404 :ヤンオレの娘さん 第五回戦  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 15:57:45 ID:AvGCXdH2
ヤンオレの娘さん 第五回戦 じゃいあんと・ですとろいやー  #DSlAqf.vqc

 その後の昼休みの時間、善人は二葉と共に校内の中庭にいた。
 緑が多く、ベンチなどもあり、話をするのには悪くない場所だ。
 ちょうど、今はほとんどの生徒が校庭にでも言っているのか、善人以外に人はいなかった。
 「あー、そんなことが……」
 いつも元気な二葉が、さすがに少し沈んだ声音で言った。
 あの後、気が付けばことの一部始終を二葉に打ち明けていた。
 嫉妬心から三九夜の弁当を踏みつけにしてしまったこと。
 2人に辛辣な言葉をかけてしまったこと。
 自分の想いも含めて、全て。
 二葉は、それを何も言わずに話を聞いてくれた。
 本当に友達想いの良い人だと、善人は思った。
 「正直どうしたものか分かんないや。ううん、本当は2人を応援してやるのが一番だって分かってる。でも―――」
 善人は自分の想いを言葉として口に出す。
 「僕はサクのことが好きだったんだ」
 口に出すと、更に失恋の苦みが広がる。
 同時に、自分のしたことへの罪悪感も。
 「だったら、ちゃんと謝んないとだね」
 静かに、優しげに二葉が言った。
 「お弁当を駄目にしてごめんなさい、ひどいこと言ってごめんなさい、って。そうすれば、分かってくれるよ。だって、2人とも良い人だもん」
 「でも……」
 正直、心の整理が付かない。
 謝って、仲直りをしても、やはり2人は似合いのカップルで。
 それを、見せつけられ続ける訳で。
 「また、酷いことをしてしまいそうで」
 呟くように、善人は言った。
 「失恋の痛み、ってことだね」
 嘆息しながら二葉は言った。
 しばらくの間、無言の2人。
 「ねぇ、千堂くん」
 沈黙を破ったのは、二葉だった。
 「失恋の痛みを忘れる一番の方法は、新しい恋をすることだってよく言うじゃない?」
 「……え?」
 善人が彼女の方を見ると、顔を赤くして真剣な面持ちだった。
 「だから、新しい恋をしてみると良いんじゃないかな―――私と」
 そう語る二葉はとても真剣で、とても、冗談を言っているような調子では無い。
 「え、何で、いきなり……」
 「いきなりじゃない」
 困惑する善人に、二葉はまっすぐに言った。
 「委員長同士になってから、何か気になってて、一緒にいるうちに、益々好きになってた、千堂くんのこと」
 千の偽りも万の嘘も無い、まっすぐな想いを善人に向ける。
 「今すぐ答えてとは言わない。でも、これだけは言わせて」
 そして、二葉は言った。
 「好きです。私と付き合ってくれませんか?」
 意外な申し出に、善人は驚く。
 驚き、迷う。
 確かに、二葉は明るいし、友達思いの良い子だし、胸も大きいし。
 友達として一緒に居ても楽しいし、このまま言われるがまま流されるままに友達から恋人になっても、きっと楽しいだろう。
 三九夜への想いを紛らわすこともできるだろう。
 けれど。
 それは、二葉の想いを逃げ場所にするということだ。
 彼女の想いを利用するということだ。
 二葉が善人のことを本気で好きなのは良くわかった。
 本気の想いだからこそ、失恋の痛みを忘れるために利用するような、不実な真似をする訳にはいかない。
 本気だからこそ、今の善人が応える訳にはいかないのだ。
 それを二葉に伝えようとした瞬間。
 「よォ、ぜン」
