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542 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:07:25 ID:vAX2GWOI
 Side Aika
 荒縄で縛られた痛みが、彼女を覚醒させる。
 ここはどこ、自分は誰、いや、そっちは分かる。
 夜照学園生徒会庶務、一原愛華だ。
 しかし、自分は一体どうしたのか。
 そうだ、確か昨日1人で下校している時に、頭に衝撃が走って……。
 「ウ……ン」
 目を開き、辺りを見回す。
 品の良い調度品に囲まれた、女性の、それもかなり富裕層の女性の部屋だった。
 扉1つ分位の大きさの油絵が随分印象的だった。
 「目が覚めましたかしら、ですわ?」
 その部屋の、天蓋つきのベッドに1人の少女が座っていた。
 耳元の隠れる、ウェーブのかかった長髪。
 良く手入れされた色白の肌。
 育ちのよさそうな、優雅な物腰の美少女。
 愛華は彼女に見覚えがあった。
 確か、同じ学園で三年生の、
 「鬼児宮サナ先輩・・・・・・」
 愛華の呟きに、少女は満足そうに頷いた。
 「早速だけど妹さん。あなたには百合子先輩をおびき寄せる餌になっていただきますのですわ」
 そう言って、少女は拘束した愛華に向かってにっこりと微笑んだ。
 「まさか、拒否するなんて言いません、ですわよね?」


543 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:08:10 ID:vAX2GWOI
 Side Senri
 一原百合子、傾向と対策
 『御神ちゃん御神ちゃん、ちょっと私らを助けてちょうダイナ』
 俺達の学園の生徒会長、一原百合子がこんなことを言う時、傾向としては2つに分かれる。
 1つは、大したことではないけれど、自分達だけでは面倒くさいことを頼むとき。
 面倒では合っても当たり前に常識的に危険は無いので、俺も気軽に引き受けられる。
 もう1つは、切実に確実に助けが必要な時だ。
 笑っちゃう位に危機的な状況で、笑うしかない位に危険が満載。
 今から語るのはそんなバカ話だ。
 本来なら本伝とは言いがたい、転外(スピンオフ)にさえ相当しない物語。
 これから始まるのは、いつもの日常とはちょっとだけズレた、そんな話だ。


544 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:10:18 ID:vAX2GWOI
 夜照学園高等部三年生、鬼児宮サナ先輩にさらわれた妹の愛華さんを助ける手伝いをして欲しい。
 そんな一原先輩からの要請を受け、俺たちはその日曜日、鬼児宮邸(厳密には分家よりとかなんとかで、本家の本館は別にあるらしいが)の地下にある下水道を歩いていた。 
 「古典的っつーかなんつーか・・・・・・。こんなんでどうにかなるのかねー。お金持ちなら警備にも金かけてそうだし」
 懐中電灯片手に下水道を歩きながら、俺は相方に言った。
 「その心配はござらんよ。百合子殿の知己の『はっかー』の方に助力を得て、警備のからくりは全て機能を無効化しているでござる」
 忍者もどきな口調で明瞭に答えるのは、李忍だ。
 俺と李の、たった2人だけの道中だった。
 現在、彼女以外の生徒会メンバーは地上で鬼児宮家の警備員やらメイドさんやらと大バトルを繰り広げているところである。
 鬼児宮先輩の要求は、『妹と引き換えに、指定時間に一原百合子が自室に1人で来ること』。
 その先、鬼児宮先輩が一原先輩の身をどうするかは―――分からない。
 そこで、一原先輩たちは対策を講じた。
 まず、一原先輩本人は妹の身の安全のためにも、要求どおり1人で鬼児宮邸に向かう。
 ただし、その間件のハッカーやら、李を除く生徒会のメンバーらで鬼児宮邸のガードをかく乱。
 同時に李と俺で邸内に潜入、一原先輩が愛華さんを逃がすと同時に不意打ちを仕掛けるという作戦だ。
 「何、一原先輩ネットでも女の子たらしこんだの?」
 「いえ、その方は『むーんさん』氏と仰る、殿方であるそうでござる」
 「むーんさん、ね。『さん』も含めてハンドルネームなんだ」
 どうでもいいが、なぜかあまり和訳したくない名前だった。
 『むーん=月』と『さん=日』なんて一般名詞の部類だよね、うん。
 「しっかし、一原先輩もそうしたコネは使っても、荒事を警察に任せようとは思わないんだよね」
 順当に考えて、妹がさらわれたら警察に連絡するのが一番無難だろう。
 何せプロだし。
 「相手も一応はあの鬼児宮を名乗る者。誘拐の1つや2つ、金銭の力でもみ消せるでござろう」
 「あー」
 鬼児宮と言えば、政財界に大きな影響力を持つ一族だ。
 表だって財閥とは名乗っていないものの、一族の一人一人が経営する会社が日本経済の要となっている。
 ウチの学園だって、一応鬼児宮の血縁者が学園長をやってるし。(夜照学園に、意外と良いトコの生徒がいるのはそうした事情も関係している)
 「それに、仮に相手が鬼児宮家で無かったとしても、百合子殿は警察などには任せず、表ざたにすることなくこの件を解決しようとしたでござろう」
 「まったく、何考えてるんだか・・・・・・」
 「鬼児宮サナが警察のお縄に付けば、彼女は犯罪者の汚名を被ることになるでござろう。そうしたものは、一生付いて回るでござる」
 実感のこもった口調で、李は言った。
 確かに、身内に犯罪者が出たとなれば一族の恥だろうし、いらぬ偏見で見られることもでるだろう。
 「鬼児宮女史の目的は見えぬでござるが、荒っぽい内々の『交渉』でどうにかなるのならそれに越したことは無いのでござる」
 李の言う『交渉』は拳銃と書いてパースエイダーと読む的な意味だろうが。
 「自分の敵対する相手の為に、自分達が危険を冒すってわけね」
 「愚かだと笑うでござるか?」
 「バカだとは思う。けど笑わない」
 昔から全く変わらぬ一原先輩の姿勢に呆れを通り越して、尊敬すらしている。
 あのバカ先輩は『みんな幸せ』という綺麗ごとをいつでも何度でも実現させようとするのだ。
 肉欲の権化みたいな女子ハーレム計画も、ある意味その表れなのかもしれない。
 「あの人のやることは、中等部の頃から分かってたし」
 「羨ましいでござるな、御神氏は」
 しみじみと李は呟いた。
 「そう?」
 「うむ。拙者の存じ上げぬ時分の百合子殿を存じている故」
 「毎度毎度巻き込まれて、ウンザリするけどね」
 「と、言いつつ今回も助力してくれているでござろう?」
 「・・・それが千里くんの良いところなんですよ」
 「それほどでもないけどさ。ま、腐れ縁だし」
 「縁を大事にするのでござるな、御神氏は」
 「・・・そういう人なんですよ、千里くんは」
 「ま、大げさに言ってそんな感じかな」
 しみじみとした口調で頷いた李に、俺たちは答えた。
 俺たちは。


