472 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:03:58 ID:2AmFjdJU
 それは、3年と幾らか前のこと。
 「へぇーん」
 夜照学園中等部、第二校舎屋上に上がった俺(とてもそうは見えないが当然中学生)に、そう声がかけられた。
 時刻は昼休み。
 教室にもどこにも居場所が無かった俺は、とりあえずの身の置き場所を探してこの場所に辿りついた。
 「わざわざ好き好んでこんな場所に来るのがいるとはねー。よっぽどの物好きー?」
 そう言ったのは、スラリとした体つきの女生徒だった。
 艶やかな、セミロングの黒髪。
 中等部の冬服に黒タイツ。
 糸のように細めて笑う姿は、まるで美しい狐のようだった。
 「しかも立ち入り禁止のこの場所。ひょっとして、キミ不良さん?じゃぱにーずばんちょーってやつー?」
 クルクル舞いながら、クスクス笑う少女。
 「違う」
 と、俺は答えた。
 「人のいない場所を探していたら、ここに辿りついた。それだけ」
 「ふいーん」
 と、俺の言葉に分かっているのかいないのか分からない少女。
 「奇遇だね」
 「なぜ」
 「ボクも、同じだから」
 飄々とした少女の態度からは思いもよらぬ言葉に、俺は驚いた。
 「信じられないって顔してるね。いや、マジマジ。小うるさい教室からここに――――逃げてきた。人のいない、ここに」
 「……」
 無言の俺に、少女は改めて向き直った。
 「ひょっとしたら、ボクとキミは同類なのかもしれないねー」
 と、もう一度笑う。
 くすくすと。
 屈屈と。
 「ねー。名前を教えてよ、同類」
 至近距離からこちらを見上げ、少女は言った。
 「御神千里」
 俺は問われるままに答えた。
 「そう」
 ニィ、と笑みを深くする少女。
 「ボクは九重かなえ。よろしく、千里」
 その日から、俺と九重かなえの、互いの互いの傷を舐め合うような、互いの流血を舐め合うような緋色の関係が始まった。


473 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:05:44 ID:2AmFjdJU
 そして、約3年後の現在
 夜照学園高等部にて
 「第1回 御神千里の恥ずかしい過去大暴露大会!いえーい!」
 新学期が始まり、始業式が終わったその日のこと。
 一原先輩に「手伝って欲しいことがある」と言われて呼び出された夜照学園高等部生徒会室。
 そこで、俺は上記のような阿呆な音頭に迎えられた。
 「と、ゆー訳でやっと来たわね、今回の主役」
 「……い、ち、は、ら、せ、ん、ぱ、い?」
 じっとりした目で相手を見てやる。
 この野郎、手伝って欲しいことってこれかい。
 って言うか何をしろってのか。
 「まぁまぁ、取り合えず座って。御神ちゃんは今回の主役と言うかオモチャと言うかそんな感じだから」
 「オモチャって何ですか」
 ツッコミを入れながらも席に着く俺。
 普段はコの字型に組み合わされているであろう長椅子は、今はT字型に組み合わせられていた。
 Tの横棒の方の長椅子の後ろにはホワイトボードがあり、『大暴露大会!』という頭の悪い名前がでかでかと書いてあった。
 誰だ、こんな自分の頭の悪さをアピールしまくってる名前考えた奴。
 「私はお姉や副会長さんと違って、中等部のコトは知らないからドキがムネムネだよ!」
 「そう言えば、妹殿は中学は他所でござったか」
 「確か、私立の天川中だっけ?李はその頃まだ海外だよね」
 「…ついにこの日がやって参りましたね」
 そう言うのは、生徒会役員で一原先輩の妹の愛華さん、同学年の李忍、霧崎涼子。
 それに加えて、緋月三日。

 緋月三日

 大事なことなので(以下省略)
 「何でお前がここにいるのぉ!?」
 「わひゃぁ!?」
 思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
 三日の悲鳴が無駄に可愛かったがそれはさておき。
