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621 :名物桜で待ち合わせ 序章:2011/08/25(木) 00:37:33 ID:0OvYkyHI

 季節は冬を過ぎ、各地で桜が咲き乱れていた。
 桜が咲けばとあるイベントが開催され、たくさんの人たちが笑顔で酒を飲み交わす。

 しかし、そんなイベントがある日の朝。一人の青年の顔は暗かった。

――――――――――

「新入社員の洗礼とは言え・・・辛いなぁ・・・。」
 早朝の大きな桜の木の下で、青年は思わず呟いた。
 彼の名は三田 一樹。地元の中流企業に就職した新入社員だ。
 この企業は、春になると必ず地元の大きな公園で花見をすることになっている。一樹は上司の命令で、花見の場所取りを任されてしまったのだ。
「でもやっぱりここじゃないとな。」
 一樹は桜の木を見上げた。この公園で一番大きく、一番綺麗な桜の木だ。この公園が「桜の木公園」と呼ばれている由来は、テレビなどでも数回取り上げられているこの大きな桜の木だろう。

 一樹は桜を見上げるのをやめて、少しうつむいた。
「あいつ・・・どうしてるかな・・・。」

 一樹は今でも忘れていない。この桜の木で交わした約束を・・・。


622 :名物桜で待ち合わせ 序章:2011/08/25(木) 00:38:11 ID:0OvYkyHI

――――――――――

「やくそくするよ!おれ、おとなになったらゆうちゃんとけっこんする!」
「ほんとう!?ぜったいだよ!やくそくだよ!」

 小学校の時に幼馴染み、秋本 優子と交わした、名物桜での約束だ。
 中学校、高校、大学まで一緒だった二人だった。
 しかし、一樹が結婚できる歳になった誕生日の日、一樹は故郷を離れてしまった・・・。

――――――――――

 この事を思い浮かべた瞬間、どうしようもない罪悪感が一樹を覆った。
 約束を守らず、俺は故郷を離れた。なんの連絡もなしに・・・。

「愛想つかせたかな・・・。」

 呟いた瞬間、自分を包む罪悪感が更に膨れ上がった。
 故郷を離れはしたが、夢を追い続けることを諦め故郷に逃げ帰ってきた俺なんか、もう彼女には魅力的には映らないだろうな・・・。



「どうしたんだい?新人君!」
 一樹の後ろから女性の声がした。振り向いた先にいたのは、黒いロングヘアーの女性だった。
「中川さん、どうして来たんですか?」
 中川 愛は一樹の職場の先輩だ。仕事もでき、料理もうまく、スタイル抜群で面倒見のいい美人キャリアウーマンだ。
「どうしたもこうしたも、一樹君が心配だったから来てしまったよ。」
 愛は一樹に近づいて頭を撫でた。
「子供扱いしないでくださいよ。僕はもう21ですよ?」
「私から見たらまだまだ子供だ。子供を教育して何が悪い?」
 あやすように頭を撫でられる一樹。
「なんならおっぱい吸うか?母乳は出ないが」
「い!いやいやいやいや!結構です!」
 首を横に激しく振る一樹。
「ハハハ!吸いたくなったら言ってくれ!いつでも待ってるぞ。」

 笑いながら、敷いたブルーシートの上に座る愛。
 まだドキドキしている心を落ち着かせようとする一樹。



ズキッ!



 一瞬、全身に悪寒が走った。


623 :名物桜で待ち合わせ 序章:2011/08/25(木) 00:39:11 ID:0OvYkyHI

 女性は背を木に預け、震える心を抑えようとしていた。
 女性はただひたすらに待っていた。過去に約束を交わした人をこの場所で。
 約束を交わした人は一度遠くに行ってしまったが、女性は何も慌てる様子はなかった。
 何故ならば、彼女には確信があったのだ。
 彼は必ず私の元に帰ってくる!世界の果てに行こうが、彼は私を求めて帰ってくる!彼と私は約束したのだ!永遠の愛を!

 しかし、彼女の目の前にいた人は、私を待ってなどいなかった。

「何で?私は一樹の恋人・・・一樹の結婚相手・・・一樹の妻・・・一樹の運命の人・・・。」

 一樹は私だけのものなのに・・・。何で一樹は私を待っていないの?
 帰ってきたときだって私は空港まで迎えにいった。会社にだって毎日行ってる。電話だって毎日かけてる。メールもしてる。一樹がいなくなってから戻ってくるまで、他の男との関係を全て断ち切った。

 まさか・・・私の尽くしている度合いが足りないのか?そうだ!そうに違いない!もっと自分は一樹を待っていたと言うことをアピールしなきゃ!
 一樹も一樹だ!きっと私がアピールするのを待っているんだ!そしてアピールしてきた頃合いを見計らって告白してくれんだ!

 そうと決まれば!と女性は一樹がいる反対側の方向に行こうとした。
 あくまでも偶然を装ってだ・・・。



「何だ君?私の胸がそんなに見たいのか?」
「いや・・・自然と目が行くと言いますか・・・。」
「堂々と私に見せてと言えば見せるぞ?ほら。」
「うわぁ!服を脱ごうとしないでください!」
「君は純情だな。女性と関係を持っていないわけではなかろうに」
「いや・・・彼女はいましたが童貞です。」



いました?



 一樹?私はここにいるよ?私はもう一樹と恋人じゃないの?

「なんだなんだ!そんなことなら言ってくれれば、私が女の体について身をもってわからせてあげるのに。」
「いえ・・・結構です。」



 あの女!まさか一樹を口説いているな!一樹が困っているじゃないか!私の一樹をたぶらかしているのか!
 一樹も一樹だ!あの女の悲しまないように彼女はいないと嘘をついたんだ!

 あいつは一樹と私の間に飛び回っている害虫だ!そんな奴は私が



排除してやる!



 彼女は名物桜を背に公園を出ていった。
 道行く人は彼女の笑顔を見て、春のウキウキ感を感じてしまうだろう。

 しかし、彼女が浮かべる笑顔に光の一筋すら輝いていなかった・・・。