859 名前:サイエンティストの危険な研究 第一話[sage] 投稿日:2011/09/23(金) 22:34:07 ID:i775jQ6E [2/6]

所長:では今回の研究データはこちらの額で買わせていただきます。



 一仕事を終えた俺は、側にあった冷えきったコーヒーを一気飲みする。
「まじぃ・・・。」
 不味さが頭を回復させていく。寝ずに頭を使いすぎていたせいで、回復と言ってもまさしく雀の涙程度だ。

トントン

 扉がノックされた。
「亮介、朝飯ここに置いておくからな、ちゃんと飯食えよ。」
 扉の前に食器が置かれる音がした。
「じゃあ俺、祐希と図書館言ってくるからな、昼飯は朝食と一緒にお金置いておくからな。」
 扉の先から聞こえる声が終わり、足音が遠くなっていった。



 俺の名前は藤崎 亮介。そして今扉の前にいたのは、俺の兄の藤崎 昭介だ。
 兄は面倒見が良い。だから、寝ずに部屋で作業している俺に何かと世話を焼いてくれる。
 一番の特徴は、すごいイケメンって所だ。どれぐらいすごいかと言えば、俺たちが通っている高校の中でファンクラブが出来ているくらいだ。
 しかし、兄の気遣いや優しさが、この家の中でだけ俺には届かない。



カチャカチャ!



 扉の前から食器を上げる音が聞こえた。どうやら今日もまた、俺は朝飯にありつけないらしいな・・・。

860 名前:サイエンティストの危険な研究 第一話[sage] 投稿日:2011/09/23(金) 22:34:57 ID:i775jQ6E [3/6]

 見なくてもわかる。扉の前にあった食器は、第三者に持ってかれた。
 そしてその第三者に俺は心当たりがある。とりあえずパソコンのwebカメラの映像を覗き込んでみた。

「ん・・・んあぁ・・・お兄ちゃん・・・。」
 相変わらずシュールだ。
 webカメラに映っているのは、女子高生がおにぎりを頬張り、皿の縁の匂いを嗅ぎながら自慰行為をしている絵だ。
「お兄ちゃんの・・・手の匂いが・・・するよぉ・・・。」



 こいつは俺の妹、藤崎 翔子だ。
 はっきり言わせてもらうが、こいつは頭がおかしい。
 妹は誰よりも、何よりも兄が大好きな人間だ。妹の部屋には、兄が身に付けている衣服やら下着やら、捨てたはずの歯ブラシや箸がびっしり並んでいる。
 そして今は、大好きな兄が握ったおにぎりと、僅かに皿に残っている手の匂いを嗅いで興奮している。
「・・・・・・・・・。」
 残念ながら、俺は妹に欲情したりはしない。
 人の大事な朝飯を断りも無しに持っていきオカズにするやつに、大金を払われても欲情したくない。



 朝飯は良いのだが、俺はそれよりも違う不安がある。
「研究結果の買い取りも安くなったもんだな・・・。」
 パソコンの画面を替えて、現在の預金残高を確認する。
「この間に比べて半分くらい下がってらぁ・・・。」
 研究所の方も切羽詰まってるらしいな・・・。

861 名前:サイエンティストの危険な研究 第一話[sage] 投稿日:2011/09/23(金) 22:35:41 ID:i775jQ6E [4/6]

 自慢ではないが、俺は頭が良い。
 高校の授業なんか受けなくても良いのだが、親の勝手な意向で兄と同じ学校に入学させられて早くも一年が経った。
 その代わり、前から参加したかった父の研究所の第一研究チームに参加させてもらった。
 だから俺は、学校が終わった後と休日はこうして、研究チームのチャットを使って研究を続けている。
 もちろん無償なんかじゃない。研究結果のデータのまとめや、独自の研究結果は研究所側が高値で買い取ってくれる。
 しかし、不景気だかなんだか知らないが、最近は値段がどんどんと落ちていっている。
「ったく・・・金がなきゃ研究もくそもあるかよ・・・。」