 「いや三日さん!?俺確かあーたに『生徒会には近づくなよ!絶対近づくなよ!』と言いまくってましたよねぇ!?」
 肩を掴んでがっくんがっくんと詰め寄る俺。
 「やめて御神ちゃん!全部私が悪いの!私があなたの過去話を餌にして三日ちゃんをここにおびき寄せたから!」
 「いかにも悲劇のヒロイン口調だけどやってることは悪党だよなぁ!」
 目に涙を浮かべてそうな顔の(あくまで『そうな』)一原先輩にツッコミを入れる。
 どうやら全ての元凶はこの人らしい。
 「…あ、いや、実は私の方からお願いしたんですけど」
 「惑わされるな!それが奴の手口だ!」
 申し訳なさそうな三日を俺は全力で説得する。
 「何か、ン年来の付き合いの後輩にラスボスか何かみたいな扱いを受けてるんだけど、私」
 「いや、アンタがこの話のラスボスなんじゃないかと最近本気で思うんですけど……」
 「残念ながらソレは無いわよ。確かに、『敵は生徒会の美少女軍団!』って言うのは華があるけど」
 そう言ってから、一原先輩は全員を見回して、
 「いっそのこと皆でやる、ラスボス?『三日ちゃんを返して欲しければこの生徒会四天王を倒していくことだな!』みたいな」
 「「「「「「「いやいやいやいや」」」」」」
 周りのほぼ全員から否定される一原先輩。
 華のある無しでラスボスにならないで欲しい。
 って言うかドサクサにまぎれて三日を攫わないで欲しい。
 大体、これはどう言う展開なんだろう。


474 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:06:24 ID:2AmFjdJU
 「とどのつまり、中等部時代の昔話に華を咲かせましょう、という企画なんですけどね」
 淡々と答えるのは、副会長の氷室先輩。
 この人とも付き合いは長いけど、凶器での突き合いの方が多かった気がする。
 思い出したくもない思い出だった。
 「それが、何で三日たちまで?」
 「…私たちは、中等部時代の千里くんたちを知りませんから」
 「同じく」
 三日に加え李や霧崎、愛華さんも頷く。
 「ユリコたちは最近study hardにwork hardデシタから、コレくらいの息抜きがヒツヨーデス」
 生徒会の顧問であるエリス・リーランド先生も賛同しているらしい。
 しっかし、スタディーハードにワークハードって、先輩がハードワークってねぇ……。
 「うっわ、疑いの目で見られた」
 「日ごろの行いですよ」
 不服そうな先輩だけど、こればかりは仕方ないと思う。
 「会長も私も、これでも夏休みの間受験勉強のために邁進していましたからね」
 と、氷室先輩が言うので意外にも真実らしい。
 「まー、私は受験においても頂点に立つ女だからね!」
 エヘンと胸を張る一原先輩。
 「志望校を考えれば、まだまだ足りない位ですけどね」
 「雨氷(うー)ちゃんキビシー」
 そう言えば、先輩たちはどこの大学を狙ってるのだろう。
 雨氷先輩は学内でもかなり成績上位者で、一原先輩の成績は―――ムラがある。
 期末試験で一位を取る時もあれば、掲示板の上位者発表に名前が載らないと気もある。
 そう思って聞いてみると。
 「「東大」」
 と2人から即座に答えが返ってきた。
 「東大って……東北の大学全般とかそーゆーオチじゃないんですよね?」
 あまりにあっさり言ったので、俺は聞き返した。
 「さすがにそこでネタに走らないわよ」
 「私や会長の成績なら、困難ではあっても全く実現不可能と言う程ではありません」
 「まぁ、そうかもですけど意外ですね。氷室先輩ならともかく、一原先輩が学歴とかちゃんと考えてるなんて」
 「御神ちゃん、私のこと何だと思ってるのよ……。まぁ、それはともかく、思うところがあってね」
 「思うところですか?」
 「そう、この一原百合子には『夢』がある!」
 と、背景に『ドドドドド!』と言う擬音が欲しいポーズで先輩が言った。
 「将来この国を、ノーテンキラキラに笑って暮らせる良い国作ろう鎌倉幕府にすること!」
 「おお!」
 発言は頭悪いし具体性は欠片もないが、言ってることは非常に立派だ!
