※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

464 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/11/12(土) 01:32:42 ID:iyQ6MqJ6
◇ ◇ ◇ ◇


 ことっ、ことっ、と心臓が早鐘を打った。
 未夢は首を傾げる。
 今、膝の上で静かに眠る少年のことが好きだった。
 未だ二十歳になりはしない。だが、未夢は愛というものを知っているつもりだ。ただそれだけを頼りに生きてきたのだから。
 その未夢の胸を、衝撃と驚愕とが刺し貫いている。
 この十七年間の人生で、これ以上ないくらいリューヤのことを愛していたつもりだ。
 だがそれは誤りだった。
 これ以上は、あったのだ。
 リューヤの命が燃え尽きようとしている正にこの時、未夢の思いはこれ以上なく燃え盛っている。

「すぐ、逝くね」

 吐き出した言葉に嘘偽りはない。未夢にはその決意がいつだってあった。
 だが、あの一言が未夢の胸を焼いた。
 驚いた。これまでの人生で、これ以上ないくらい恋い焦がれていると思っていたはずなのに、なんとその先があったとは。
 怖いくらいだ。

「リューヤ先輩から離れろ! このクソ女ぁぁ!」

 先程まで、呆然として未夢とリューヤの抱擁を見つめていたキサラギが掴みかかる。

(うるさいなあ……)

 今は、この胸のときめきをひたすら噛み締めていたい。
 未夢にとって、キサラギは玩具以下の代物だ。怖くもなんにもない。
 こんなものはすぐ、壊せる。

「また、リューヤを傷つけるの?」

 一言。
 ただ、一言で未夢はキサラギの胸を刺し貫いた。

「ち、違うっ! ウチは…ウチがリューヤ先輩を傷つけるわけない!」

 キサラギの血に濡れた腕が、未夢の服を汚す。
 リューヤのものだ。それだけでキサラギは万死に値する。

「一人だけなら、許すよ」

 リューヤのために生きて来た。
 リューヤがいるから生きられた。
 リューヤの判断。それが全て。
 そんな未夢には当然の言葉。

「ウチはぁ! リューヤ先輩のためなら、命を差し出せるんだぁ! 見ろ!」

 叫びながら、手首に刻んだ惨たらしい傷痕を突き付けるキサラギ。

「ここも、ここも! おまえより多い! ウチの方がリューヤ先輩を愛してる! リューヤ先輩はウチのだっ!」

 ほんの少し前ならば、未夢はキサラギの存在を認めていただろう。
 だがここに来て、『その先』を知ってしまった未夢の考えは変わっている。
 リューヤを自分だけのものにしたい。
 リューヤは自分だけのものだ。
 どうしても。
 どうしてもだ。
 だから壊す。キサラギを壊す。

「がんばったね。おめでとう…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………2等賞」

 その瞬間、キサラギの動きが止まった。



 長い沈黙があった。



「ぐるぁぁぁぁぁ! 殺すッ! 殺すゥッ!」

 擦り傷だらけの顔に殺意を漲らせ、キサラギは狂った。もう、どうしようもないところまで。
 だが必殺の決意を込めたキサラギの手は、未夢に届かない。
 男たちの太い腕がキサラギの腕を捕まえた。

「ガァァァァッ! 離せ! 離せ! クソ女、殺してやるぅぅぅぅ!」

 キサラギは、三人掛かりで取り押さえる警官に正しく狂女のように抵抗する。

「対象確保! 対象確保!」
「重傷者一名! 至急、救急車を――」

 警官が口々にわめき散らし、キサラギの呪詛の言葉は、喧噪の中に消えて行く。

「さよなら」

 薄く笑う。そして――

「リューヤ、ごめんね。未夢、やっぱり悪い子だよ……」

 その呟きも、喧噪の中に消えて行く。


465 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/11/12(土) 01:36:05 ID:iyQ6MqJ6
◇ ◇ ◇ ◇


「おはよー」
「ああ…」

 目を覚まして二週間ほどが経過しようとしている。その間、未夢に付きっきりの看病をされたことは俺の人生にとって、これ以上ないほどの汚点だ。

「リューヤぁ、おしっこしよ? おしっこ!」

 未夢が尿瓶片手に頬笑んでいる。
 ……この変態が!
 しかし、未夢ごときの世話になる日が来ようとは。焼きが回るとはこのことだ。
 キサラギの飛び降りの一件以来、俺の周囲は様々なことが変化した。
 先ず、未夢は俺の指示なしでも食事を採るようになった。とてもいい変化だ。しかし、甲斐甲斐しく俺の世話を焼く反面で、りんごのように赤く染まった頬を見ていると、コイツが何を期待しているか嫌でも分かってしまう。
 目を覚まして以来、俺と未夢は毎日のようにキスしている。一線を超えるのは時間の問題だろう。
 俺としては、この距離の近くなった幼なじみとの間に生まれたこの暖かい気持ちを、もう少し時間を掛けて育てて行きたいと思っている。
 未夢の両親は、毎日のようにやって来た。

