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602 :ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part2/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/20(土) 12:39:36 ID:goQePK2Y
 3―――不安定な数字。
 ソレだけでようやく集団を形成できる、危うい数字。
 一つ欠ければ、2―――対立の始まる数字。
 更に欠ければ、1―――孤独な数字。
 世界の安定など到底望めない数字たち。
 どうせなるなら9が良い。
 3に更に3を掛けて。
 3を弐乗した、9が良い。
 3よりもずっと力のある、救の数字。
 名前だけは九であるその少女が、本当の意味で9、救となる、少女の救いとなる存在が、ひょっとしたら、万に一つでも、千歩譲って現れたのかもしれない。
 そんなことを少女が考えていたのかは定かではないが、そう考えたとしても、自らの考えを無意味と一蹴したかもしれないが。
 それはさておき、少女が少年、弐情寺カケルに強い興味を抱いた。
 それは事実だった。
 初めて感じたその想いは、あるいは初恋と呼ばれるべきものだったのかもしれない。
 それもまた、少女は無意味と言うかもしれないが。


603 :ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part2/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/20(土) 12:40:34 ID:goQePK2Y
 「『弐情寺カケル』ー?漢字はどう書くのー?」
 少女を欄干の向こうから引き上げた後、カケルは何故か彼女と共に行動を共にしていた。
 ブラブラとロンドンの石畳の上を歩き、はしゃいだ様子の少女と会話する。
 会話、というより少女の方が質問攻めにして、カケルがそれに答えているだけと言った方が正確だったが。
 少女は、美しい容貌の持ち主だった。
 長袖のロングスカートに包まれた、やや痩せ過ぎな位のほっそりとした体つき。
 スラリとした伸びやかな手足。
 鼻筋は整っており、桜色の唇が可愛らしい。
 目は大きいが、笑うとキュッと細くなり、糸目になる。
 その様はどこか狐を思わせた。
 イギリス人と言われたらそう見えるし、日本人と言われたらそうとも見える、国籍を感じさせない顔立ちの美少女だった。
 『ひょっとして、僕は狐に化かされているんじゃないだろうか』と一瞬カケルは思い、否定する。
 英国で妖怪に会うなんて笑い話にもならない。
 それよりも、もっと実際的で現実的な問題がある。
 『誤って橋から落ちそうになってくれたところ―――って言ってたけど』
 カケルはよくお人好しと言われるし、利口なつもりもないが、何でもかんでも鵜呑みにする趣味は無い。
 先ほどの少女の姿は、『誤って』とはどこか思えない部分があった。
 『もしかしたら、自殺志願、英語で言うとマインドレンデルだったのかも』
 その英語は微妙以上に間違っているがそれはともかく。
 正しくは自殺=スエサイド。
 『何にせよ、このまま放っておくのはヤバいよね』
 そんなことを考えながら、その狐のような美少女の質問に答えることにした。
 「弐情寺は旧漢字の弐に・・・・・・」
 「ふむふむ・・・で、名前の方はー?」
 それには多少の苦笑を浮かべ、「ちょっと説明し難いんだけど」と前置きし、
 「『苛烈』って字、分かるかな。それの『苛』に『蹴』るで『苛蹴』。面倒だから、大抵カタカナで『カケル』って書いてるけど」
 とカケル(苛蹴)は説明した。
 「珍しい並びだよねー」
 カケルとしても聞きなれた感想だった。
 「親が変身ヒーローもののマニアでね・・・・・・」
 「?」
 不思議そうな顔をする少女。
 「ライダーものって知ってる?子供向け特撮ヒーローの、昔からある奴」
 「うん、知ってるも何も昔の知り合いにそういうのに詳しい馬鹿が1人いたからねー。確か、カードとか楽器とかで闘うヘンな顔したスーパーヒーローの番組だよね」
 カケルの質問に少女は笑顔で答えた。
 スマイル0円で『詳しい馬鹿呼』ばわりされてる相手に同情しないでもないカケルだった。