 破壊者(デストロイヤー)が、姿を現した。


405 :ヤンオレの娘さん 第五回戦  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 15:58:30 ID:AvGCXdH2
 夜照学園中等部第二校舎屋上で、腹からだくだくと血を流しながら、しかし長身の少年はまだ辛うじて生きていた。
 最初の一瞬こそ痛みのあまり気絶していたが、半ば無理やり意識を覚醒させ、立ち上がろうともがく。
 「動かない方が良いんじゃないかなー、傷が開きそうだし。ま、どっちでもいいけどねー」
 もがく少年に、背後から声がかけられる。
 セミロングの艶やかな黒髪に、中等部女子制服冬服、黒タイツと肌の露出を徹底的に拒絶した服装。
 「九重か」
 「やほー、救護班いるー?1人だけどー」
 そう言って九重かなえは救急箱を片手に少年に歩み寄る。
 「……頼む」
 「おけー」
 答えた少女は、少年の制服のボタンをはずし、傷口を露わにさせる。
 「ひょっとして見てた?」
 「ウン。知ってるでしょ、この屋上ボクの縄張りだってさ」
 少年の問いにあっさりと答える九重。
 「あの場でボクが出てったってしょうがないじゃん?あ、怒らないでねー。これでも急いで保健室から救急箱盗ってきたしー」
 「怒らない」
 包帯を撒かれながら答える少年。
 「もし九重まで刺されてたら、俺が困る」
 「またまたー」
 少年の腹に包帯を巻きながら、かなえは目を細めて笑った。
 笑い飛ばした。
 「ねぇ、九重」
 治療を受けながら、少年は言った。
 「なにー?」
 気楽な調子で答えるかなえ。
 「俺のせいなのかな、やっぱり」
 いつものように淡々と彼は言う。
 「俺が、余計なお節介を焼いたから、あの2人はあんなことになったのかな?」
 淡々と彼は言う。
 声だけは、淡々と。
 拳を握りしめ、悔し涙を流しながら。
 「キミのせいじゃない」
 かなえは答えた。
 「キミが何かしてもしなくても、あの2人はきっとあんな風になっていただろうね。その経緯が変わっただけの話じゃない?だって―――」
 狐のように目を細め、かなえは笑う。
 「たかだかキミ1人が何かしたくらいで、物事の結果なんて変わる訳ないじゃん」
 笑いながら、まるで何でも無いことのように、絶望的な言葉を突き付けた。
 「キミが責任を感じることは無い。キミが何かを感じることは無い。キミは悪く無い。キミは良くも無い」
 歌うように、かなえは言葉を続ける。
 「キミは無意味だ」
 かなえはそう、はっきりと言った。
 「さ、これで応急処置は完了。しばらく動かない方がいーよ。そしたら、保健室なり病院なりに行ってー、午後の授業はサボタージュすればー?」
 気楽な調子で、本当にどうでもよさそうにかなえは笑った。
 「いいや」
 少年は首を振り、痛みをこらえて立ち上がる。
 ボタンを締めて、屋上の端まで歩きだす。
 「お前の言う通り、俺は無意味かもしれない。けれど、俺はあの2人が『良いな』と思った。その想いは変わらない」
 悔し涙をぬぐい、屋上のフェンスを強く握る。
 「俺一人の行動で結果が変わらないとしても、せめて俺は、『良いな』っていう俺の感じた想いに、正直に行動したい」
 そう、少年は強い意志を感じさせる瞳で決意を語る。
 「それでー?」
 少年の決意に、笑顔のままで応じるかなえ。
 「今のキミに何ができるっていうのー?あの毒舌コンビの居場所すら分からないのにー?」
 「……」
 「あ、一原先輩と氷室先輩の助けは期待しない方が良いよー。あの2人、今日は学校休んで一原先輩の妹さんに迷惑かけた不良グループと『交渉』しに行くとか言ってたしー」
