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839 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1.5 ◆yepl2GEIow:2011/09/18(日) 23:23:39 ID:2hGF9uFs
 「そんなことが…あったんだ」
 緋月三日の母親、緋月零日、そう名乗った女性の自宅で、朱里は今まで会った出来事を話していた。
 深い理由があった訳ではない。
 零日に向かって話した訳ではない。(壁の方を見ながら話をしていた気がする)
 「だから……私は終わったの。好きな人に、一番拒絶されたくない人に拒絶されて」
 虚ろな瞳で、朱里は言った。
 「ふーん」
 朱里の話しに何の感慨も無い様子で、零日は言った。
 「でも分かんない…な」
 「どれが?」
 朱里に言わせれば、分からないことだらけだ。
 なぜ失敗してしまったのか。
 なぜ正樹に拒絶されてしまったのか。
 なぜ自分はこんなにも絶望しているのか。
 そして、なぜこの女性が自分を保護してくれたのか。
 風呂に服までかしてくれた。
 もっとも、服は朱里のキャラ付けを真っ向から無視したフリルのついた真っ白なロリータファッションだったが。
 普段の快活な振る舞いとのギャップが得も言われぬ味わいのある姿、ではあるが、そもそも彼女の姿に何らかの感想を持つ者はこの場にはいない。
 着用している、本人でさえも。
 「私に分からないのは、あなたの前提としている…順序」
 零日は答えた。
 「順序?」
 「そ…順序」
 左右の人さし指をピッと立て、零日は言った。
 「好きになってもらってから…恋人になる。あなたの前提はそこにある…のでしょう?」
 零日の言葉に、朱里は頷いた。
 「逆…じゃぁ駄目なのかな?」
 「逆?」
 「そ…う」
 そう言って零日は、左右の人差し指を入れ替えるように交差させた。
 「『好きになってもらってから…恋人になる』じゃぁなくて、『恋人になってもらってから…好きになってもらう』」
 「……え?」
 「だから…」
 要領を得ない、という顔の朱里に、零日は噛んで含めるように説明する。
 「とにかく、その相手の子を手にしてしまえば良いんじゃないかな?誰かに奪われるその前に…ね」
 「それって……」
 束縛してしまえ、拘束してしまえ、ということだろうか。正樹の意思と無関係に。
 戸惑うと同時に、朱里はかつて受けたことのある、あることを思いだした。
 陰口。
 本人の前ではどれだけ友人を気取っても、本人のいない所では悪し様にこき下ろす。
 そこにいなければ、どこにもいないのと同じ、とばかりに徹底的に。
 零日の言っているのはその逆、ということかもしれないと朱里は思った。
 自分以外、正樹の目の前に好きな相手が他に誰もいなければ、ソイツらはどこにもいないのと同じこと。
 ならば、正樹は朱里のことだけを徹底的に見てくれるだろう。
 けれど、大丈夫なのだろうか。
 「大丈夫…じゃないかな?あなたが好きになった子…だもの。多少の時間はかかっても、あなたの気持をわかってくれるに違いないよ…絶対」
 にっこり、と笑う零日の言葉が朱里の心にじわじわと染み込んでいく。
 彼女の言葉に、朱里は自分がどれだけ間違っていたのか、そして彼女の言葉がどれだけ正しいか、自覚し、思考し、心身に染み渡って行く。
 まるで、甘い毒のように。


840 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1.5 ◆yepl2GEIow:2011/09/18(日) 23:24:04 ID:2hGF9uFs
 数時間後
 「…あれ、お客さんですか?」
 零日の娘、三日が帰宅してきた。
 「うん、少し前まで居たんだけど…ね」
 三日の言葉に零日が応じた。
 「…お帰りになられたんですね」
 若干人見知り気味の三日はホッとしたように言った。
 「正直会わせたかったんだけど…ね」
 「…それはちょっと、ご遠慮願いたいです」
 そんな三日に対して、零日はクスクスと笑った。









 同時刻
 「……ウン、ウン。それじゃ、ね」
 愛する人の写真に包まれた自室で、朱里は携帯電話の通話を終えた。
 「最初の仕込みはこんなモン、か」
 話していた相手は『友人』の一人。
 もっとも、心を許せる相手とは言えなかったが。
 それでも、交友相手として『使える』相手であることは確かだった。
 あれから。
 零日からのアドバイスをもらった朱里は帰宅後から動き出した。
 葉山正樹を手に入れるための策略を実行するために。
 今までよりもずっと積極的で、攻撃的な。
 まずは、表面的には極々当り前な、何十人といる『友人』たちとの通話。
 実際は、策略の為の仕込み。
 「シンプルよね、学生って。キホン、学校って言う唯一かつ小さなコミュニティで生きてるんだもの。ソコにほんのすこしだけ手を入れれば―――」
 そう言って、朱里は笑みを浮かべた。
 今までよりも、ずっと深淵なヤミを宿した瞳で。
 虚ろな笑みを。








 こうして、俺達の知らないところで物語の歯車は少しずつ狂い始めていた。
 深く、静かに。
 俺達がソレを自覚するのには、ほんの少し、時間を必要とした。
 必要と、してしまった。
 俺は―――御神千里は、そのことをいずれ死ぬほど後悔することになる。