545 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:11:36 ID:vAX2GWOI
 はて。
 李以外の生徒会メンバーは地上でビッグバトル、あるいは監禁状態のはず。
 そしてこの下水道を行くのは李と俺だけのはずなのだが・・・・・・。
 「・・・どうしたんですか、千里くん?」
 「どーしたもこーしたもあるか!」
 きょとんとした顔の三人目、珍しく動きやすさ重視のパンツルックな緋月三日に向かって俺は怒鳴った。
 ちなみに、最近長くなり過ぎ感のある黒髪はポニテ気味にしてまとめている。
 「御神氏が声を荒げるところ、拙者初めて見たでござる」
 変なところで感心する李。
 それよりも。
 「俺、ヤバいことしに行くから着いて来るなって言わなかったか?」
 「・・・その言葉と、千里くんが他の女子と2人きりになるという危機。・・・天秤にかけさせていただければ、後は分かりますね」
 「相分かったでござる」
 三日の言葉に同調する李。
 「・・・・・・李、三日がいたの気が付かなかった?」
 「気づいていたでござるが、御神氏も分かっているものだとばかり思っていたでござる」
 「だとしたら俺は結構な鬼畜だな。放置プレイってヤツ?」
 「尤も、先の緋月嬢の言葉を聞けば、連れて行かぬ道理は無くなったでござる」
 「いや、その理屈はおかしい」
 これから、誘拐事件の解決(笑)に行こうってのに非戦闘員を連れて行くバカがいるかと。
 うん、時々おかしくなるんだよな、生徒会メンバーって。
 「・・・大丈夫ですよ、千里くん」
 「今日は、護衛がいますから・・・」
 そう言って、下水道の暗闇の中から更に現れたのは和装の女性、三日のお姉さんの緋月二日さんだった。
 いつものように静々と歩いているが、和服の裾が汚れないよう、良く見れば細心の注意を払っていた。
 その手には布袋に納められた細長いモノが握られているが、中身は真剣とかじゃないよな。
 「二日さん・・・・・・」
 「一方ならぬ事態のようなので、非常に面倒なことに、三日に護衛を頼まれました・・・」
 「あー、一応この件は他言無用でお願いしますです」
 これも、一原先輩との約束だった。
 「分かりました・・・。何にせよ枝葉末尾には興味はありません・・・」
 本当に興味なさげに、二日さんは答えた。
 「さいですか」
 「それよりも、読者に私のことが『実はコイツ弱いんじゃね?』と思われてそうなのが重要です・・・」
 「いや、そんなこと誰も思ってないと思いますけど」
 「ただでさえ、出番が少ないというのに・・・」
 「まぁ、学校とか違いますしね、俺ら」
 「学園ものの宿命ですか・・・」
 と、嘆息する二日さん。
 そんな二日さんに李が声をかけた。
 「貴殿が緋月二日女史でござるか」
 「ああ、貴女が一原さんの後輩の・・・」
 「李忍と申す。お噂はかねがね。百合子殿がお世話になりましたでござる」
 「こちらこそ、いつも妹がお世話になっています・・・」
 と、呑気に頭とか下げる李と二日さん。
 「いや、お二人さん。これでも俺ら不法潜入ミッションちゅ・・・・・・」
 俺の言葉は、鼻先を掠めた剣閃に遮られた。
 「誰だ!?」
 当然、味方からの攻撃ではない。
 今の今まで誰の気配も無かったのに!?


546 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:11:55 ID:vAX2GWOI
 「その言葉、そっくりそのまま返さざる得ないっての」
 いつの間にか下水道の暗がりに現れたのは、日本刀を片手に持った巫女服の女性だった。
 巫女服と言えば清楚なイメージがかもし出されるものだが、それを着崩し、ショートカットの髪を茶色に染めた彼女からはそうしたイメージはまったく感じられない。
 「まー、でもその内李忍ってやつのことだけは事前に聞いてるっての。大方アタシらのご主人の願いを妨害するために現れたっての」
 刀を地面にぶっ刺し、タバコに火をつけながらその女性は言った。
 「とりあえず、侵入者はこっから先には入れないっての。どーでも良いけど、この振井子振(ブライコブラ)の刀の錆びになる順番でも決めとけっての」
 彼女、振井さんは面倒くさそうに言った。
 余裕なのだろう。
 何だかんだといいながら、こちらは只の高校生。
 ふざけたナリとはいえ鬼児宮の警備(?)を勤めているらしい振井さんにとっては取るに足らない相手でしかない。
 1人を除いて。
 「順番を決める必要はありません・・・」
 ガィン、という金属同士がぶつかり合う音がその場に響く。
 いつの間にか、布袋の中から一本の日本刀を抜刀し、一瞬で間合いを詰めた二日さんの一撃を、武等井さんは辛うじて受け止めていた。
 「なぜなら、刀の錆びになるのは貴女の方なのですから・・・」
 「へぇ、言うだけのことはありそうだっての。久々に骨のある相手と・・・・・・」
 振井さんが最後まで言い終わる前に、二日さんの再度の一撃。
 今度は刀ではない。
 脚を大きく跳ね上げた前蹴り!
 「グゥ!」
 二日さんのゴツいブーツを何とか腕で受け止めた武等井さんはうめいた。
 「テ、メェ!そのナリで剣士じゃねーのかっての!?」
 「剣士でもありますよ・・・。剣以外も使いますが・・・」
 今度は左の掌打を繰り出しながら二日さんは息1つ乱さずに言った。
 「大体、ここは剣道の道場では無いでしょう・・・?スポーツでも何でもない、ルール無用の、ただの現実です・・・」
 うめく相手を見下ろし、二日さんは言った。
 「義弟くん、それに貴女方、何をしているんですか・・・?この色々舐めた女を私が折檻している間に、先に行きなさい・・・」
 「・・・は、はい」
 二日さんの言葉に頷き、先へ進もうとする三日。
 「そ、そんなことさせるかって・・・・・・」
 振井さんの言葉は、やっと振りぬかれた二日さんの刀で遮られた。
 「・・・千里くん、李さん、早く行きましょう」
 「ですが、三日嬢。姉上は・・・・・・」
 「・・・大丈夫です。・・・お姉様はお兄ちゃん以外に喧嘩で負けたことが無いんです」
 李と俺は一瞬迷ったが、先を急ぐことにした。
 あまり時間があるわけでもない。
 愛華さんを助けるためにも、迷っている暇は無い。
 「二日女史、ご武運を!」
 「死なないで下さいよ。あと、相手の人も殺さないで下さいね!」
 そう言って俺達は先を急ぐ。
 「まったく、注文の多い・・・」
 最後に、二日さんの不敵な軽口を俺達は背に聞いた。