 「そしてぇ!私はそのトップで誰よりもノーテンキラキラな極上幸せ生活をエンジョイするのよ!」
 「おい」
 結局は私欲かよ。
 「Oh,ユリコ。Youのユメはいつ聞いても素晴らしいデス」
 横でエリス先生がハンカチ片手に感涙していた。
 それで良いのか教育者。
 「myselfをハッピーに出来ないヒトがyourselfをハッピーにはデキマセン」
 そこを突っ込むと、至極真っ当な言葉が返ってきた。
 確かにそうかもしれない。
 ただ、一原先輩の日ごろの行いを見てるとストレートに尊敬できないんだよなぁ……。
 女の子ばっか追いかけてる人、というイメージが強すぎて。
 「まぁまぁ。私らのことはともかく、御神ちゃんも座って座って。お弁当持ってきてるでしょ。それも広げてさ」
 と言う先輩の言葉に、俺は流されるままに席に付き、隣の三日にお弁当箱を渡す。
 勿論自分のも取り出しいただきます。
 他の面子もめいめい弁当を取り出していた。
 「あ、このお菓子は適当に摘まんでねー」
 と、一原先輩たちが市販のポテトチップスやチョコレートも広げる。
 ジュースまで用意され、ちょっとしたパーティーみたいだ。


475 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:07:23 ID:2AmFjdJU
 「しっかし中等部時代ですか。そんな面白いネタがあるとも……」
 「はいはーい!一番、一原百合子行っきまーす!!」
 俺の言葉を無視して挙手する一原先輩。
 「どうぞ」
 進行役なのか、氷室先輩がそう言うと、一原先輩は立ち上がり、キメ顔を作る。
 「俺は、自分の目で見た物しか信じない」
 いかにも男声を作ってますよ、という声音だった。
 「だから、俺は心とか友情とか信じません。目に、見えませんから」
 フッ、と言いたげな仕草をする先輩。
 って言うかコレって……
 「以上、御神ちゃんが初対面でかましてくれたイタい台詞でしたー!」
 「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 覚えてたのか!
 そんなつまんない台詞覚えてたのか!
 いや、実際言ったけど忘れていて欲しかった!
 「…千里くん、そんな深遠な哲学をお持ちだったのですね」
 「いっや深遠じゃないから!って言うか今すぐ忘れて!」
 「嫌です!」
 「こんなとこだけ即答ですかー!」
 三日にだけは知られたくない、イタい過去だった。
 「まぁ、御神ちゃんにも中二病を発症していた過去があったということで!」
 人のトラウマスイッチを押しまくった女が、イイ笑顔でそう言った。
 「…すごい。…あの千里くんが見事なまでに玩具にされています」
 妙な所に関心する三日。
 「二番手は私ですね」
 俺の心理的ダメージをスルーして、氷室先輩が立ちあがる。
 「こういう場合、公平に私の恥ずかしい過去も暴露しておくべきでしょう」
 いや、その理屈はおかしい。
 「当初、私は御神後輩が会長に懸想している物と勘違いしていました」
 「それは恥ずかしい勘違いだね!」
 氷室先輩の心を笑顔で抉る愛華さん。
 「・・・何で千里くんまで渋い顔をしているんです?」
 「いや、その勘違いのお陰で随分な目に合ったからさ」
 その勘違いのお陰でナイフで刺されかかったり、そうした勘違いをした他所の女の子を守るためにスタンガン突きつけられたりね。
 実のところ、一原先輩を尊敬する先輩として(一瞬だけ)見たことはあっても、それが好意に発展したことは無い。
 「半分以上はあなたのせいでしょう」
 「いやその理屈はおかしい」