 元々、研究という分野に興味があった。だから俺はこの研究チームに入ったのだ。
 そして何より、現在の研究チームの研究内容が俺の夢にぴったりだった。



研究テーマ:男と女の恋愛について



 俺は決して頭が良いから得してるわけではない。むしろ、兄や妹に比べてかなり損をしている。
 その理由は明確、いわゆる俺は「ブサイク」なのだ。



 俺は気にしてはいないが、周りの女子は俺を指差しながら笑う。
 極めつけは、兄の親衛隊から「血の繋がりを無くせ!」とか「同じ姓を名乗るな!」とか「昭介様の目の前から消えて無くなれ!」なんて言われている。
 別に気にはしないが、俺はこの顔面格差社会が気に入らない。
 以前友達が好きな女の子に告白したら、顔を思いっきり蹴られてふられたらしい。ちなみにその女は今、金髪で頭が一般常識以下の知識しかいないチャラ男に振り回されている。
 今の世の中、頭が悪くても顔が良ければ金持ちになれる時代だ。まともに企業に就職できなくても、芸能事務所に拾われ、「おバカキャラ」として売り出し、周りの女性に騒がれるのだ。
 一方ブサイクはどうだ?拾うどころか見向きもされない。頭が良くても、運動ができても、ギターが弾けても、周りはなんとも思わないどころか、それをネタに汚されるだけだ。
 同じような境遇で、俺よりもひどい目にあっているひとがいるとわかったとき、俺は研究でこの世の中をひっくり返そうと決意したのだ。

862 名前:サイエンティストの危険な研究 第一話[sage] 投稿日:2011/09/23(金) 22:36:19 ID:i775jQ6E [5/6]

 大きな事を言っているが、現在その目標に触れるどころか、かすりさえしていない。
 独自の研究をしようにも、被験者を雇う金もなければ、研究を進めるための資材すら無い状態だ。
 だから今は研究結果を買い取ってもらうことで、何とか夢に近づこうと金を貯めている。



 自分の目標を思い出すと同時に、預金残高を見て現実に戻される。
「またデータをまとめるか・・・。」
 諦めて俺は、研究チームのチャットを開いた。



所長:最近研究が滞ってしまっている状態だ。皆からデータをもらっているのに情けない限りだ。
ムウ:しかしどうすればいいのですか?私は妹二人のためにも頑張らなければならないのですが・・・。

 ムウさんだ。相変わらずの妹大好き人間だ。
 ムウさんは同じ研究チームの一人で、俺とほぼ同期だ。
 妹が二人いるらしく、その妹のために頑張っているらしい。

所長:そこで、一週間の中で各自に独自に研究を進めてもらいたい。もちろん一週間後の結果報告で買い取らせてもらう。



 独自研究か・・・。願ってもないことだが、資材やら被験者やらで何かと金がかかる。
 簡単に言われても、一週間じゃ良い研究は出来そうにない。



ウアアアァァァ!!!



「ん?」
 webカメラの映像から叫び声が聞こえた。
 どうやら妹からのようだった。
 ちなみにこの家の中には、それぞれの部屋にカメラとマイクがセットしてある。
 兄の了承を得ているので問題はないはずだ。
 妹の部屋には、兄から妹にお願いしてもらった。兄の願いなら何でも聞いてくれるのが唯一の(俺にとって)良いところだ。



「またあの女は!私のお兄ちゃんをたぶらかしやがって!」
 壁に貼られている祐希の顔写真に何回もカッターで切りつけている。



 ・・・ん?待てよ?これは使えるぞ!
 男と女の恋愛はどれもが純愛とは限らない。中には昼ドラ並みにどろどろした恋愛もあるはずだ。
 それらを応用すれば、俺の夢が達成するかもしれないぞ?
 これは大発見だ!こんな近くに良い実験対象がいたもんだ。
 幸いにも今日は日曜日、明日からまた学校だ。学校で妹や兄の周りの親衛隊の対決を分析すれば、良い結果ができるかもしれない!
「よし!これで行こう!」
 久しぶりにやる気が出てきた!個人で研究ができる嬉しさと、夢が叶うかもしれないという希望が、俺を揺り動かしていった。
最終更新:2011年10月06日 10:20