547 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:12:22 ID:vAX2GWOI
 Side Nika
 「テ……メ!?」
 緋月二日の蹴りを受け、体勢を立て直そうとする振井だが、二日は体勢どころか台詞1つ吐き出すことすら許さない。
 「!…」
 「アバ!?」
 振井がまともに動くよりも先に、速く、鋭いアッパーが二日によって叩きこまれる!
 思わず悲鳴が振井の口を突いて出るが、対する二日はささやかな呼気を発するのみ。
 「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!…」
 「アババババババババババババババババババババババババババババババババババ!?」
 殴る、蹴る、掌打、膝蹴り、回し蹴り、足刀、手刀・・・・・・
 考えうる限りあらゆる打撃が振井小振に叩き込まれる。
 振井の実力は、決して低くは無い。
 最初の、完全に気配を消しての不意打ちは二日でさえも気づけなかった。
 だからこそ、二日のとる戦法はたった1つ。
 相手が実力を発揮する間もなく圧倒(ボコボコに)する!
 「セイ・・・ヤ!」
 乱打の留めに、二日は刀の柄頭を振井の鳩尾に叩き込む。
 「アバビャ!?」
 その瞬間にスイッチを入れ、スタンガンのような電撃をも振井に浴びせる。
 足元の汚水にも漏電するが、帯電性のブーツを履いた二日には何の問題も無い。
 技が炸裂する瞬間に、相手に電撃を浴びせるのがこの刀『輝炸月(キサラギ)』に仕込まれた仕掛けだった。
 それを仕込んだ弊害として、日本刀と呼ぶにはいささか重く、切れ味も今1つなのが欠点だったが。
 それでも二日がこの『輝炸月』を使っているのは、亡くなった祖父が製作したからに他ならない。
 使えるのか使えないのかが分からない代物を作るのが祖父の趣味だった。
 『まぁ、相手の記憶を刈る『無月(ムツキ)』とかよりはマシですしね・・・』
 と、倒れ伏す振井を見下ろしながら、二日は思った。
 「さぁ、そろそろ三・・・義弟たちを追いかけますか・・・」
 と、その場を歩き出しながら呟く二日さん。
 「待て、っての・・・・・・」
 その足を、搾り出すような声が止める。
 「貴女、まだ動けたんですか・・・?」
 ゆっくりと起き上がる振井に、二日は油断無く構えを取って言った。
 「ハハ・・・・・・正直かーなーりキツいっての。けど、ご主人のためにこのまま侵入者を通すわけにはいかないっての!」
 自らを鼓舞するような叫びと共に、振井小振は刀を構える。
 「貴女、どうしてそこまでするんです・・・?」
 「ハッ!アンタにゃ分からねぇっての。剣しか取り得のねーアタシを取り立ててくれたご主人が大好きなアタシの気持ち。この報われない気持ちがさ!」
 地を蹴り、一瞬で間合いを詰める振井。
 「!…」
 「バハァ!」
 二日と振井。
 2人の剣撃が交錯する!
 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 雷電が暗い下水道を照らし、振井の叫びが響く。
 「ガハ・・・・・・」
 膝を突き、振井は声を漏らす。
 「すまねぇ、ご主人」
 そう言って、今度こそ振井は倒れた。
 「謝る必要はありませんよ・・・」
 と、二日は言った。
 恐らくは振井には聞こえていないであろうことは、分かっていたが。
 「貴女は任務を立派に務めたのですから・・・」
 肩口から血を流しながら、二日は肩膝を着く。
 こんなことを言ってしまうなんて、こんなところで傷を受けてしまうなんて、我ながら甘い、と二日は思う。
 報われぬ想い、というものにはどうにも弱いのだ。
 自分の境遇が、思わず重なり。
 「ふぅ・・・」
 思考を打ち切ってから、ゆっくりと和服の袖を切り、それを傷口に巻き付けて止血する。
 傷を負いながらなので、さすがにスムーズにはいかない。
 「流石に、これ以上の戦闘は難しいですね・・・。まぁ、元々私がどうしても体を張らなくてはならない問題と言うわけでもありませんし・・・」
 と二日は呟き、その場に倒れた。


548 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:12:43 ID:vAX2GWOI
 Side Aika
 モニターの向こうで、屈強な男達が軒並み倒されていく。
 銃さえ持つ彼ら(銃刀法を知らないのだろうか)を相手取っているのは愛華の幼馴染にして生徒会副会長氷室雨氷を先頭とする生徒会メンバー。
 「まったく、どういうお育ちをしたら、あんな冗談のような強度を持った女子高生共と教師が生まれるのかしら、ですわ?」
 モニターを見ながら、少女が嘆息した。
 「鬼児宮先輩も大概にしてジョーダンみたいだけどね!私を餌にしてお姉をおびき寄せようなんてさ!」
 ケラケラと笑いながら、愛華は言った。
 「余裕、ですのね」
 「ま、ねー」
 正直、戦闘行為で生徒会メンバーが負ける気などしない。
 生徒会メンバーがどれ程厄介なのかは、百合子を巡って彼女らと合争った愛華自身が良く知っている。
 程なくして、突破してきた彼女らに自分は助け出されるだろう。
 「でもさ、何でお姉なワケ?お姉は鬼児宮先輩よりはビンボーだよ?」
 「この国では、『鬼児宮』の苗字を持つ者以上に富める者はいない、ですわ」
 絶大な自信を持って少女は言った。
 愛華の知る限り、鬼児宮家は日本経済ではかなりの大企業の主だが。
 それでも、少女が言うほど絶大では無いはずだ。
 自由競争の原理やら何やらはそこまで破綻していないはず。
 「この世の表も裏も牛耳りきっているのが鬼児宮家なのですわ。もっとも、そんな世の中のことも知らずに育った庶民には想像も及ばぬことでしょうが、ですわ」
 そんな内容を、むしろ憂鬱そうに少女は言った。
 「それ故、幼少の頃より鬼児宮の人間はこの世の悪意の全てを見て育つのですわ」
 ドス黒い何かが、少女の瞳に宿る。
 「だから、サナにとって一原百合子の存在はことさらに目立ったのですわ」
 「なんでー?」
 「誰にでも好かれ、何物にも縛られず、何者の障害も跳ね返す強さを持っていたからですわ」
 文脈的に不自然なほどベタ褒めだった。
 「あー、分かる分かる」
 「そうでしょう、ですわ。だから、サナの心に1つの願望が芽生えたのですわ」
 と、そこで言葉を切り、少女は続けた。
 「その自由な心の翅をむしりとり、一所に閉じ込めたい、と」
 それは、暗い願望の告白だった。
 「へぇん」
 おぞましささえ感じる告白に、愛華はあくまで軽く答える。
 「あなたにも分かるでしょう?一原百合子を愛するというのなら」
 「あっはー、確かにお姉を独占したいとか、そういう衝動にかられることはあっちゃうよねー。でもさー」
 からから笑いながら、愛華は続ける。
 「お姉はね、ただ自由なんだよね。本気で愛する癖して、本気で1人の女に縛られない。移り気なんかじゃなくね。とにかくフリーな心の持ち主なんだよ」
 「だから、誰もがそれに惹かれる、と?」
 「そういうこと。だから、さ」
 笑みを消して、愛華は続ける。
 「止めてよね、私の大好きな、自由なお姉を縛り付けようなんてさ」
 口調は穏やかだが、これ以上無い殺気を伴った言葉を、愛華は相手にぶつけた。
 「若い、というか青いですわね」
 その殺気を軽く受け流すように、少女は嘆息した。
 「自分の想いが、願望が貫けるものだと思っている。貫けぬにしても道理を持って阻まれると信じている。この世の不条理など見たことも無いというわけですわね」
 「何、ソレ?『フジョーリ』っておいしいの?無理を通して、そういうのを蹴っ飛ばすのが私達・・・・・・」
 「見せて差し上げますわ。この世の不条理というものを」
 愛華の言葉をみなまで言わせず、少女は朗々と語る。
 そう言いながら少女が示すモニターの先には、立ち回りを繰り広げる生徒会メンバーに向かって、一台の車両が接近する様が写っていた。
 モスグリーンの車体。
 無骨なフォルム。
 それに、大きな砲塔。
 それの示すモノは、
 「・・・・・・戦車?」
 鬼児宮の大邸宅にはどうにもそぐわないソレを見た愛華は、呆然として言った。


