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354 :初めから ◆efIDHOaDhc:2011/11/06(日) 01:23:31 ID:4F8bce8k

「重秀、そこの机をリビングに持って行ってくれ」

はいよーと返事をしつつ軒先に置かれた机を持ち上げる。
東京での新しい我が家は、以前に比べて少し小さくなっていた。
まぁ家族三人暮らして行くには十分といったところか。

「重秀ちょっと買い物行ってきてくれない」

机を運び一息ついたところで母から買い物を頼まれた。
引越しで忙しいため、昼食の用意が出来ないそうだ。
それで、コンビニ弁当というのもどうかと思うが…

「結構変わったな」

どうせだからと小遣いも貰い、山手線に乗り正午になるまでの間
東京を回ってみることにした。
以前に比べて――もう十年も前だが――東京は変わっていた。

金のない時期に世話になったラーメン屋。同僚とバカやった居酒屋
彼女と別れ、日がな一日黄昏ていたベンチ。
それらが全て消えていた。たった十年、それだけであらゆる物は
変わる――そう意識せざるを得ない。

「うん?」

一瞬向かいの電車に居た金髪の少女と目が合った。綺麗な青い瞳に
白い肌、あごのラインがスッキリしていて相当な美少女だ。

成城の制服を着ていたことから、この国に帰化した外国人なのだろう。
そう思われる少女は俺と目があった瞬間驚いたような顔をしていた。
そこまで酷い顔じゃない――と、思いたいが

「帰るか」

ただの昼飯の買い出しなのに時間をかけすぎた。この程度で怒る両親ではないが、
早めに帰った方が良いだろう。明日から新しい学校なのだ。なるべく早めに
眠ろう






「坂谷中学から転校してきました。鈴木重秀です。一年間よろしくお願いします」

とりあえず無難な挨拶をする。最初はインパクトのある挨拶も考えてみたが、
やはり外した時のリスクは大きい――主に名誉の意味で

パチパチと拍手の音が上がる。どうにもクラス全体が陰気だ。中学生活も始まった
ばかり。まだ仲の良いグループが出来ていないのだろうか?

担任に示された席に向かう。ありがたい事にクラスの一番後ろだ。
男というのは本能的に背後に人やスペースがあると落ち着かないと言われており
俺も背後はなるべく壁などに近づけたりする。

「よろしく」

「あっ…ああ」

となりになった男子に話しかけるも、あまり良い反応が返ってこない。
どうにかならんものか…

「私、クラスの委員長やってる明日香。よろしく」

最初に話しかけてくれたのはクラス委員長の少女だった。
きちんと手入れされている綺麗な長い黒髪に縁なしメガネ、中々可愛い少女だ。
キリっとした雰囲気はまさに委員長っといった感じ。

「これから一年よろしく頼む」

彼女が差出てきた手を握り返し、笑顔で出来るだけ丁寧に答える。
ただこれだけの動作なのだが、委員長はえらく感動した面持ちで
俺の手を強く握り返してきた。

「よかった…ちゃんと反応してくれたの貴方だけよ…」


355 :初めから ◆efIDHOaDhc:2011/11/06(日) 01:24:44 ID:4F8bce8k

聞けば委員長もこのクラスの雰囲気をどうにかしようとしているのだが、
中々上手く行ってないらしい。女子は俺の田舎とは違ってあまり騒ぐ
訳じゃないようで、無駄に明るい雰囲気なならない。

男子は、誰に話しかけてもそっぽ向くかまともに話そうともしないそうだ。

「女子は猫被ってるだけだから良いけど、男子だと何考えているのか分からなくて…」

そんな中俺が転校し、試に話してみたら久しぶりにまともな会話ができ、
それで感極まった、と。

「それじゃ委員長連絡先交換しよう」

「ふぇ?」

俺の突然の宣言に一瞬可愛い声が出た委員長。もっともすぐにシャキン、としだし
携帯を出す俺にすぐさま対応する。女子はこういった時、反応が著しく早い。

「なぁ君のも教えてくれないか?」

両隣や近くの男子にも声をかける。そうなるとクラスの後方にメルアドを交換する一団が
出来上がり、これを見ていた他の男子達がそわそわし始める。この様子なら後一押しと
言ったところか?そんな中一人の男子がこちらに近づいて来た。

「あの…僕も良いかな?」

それが契機となったのか、他の男子達も立ち上がり一塊になっているこちらに
集まってくる。皆が皆タイミングをつかめず、緊張していたのだろう。
そこから一気にメルアドの交換が始まった。

「一週間ぐらいすれば男子も騒がしくなると思うぞ」

「私の時はこんなんじゃ…」

まだ中学が始まって二か月。みな機会がないだけで―若干長い気がするが―切欠さえ与えればこんな
もんだろう。それに女子が話しかけて来たら男子は普通緊張する。まして委員長みたいな
可愛い子が話して来たらなおさらだ。
委員長にそんなことを言いつつ席に着く。わたわた手を振ってる委員長はやっぱり可愛い。

「これでどうにかなると良いが…」

その日の帰り道、無駄に増えたメルアドを眺めつつ今日の事を思い出す。あのあとなんだかんだで
クラスは騒がしくなり、今日の放課後には気の合った連中で遊びに行ったりしたようだ。
この事で、委員長から信頼を勝ち取れたとも思う。転校初日なら上々…か?

「今日はもう眠いな…」

ゆっくり眠るとしよう


356 :初めから ◆efIDHOaDhc:2011/11/06(日) 01:25:40 ID:4F8bce8k

あれからキッチリ一週間。俺の予測どうりクラス全体が活気に沸いていた。
あの出来事のおかげで、クラスの皆と仲良くなり気の合う連中も何人か出来た。

「なぁこれ見てみろよ重秀?」

その内の一人である少年――歳久が話しかけてきた。彼は携帯を片手にそれを
俺に差し出してくる。写っていたのは二人の少女の写真だ。遠くから写したのか
若干見づらいが、金と銀の目立つ髪の毛をしている。

「これは?」

「成城の金銀コンビ!」

転校してきたお前は知らないだろうけど結構有名なんだぜ!と、歳久。
うっひょー!と妙に興奮しこの写真を撮れた事がどんなに凄いか力説してくる。
詳しく聞けば、このあたりでは有名な成城学園の生徒らしくその美しい容姿から
男子の間では人気があるらしい。

二人一組でよく行動しており、見かければラッキー、話しかけて貰えれば
その日一日良い事尽くめと、ある種のラッキーアイテムな扱いである。
――よく見れば、金色の方は最近見たことある気がする。

そんな中、担任が教室に入ってくる。みな席に着き始め、私語も小さく
なり始める。

「突然なんだが…今日は転校生を紹介する」

本当に突然だった。クラスも騒がしくなる。一月に二人も転校生が来るのだ。
それも同じクラスに。担任が手招きをすると廊下にいた子が入ってくる。

「……」

綺麗な子だ。髪は肩まで届き、前髪は綺麗に切り揃えている。とても俺好み
な髪の整え方ただ。しかし、どうにも冷たい印象を受ける。見たところ
緊張しているわけでもなさそうなのだが…

その時――彼女と目が合った。

「――わ、私は如月 咲と言います!よろしくお願いします!」

さっきとは一変、彼女は俺の方を見て眩しい笑顔で喋った。