 ともあれ、かなり偏った理解だが知ってるなら話は早い。
 「で、その必殺技が大抵キック、凄い飛び蹴りじゃない?そのイメージを名前にしたくて考えたのが『苛烈な蹴り』で『苛蹴』ってワケ」
 つくづく、我が親ながらすさまじいセンスの持ち主だとカケルは思った。
 「へぇん。でも、それだと『烈』とか『隼人』とかも候補に入りそうなモンだけどねー。苗字的に」
 「ああ、『隼人』は(完全に偶然だけど)親父の名前で、『烈』だと「まんますぎだろ!」ってコトで没になったんだって」
 カケルの世代では詳しく分からないが、そんな風な名前のヒーローがいるらしい。
 若さとは振り向かないことというのはけだし名言だとは思うが、そんなロジックで子供の名前を決めるのはどうなのだろうとカケルはつくづく思った。
 「まぁ、『苛蹴(カケル)』もそれなりにそれっぽくはあるよねー」
 からからと笑う少女を見て、そう言えば少女の名前を聞いていなかったことに気が付いた。
 「そういえば、君の方こそ名前は?」


604 :ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part2/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/20(土) 12:40:51 ID:goQePK2Y
 カケルの言葉に、少女はきょとんとして、
 「え、どーでも良いじゃん。そんなの」
 と、答えた。
 まるで、当然のように。
 「どうでも良いって・・・・・・」
 自分の名前なのに。
 まるで、無意味な名のように。
 自分が無意味であるかのように。
 人は、そんなことを言えるものなのだろうか。
 「そんなことよりさー、ボクはキミのことが知りたいんだよ、意味ある人のカケル」
 「いや、意味ある人って・・・・・・。まぁ無意味なことをしたつもりもないけど」
 そこで、カケルは一瞬躊躇しながらも―――少女に一番聞きたかったことを聞くことにした。
 「君は、どうしてこんな朝早くに橋の上のあんな危ないところにいたの、意味ある人?」
 あえておどけたように、少女の言い回しを真似てカケルは聞いた。
 本当は、どうして自殺なんてしようとしたの、と聞きたかったが、さすがにいきなりそこまで切り込むわけにはいかない。
 「ボクは無意味だよ、意味ある人。まぁ、ボクの場合『意味ある人』というか『ある意味人』かな」
 これまたおどけたように、少女は返した。
 「答えになって、ないじゃん」
 少女の、自己肯定を笑顔で否定するような言葉に内心ザラリとするものを覚えながらも、カケルは聞き返した。
 「そうそう、君の意味ある行動の意味ある所以の話だったね」
 そう言って、少女は説明を始める。それが、カケルの求めていたものかどうかはともかく。
 「この半年間、それなりにこの街を散策し続けて、絶対に人の居ない場所、絶対に人の居ない時間を見つけた。それがあそこだった。その『居ないはずの場』にキミが現れてくれた」
 そう言って、カケルに向かってニッコリと笑いかける。
 「おそらく、確率的にあの場にキミが現れる確立は0に近かったはずだ。けれど現れ、ボクが死ぬという流れを覆した」
 「君を助けられたことに関しては、ボクも自分で多少胸を張って良いと思っているところだよ」
 「ただ助けたんじゃなくてー、ボクの死という運命をひっくり返したのさー。それはただ単に誰かの命をぐーぜん救っちゃうことよりずっと意味があるくない?」
 「それが分かっているのなら、もうあんな危ない所を歩くのは止めた方が良いよ」
 少女の言葉に、カケルは言った。
 やはり、婉曲的な言い方になってしまった。
 本当は『折角助かった命は大切にして欲しい』とか言うつもりだったのに。
 「ご忠告感謝。けれども、キミの行動の意味はボクでなくても変わらなかったろうねー」
 カケルの言葉に軽い調子で答える少女。
 どうにも、彼女は死を軽く考えているように見える。
 いや、それとも・・・・・・
 「そんな行動を取れるキミ『が』意味ある人なんだろうねー」
 と、少女は続けた。
 先ほどの言葉より、幾分か真剣味が強い語調だった。
 本来、逆であるべきだろうとカケルは思った。
 ヒーローぶるつもりは無いが、人並みに正義感とか優しさとか持ち合わせているつもりだ。
 勿論、自分に対する優しさも。
 ―――少女は、どうなのだろう?