549 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:13:27 ID:vAX2GWOI
 Side Uhyou
 鬼児宮邸正門前の庭
 「あははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
 生徒会会計の霧崎涼子が、武装した警備員や執事、メイドらを老若男女容赦なく殴り倒す笑い声が、校庭の2、3個は入りそうなほど広い庭に響く。
 雨氷の認識する限りでは、涼子は性同一性障害に近い性質の持ち主だ。
 自身を男性として認識しながら、一方で同性愛者である百合子を愛している。
 性別に関するアイデンティティの置き所が非常に曖昧なのだ。
 だからこそ、男だろうが女だろうが男女差別無く暴力を振るえる。
 その性質は時として恐ろしいが、こうした時には頼もしいと雨氷は思う。
 「Let's rock and roll!」
 少し視線をずらせば、銃撃を舞うように避け、相手に華麗な蹴りを叩きこむ生徒会顧問教師のエリスの姿が見える。
 エリスにせよ涼子にせよ、彼女ら程の達人になれば、銃など少々リーチと威力の高い拳打のようなものだ。
 むしろ、直線的な分攻撃が予測しやすい、と以前エリスが講釈を垂れていたのを雨氷は思いだした。
 いくらなんでも、そこまで怪物的な強さは身につけたい気はしない。
 と、雨氷は銃を向けてきた執事の腹にナイフの峰を叩き込みながら思った。
 ここまで書くとまるで生徒会メンバーが暴虐の限りを尽くしているように見えるが、手を出してきたのはあくまで相手だ。
 そもそも、「鬼児宮サナに会わせろ」と言ったら向こうから雨氷達を襲ってきたのだ。
 素直に会わせてくれるとは最初から思っていなかったが。
 「Well,ウヒョウ。あまり長い長持ちはしないデスよ?適当なトコロで逃げるべきデス」
 10人ほど一度に文字通り一蹴してから、エリスは雨氷に近づき、そう耳打ちしてきた。
 言われなくても分かっている。
 雨氷達の目的はあくまでも警備のかく乱。
 一介の高校生である彼女達が相手取って敵う連中とは思えないし、万一敵ってしまった方が後が面倒だ。
 自分達を社会的抹殺することは、一応は鬼児宮家であるサナには容易なのだから。
 「ええ、分かっています先生。ですが、百合子が来るまで後少しだけ粘ってください。後で面倒にならない程度に」
 「Okay.デスガ、目的が分からないのがヤッカイですね。何故サナはアイカをキッドナップしたのか」
 近づく武装したメイドたちに回し蹴りを食らわせながらエリスは言った。
 「そうですね。ですが、鬼児宮にとって人一人の人生をどうにかするのは児戯のようなものですから」
 エリスの言葉に答える雨氷の脳裏に、かつて刃を交えた鬼児宮の名を持つ女性とその不愉快な恋人の姿が思い浮かんだ。
 確か、鬼児宮本家の人間だった例の女性にとって、サナは従姉妹にあたるはずだった。
 「2人とも、あんまり悠長なこと言ってる暇は無いみたいだよ」
 シニカルな笑みを浮かべ、涼子が言った。
 「見て、アレ」
 涼子が指差す先には、大砲をのせた車両があった。
 豪邸の庭にはとても不釣り合いな無骨なソレは、
 「A tank?」
 「ええ。戦車、ですね」
 一瞬、呆然としそうになりながら、エリスと雨氷は言った。
 「厳密にはちがうっぽいけどね。この馬鹿デカイお庭に収まる位のサイズだし」
 「厳密性を求めている場合ではないでしょう」
 涼子に雨氷がツッコミを入れている間にも、その小型戦車は砲塔を動かした。
 ばごん、と言う耳が割れんばかりの轟音と共に何かが飛び出し、どーん、という音と共に鬼児宮邸の一角を消し炭にする。
 「作戦変更です。逃げましょう」
 「だね」
 「Let's run away」
 3人は揃って回れ右をして、鬼児宮邸の門に向かって走り出した。
 「逃がすか!」
 「待て!」
 当然のように、警備員達が追いかけてくるが、そんなものよりも小型戦車の方が恐ろしい。
 「待てと言われて待つヤツはいないでしょ!」
 「その通りデス!」
 「私達を全力で見逃がしなさい!」
 と、3人は警備員達に、というより小型戦車に言った。
 とにかく走る、走る、走る。
 死ぬことが恐ろしいから、ではない。
 自分の命を守る、それが百合子と雨氷達の約束だったからだ。
 だから、3人は逃げ出した。
 どれ程の屈辱を感じたとしても。
 ただ、愛の為に。


550 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:14:04 ID:vAX2GWOI
 Side Aika
 「薄情者ー!」
 警備員達を翻弄しながら、小型戦車から逃げ去る3人を見て、愛華は叫んだ。
 勿論、モニター越しだからそんな叫びが届くはずも無いのだが。
 「お分かりいただけましたですわ。これが理不尽な力の前に敗北する者の姿なのですわ」
 メイドに用意させた紅茶を飲みながら、少女は言った。
 口元に笑みを浮かべて。
 「楽しそうだね、先輩」
 「ウフフフ・・・・・・・。ええ、本当に愉快ですわ。理不尽な力で敗かして虐げ蹂躙して絶望させるのは、本当に愉快」
 フフ、と笑みを濃くしながら、少女は言う。
 「ウフ、ウフフフフ・・・・・・、アハハハハハハ!ざまぁ見やがれですわ!暢気に軽薄に覚悟も無く楯突くからこう言うことになるのですわ!!弱い奴は弱い奴らしく地に這い蹲っていれば良いのですわ!」
 美しい面立ちを醜く歪め、少女は笑う。
 「見事なまでに悪役の台詞だね。ううん、いじめられっ子の台詞、かな?」
 「・・・・・・なんですって?」
 一見希望が絶たれたかのような状況でも、軽い口調を崩さぬ愛華を、少女は睨み付けた。
 「知ってる、先輩?いじめられっ子がいじめっ子に転進したパターンで結構多いのが、自分のいじめられた苦しみを他人にも味合わさせたいってのなんだって。ま、八つ当たりだね」
 「それが、何の関係があるって言うんですの?」
 鬼のような形相の少女に動じることなく、愛華は笑う。
 「だって今の先輩、そのパターンにそっくりなんだもん」
 そう答えた愛華の襟首を、少女は憤怒の形相で掴んだ。
 「生意気言ってんじゃ無いわよ。アンタの存在には人質以上の価値なんて無いのよ?」
 視線だけで愛華を殺さんばかりの勢いの少女だったが、そう言った所で急に愛華を放り出し、耳元に手を当てた。
 ウェーブのかかった長髪に隠れた耳元に。
 何事か呟いているようにも見えたが、愛華には聞こえない。
 それから、改めて少女は愛華に向き直った。
 「失礼いたしましたのですわ」
 憤怒の形相を無理やり笑顔に戻して少女は言った。
 そして、放り出した勢いで倒れた、愛華を縛り上げた椅子を立たせて、その身なりを整える。
 「貴女はお客人。一原百合子を手に入れるまでは。それまでにしっかりと歓待してさしあげなければいけませんでしたわね、ええ、ええ」
 急激な態度の変化に、さしもの愛華も戦慄した。