 自分が悪いとはかけらも思っていない氷室先輩だった。
 「・・・ひょっとして、千里くんの危機順応力ってその頃に身についていたりします?」
 「だね、氷室先輩とやりあったお陰で縄抜けやら護身の術やら見に付いちゃいましたよ」
 「ある意味、御神後輩は私が育てたといって過言ではありませんね」
 「自分の悪事を省みない発言どうもありがとうございます、氷室先輩」
 「私は神に誓って過去一切罪を犯していません」
 堂々と言いやがった、氷室先輩(このおんな)。
 「御神ちゃんはいつでも女の子のために奮闘してたわよねー」
 そのやり取りを横から見ていた一原先輩が笑いながら言った。
 「・・・なん・・・ですと・・・」
 先輩の言葉に、どこぞのバトル漫画のように驚愕する三日。
 「いやね、うーちゃんの時もそうだけど、御神ちゃんって何かと女の子に力を貸すことが多くってさー」
 「その女の名前を全て教えてください!いえ教えなさい!」
 一原先輩に対してすごい剣幕で詰め寄る三日。
 「ちょっと待てい、それを聞いてどうするつもりだ」
 それを押さえる俺。
 「その時のイベントの結果、千里くんとフラグが立っていたら皆殺します!」
 「殺すなよ。っ言うか立ってないし」
 「・・・立たないんですか?」
 「現実とゲームを一緒にするな」
 きょとんとする三日に、俺は嘆息しながら答えた。
 「・・・そうは言っても、千里くんって女の子にモテる方ですよね、実のところ」
 「酷い誤解だ」
 三日も葉山と同じ種類の誤解をしていたらしい。
 「そーいえば、御神ちゃんが女の子とお付き合いしたって話聞かなかったわね」
 「ええ、私の知る限り、緋月三日後輩が初めてです」
 一原先輩と氷室先輩がウラを取ってくれる。
 「・・・でも、どうしてでしょう?千里くんのような素晴らしくて優しい人なら、河合後輩のように下手な女がコロリと参ってしまいそうなものですが」
 三日のその純粋な言葉に、背景で吹く一原先輩と氷室先輩。
 「しょ、正直御神ちゃんの中二病時代知ってるから・・・・・・・」
 「て、手放しで褒められると、お腹が痛・・・・・・」
 「お前らあああああああああああああああああ!!」
 俺を何だと思ってるんだろう、コイツらは。
 先輩でなかったらブン殴ってるところだ。


476 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:09:07 ID:2AmFjdJU
 「学級の中でも、女友達はいても恋愛関係に発展しそうな件は稀でござったな」
 と、冷静に分析するのは、実は現在同じクラスだったりする李だ。
 俺と話したことは多くない筈だが、良くクラスを見ているようだ。
 「所謂、いい人止まりってヤツ?」
 どこかからかうように霧崎が言った。
 「ま、そんなところー。今まで積極的にカノジョとか作ってなかったのもあるけどね」
 「そこいらは、割ときっちり距離取るタイプよね、御神ちゃん」
 合点するように言う一原先輩だけど、残念ながらハズレ。
 「んー、何て言うか友達の距離感と恋人の距離感とかって良く判んないんですよね。近づきすぎたらウザいですし」
 「あー、確かにそれはウザい」
 一原先輩はナチュラルに同意するが、周囲の生徒会メンバーが一様に目を逸らすのは何故だろう。
 「・・・距離感、ですか」
 神妙な顔をする三日。
 「あー三日は気にしないでいいよ。三日みたくそっちからザクザク入ってこられると逆に助かるしー」
 「・・・ありがとうございます。…って、え、あれ?…ザク…ざ、く?」