 「折角だからさ、カケル」
 カケルの内心も知る由も無く、少女は言った。
 「これからボクとデートしないー?」
 その予想の斜め上を行く言葉は、やはり軽い調子で言われた。


605 :ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part2/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/20(土) 12:42:14 ID:goQePK2Y
 「いやー、悪くなかったねー。ロンドンダンジョン」
 無骨な建物の中から出てきた少女がほくほく顔で言った。
 対するカケルはゲッソリした顔をしていた。
 無理も無い。
 今の今までカケル達がいたのはロンドンダンジョン。
 蝋人形を使って中世の拷問や処刑方法を再現したというスプラッタ趣味溢れる観光スポットだ。
 当然、そうしたモノに耐性の無いカケルが耐えられるはずも無く。
 「カケルの百面相、すごかったねー。お人形さんを見るたびに顔を青くしたりー、叫んだりー」
 「ヒトの形をした物があんな手ひどい手段で殺されてりゃあね」
 しかも、無駄に出来が良い。
 お陰でカケルは冷や汗を掻き通しだった。
 対する少女はほとんどかいていない。季節外れの長袖だというのにだ(と、言うより肌の露出が極端に少ない)。
 「お陰でカケルの色々な顔を見られたよ。いやー眼福眼福ー」
 「ひょっとして、ダンジョンの中でずっと僕の顔見てたの?」
 「ウン、入ってから出るまでずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずーと目離さなかったよー」
 「・・・・・・」
 この少女は随分と変わったロンドンダンジョンの楽しみ方をされたようだ。
 あの後。
 デートの申し出があった後、カケルのしたことは友人達に電話をすることだった。
 公衆電話から友人の泊まっているホテルに連絡し、「今日はチョット1人で動きたいから」と伝えたのだ。
 『あー、カケルがそうしたいなら良いぜ』
 と、存外あっさりと友人達からの了解を得られた。
 「悪いな、いきなり勝手言って」
 『良いって、カケルが言いだしたら聞かないのは知ってる』
 「あはははは・・・・・・ゴメン」
 『我儘放題でない奴なのも知ってる』
 「ありがと」
 友達に嘘をつくのは気が引けたが、事情が込み入っているので仕方が無い。
 すぐ横で少女が電話の内容を聞いてたし。
 そんな訳で現在、少女と観光地巡りをしていたのだった。
 「まー、カケルもグッタリしてるみたいだし、適当にマックでも入ろうか」
 「あるんだよね、マック。こっち来てビックリした」
 「まぁ、日本にもある位だしね。あるでしょ、イギリスにも」
 なるほど、英国に居る少女としてはそういう感覚なのかとカケルは感心した。
 そんなことを考えながら、2人は日本でもポピュラーなファーストフード店に入った。
 「何食べたい?」
 「何でも良ーよー」
 「じゃあ、僕はセットの・・・・・・」
 「あ、ボクも同じので」
 というやり取りの後、適当な席に対面で座る。
 「そう言えば、カケルはどうしてこっちにー?修学旅行ー?って時期でもないか」
 「ウン、学校が夏休みでね―――」
 と、同じ学校の友人達とイギリス旅行に来たことを説明した。
 「ってことは高等部、もとい高校くらいかなー」
 「いや、高等部であってる」
 「?」
 少女が目を丸くする。
 「ええっと、僕ら、東京にある夜照学園、そこの高等部に通ってるんだ」
 「よ、る、て、る・・・・・・」
 カケルの言葉を繰り返す少女。
 驚き、言葉を無くしている。
 「ええっと・・・・・・どうしたの?」
 至近距離まで手を近づけ、目の前で上下させたりしてみる。
 「あ、ああ。いや、何でもないよー何でもー」
 そう言いながら、ハッシュドポテトを口にする少女。
 気が動転しているようで、包み紙まで1欠け口に入ってしまったように見えるが、お腹大丈夫だろうか。
 「高等部ということは中等部もあるってことなんだろうね。中には中等部からの持ち上がりという連中もいるんだろう?」
 その言葉には、『カケルは中等部に通っていなかった』というニュアンスが感じ取れる。実際そうなのだが、なぜ少女はそれがわかったのだろう。
 「そうだね」
 と、不思議に思いながらも答えた。
