ、キロトくん」
 自分よりも背の高い相手を睨みつけ、善人は言った。
 「事情は聞いたよ。サクとお付き合い始めたんだって?おめでとう。心から祝福させてもらうよ」
 皮肉をこめて、嫉妬を込めて、厭味ったらしく善人は言う。
 「いや、それは……」
 急に悪意に満ちた言葉をぶつけられ、戸惑う少年。
 「僕の知らないところで、『僕の』幼馴染と随分よろしくやっていたみたいだねぇ。いや、だからといってどうこう言うつもりは無いよ、所詮僕とサクはただの単なる幼馴染だし」
 「お前は、誤解してる」
 「誤解?」
 ハッ、と鼻で笑って善人は言った。
 「照れ隠しをする恋人たちは、いつだってそう言う。いいよ、そんなことしなくたって。勝手に2人で幸せにでも何でもなればいいんじゃない?でも……」
 動けない少年の横を素通りしながら、善人は言った。
 「僕に見えないところでやってよ」
 そう言った善人の顔は、ひどく醜く歪んでいたことだろう。
 「お幸せに」
 最後に、そう厭味を言って、善人は走り去った。


350 :ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:46:16 ID:DJbhkvVU
 「千堂!」
 背中に、少年の呼ぶ声が聞こえた。
 彼があんな大きな声を出すのを初めて聞いたが、善人はそれを無視した。
 後に残されたのは長身の少年に三九夜、そしてボロボロになった弁当だけ。
 「天野さん……」
 長身の少年は、一瞬だけ善人を追うかどうか迷ったが、三九夜に気遣わしげに近づいた。
 「何で、かなぁ……」
 無残な姿になった弁当を見降ろして、三九夜は言った。
 「あんなに失敗して、あんなにリトライして、あんなに努力して、あんなに頑張って、絶対上手く行くって信じて……信じようとして……なのに、なんでかなぁ」
 弁当の上に、滴が落ちる。
 「何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何のせいかなぁ!」
 顔をあげ、三九夜は少年の方に振り向いた。
 涙で顔を濡らし、悲しみと―――それ以上に憤怒にまみれた形相で!
 「お前のせいだ!」
 少年に向かって三九夜は叫ぶ。
 「お前がいなけりゃこんなややこしいことにならなかった!失敗なんてするはず無かった!お前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだ、よ、なぁ!」
 三九夜は一気に踏み込み、少年の懐に飛び込む。
 同時に、胸ポケットから銀の刃を取り出す。
 ドン、と少年の腹に突き刺さる生々しい手ごたえ。
 「お前さえいなければよぉ!」
 ナイフに腹を突かれ、血を流しながら、少年は三九夜が初めて自分の家に来た時に言った言葉を思い出してた。
 ―――そう言う手合いは滅多刺しにしてやるまでよ―――
 どうやら、それはこう言う意味だったらしい。
 「天野……さん……」
 ナイフを引き抜き走り去っていく、憤怒を抱いた、しかしどこか悲しげな後ろ姿を見ながら、少年は地面に倒れた。