551 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:14:44 ID:vAX2GWOI
 Side Senri
 二日さんの尊い犠牲(死んでない)のお陰で振井さんの関門を抜けた俺たちは、下水道を上り、通風孔を通って何とか鬼児宮邸内に侵入を果たした。
 「全メイド、執事の行動パターンは調べ上げているでござる。彼らは、どんな自体でも寸分の狂いも無く行動するそうでござるから、そのパターンの隙を突いて移動するでござる」
 懐から潜入ルート等が書かれたメモを取り出し、李が言った。
 「・・・ですが李さん、鬼児宮先輩のご家族は?・・・もしかしたら急に帰ってくることもあるかも・・・・・・」
 「鬼児宮サナはこの屋敷で1人暮らしでござる。幼少の見切りより」
 三日の疑問に、李は間髪いれずに答えた。
 「・・・」
 「1人暮らしって・・・・・・」
 クラス1つ分の人数が暮らしてもまだ余裕がありそうな豪邸で1人暮らしとは。
 他に住み込みの執事やメイドがいるのかもしれないが、随分剛毅な1人暮らしもあったものだ。
 だからと言って、それが恵まれているとは限らないが。
 幼い頃から、執事やメイドがいても、親がいないのなら。
 親の愛情が、無いのなら。
 「驚いている暇は無いでござるよ、お二方。いざ参るでござる」
 そう言って先を促す李だったが。
 「参らせる訳にはいかねぇんだよな、これが」
 という声に遮られる。
 「お前は、空蝉!?」
 李の声に答えるように、1人の青年が現れる。
 黒い道着に、顔を隠す頭巾、長身痩躯だが鍛錬を感じさせる体つきの持ち主だった。
 「知っているのか、雷電!?」
 「うむ、聞いたことがある。……って誰が雷電でござるか!」
 俺のボケにツッコミを入れながら、李は答えた。
 「この男は空蝉。拙者と同門の中国忍者でござる」
 「・・・ちゅーごくにんじゃ」
 ひどい言霊が聞こえた気がした。
 宇宙忍者とかゲルマン忍者とかの方がまだマシなんじゃなかろうか。
 「オイオイ、忍。中国四千年の歴史を誇る『九毒拳』の訳語にソレは無いんじゃねーの?」
 空蝉と呼ばれた青年はそう言って大げさに肩をすくめた。
 『九毒拳』というのが中国忍者とやらの正式名称らしい。
 「それに忍、お前は九毒拳の裏切り者で、俺の幼馴染兼元許婚だろ?ソコを忘れちゃいけねーよなぁ」
 ビシ、と李を指差し、空蝉さんは言った。
 「・・・許婚」
 「それは九毒拳の長が勝手に決めたこと。それに、裏切りではなく足を洗ったと言うべきでござろう。諜報、暗殺、そうした汚れ仕事から」
 苦々しげに李は吐き捨てた。
 なるほど、九毒拳とはスパイ行為の為の武術らしい。
 中国忍者という訳語はこれ以上なく的を射ていたようだ。
 それっぽい設定が付くともっともらしく聞こえるから困る。
 「御神氏、緋月女史、先に行くでござる」
 そんなことを考えていると、屋敷の進行ルートを書かれたメモを無理やり握らされ、李から意外なことを言われた。
 「え、でも・・・・・・」
 彼女を見捨てろ、と言うのだろうか。
 「ここから先は中国忍者同士の戦。嫌な言い方でござるが、お二方はむしろ足手まといになってしまうのでござる」
 確かに、三日の身体能力は普通の女の子以下だし、俺のほうも李ほど武芸に長けているわけではない。
 ここは中国忍者のやり方を知っているらしい李に任せるのが適任かもしれない。
 二日さんの時といい、あまり他人に丸投げするのは気が進まないが。
 「ヤバくなったら逃げなよ、李」
 「承知」
 李が頷くのを確認し、俺は「わきゃっ!?」と言う三日を抱えて走り出す。
 「逃がすかYO!?」
 俺に飛び掛ろうとする空蝉さんは、李の投げた手裏剣に動きを止められる。
 「今の内に早く!」
 「ありがとう!」
 李を置き去りにすることへの迷いを振り切るように、俺は走った。


552 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:16:27 ID:vAX2GWOI
 Side Li
 中国忍者―――九毒拳は本来、諜報や暗殺に特化した武術である。
 他者の隙を見抜き、瞬時に射抜く。
 己を殺し、一撃をもって他人を殺す。
 先手必勝にして一撃必殺の武術。
 故に、
 「中国忍法、転!来!旋風刃!!」
 「あくぃたー!?」
 たった一撃の、しかし渾身の技をもって、李忍は空蝉を叩きのめした。
 しかし・・・・・・
 「まだ、終わりとは思えぬでござるな」
 構えを解くことなく、李は呟いた。
 「その「通り「だぜ「忍」
 その瞬間、どこからともなく十数人の人影が李の周囲に現れた。
 そのどれもが空蝉と同じ背格好と肌の色。
 「これは!?」
 驚く李に、空蝉たちは笑う。
 「どうだ「驚いたか「忍。「日本流「に言えば「分身の術「ってとこ「ろだ」
 それぞれの空蝉がそれぞれの言葉を引き継いで話す、異様な光景。
 「そんな漫画のようなこと、本当に出来るはずが無いのでござる。大方、似たような背格好の者を集めてお主の猿真似をさせた忍軍でござろう!」
 「ああ「コイツらは「俺の雇い主が集めた「俺と良く「似た背格好の「犯罪者だかなんだかだ」
 と、空蝉たちは自慢げに続ける。
 ここまでは、李の予想通りだった。
 「その「心を「拷問と「薬で「壊し「俺そっくりに「整形し、「俺そっくりに「振舞うように「教育した「ってわけさ」
 「何!?」
 なんでもないことのように発せられた空蝉の非道な言葉に驚愕する李。
 「オイオイ「薬と「拷問「なんざ九毒拳じゃ「当たり前だろ?「ま、「この人数は「さすが金持ちって「ところだけどな」
 そう言って笑う空蝉に、不快感を隠さない李。
 「だから拙者は中国忍者を抜けたのでござるよ・・・・・・!」
 「キレイごとだなぁ「忍。「そんなことで「本物の「俺を「見破れる「か「な!?」
 空蝉の長台詞が終わる前には李はまっすぐに走り、忍軍の1人を殴り倒していた!
 「な、何故、どうして!?」
 「本物が分かったか、でござるか?」
 容赦なく次の一撃を加えながら、李は言った。
 「抜けたとはいえ、お主とは何年も共に稽古したのでござる。細かな癖、挙動、全て嫌になるほど知っているのでござるよ」
 「だから、コイツらは俺そっくりに!?」
 「それでも他人。細かな動きに違いが出るのでござる。薬や拷問で人の心を折ることは出来ても、その存在を完全に粉砕することはできぬ!」
 渾身の一撃を叩き込み、李が叫ぶ。
 「さす、がだな、忍・・・・・・」
 倒れこみながら、本物の空蝉は言った。
 「だが、俺を倒しても第二、第三の俺が、お前を・・・・・・・」
 「!?」
 その言葉が終わる前に、周囲の偽空蝉たちが一斉に李に向かって群がった。
 『本物が倒れたときは、倒した相手を襲え』
 事前に仕込まれたその指令を忠実に全うするために。


553 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:16:46 ID:vAX2GWOI
 Side Senri
 「・・・どうしたんですか、千里くん?」
 と、俺に抱えられた三日が言った。
 李の遺したメモ(だから死んでない)を頼りにルートを進み、鬼児宮サナ先輩の部屋のすぐ真上まで来た。
 たった2人となってからも、なるべくサクサク、如才なくこうしてリアルメ○ルギアソリッドを進めていたつもりだったが、三日には分かってしまうものらしかった。
 「・・・少し、迷っているように見えますよ、千里くん」
 「まぁ、ね」
 そう、俺は迷っている。
 二日さんに任せ、李に任せ、鬼児宮先輩の部屋への奇襲と言う最終最後の逆転の役回りは俺たちに、俺に任された。
 任されて、しまった。
 「俺なんかで、良いのかなって思って」
 本来、俺はこの事件の部外者だ。
 二日さんのように実力を誇示するつもりも無ければ、李のように一原先輩の為なら何でも出来るような覚悟も無く、愛華さんと特別親しくしてもらっていたわけではない。
 ただ、一原先輩に助力を頼まれただけの人間だ。
 やる気はあるが、それは生徒会メンバーには程遠いだろう。(一原先輩への愛のためなら命を捨てる人たちだ)
 知的好奇心とやらで動く推理小説の名探偵よりも、問題解決のための目的意識が低いと言って良い。
 この場にいることが必然ではなく、自然でも無い。
 不必然にして不自然。
 そんな人間が、最後の逆転の役回りに就いて良いのか、俺が相応しいのか、それが、ほんの少しだけ、迷う。
 「・・・そうじゃないって思うなら、やめれば良いと思います」
 と、三日は言った。
 止めてしまえ、放り出してしまえ、と。
 「・・・李さんのメモを使って、ここまで来ることが出来たのですから、今から帰ることも出来るでしょう」
 三日の言うことはもっともだった。
 「けど・・・・・・」
 未成年のやったこととはいえ、これは誘拐事件。
 それをそのままにして良いのだろうか。
 いや、それは一般論だ。
 人として守るべき社会常識、モラルであっても、それは俺個人の意見では無い。
 俺個人の気持ちが入っていない。
 「…つまらないことで、千里くんがやりたくも無いことで、千里くんが傷つくなんて、それこそ非道なことです。…私もそんな姿、見たく、ありません」
 顔を伏せて、三日は言った。
 「まぁ、言いたいことは分かるけどさ」
 俺は返した。
 けど、って何だ、と自分で思わずにはいられなかった。
 「・・・それでも、私は、千里くんの判断を支持します」
 と、三日は言った。
 「・・・それがどのようなものであったとしても、それは千里くん自身が考え、決めたものなのですから。・・・それは、何であれ誇るべきものです」
 三日の言葉に、俺は一瞬だけ、迷い、考え、決断した。