 「どんな奴らがいるのー?つまり、キミの周りの意味ある奴らの話ー」
 「意味あるって・・・・・・みんな意味あるさ」
 「そんなことを言えるのは、キミの『美徳』って奴なんだろうねー」
 クスクスと笑う少女。
 そこからは本心は窺い知れない。
 窺い知れないが、あることを思いついてカケルは聞いてみた。
 「持ち上がり組の友達、そんなに気になる?」
 「ま、ねー」
 「君の友達だから?」
 ポロリ、と食べかけのハッシュドポテトが少女のトレーに落ちる。


606 :ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part2/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/20(土) 12:42:36 ID:goQePK2Y
 当てずっぽうに近い鎌掻けだったが、大当たりだったようだ。
 夜照学園と聞いて随分と反応したと思ったら。
 「君も、夜照に通ってたんだ。最初から言ってくれれば良かったのに」
 「よく、分かったね」
 少女は笑顔で答えた。
 相変わらず、本心は窺い知れない。
 「随分と学園の話題に食いついてたみたいだったし」
 「そんなに?」
 「ポテトよりは、ね」
 互いに笑いあい、それから少女は肩をすくめる。
 「確かにボクは夜照の生徒だったけど、中等部の方。高等部じゃあなくて外国のハイスクールに通うことになってね」
 「このロンドンじゃなくて?」
 「それはその後」
 随分と転校が多かったようだ。
 「ってことは、僕の知り合いにも、君の友達がいるかもってコトか」
 「まぁ、そうなるねー」
 「天野三九夜先輩って知ってる?」
 「ああ、あの女もうフリー?」
 「いいや、幼馴染の千堂善人先輩と年中ラブラブ」
 「・・・・・・死ねば良いのに」
 「?何か言った?」
 「ああ、何でもない何でもない。そう言えば、ボクの代では一原百合子って先輩が生徒会長だったんだけど―――」
 「いっや現在進行形で生徒会長だよ!?しかも、生徒会にハーレムを作るとか言ってるし!」
 「・・・・・・女しかいない生徒会か。逆に気持ち悪いね」
 「男だらけよりはマシじゃないかな」
 苦笑をしながら会話を続ける。
 思いのほか、夜照学園の話題は盛り上がるようだ。
 それに、掴み所の無い少女からの反応は、やはり予想外で。
 カケルは、少女と話していて楽しかった。
 義務感や思惑とは別に、彼女のことを知りたいと、カケルは思い始めていた。
 だから、
 「そう言えば、君の中等部の友達で高等部に持ち上がったって聞いてる人はいないの?」
 と、カケルは彼女自身の話に移していた。
 「そうだね、バスケ部の例えば葉山正樹って奴とかー・・・・・・」
 「ああ、今でもバスケ部でレギュラーやってる先輩。いかにもムードメーカーって感じの」
 「そうそう。他には・・・・・・」
 少し逡巡する様子を見せてから、少女は言った。
 「御神千里なんて男、知らないよねー」
 その言葉を聞いて、カケルは思った。
 思い出していた。
 いつだか、『誰かの為に力を振るえるバカ』の話をした時のこと。
 『―――なんて、オレとしたことが神の字のコトを随分と持ち上げまくっちまったなぁ。悪ぃ、今のは忘れてくれ』
 そう照れ笑いをする天野に、カケルは逆に聞き返していた。
 『ああ、神の字―――御神千里ってンだ、そのバカの名前。オレの言葉は忘れて欲しーけど、その名前は覚えといて損はねーはずだぜ。言葉通りの大バカで、オレの大恩人だからな』
 と、天野は答えていた。
 だから、その言葉通りカケルは少女にこう答えていた。
 「誰かの為に力を振るって、それを自分の力に出来る人。直接は会ったことは無いけど、そう聞いてるよ」
 その言葉を聞いた少女は、俯いた。
 「いや・・・・・・」
 セミロングの髪に隠れて表情が見えない。
 「そんな『御神千里』は知らない」
 「え・・・・・・でも・・・・・・」
 「知らない。ありえない」
 声の調子は変えず、しかし有無を言わさぬ口調で少女は言った。
 「ひょっとしたら、同姓同名の別人かもしれないねー。聞き間違えたのかも。『三上仙理』とか『南千輪』とかさ」
 そう語る少女の表情は髪に隠れて見えない。
 けれども、その拳はギリギリと握り締められていた。
 血が出そうなほどに強く。
 カケルは、それに対して何も言えなかった。