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205 名前:雌豚のにおい@774人目[] 投稿日:2011/10/29(土) 02:52:53 ID:cBJALoeM [2/6]
「これじゃ間に合わないな…」

深夜二時土砂降りの大雨の中、車を飛ばしながら病院へ向かう。
妻の出産が始まったと連絡を受けたからだ。
妻の美代子は、今年で32になる俺より3歳年下だ。
彼女との出会いは4年前、会社の上司からの紹介だった。

当時の俺は、大学時代から付き合っていた彼女とわかれ
仕事が手につかず、情けないさまだった。
それを見かねた上司が彼女を紹介してくれた。
半ばお見合い染みた初対面であったが
互いに良い印象を持ち半年の後、交際に至り
2年後に結婚まで至った。

その後、会社での俺の昇進が決まり、生活にも余裕
ができ始め、念願の女の子を授かった。
今、俺は間違いなく幸せの絶頂にいる。

「急がないとな…」

病院から連絡があったのは、三十分前。
出産には立ち会うと彼女には言った以上
絶対遅れるわけにはいかない。

206 名前:雌豚のにおい@774人目[] 投稿日:2011/10/29(土) 02:55:25 ID:cBJALoeM [3/6]
「ん…?」

前方に少女が見えた。黒く長い髪をしており
この辺りでは有名な私立の制服を着ている。
しかし、この時間帯で見るのは初めてだった。
その私立は、校則が厳しいことでも知られ
こんな時間にうろついていたら、間違いなく
問題視されるだろう。

「大丈夫か…この子?」

少女は歩道を歩いているが
その足取りは拙く、とても不安定だった。
注意深く見ていた、その咄嗟のことだった。

「っ!」

少女が車道に飛び出してきたのだ!
ハンドルを全力で切り、回避を試みる!

しかし、大雨で濡れている路面は滑りやすく
急なハンドル操作によって車のコントロールを完全に
失ってしまった。
車は回転しながら前に進む。

ドンっ!と強い衝撃がボンネットから伝わる。
その衝撃で、車のセーフティが起動。
ハンドルからエアバックが飛び出し、衝撃を
和らげる。
車はおよそ30m進んでやっと停止した。

207 名前:雌豚のにおい@774人目[] 投稿日:2011/10/29(土) 02:57:37 ID:cBJALoeM [4/6]
「大丈夫かっ!?」

大急ぎで車を降り、倒れている
少女に向おうとするその時だ、
少女が立ち上がったのだ。
腕は曲がり、頭からは大量の血を垂らしながら
少女が俺に向かってくる。

一瞬竦むものの、少女に近づく。

「じっとしていて。今救急車を呼ぶ」

電話を掛けようとして、ふと気づく。
少女に見覚えがあったからだ。

「お前…もしかして葵か?」

俺の言葉に少女は頷く。
結城 葵
弟の子で、正月休みや暇の空いた休日に
面倒を見ていた子だ。
結婚してから禄に顔を合わせていなっかたから
すぐ気づくことができなかった。
たしか、俺の家近くの高校に進学したと聞いてい
たから、その時には歓迎しようと思っていたが…

「横になれ!そのままじゃ危険だ」
「叔父さん…」

彼女は、俺の注意は聞かず顔を近づける。
目はうつろで焦点があっていないが、
綺麗に整った容姿だ。
以前のおどおどしていた時のような
翳りが見られない。
しばらく見ない間に随分変わった。

「ほら早く歩道に移れ」

彼女の手を取ったその時だ。
腹に鈍い痛みが走った。
横腹に彼女の手から伸びた
包丁が、刺さっていた。

「っ…いったいなにを!」
「ごめんなさい」

彼女が手を振り上げた次の瞬間、
俺の意識は途絶えた。

208 名前:雌豚のにおい@774人目[] 投稿日:2011/10/29(土) 02:59:13 ID:cBJALoeM [5/6]
同日午前3時――


眠りから目を開けるような感覚であった。
まわりのうるささに耐えきれず
ぼんやりと目をあける。
周りが、霞がっかた状態で
はっきりとしない、人影が
二人程確認できた。

「この子が僕達の子か…」
「ええ…私達の子よ」

人影が二人俺を見て笑っていた。

「実は、名前は決めてあってな。死んだ祖父の名を貰おうと思う」
「聞かせてくれる?」

窓の外は土砂降りのようだ。

「重秀。鈴木重秀」
「ええ。いい名前だと思うわ。」

遠くから、サイレンの音が聞こえる。

「「よろしく、重秀」」