 「先輩たち、俺にそんなこと言ってなかったのに……」
 「ボクも盗み聞きしただけなんだけどねー」
 ケタケタと笑う、笑うかなえ。
 「で、どうするの?」
 「―――俺の名前、忘れた訳じゃないよな?」
 屋上の外に近づき、外を見ながら少年は言った。
 「1000テンポくらい遅れたけど、神様はやっと俺に味方してくれたみたい」
 少年の視線の先には、ベンチのある中庭。
 そこには、確かに見慣れた姿があった。


406 :ヤンオレの娘さん 第五回戦  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 16:00:31 ID:AvGCXdH2
 「よォ、ぜン。もう委員長ちゃンに鞍替えかァ?もテモてだネぇ!?羨ましイねェ!?俺ちゃン身体の芯ノ奥の奥ノ奥底まデ火照って震えテ痺れちゃうゼ!!カハハハハハ!」
 異常なまでのハイテンションで、三九夜は善人に言った。
 カハハハ、と笑いながら。
 笑いながら、泣きながら。
 「い、いやそんなんじゃないよ。それよりお前、キロトくんはどうしたんだよ?」
 「あア、アイツ?」
 涙と不釣り合いな、いつも以上にシニカルな笑みを浮かべ、三九夜は何でも無いことのように答えた。
 「あイツなら、つイさッきブッ殺してきたトころダよ」
 「……は?」
 訳が分からず、善人はそう言った。
 「アイツのせいでアイツのせいでさァ、アイツとオレが付き合っテるトか訳わかンねェ頭沸いた噂が流れやがってさァ。嘘が誤解が生まれやガってさァ」
 と、そこで三九夜は急に真顔になって。
 「だから殺した」
 と言った。
 「散々期待させてサぁ散々持ち上げてサぁ散々障害にナってサぁ、酷いンだよな、邪魔なンだよな、アイツ。オレちゃんの恋路にサぁ」
 「……いや、だからって、殺さなくても」
 「だから殺したンだよ!」
 善人の言葉に、三九夜は叫んだ。
 「アイツがいなければ!俺が丹精込めて全力込めて愛情込めて作った弁当がよォ!お前のために作った弁当がよォ!オレの想いがよォ!」
 三九夜は叫ぶ、叫ぶ、泣き叫ぶ。
 どうにもならない想いを乗せて。
 「よりにもよって『お前に』踏みにじられることは無かっただろうさ!!」
 一体、どう言うことなのだろうかと善人は思った。
 全ては、自分の勘違いで、三九夜と長身の少年は恋仲では無くて、けれど三九夜は恋をしていて。
 なら、三九夜が恋する相手は――――誰だ?
 「なァ、委員長ちゃン」
 先ほどから三九夜の剣幕に押されて一言も言えなかった二葉に向かって、三九夜は言った。
 「お前モ、オレの恋路を邪魔する気みてーじャねーカ。そウ言う奴はどうなルさァ、知っテるだロ?『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて―――」
 三九夜は、内ポケットに忍ばせていた、ナイフを構える。
 血の付いたそれを見て、善人は『キロトを殺した』という三九夜の言葉が真実だと確信する。
 「死んじまえ』っテなァ!」
 「サク!」
 三九夜はダン、と踏み込み、二葉に近づこうとする。
 まっすぐ二葉の心臓を狙っていると、何度となく三九夜の剣道を見てきた善人には分かる、分かってしまう。
 あまりの出来事に、二葉も善人も動くことができない。
 動くことができるのは―――――
 動けるものがいるとすれば―――
 この現状を打破する者がいるとすれば―――!
 大きな破壊者ただ一人―――――――――!!
