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132 名前:依存型ヤンデレの恐怖[sage] 投稿日:2011/10/22(土) 11:38:09 ID:u8FGsT46 [2/5]
依存型ヤンデレの恐怖3


いつものように未夢にエサを与える。
「よし、食え」
「はーい!」
今日は日曜日だ。従って、朝メシはいつものように手抜きしない。きちんと米を炊いて、和風の朝食を採る。
「うまいか?」
「おいひーよ?」
「そうか…」
未夢は口一杯にご飯を頬張って、朝メシをやっつけるのに必死だ。
いつもアホな行為に隠れがちだが、未夢の抱えている問題は大きい。
先ず、未夢は仕事に就くことができない。俺と一緒に居るか、何か俺を連想させる場所や物がない場合、平静でいられない。具体的には、多動性が出る。小学生の低学年クラスに一人はいる落ち着きのないアレだ。
そんな奴が仕事などできるわけがない。
通常、幼少期の多動性は年齢を重ねると落ち着き、矯正されるものだが、こいつの場合、それがうまく行かなかったのだ。
とにかく、こいつは一人にしておくとロクなことをしない。
見た目通り、子供を放し飼いにするようなものだ。
しかも、どうしようもないタイプの。
俺にとっての一番大きい問題は、そのことを未夢本人は勿論、家族も十分理解し、その上で俺に丸投げしているということだ。
(まあ、いずれ独り立ちさせるが…)

「なあ、未夢。寺に行かないか?」
「リューヤがイクなら…」

なんだ?何かがおかしかったな…。

「なにするの?」
「ズバリ、精神修養だ」
「セイシ…?やだぁ…リューヤったらぁ…」

駄目だ。こいつの頭では理解できない。既に曲解を始めている。そもそも、俺も坊主に知り合いはいない。

「デート、デート♪リューヤとデート♪」

未夢は俺とずっと、一緒に居られる週末は基本的には機嫌がいい。
くそ、こいつは人の気も知らないで。

「未夢…おまえ、俺のことナメてるだろ」
未夢は、ぱぁっと笑みを浮かべる。

「ナメる…しゃぶる、じゃ駄目かな…?」

最近の未夢は何かを掴みつつある。
俺を困らせる、という一点において何かの技術を獲得しつつある。
もうヤだ…こいつ。
俺が頭を抱えるのと同時に家電が鳴った。

「未夢…出てくれ」
「はーい!」

ニコニコと笑顔で電話のフックを上げる未夢。

次の瞬間、その笑顔が鬼のような修羅の形相に変わった。

「う…!」

思わず呻く。部屋の温度が2、3度下がったような冷気漂う緊張感。

「…いないよ」

押し出すように低く言って、そっとフックを掛ける。

これも未夢。

170 名前:依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE[sage] 投稿日:2011/10/24(月) 15:12:28 ID:SiDsRrmg [2/3]
いつ頃からだろう。未夢がこんな憎悪に満ちた表情を見せるようになったのは。
進路が別々になった時とリストカットした時期は、ほぼ同時期だ。俺も余計なことをしたものだ。おそらく、未夢は変わらざるを得なかったのだ。
俺との関係を継続して行く上で、今の変化は未夢にとって必要なものだったのだ。

「誰からだ?」

知っているが、敢えて聞いてみる。

「しらない」

硬質な声。
いつものように無意味な元気も無ければ、笑顔もない。
俺が何気なく放った無責任な一言が、こいつの内包する何かを変えたのだ。だとすれば、未夢の無邪気な笑顔を奪った俺の罪は如何ばかりか。代価として何を支払えばいいのだろう。
不吉な予感がする。
また、電話が鳴る。