554 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:17:12 ID:vAX2GWOI
 Side Yuriko
 「さー、サナさん。約束どおり1人で来たわよ」
 どや、と鬼児宮サナの私室の扉を開け、一原百合子は堂々と言った。
 「お姉!」
 椅子に縛られた愛華が呼びかける。
 「怖かったわね、愛華(あっ)ちゃん。あとでおねーちゃんが慰めてあ・げ・る。と、言うわけで鬼児宮さん、あっちゃんを離して私らを帰しなさい!」
 どどーん、という効果音が欲しくなる(by百合子)ほど大げさに百合子は言った。
 「そうはいかないのですわ」
 余裕の表情で、鬼児宮と呼ばれた少女は応じた。
 「なんでよ。警備はもうしっちゃかめっちゃかで、アナタもう打つ手無しっしょ?さすがに、私を案内する係がいなかったのは驚いたけど」
 「だとしても、貴女1人ではどうしようも無いのですわ。だって・・・・・・」
 何でもないことのように少女は続ける。
 「一原愛華には遠隔操作の爆弾が仕掛けられているからですわ」
 そう言って、愛華の縛られた椅子の後ろを見せる少女。
 縄の間には、確かに火薬の仕込まれた無骨な装置があった。
 「んな!?」
 「その上、サナの持つスイッチでオンオフ自在なのですわ」
 「なな!?」
 「部屋全体には大した被害は及びませんが、まぁ、一原愛華1人とその周りを吹き飛ばすくらいは出来るのですわ」
 「くぅ、なんてベタな!」
 「つっこむところがソコですの?」
 百合子のリアクションに心底呆れたような顔をする少女。
 「それはともかく、一原百合子。妹を殺されたくなければ誓うのですわ。跪いて足を舐めて。『一原百合子は鬼児宮サナに心身共に絶対隷従します』と
 そう言って、少女はサディスティックに笑った。
 「そしたら、私はどうなるのかしら?」
 「永遠にこの部屋の住人になるのですわ。勿論、ボイスレコーダで言質は取らせて頂きますわ」
 「どーせ、この部屋の様子はチキンと記録されてるんでしょ?」
 わざと『きちんと」ではなくチキンと言った。
 あまり上手くない百合子だった。
 「勿論ですわ」
 そう言って、少女は足を組みなおす。
 「さぁ、誓いなさい。鬼児宮サナに屈服すると」
 「お姉、こんな奴の言う事聞いちゃ駄目!!」
 歪んだ笑みを浮かべる少女と、切迫した声を上げる愛華。
 しかし、百合子は大胆不敵な笑みを浮かべる。
 「ねぇサナさん、私は1人で来た、とは言ったけど、味方がいない、と言った覚えは無いわよ?」
 「生徒会のお歴々のことですわね」
 ハッ、と百合子の言葉を鼻で笑う。
 「今頃は我が手駒の前に倒れているころですわ」
 「どうかしらね?」
 「それはどう言う・・・・・・」
 その回答は、轟音によってなされた。
 部屋の窓が割れ、ロープを使って1人の少年が部屋の中に侵入する。
 「何者!?」
 その叫びに対し、少年―――御神千里は不敵に答える。
 「ただの、ヘルプですよ」


555 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:18:16 ID:vAX2GWOI
 Side Senri
 「よっと!」
 急な襲撃に驚愕する少女(恐らく、あれが鬼児宮サナ先輩だろう。事前に写真で見た)に向かって、部屋に侵入した俺は飛び掛る。
 「ただのヘルプですって!?おふざけを!!」
 「ふざけちゃいませんよ」
 俺から半ば転がるように距離を取った少女に、俺はいつも通りの笑みで応じる。
 「貴方、生徒会の人間ではありませんね。それがなぜここに?利害?報酬?青臭い正義感?それとも一原百合子の押しの強さに負けて?」
 「どれでもありません、よ!」
 そう少女に返しながら、俺は距離を詰める。
 「腐れ縁で、昔から何かと世話になった先輩に頼まれた、頼りにされた。その期待に応えたいとか思っちゃったり。理由はそれだけです!」
 その言葉と共に、足払いをかける。
 それだけ、であっても俺の行動にはもう迷いは無い。
 例えそれ以上の目的が無いとしても、例え部外者だとしても!
 一原先輩が俺のことを知らなければ、あるいは俺のことを頼りにならないどうでも良い奴だと思っていたら、俺はそもそもこの場には呼ばれていない。
 そうではないことを、俺はこれ以上無く嬉しく、誇りに思っていることに遅まきながら気が付いたんだ!
 「せいや!」
 転ばせることはかなわなかったが、俺は少女のバランスを崩すことはできたようだった。
 俺は背中から彼女を取り押さえ、首に腕を回す。
 「さーて、鬼児宮サナ先輩。これ以上痛い目みたくなければ、降伏してください」
 「あら、か弱い女性に手を上げるおつもりですの?」
 首を絞められながらも、少女は気丈に軽口で返した。
 「確かにこう言うのは趣味じゃないけど、男女差別はもっと趣味じゃないんですよね」
 「あら、そうですの」
 「それに、俺の行動を後押ししてくれた奴もいますし」
 俺のその言葉に、「・・・女子に暴力を振るって下さい、という意味でもなかったような」という声と共に三日が降りてきたような気がしたがスルーした。
 「…でも、絆を大事にする千里くんらしいです」
 と、後ろで笑ってくれたのは嬉しかったが。
 「いずれにせよ、私を押さえてもあまり意味はありませんわ」
 「はい?」
 なぜか余裕のその言葉に、俺は怪訝な声を出す。
 「だって『私』、左菜(サナ)では無いのですから」
 その言葉に、一瞬虚を突かれた。
 「ガッ!?」
 少女が袖口から取り出したスタンガンの一撃を、俺は腹部にモロに受ける。
 「改めまして、はじめまして、ですわ」
 俺から距離をとり、その少女は、ウェーブのかかった長髪の向こうに小型の通信機を付けた少女は、スカートの端を持って優雅に一礼する。
 「私は左菜の妹、鬼児宮右菜(オニゴミヤ・ウナ)と申しますわ」
 その少女、右菜さんを見ながら、俺は何とか立ち上がった。
 「アンタが最終関門ってワケですか」
 『その通りですわ』
 そう答えたのは、部屋のどこかに仕掛けられたスピーカーからの音声。
 目の前の右菜さんに良く似た声音だった。
 「アンタが鬼児宮左菜さん?」
 俺は、スピーカーからの声の主に向かって聞いた。
 『ええ、私の方が鬼児宮左菜(オニゴミヤ・サナ)。以後お見知りおきを願いますわ。尤も、あまり長い付き合いにはならないでしょうけれど、ですわ』
 笑みさえ感じさせる声で、左菜さんは言った。
 「双子の入れ替わりトリック・・・・・・」
 さしもの一原先輩も驚愕していた。
 「ひどいじゃない!そんな使い古されたトリック!しかも伏線がどこにも無いし!」
 「申し訳ございませんが私達、フェアと伏線が保証された本格ミステリをするつもりは無いのですわ」
 妙なところに怒り出す一原先輩に、右菜さんが冷たく言い放った。
 『それに、右菜の存在は世間にもひた隠しにされていたのですわ。せいぜい、私の名前に『左』の文字が入っていたことがその暗示』
 「ンな右京さんと左京さんじゃないんだから・・・・・・」
 「それに、警備担当の九毒拳士に似たようなトリックを使わせていたのですけれど、貴方方はご存じなかったようですわね」
 嘲笑するような声音の右菜さん。
 どうやら、空蝉さんにも替え玉がいたらしい。
 もし彼に全員で対決していればこの展開を予想できたかもしれない。
 「後悔してる暇は無いわよ、御神ちゃん」
 「ええ、分かってますよ」
 再度右菜さんを警戒しながら、俺は言った。