 「この馬鹿野郎!」
 疾風一陣。
 その場に走り込んできた長い脚が、三九夜の手に叩きこまれ、彼女はナイフを取り落とす。
 そのナイフを彼女に先んじて拾い上げた、その少年は―――
 「キロト、くん?」
 「やぁ、千堂。元気そうだね」
 いつものように淡々と、少年は言った。
 何故か制服の腹の辺りを軽く押さえているが、それ以外はいつも通りに見えた。
 「『元気そうだね』……、ってそれはこっちの台詞だよ!君は死んだって!サクに殺されたって今!?」
 「死んだ?俺が?」
 未だ剣呑な表情の三九夜を見ながら、少年は呑気そうに言った。
 「そんなことを言ったの、天野さん」
 と、少年はため息をついた。
 「君にしては笑えない冗談だな」
 やれやれ、と少年は大げさな仕草呆れたように言う。
 「……え?」
 「……冗、談?」
 二葉と善人は茫然として呟いた。
 「いや、お前はオレがたしかにムグ……!?」
 何かを口に出そうとして、口を塞がれる三九夜。
 「そう、この通りピンピンしてる。殺されたっていうのは天野の冗談」
 「でも、そのナイフ……」
 震える手で三九夜のナイフを指差しながら、善人は言った。
 「ああ、コレ?玩具、玩具。千堂も子供の頃こういうので遊ばなかった?」
 と、刃の方を持って手の中で三九夜のナイフを軽い調子で弄ぶ少年。
 「でも、血が……」
 「ハロウィンで使う玩具。大方、天野は千堂が冬木に告白されてるのを見て阻止しようとビビらせようと少しお茶目に過激なことをしちゃったんだと思う」
 「そっか、良かったぁ……」
 少年の言葉を聞いて、ヘナヘナとその場に座り込んだのは二葉だった。


407 :ヤンオレの娘さん 第五回戦  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 16:01:06 ID:AvGCXdH2
 「ホントに天野さんが人殺しさんになっちゃってたら、どうしようかと思ったよー」
 「俺は?」
 「あ、ゴメンゴメン。勿論君のことも心配だったよ!」
 少年のツッコミに手を振る二葉。
 そのやり取りで、その場のシリアスな雰囲気がすっかり弛緩し、破壊されていた。
 特に、三九夜はどこか毒気を抜かれたような顔すらしている。
 「ほら、天野。2人に謝らないと。脅かしてしまってごめんなさいって。性質の悪い冗談言ってごめんなさいって」
 少年はそう言ってから、「千堂に嫌われないためにも」と小声で付け加えた。
 それが効いたのだろう。
 三九夜は消え入るような声で「ごめんなさい」と言った。
 「僕の方こそ、ごめん」
 土の上で、土下座の姿勢になって、善人は言った。
 「つまんない嫉妬心に駆られて、お前たちに酷いこと言って、お前の弁当を駄目にしてしまって―――」
 平身低頭。本当の後悔を込めて、善人は言った。
 「その指の絆創膏。本当に頑張って作ったんだよな。そんなお弁当をあんなに駄目にしてしまうなんて、俺は本当に最低だった」
 それに対して、三九夜は首を横に振った。
 「最低だったのはオレも同じ。つまんないモン振り回して、委員長も、お前も―――大好きなお前もビビらせて。だから顔をあげてくれよ」
 「……うん」
 立ち上がり、埃を払って、善人は今度は二葉に向き直った。
 「それから、冬木さんにもごめんなさい」
 「……え、私?」
 キョトンとした顔で自分を指差す二葉。
 「新しい恋とか、僕にはできそうにない。冬木さんは良い人で、すごく良い友達だけど、恋愛対象としては見れない。そんな想いで君の告白に応える訳にはいかない。だから、さっきの告白に、ごめんなさい」
 そう、はっきりと答えた。
 「……そっか」
 苦笑のような、くしゃくしゃにした顔で、二葉は答えた。
 「あーあ、いけると思ったんだけどなー。でもま、仕方ないか!」
 後ろを向き、大きく伸びをしながら二葉は言った。
 「で、そう言うことならお互い何か言うことがあるんじゃないかな!お二人さん!」
 二葉の言葉に、善人と三九夜は改めて向き合う。
 「サク、いや天野三九夜。この一件で僕は君がどれだけ大切か痛いほど分かった。僕は君が大好きだ!一生ずっと一緒にいてくれ!」
 「……オレもだよ」
 肩を振るわせながら、三九夜は言った。
 「オレもお前が、千堂善人が好きだ。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと好きだった。お前以外を愛するなんてこと考えられなかった。だからお前を死ぬまで離させるな!」