 俺の言葉に礼を言ってから不思議そうな顔をするけれど、不思議に思う要素がどこにあっただろうか。
 三日ほどこちらの距離に近づいてくる相手は無いと思うのだが。
 「まー、御神ちゃんも恋人にすると死ぬほどメンドいタイプよね」
 「失礼な」
 「勝手に三日ちゃんのお弁当を作ってきたり」
 「ウグ」
 いきなり反論できなくなった。
 「そういう風にイロイロやって、相手がウザがると『こんなに尽くしてきたのに!』って思っちゃうタイプ」
 「あう・・・・・・」
 否定できない。
 表に出すかはともかく、そういう『努力に見合わない結果』って言うのはかなりキツい。
 「・・・九重かなえのときも、そんな感じだったんですか?」
 「かなえちゃんのとき?」
 不思議そうにそう言って、こちらの方をジト目で見る一原先輩。
 「なぁに、御神ちゃん。三日ちゃんに昔の女の話をしたわけ?デリカシー無いわねぇ」
 「誤解を与えるような言い方しないで下さい。他所で話しているのを偶然聞かせちゃったんですよ」
 と、俺は先輩に説明した。
 「・・・昔の女、やっぱり・・・」
 ゴゴゴゴゴゴゴ、と横で黒いオーラを纏い始める三日。
 もう1人、誤解を解くべき人間がいるようだ。
 「落ち着いて、三日。俺と九重がそういう関係だったことは一瞬たりとも無かったから」
 「むしろ、御神ちゃんの片思いだったもんねぇ」
 「そうですね」
 うんうんと頷く一原先輩と氷室先輩。
 「あなた方・・・・・・」
 と、俺がジト目で見てやると、
 「うん、気づいてた」
 「ある程度あなたの性格を掴んだらすぐ判りました」
 あっさりという先輩コンビ。
 ちなみに、当時2人はそんな素振りかけらも見せていませんでした。
 「・・・カタオモイッテ、ドンナカンジデシタカ?」
 うっわ、三日の声から感情が消えうせてる。
 ついでに黒いオーラの濃度が増してる。
 「何て言うか、御神ちゃんの姿は見てて居た堪れないというか痛々しいというか」
 「・・・タトエバ?」
 「いつも一緒にいたと言うか」
 「いつも九重後輩についていったと言うか」
 抑揚の無い三日の言葉に、一原先輩と氷室先輩は言った。
 「あー、よく屋上で添い寝とかしてたわよね、2人して」
 「誤解を招くような言い方をするな」
 一原先輩の言葉に抗議する。
 『添い寝』という言葉から連想されるような嬉し恥ずかしな展開は全然全く悲しいくらいに無かったので念のため。
 「・・・ソレカラ?」
 「親切をすると、」
 「スルーされる」
 「勇気を出した遠まわしな口説き文句は」
 「いなされる」
 「熱い視線を向けると」
 「目をそらされる」
 「最後の手段、愛情こめたお弁当は、」
 「『まー、フツー?』」
 「「って感じ」」
 夫婦漫才のようなテンポで説明した先輩コンビの言葉に、三日の大切な何かがブチンと切れた。


477 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:11:15 ID:2AmFjdJU
 「ムギャー!」
  ハサミ、カッターナイフ、十得ナイフ、ダガーナイフ、伸縮式警棒、ワイヤー、アイスピック、妙なスプレー、スプーン、包丁、お玉etcetc
 凶器という凶器を雨のように周囲にブチまける!
 って言うかどこに隠してたんだそんなモン!?
 「うわぁ!」
 ソレに対して思わず距離をとり、物陰に隠れる一同。
 「ココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエエエエエエ!」
 ついでに、どこからともなく大鉈を取り出し、めちゃくちゃに振り回す!
