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227 :初めから:2011/10/30(日) 01:49:25 ID:dUGq45KU

「重秀ー、凜子ちゃんが迎えに来てるわよー」

「ちょっと待ってー!すぐ行く」

鈴木 重秀7歳――それが今の俺だ。あの事故からおよそ7年が過ぎていた。
気が付けば俺は、赤ん坊から人生をやり直すことになった。
最初、俺のことを重秀と呼ぶ「両親」に対して何か言おうとすれば、
口から出るのは言葉にもなっていない声ばかり。
一体全体どうしたのかと、戸惑ってばかりだった。

「重秀、あまり凜子ちゃんを待たせちゃダメでしょう。」

「分かってるから急かさないで」

部屋に起こしに来る「母」に文句を言いつつ、着替えを急ぐ。

始めは、こんな状況になってどうしたものかと思ったが、「俺」が生まれた病院が
幸いにも、妻の入院している病院だった。

ほとんど記憶に残っていない位おぼろげだが、「母」の隣で笑う妻の姿を
見ているのだ。

「ごめん。待たせた」

「だ、だいじょぶ。早く行こう」

そしてその時、妻の腕の中にで眠る赤ちゃんの姿も。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


俺の家族――美代子達はその後すぐに引っ越したらしい。
旦那さんが出産に間に合わせようと車を急ぎ、事故を起こした。
それが、原因じゃないかと「父」は言っていた。
どっちにしろ、あまり詳しい事情は知らないようだった。

「重秀ー!鬼ごっこしようぜ!」

「いいけど、始めの鬼は翔太な」

当時の新聞記事には、「父」の言った通りのことに加え、事件の内容を詳しく書いたものだった。
「女子高生 行方不明!?」「遺体の不思議な状況」「謎の関係性」といった見出しが付いた記事だった。
内容としては、事故に巻き込まれ女子高生が一人、行方がわかっていない。
事故を起こした運転手――つまり俺――の死体は腹部を刺された痕跡があり、さらには
首までなくなっていた。運転手と女子高生との関係等、様々なことが記事には書いてあった。


228 :初めから:2011/10/30(日) 01:50:50 ID:dUGq45KU

あの記事を読んで、ようやくあの日の状況を理解できた。
意識を失った後――遺体の首が無くなったという話を読んだ時はゾッとしてしまう。
あの状況を考えるに首を落としたのは間違いなく葵だろうから。

「なんだよそれっ!重秀、足早いから捕まえられないだろ!」

「疲れるんだよ、それに他の奴も誘うと良い。そいつらを狙えばいいんだし」

何故葵があんなことをしたのか、今でも分からない。確かに厳しい事を言った事もある。
だがそれだけで人を殺すのか?
葵はまだ生きているのか?その後の消息は?聞きたいことも多いのだが、
それ以上に家族に会いたいという気持ちが強い。

「鬼になるなら、重秀捕まえないと意味ないんだよ!」

「学年じゃ俺が一番早いんだぞ?それを捕まえようなんて……もしかしてお前」

だが、まだ無理だ。小学校に上がったばかりの子供を、ふらつかせるなど普通親は許さない。
まして、7歳の体じゃ調べるにも限界がある。今は待つしかない。

「凜子に良いとこ見せたいのか、翔太?」

「ば、バカ!そんなんじゃねぇし!」

それに、悪いことばかりじゃない。目の前にいる翔太を始め、友達もたくさん出来た。
この年頃の子は、あまり人見知りをせず積極的に話しかけてくる。
その中でも特に仲がいい二人が翔太と凜子だ。翔太は、見ての通り元気いっぱい腕白小僧。
凜子は常におどおどしている。

「そうか…凜子っー!こっち来いよ!遊ぼうぜ!」

「あっ!おいコラ!ま、まてって」

「な、何?また鬼ごっこやるの、翔太?」

「ち、ちげーし。重秀が言ったんだし」

「変な嘘つくなよ…」

行動を始めるのは、中学生あたりからを考えている。そのころには体も出来はじめるし
小遣いも今より増えるだろう。

「もういい!行くぞ!」

「っ!急に来るなよ翔太!危ないだろ」

「ま、まって秀君…」

早く家族に会いたい。
会いたいが…会ってどうする?


229 :初めから:2011/10/30(日) 01:53:34 ID:dUGq45KU

「はぁ…」

何度も鏡を見て溜息をつく。何処からどう見ても
金髪碧眼――白人の女の子がそこには映っていた。

「なんでこんな事に…」

7年前のあの日私は確かに死んだはずだ――胸にあの人の首を抱えながら。
けど、私の意識はアーニャと言うロシア人の女の子として、またこの世に生まれてきた。
生まれてきたのは私一人だけで、伯父さんは――いない。
一緒じゃ、ない。