「でるね」


そしてまた、未夢が電話を切る。
その繰り返し。
未夢は馬鹿だから、この繰り返しを苦痛とは捉えない。キリがないとも捉えない。

「俺が出る」


乾いた声。
くそ…俺が未夢にビビるなんて……あり得ん!
退かぬ!
媚びぬ!
顧みぬ!
違うな…こんな馬鹿な自分が、結構好きだ。

ほう、と息を吐いて、未夢の頭を撫でてみる。

何も起こりはしないのだ、と。

「わ……」

未夢は、目を丸くしてこっちを見る。
こうしたのは、いつ以来だ?
わからん。
未夢を褒める俺の姿が想像できん。
…まあいい。電話に出る。


「オラ!このリスカ女!リューヤ先輩出せよ!てめえの汚い肉穴で―――」
「ぐおっ!」

キーンと来た。
この殺伐とした男口調。やはりヤツだ。

「あっ!リューヤ先輩?ウチです!キサラギです!」


うるさい。耳が爆裂したかと思った。

「聞こえてるよ。もっと静かに喋ってくれ」


このキサラギという女のことをただ一言で表現するなら、

「うるさい。お前は本当に、うるさい」「すんません……でも!あのリスカ女がいけないんですよ!」
キサラギは俺の一つ年下の高一だ。去年まだ中学生だったキサラギを助けてから、週末たまに電話をかけてくるようになった。


「リスカ女?未夢のことか?その呼び方止めろって、何回言わせるんだ。後、汚い言葉遣いも。何遍も言わせんな」
「……すんません……」


うわ…めっちゃ気のない反省。

「で、なんか用か?」
「あっ!よ、よかったら、ウチと映画でも――」
「行かない」
「……」


キサラギは静かになった。何時もこれならいいのに。


「じゃあな」

171 名前:依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE[sage] 投稿日:2011/10/24(月) 15:13:53 ID:SiDsRrmg [3/3]
俺は未夢の世話で忙しい。キサラギの相手をする暇など微塵もない。
悪く思うなよ…
心の中で拝みつつ、そっとフックを掛ける。
不意にゾクッと背筋に悪寒が走った。

未夢だ。この変態が何を考えたか、俺の指を舐めたのだ。

「んふ…リューヤぁ」

また電話が鳴る。
取ると同時に未夢の頭に拳骨を見舞う。
未夢は「ピッ」て言った。

「酷いですよ!リューヤ先輩…なんで、ウチにばっかり、そんなに冷たいんですかぁ…」

最後の方は鼻声だった。

「そんなにリスカ女が大事なんですかぁ…?」

キサラギは突然泣き出した。とても面倒なことになったことだけはわかる。
ちなみに俺は未夢を含めた皆に等しく厳しく冷たい。だから、キサラギの評価は間違っている。
どうしたもんか考えていると…


「学校辞めたら、ウチのことも飼ってくれますかぁ…?」
「はぁ?」


飼う?
も?複数形?
泣きながらそんなことを口走るキサラギは、きっと変態なのだろう。
変態の相手なら慣れている。


「飼うって、何のことだ?」
「ウチのことですよ……」
「変態」


キサラギは黙っていたが、グサッという音が聞こえたような気がした。
また、俺はそっとフックを掛ける。
電話が鳴ることはもう、ないだろう。
鳴った時は、その時はもうキサラギは人ではない。超えてはならない一線を超えた変態だ。
変態を熟知する俺がそう思うのだ。間違いない。
変態、と真剣に吐き捨てた言葉はキサラギの全人格を否定する言葉だ。
故に、キサラギが本物の変態でない限り俺に電話を掛けることはあり得ない。



だが、電話は、鳴った。

それは、運命のベル。


キサラギからの電話は、いつもうるさくけたたましく聞こえるが、この時は何故か静かに控えめに聞こえた。


俺は電話の線を引き抜いておいた。

さようなら、キサラギ。また来世で会おう。


変態の知り合いは二人もいらない。キサラギが変態でないのなら、それはそれで結構なことだ。


俺は足元でうずくまるもう一人の変態に視線を向ける。


「リュ、リューヤ、ひ、光が見えたよ……」
「そうか…」


そのまま光に飲まれてしまえば良かったのに…。

俺は何か吹っ切れたような気がした。
未夢とキサラギが変態なのは、俺のせいなどではない。
二人には元々素質があった。それだけのことだったのだ。

俺がボタンを押した。それだけだ。