「息子よ……」

 相変わらず、未夢の親父はふざけている。このヒゲは、俺が将来の義理の息子だということ信じてを疑っていない。
 ちなみに、未夢のお袋もふざけている。

「未夢、子供はまだなの?」
「もう少しだよ」

 お腹をさすりながら、幸せそうに答える未夢。
 ふざけんな。
 マジふざけんな。
 それから、うちの親父とお袋も出張先から帰ってきた。
 長期の入院が予測されたため、俺としては進級のことが気掛かりだったのだが、そこは親父が骨を折ってくれたらしい。学校側も前後の事情を汲んでくれた。その辺りのことは補習や講習を行う等して便宜をはかってくれるようだ。

「今は休め」

 親父の言葉だ。
 頑張り屋さんでない俺は、勿論そうさせてもらう。
 そしてキサラギは……あれ以来、会っていない。
 親父やお袋に尋ねたが、二人とも頑として口を割らなかった。何かある。そう思わずにいられない。親父は学校にも口止めしたようだ。見舞いにやってきた担任も、口を濁すだけで何も答えてくれなかった。
 未夢に世話を焼かれながら、リハビリを行う傍らで、空いた時間はキサラギのことばかりを考える。
 キサラギの両親は、俺に会いに来なかった。アイツが一人暮らしだったことを鑑みるに、家庭環境に少なからず問題があるのは疑いない。
 だが、それを知りたいか、と聞かれれば、俺の答えはノーだ。未だ、学生の俺にとって、その問題は大きすぎる。手に負えない。
 キサラギの行く末に関しては、意外な所から言及があった。

「あの娘は、遠くに行ったんだよ」

 答えたのは未夢だ。
 まあ、あれだけのことをやらかしたのだ。何もないと思う方がどうかしている。納得出来ないが、今はどうしようもない。…今は。


466 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/11/12(土) 01:38:22 ID:iyQ6MqJ6
「リューヤぁ、未夢、もうヤだよ。あんなの……」
「ああ、わかってる。もうしないよ」

 心配そうに言う幼なじみの髪を撫でる。
 未夢は変わった。
 以前は、俺に頼りきりだった生活も、今ではなるべく自分でこなそうと必死で頑張っている。
 ケガの功名というやつだ。
 俺が重傷を負い、動けなくなったことで未夢の何かが変わったのだ。だとすると、キサラギのあの行為にも意味はあったのだろう。
 どんどん俺の手から離れる。それは見ていて微笑ましい光景で……それでいて、ちょっぴり悲しい。

 今ならもう、行けるのだろうか。
 俺はもう、行ってしまってもいいのだろうか。

 この街を出る。
 以前から考えていたことだ。
 住み慣れたこの街を離れ、新しく厳しい環境で生きて行く。そこでは、新しい出会いが待っているだろう。つらい出来事が待っているだろう。
 それらを求め、俺は行きたい。
 もちろん、未夢のことは心配だし、気掛かりだ。
 だが、遠く離れた場所で、一度自分を見つめ直したい。それは未夢との関係も含まれる。未夢を大事に思うからこそ、そうしたいし、そうすべきだと思う。一度、距離を置き、この胸の思いを確かめたい。

 時は流れ、季節は移ろう。
 桜が散り、俺は高三になっていた。復学してここまでは、慌ただしく過ぎて行った。
 最大の援護はやはり未夢で、相変わらずエロいし変態だが、家事にも積極的に参加するようになったし、自分の体調や着衣にも気を配るようになった。週末は、相変わらず二人きりで過ごすことを望むが、以前とは違い奇抜な行動で俺を悩ませることはなくなった。
 危うく揺れるようだった瞳の色も、今はもう落ち着きの彩りを見せている。確固たるものを得たのだろう。

「リューヤぁ……キスしよ……?」

 掠れた声で甘える未夢を抱き寄せ、応える。
 小さな舌を吸い上げながら、薄い胸を弄る。耳元で漏れる吐息は、熱く湿っぽい。
 未夢は少し乱暴にされるのが好きだ。膝の上に座らせて、乱暴に下着を剥ぎ取って行く。抵抗はほとんどない。つくりの小さなそこは、既に粘着質な水分を湛えていて、俺を誘っている。
「りゅうやぁ、アレやだぁ…」
 未夢は避妊を嫌がる。無論、良識的な俺は無視する。
「はじめてのときみたく、なまでそそいでほしい……」
「……」
 変態が!
 雰囲気を台なしにするその言葉を飲み込む。今はまだ、この熱い吐息を感じていたい。
 ベッドでもつれあいながら、小さい耳朶に口づけたところで、リビングの電話が鳴り響く。
「やだぁ、もう……!」
「待ってて…」
 唇を尖らせる未夢に囁き、トランクス一枚で無粋な闖入者からの電話に応答する。

「もしもし?」
『……』
「どちらさま、でしょうか?」
『……』

 不意に、背中に氷柱を差し込まれたような寒気を感じた。

 まさか……。

『せんぱい……』

 ごくり、と息を飲む。

『ウ チ で す』