556 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:19:16 ID:vAX2GWOI
 「どうするつもりですの?」
 『ええ、一原愛華に仕掛けた爆弾のスイッチは、隠し部屋にいる私が持っているというのに』
 双子からの余裕の声。
 しかし、日本語は正確に使って欲しい。
 愛華さんに仕掛けた爆弾では無く、正確には愛華さんの『椅子に』仕掛けられた爆弾だ。
 だから、
 「こうするつもりですよ!」
 俺は再度、右菜さんに飛び掛る。
 「この!!」
 スタンガンを振り回す右菜さんだったが、種が割れている以上避けるのは難しくない。
 思ったとおり、右菜さんの身体能力は普通の女子高生以上の物ではない。
 恐らくは、あくまで右菜さんは左菜さんのボディガードではなく替え玉であり、戦う為の訓練は受けて無いのだろう。
 だから、一般的な高校生でしかない俺でも十分に対抗できる。
 「すいま、せん!」
 俺は右菜さんのわき腹に軽く蹴りを入れ、愛華さんの椅子の方に飛ばす。
 「三日、ロープを!」
 「・・・はい!」
 俺の言葉に、三日は俺たちがこの部屋に侵入するのに使ったロープを投げ渡す。
 「何を・・・・・・!?」
 「はい、ぐーるぐる」
 縛られた愛華さんにその隣の右菜さん。
 その更に上から、俺はロープを巻きつける。
 「ど、う、だ!」
 もがく右菜さんをしっかりと縛り上げ、俺は言った。
 『何のつもりですの?』
 「人質」
 左菜さんの言葉に俺は即答した。
 愛華さんに仕掛けられた爆弾が実際どれほどの威力かは知らないが、今の状態で起爆したが最後、右菜さんも道連れになる。
 爆弾を使って左菜さんは愛華さんを人質に捕ったが、同じ方法で俺は右菜さんを人質に取られせてもらった。
 「貴方、見た目の割に性格悪いですわね」
 「そりゃどうも」
 憎憎しげに見つめる右菜さんの言葉に、俺はサラリと返した。
 ともあれ、これで状況はイーブンになった。
 一原先輩の言うことを聞かせるために爆弾を仕掛けた左菜さんだけど、その手はもう使えないだろう。
 ここから文字どおりの意味での先は話し合い―――
 『お得意になっているところ申し訳ありませんが、私に右菜は人質になりませんわ』
 「・・・・・・はい?」
 まるで当たり前のように言われた言葉に、俺は声を出すのがやっとだった。
 『私の目的は、あくまで一原百合子を手に入れること。それ以外の為の手段も、犠牲も問いませんわ』
 「左菜!?」
 そう叫んだのはほかならぬ右菜さんだった。
 「それハッタリよね!?ブラフよね!?左菜が私を、たった1人の姉妹を犠牲にするはず無いわよね!?」
 今までに無く余裕をなくした形相で、右菜さんは訴えた。
 言葉遣いも乱れ、目元に涙すら浮かべていた。
 『右菜、あなたの存在は私の替え玉、身代わり、それ以上の価値は無いのですわ』
 「!?」
 あっさりと言い放った左菜さんに、右菜さんが絶句する。
 「ちょ、待ってよどうしてよ!?」
 そう抗議したのは一原先輩だった。
 「どうしてサナさんは私をそんなに欲しがるの!?妹さんまで犠牲にして!!」
 『ご自分の胸に手を当てて、良く考えてみることですわ』
 左菜さんは、それ以上の説明をするつもりは無いようだった。
 「正気かよ、アンタ・・・・・・」
 俺は、そう言わずにはいられなかった。
 だってそうだろう?
 生まれたときから一緒だった相手を、共に喧嘩し、共に泣き、共に笑った相手を何でそんなにあっさり犠牲に出来る!?
 『ええ、確かに私は正気では無く、狂気に侵されているのかもしれないのですわ。けれども、一原百合子を手にするためには、それさえも瑣末なことですわ』
 「そう・・・・・・」
 そう、静かに答えたのは一原先輩だった。
 「そっかそっか、そう言う事なんだ」
 何かを納得したように頷く先輩。
 少しずつ、愛華さんたちの方に近づきながら。


557 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:19:59 ID:vAX2GWOI
 「でもゴメンね、アナタが私に『服従』とか『屈服』とかして欲しいならムリだわ」
 ひょい、と肩をすくめて一原先輩は言う。
 「あなたが望むなら、絆は喜んで結ぶ。あなたが望むなら、その絆は喜んで愛する。でも誰かに隷従するのは、私の魂が拒絶する。だって―――」
 にっこりと笑顔さえ浮かべ、先輩は言った。
 「そんな関係、つまんないじゃない」
 『・・・・・・それが、答えなのですの?』
 感情を押し殺した声で左菜さんは言った。
 『・・・・・・・んで』
 声と共に漏れるのは、嗚咽だろうか。
 『なんでなんでなんでなんですか!?貴女は私が生まれて初めて本気で欲しいと思った相手なのに!?本気で羨ましいと思った相手なのに!?本気で本気で本気で本気で本気で本気で!!』
 栓をしていた感情を吐き出すように慟哭する左菜さん。
 俺の本能が警告する。
 ヤバい、このパターンはヤバい!!
 『もう取引なんてどうでもいい!脅迫なんてどうでもいい!爆弾を起動する起爆する爆発させるのですわ!!』
 「左菜!!」
 そう叫んだのは誰の声だったろうか。
 爆発する!
 そして。
 しかし。
 どれだけたっても。
 「・・・爆発、しません」
 思わず覆いかぶさった俺の下から、三日が怪訝そうに言った。
 爆音がしない。
 熱風も、来ない。
 なぜなら。
 愛華さんと右菜さん、両者を抱きしめるように一原先輩が密着していたから。
 「離さないわよ」
 と、先輩は言った。
 「私は絶対、誰も離さない」
 強い意志さえ感じさせる声だった。
 「ねぇ、左菜さん。いいえ、さっちゃん。あなた、私が羨ましいって言ったわよね。だったらさ」
 にっこりと、全てを包み込むように笑う一原百合子先輩。
 「この輪の中に、入りなさいよ」
 楽しいわよ、と一原先輩は言った。
 「・・・・・・はい、ですわ」
 その答えは、すぐ近くから返ってきた。
 部屋の中で一際大きな油絵。
 その裏の隠し扉から。
 そこから現れたのは、右菜さんとそっくりな、けれどどこか違った雰囲気の少女。
 この人が、本当に鬼児宮左菜さん。
 左菜さんは、爆弾のスイッチを投げ捨て、一原先輩に抱きついて、大声で泣いた。