 「ちょっとどうしてこんなことになっちゃうのよ!?」
 「こうならない方がおかしいでしょうが!」
 暴風のごとき三日の狂行を避けながら、俺は一原先輩にツッコミを入れる。
 「なんだか知りませんが、こうなったらころしてでもとめるしか―――」
 「俺に任せてください!」
 物騒な行いに出ようとした氷室先輩たちに先んじて、俺は三日の方に向かう。
 振り回す手が広がったときを見計らってソレを掴むようにタックル。
 そのまま床の上に押し倒す。
 「三日、三日、落ち着いて。大丈夫だから」
 「ココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエ」
 「アイツは、九重は過去のこと。もう終わったことだから。それに、多分俺はアイツと一緒になっても幸せになれなかった!」
 「ココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 「俺は!お前といてこれでもそこそこ―――幸せだ!」
 言った。
 言っちまった。
 こんな大勢の前で。
 恥ずかしい。
 死ぬほど恥ずかしい。
 けれども。
 俺の言葉に三日は動きをピタリと止めた。
 「・・・しあ、わせ?」
 驚いた様子の三日に俺は無言で頷いた。
 「・・・私といて、幸せですか?」
 再度頷く。
 実際、三日はいつも俺と寄り添ってくれようと、必死で、ひたむきで。
 そうした姿勢に、ささやかながら救われない日なんて―――今まで1日たりとも無かった。
 「・・・九重かなえと一緒にいるときよりも?」
 「かも、ね。アイツといる時間の心地良さは、幸せとはベクトルが違ったから」
 「…そうですか」
 良かった、と三日は言った。
 そして、俺たちは三日が暴れて散らかった生徒会室を片付けた。
 そのことを三日と一緒に生徒会役員達に謝ることも忘れない。
 三日はまだ落ち着いていないというか、不承不承といった感じだったが、一原先輩は笑って許してくれた。
 それから、改めて暴露大会再開。
 俺は、九重といた過去を、静かに説明し始めた。


478 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:12:07 ID:2AmFjdJU
 「あの時、俺は友達がいなかったからなぁ。だから、同じく友達のいない奴がいるってのはそれだけで救われた」
 「・・・いなかったんですか、お友達」
 「だね。途中から葉山が気まぐれだか動物的感だかで絡んできたけど、それまでは一生に1人も。だからまぁ、九重が初めての友達って言ってもいいな」
 「・・・私にとっての、朱里ちゃんみたいな、ですか」
 「え、そうなのか?」
 「・・・はい。入院生活が長くて、小学校はあまり通えなくて、中学でも、上手く人付き合いが出来なくて」
 「それで、明石が」
 「・・・はい」
 「お前が会ったのが、明石で良かったかもな。タイプが違うから。俺と九重はベクトルが似すぎてた。誰とも心を通じ合えず、誰にも心を開かなかった」
 「そうね!だからかなえちゃんに会ったときにビビッと分かったわ!この娘に必要なのは仲間だ、ってね!」
 静かな会話を、一原先輩がブチ壊した。
 「そんなきちんとした考えを持って、九重を生徒会に入れたんですか?」
 「ああ、ゴメン。何も考えて無かったかも」
 「だから、俺も生徒会に入ったんですよね。先輩から九重を守るために」
 「もしかして気づいてた?私がかなえちゃんに惚れてたの」
 「はい、何となく」
 うん、昔っからこんな調子なんだよな、この人。
 「お陰で、何度九重後輩を暗殺しにかかったか・・・・・・」
 困ったように嘆息する氷室先輩だけど、明らかにあなたは加害者側です。
 お陰で、何度九重を命の危機から切り抜けさせることになったか。
 「・・・でも、何で千里くんはその九重という女に堕ちたんですか?・・・聞く限りでは随分嫌な嫌な嫌な人みたいですけど」
 やれやれ、三日も随分耳の痛いところを突いてくる。
 「そのときの俺も、嫌な嫌な嫌な奴だったからなー。『嫌な奴で良くない?』って言ってくれたのはアイツが初めてだったし」
 「・・・千里くんを肯定してくれた人だったんですね」
 「だね。アイツがいなければ、今の俺はなかった。そう胸を張って言える」
 たとえ傷を舐めあうような関係だったとしても、その頃の俺には傷を舐めあうことが必要だったのだろう。
 「ま、同類だからこそ九重は俺になびかなかったのかもなー。人は自分に無い物を求めるって言うし」
 そもそも、九重はどう思っていたんだろう、俺のこと。
 軽蔑?嘲笑?同族意識?