 そう言って、ダン、と一気に善人の懐に飛び込む三九夜。
 「ようやく気付きやがって、バカァ……」
 懐に飛び込み、善人を強く強く抱きしめる。
 三九夜の嬉し涙が、善人の制服を濡らす。
 「ウン、ゴメンね、サク」
 そう言って、善人は三九夜を優しく抱きしめ返した。
 その様子を見ていた長身の少年は、二葉に後ろから声をかける。
 「行こう、冬木」
 「そだね」
 そして、少年にも、幸せそうに抱き合う2人にも背を向けたまま、二葉は歩き出す。
 その少し後ろに、少年も続く。
 「ねぇ、ちょっと愚痴を聞いてもらっても良いかな!?」
 歩きながら、後ろの少年に向かって振り向くことなく二葉は言った。
 「別に良い」
 聞いても、別に良いという意味で、少年は優しげに言った。
 「きっとさ、私が好きになってたのは、天野さんと一緒に生きてきた千堂くんじゃないかなって思うの!」
 「ああ」
 「多分、無意識化ではもう天野さんが好きだった彼を。って言うか、幼馴染だもんね、2人。物心付く前からすーっと一緒で、もう互いが互いの人格形成とか人生とかにガッチリ食い込んでますってくらいに!」
 「ああ」
 「きっと、天野さんと会って無かったら千堂くんは私の好きな千堂くんにはなってなかっただろうし、ね!」
 「ああ」
 「そう思うと、失恋しても良いかなって思うかな!」
 「ああ」
 「あーあ、ズルいなぁ幼馴染って!ホント、存在レベルで!でも、そんなズルさもさ……」
 「冬木」
 「なに?」
 「泣いているのか?」
 「泣いてないって!泣く訳無いじゃん!」
 そう答える二葉の頬には、滴が伝っていた。


408 :ヤンオレの娘さん 第五回戦  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 16:01:28 ID:AvGCXdH2
 休み時間には、まだ時間がある、
 そう理由を付けて少年は二葉と別れた。
 「じゃ、後で教室で!」
 「ああ、また後で」
 元気よくそう言う二葉は、最後まで泣いてるとは言わなかった。
 そんな気丈さも、また『良いな』と想いながら、少年はようやく内心の緊張の糸がほどけた。
 緊張の糸もほどけると同時に、力も抜けて倒れそうになる。
 その瞬間、
 「とと、やっぱ重いな、お前」
 「やほー、徒労御苦労さまー」
 と、正樹とかなえが彼の体を受け止めた。
 「九重……、葉山……」
 「だけじゃないわよん」
 目の前には、いつの間にか百合子と、副会長の氷室雨氷先輩がいた。
 それぞれ、顔にガーゼを張っていたり、少年以上にボロボロだった。
 「今日は、お休みだったんじゃ無かったんですか?」
 「午前中だけね」
 「思ったより早く『交渉』が終わりましたから」
 少年の言葉に、先輩たちは何でも無かったかのように答えた。
 「でも、どうして……?」
 意外な面々の登場に、驚く少年。
 「九重に聞いたンだよ」
 「ボクは聞かれたから答えただけー」
 それには、葉山とかなえが答える。
 「ンなわけで、見せてもらったわよ。庶務ちゃん一世一代の頑張り物語」
 ボロボロになりながらも、いつもの調子を崩さない百合子。
 「……ごめんなさい、一原先輩」
 と、少年は百合子に向かって言った。
 「え、何で?」
 「先輩から、アドバイスとかもらったのに、俺は天野を傷つけるだけでした。助けたかったのに、失敗してしまいました」
 「ンなこと無いわよ」
 後悔の念さえ感じる少年の言葉に、百合子は笑顔で言った。
 「最後の最後のとこしか見れなかったけれど、お2人さん、何だかんだでハッピーエンドで終わったじゃない。それは、間違いなくあなたのお陰よ」
 ポン、と百合子は彼の頭に手を置いた。
 「上出来!」
 ニ、と満面の笑顔で百合子は言った。
 「ありがとう、ございます」
 そう、少年は答えた。
 目を細め、嬉しそうな笑顔で。
 「オオ、良い笑顔じゃない」
 「そうですか?」
 「いつもこんな笑顔なら、女の子にもモテるかもよん。そうでしょ、かなえちゃん?」
 「そですねー」
 「さって、これにて一件コンプリート、夜照学園は日本晴れ!ね」
 「丸パクリじゃないですか」
 そんなやり取りをしながら、生徒会メンバーは賑やかに去って行った。
 仲間の労を労いながら。
 三九夜と善人の前途を祝福しながら。
最終更新:2011年09月25日 13:34