558 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:21:38 ID:vAX2GWOI
 Side All
 「私、一原百合子がこの世で一番好きなのですわ」
 その少し後。
 俺こと御神千里らに加え、生徒会メンバーに、下水道でリタイヤしていた二日さんと振井さん(二日さんが勝ったらしい)、さらに李と彼女にボコられた空蝉さん(替え玉も全員倒されたらしい)は左菜さんの部屋に集められた。
 そこで左菜さんから発せられたのが上の台詞。
 その言葉に、反応は様々。
 最初から知っていたらしい右菜さんや途中で察したっぽい一原先輩、そもそも興味無しな二日さんは普通の反応。
 振井さんと空蝉さんは驚愕。
 生徒会メンバーは軒並み苦い顔をした。
 俺と三日は、何というか、脱力?
 どうやら、一原先輩の厄介な恋愛に思いっきり巻き込まれただけみたいなわけだし。
 で、一原先輩の返事は。
 「一億と二千年前から愛してました」
 「適当こくな」
 一原先輩のバカに、俺は容赦なくツッコミを入れた。
 「でもさっちゃん。どうしてそれを最初から素直に言ってくれなかったの?私は女の子はみんな大好きなのに?」
 俺のツッコミをスルーして、さっちゃん、もとい左菜さんに問いかける一原先輩。
 確かに、先輩が同性愛者なのは学園の全校生徒が知っている。
 「貴女が気にしなくても、我が家が気にするのですわ」
 「鬼児宮家は血族の繋がりが強い上に、本家のご当主による独裁体制なの。私たち親戚筋はソレに絶対服従。一般には全然知られてないけどね」
 左菜さんの言葉を、右菜さんが補足した。
 敬語ではないのは、右菜さんの素なのだろう。
 「あー、ものすごい納得した」
 渋い顔をして一原先輩は応じた。
 「結婚相手を指定したり、同性愛をタブー視するような、頭のおか・・・・・・失礼頭の固い方々が本家にいる、ということなのですね」
 と、応じる氷室副会長もこれまた渋い顔。
 そう言えば、彼女らの先輩の鬼児宮エリスさん、つまり三日のお兄さんの恋人さんも鬼児宮姓だった。
 多くは語らないけれど、先輩達はかなりの程度鬼児宮の滅茶苦茶具合を肌で知ってるのかもしれない。
 「そんなところですわ。けれども、家の中に、その『飼う』というか『囲う』というのなら、何とか本家の人間も納得させられますから」
 「それで、恋人関係じゃなく、上下関係を結ぼうとしたわけね」
 左菜さんの説明に、一原先輩は言った。
 事情は分かったけど、手段が荒っぽいにも程がある。
 「けれども、計画が潰えた以上、どうしようもありませんわ。このまま生きていても、好きでもない男性に嫁がされるだけですわ」
 自決するしかありませんわ、と暗い表情になる左菜さん。
 「大丈夫よ、さっちゃん」
 左菜さんを安心させるように、一原先輩は彼女の手を握った。
 「私達にはこんなにも心強い仲間が、恋人がいるもの。すぐにはムリでも、少しずつ他の人にも納得してもらえば良いわ。ねぇ、そうでしょ、みんな?」
 ひょい、と生徒会メンバーの方を向く先輩。
 「鬼児宮殿には、我々との百合子争奪戦に参加していただくことにはなるでござろうが」
 「ソレ以外はスポーツマンシップに反するデス。そう言うのは、争いはストップイットデス」
 「お姉は私のだけど、みんな一緒の方が賑やかだしね、お姉は私のだけど」
 「ま、鬼児宮家にいられなくなったら百合子にもらってもらえば?」
 「過ちは繰り返さない、が私のモットーですから」
 と、李やエリス先生、愛華さん、霧崎や氷室副会長が答えた。
 「何だったら、この家の女の子全員私の嫁にもらうけど?」
 と、先輩は左菜さんと振井さんを見るが。
 「「いや、あなたタイプじゃないんで」」
 と無碍に断られる。
 「でも・・・・・・」
 となおも不安そうな顔の左菜さん。


559 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:22:09 ID:vAX2GWOI
 「大丈夫よ、さっちゃん」
 スルリ、と左菜さんの首に手を回す一原先輩。
 「心配も不安も全部、私が一緒に肩代わりしてあ・げ・る」
 あと数ミリで唇が触れ合うというところで、先輩は囁いた。
 そのまま床の上に左菜さんを押し倒す。
 どうでもいいが、妙に抵抗感が無かった。
 「百合子殿!?」
 「Oh,ジョーネツ!」
 「ズルいよ、先輩」
 「ボクも混ぜろよ!」
 「百合子(ゆー)ちゃん!?」
 と、先輩達の周りがくんずほぐれずのダンゴ状態になる。
 「あ、アンタたち人の姉上にナニやってるのよ!?変なことしたら私が許さないわよ!!」
 それをひきはがそうと、右菜さんが止めに入るが、割と逆効果に見えた。
 「右菜のご主人、おいたわしーぜ」
 その光景を複雑そうな顔をして見る振井さんだが、二日さんとの戦闘でボロボロになった身ではホロリと涙を流すくらいしかできない。
 「なぁ、振井。こっから先は若い衆に任せようや」
 そんな彼女に気遣わしげに手を置く空蝉さん。
 「うう、ご主人……」
 ダンゴ状態を押し留めようとする者、諦めたように部屋を出る者。
 「・・・え、ええっと?」
 超展開(一原先輩にとってはいつものこと)に呆然とする三日。
 俺は、そんな三日を強制的に回れ右。
 ここから先は18禁だ。
 「さーて、帰るか」
 「・・・良いんですか、放って置いて?」
 「ああやって先輩のハーレムは拡大していくのさ、いつも」
 三日の困惑に、俺はため息混じりに答えた。
 結局、おいしいところは全部先輩が持っていった。
 一原先輩絡みの荒事のエンディングは、いつもこんな感じなのだ。
 まぁ、この場合俺が主役になっちゃいけないパターンだったんだろうけど。
 これで良いのだ、と言えばそうなのだろうけど。
 「そうだ三日、二日さん。今日はウチで夕飯食べてきません?」
 部屋を出て、家へ帰ろうとする道すがら、俺は2人に提案した。
 「悪くはありませんね・・・」
 「・・・お姉様も誘うんですか?」
 「不服ですか・・・?」
 「・・・ソンナコトハゴザイマセン」
 「折角ですから、お父様も呼びましょう・・・」
 「外に出られたんですか、アレ!?」
 さて、今日はとりあえず、憂さ晴らしに三日たちにたんまり美味しい物を作って、賑やかにおなか一杯食べるとしよう。
 「まったく、やれやれだ」
 頭を掻きながら、俺は呟いた。
 「…そう言いながら笑ってますよね、千里くん」
  そんな三日の指摘に、俺はそっぽを向いた。


560 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:22:33 ID:vAX2GWOI
 おまけ
 後日
 あるウェブサイトのチャットルームにて。

 むーんさん:ところで『yuriko』君、というか百合子君。この前は・・・ウマクイッタ・・・かい?
 yuriko:ええ、『むーんさん』さん。色々ありましたけどお陰でバッチシVでしたよー
 むーんさん:それは・・・ザンネン・・・。私としては…トラブル…の種を撒ければ良いと思って協力したのだからね
 yuriko:まー、そう悪いことばっか起きないってことですねー!
 むーんさん:ハッハッハッー
 yuriko:代わりに、ウチは今まで以上に賑やかになりましたから、そう言う意味じゃ『むーんさん』さんはトラブルの種を撒いたってことになりますかね
 むーんさん:それは…ヨロコンデ…聞いておこうかな
 yuriko:まー、また何かあったときはよろしくお願いしますね、『むーんさん』さん、いえ、緋月先輩のお父様
 むーんさん:・・・ワカッタ・・・よ、一原百合子君。機械関係なら、この『むーんさん』こと緋月月日に・・・マカセテ・・・おきたまえ