 決して本心を明かさない女だったので、今となっては判らないが。
 ここにあるのは、ただ俺のいて欲しいときに九重がいてくれた、という事実だけだ。
 「・・・いな」
 と、三日が呟いた。
 「・・・悔しいな。・・・本当なら、そこには私が居たかったのに。その頃千里くんに会っていれば私がそこにいられたと断言できません」
 それが、たまらなく悔しいのです、と三日は言った。
 拳を強く握り締めて。
 「今居てくれる。それだけで十分」
 その拳を両手で包み込み、俺は笑った。
 「俺だって、過去の弱っちい頃にお前と会っていて、お前と居られたかは分からないしさ」
 俺の言葉に、コクンと頷く三日。
 思えば、俺は三日のことを意外と知らない。
 俺が弱かった頃、もしかしたら三日も弱かった頃だったのかもしれない。
 比翼の鳥には、共に羽ばたくだけの強さが必要なのだ、両者共に。
 「御神ちゃん、やっぱりビミョーに中二病残ってるわよねぇ」
 「人の心を読まないで下さい」
 当然のように茶々を入れた一原先輩に、俺はツッコミを入れた。
 「それほりも、何か面白いネタ無いですかね?」
 「んー、アレとかどう?御神ちゃんが恋のキューピッド役をやった話」
 「アレも大概にして大変でしたけどね」
 「…それ、興味深いですね」
 「ゾクゾクするでしょ?」
 こうして、賑やかな放課後がなんとか無事に過ぎて行った。


479 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:12:33 ID:2AmFjdJU
 おまけ
 「それでは、失礼しますね」
 「…本日は、ありがとうございました」
 その後、和気あいあいと思い出話に花を咲かせ、御神千里と緋月三日は生徒会室を去って行く。
 「昔の俺、格好悪かったでしょ、三日」
 「…いえ、むしろ千里くんは昔から千里くんだったんだなって分かって嬉しかったです」
 「ソレ成長してないってこと?」
 「わわ…違います違います」
 「分かってるって」
 そんな風に遠ざかって行くやり取りを、生徒会室で役員達は聞いていた。
 ある者は笑いながら、ある者は苦笑しながら。
 いずれにしても、何のかんのと言いながら、あの2人は似合いのカップルだ、と言うのが彼女らの総意だった。
 緋月三日もそうだが、御神千里も大概にして相手に参っている。
 「これでアナタの願いに叶えられましたかね、緋月先輩」
 2人のやり取りが聞こえなくなった生徒会室で、一原百合子は呟いた。
 「十分すぎるくらいでしょう」
 と、氷室雨氷が百合子の紙コップにジュースを入れながら答えた。
 「ありがと、うーちゃん」
 雨氷に微笑みかける百合子。
 その笑顔に、雨氷は目をそらす。
 照れているのだ。
 「しっかし、かなえちゃんかぁ」
 紙コップに口を付けながら、百合子は言った。
 飲んだジュースの味はするのに、思いはどうにも苦かった。
 「やはり、思うところはありますか」
 「まぁ、ね」
 重いため息。
 後輩達の前では見せなかった、暗い表情だ。
 この辺りの気遣いを天然でやっているのだから恐れ入る、と雨氷はいつも思う。
 「これまで、生徒会として、一個人として学園の誰かのために尽力していた貴女が―――」
 「そう、私が唯一、そのヤミを」
 「「救えなかった相手」」
 百合子と雨氷の声が、重く、暗く、唱和した。
最終更新:2011年08月16日 15:03