「アーニャ、朝食よ。降りてらっしゃい」

「はい。母さん」

ロシア語で呼ばれロシア語で返事をする、このロシア語の会話にももう慣れた。
重い体を引きずり、椅子に座る。テレビをつければ日本語で朝のニュースが流れている。
私が早く日本語になれるようにと気を使っていたのだ両親は。
もっとも、直ぐに日本語を――それも流暢に――話しだした娘には驚いた顔をしていたが。

食卓に並んでいる皿は二つだけで、父の分はない。

「アーニャに話したい事があるの」

「何?」

「母さんトーキョーに行くわ。父さんは、ロシアに帰るそうよ」

「…それで?」

「決めてほしいの。どちらに着いていくか」

正直どっちでもよかった。
私は伯父さんの居ない、こんなオマケみたいな余計な人生――興味がない。

「どっちでもいい」

「そんな訳にはいかないの!」

ドンっ!と机を叩きながら母は怒鳴る。ここ最近ヒステリックになりすぎだ。
こんな状態なら父だって嫌気がさすだろう。私もこの甲高い声は聞いていて気分が悪い。
本人にその気はないにしても、自覚位して欲しいものだ。
イヤ…たった7歳の子供が、そんな冷めた事を言ったのが癪に障ったのだろうか?

「…じゃあ、日本に残りたい」

「そう。母さんとトーキョーに行くのね」

さっきとは一転、態度を変え急にいつもの母に戻る。そんな豹変が別れる切欠になったのだろうと、私は思う。

しかし、日本に残っても良いことなどあるのだろうか?
私だけこの世に転生して、伯父さんは居ない。それなら何処に行ったって同じなのに。

「やだな…」

こんな後ろ向きな事考えてたら、伯父さんに叱られちゃう…




「父さんの見送り?」

「うん。それくらい良いでしょう?」

聞けば、父は今日にもロシアに発つという。そんな急な話になったのは恐らく、
母の目論見なのだろう。私が父に着いていくと言えばその日一日拘束して、
翌日私にこう言う。『父さんは、ロシアに帰ったわ。あなたは見捨てられたのよ』って。

「わかったわ。送ってあげる」

「本当?」

母は思った以上に快く、私の提案を受け入れてくれた。
私の考えすぎ…かな?

「会えるのは、これで最後でしょうからね」

「……」

そんなことはなかった。


230 :初めから:2011/10/30(日) 01:55:25 ID:dUGq45KU

父はまさか見送りに来るとは思わなかったようで、私の顔を見た途端急に笑顔になった。

「早くしてくれる?」

母の顔を見てすぐに、もとの仏頂面に戻ったが。
その後父に日本に残ることや、今後のことを話した。父は酷く私の事を心配しているようで
しきりに一緒にロシアに帰ることを勧めてくる。別にそれでもいいけれど…

「ごめんねお父さん。日本のほうが落ちつくんだ」

「…そう、か。アーニャがそう言うんならいいが…」

その後、父と母は二人きりで話を始めた。私の事や今後の事でも話しているんだろう。
数分もしたらスグに口論になる。そうなる前に早く帰ろう。

「母さん帰って引越しの準備しないと」

「そ、そうね。帰りましょう」

あわや、というところで話を切り出し母の手を引っ張って車へとむかった。



「はぁ…」

父を見送った帰り道、車の窓からぼんやりと流れる外の景色を、溜息をつきながら見ていた。
春の景色を眺めていると、溜息が出てくる。上手く行かない学校、分からず屋の母。
不安な気分しか湧いて来ない。そんな事を父に言ったら、何故母と残るのか?そう聞かれた。
これは大した理由じゃなく、単純にこの町の風景をずっと見ていたいからだ。
伯父さんに連れられて行った公園。家出していた所を見つかり、そのまま奢って貰ったラーメン屋
ここには、伯父との思いでが残っている。

「それでも…」

あの人が居なければ意味のない光景だ。こんな事になるなら初めから『あんな事』しなきゃ良かった。
最初の計画通り、あの女だけ殺していれば良かったのだ。伯父は悲しむだろうが、少なくとも
伯父に会えないなんて事にはならなかったのに。

公園が見えてきた。"今"の私と同い年くらいの子供たちが鬼ごっこをやっているようだ。
元気そうな子に、大人しそうな女の子。それに不思議な感じのする子…っ!

「母さん!車止めて!」

「寄り道はダメよ。早く帰って準備しないと」

この分からず屋!




――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「はぁ…はぁ」

家に帰り母の制止を押し切り公園までやってきた。しかし、さっきまで遊んでいた
子供たちはもういないようだった。

「あの子…」

一人だけとても気になる子がいた。ほかの二人と、子供らしく遊んでいるのに
なぜか大人っぽい雰囲気。
それに――どことなく伯父に似た目つきをしていた。

「ハッ」

もしかしたら、私だけじゃない?

「アハハ」

これはとてもいいことだ

「うれしいよ…伯父さん」

モノクロにしか見えなかった景色に、一気に色が広がっていった。
だけど、私はすぐに引っ越してしまう。彼の事を調べることは出来ない。
それでも――今までよりずっと良い。

「楽しみだね…」

――伯父さん?