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341 :ヤンデレの娘さん 転外 びぎんずないと  ◆yepl2GEIow:2011/11/05(土) 21:31:28 ID:p/z9kw42
 4年前
 「それは、きっと……」
 「おー、居た居た居たぜ」
 その日、九重と話している最中、俺がそう言いかけた時、そう声をかけられた。
 寝ころんでいた体を起こすと、俺達のいる屋上の扉が開かれ、3人の生徒たちが入ってくる。
 生徒、俺と同じ夜照学園中等部の中学生たちである。
 俺に声をかけてきたのは葉山正樹。
 幸か不幸か俺と同じクラスになどなった揚句、無愛想な俺に積極的に話しかける奇妙で奇矯な男である。
 「……」
 招かれざる客を引き連れた、これまた招かれざる葉山に俺はジト目をくれてやった。
 「ンな目で睨むなよ。別にお楽しみ中だった訳でもあるまいし。なぁ、九重?」
 そう言って、葉山は俺と一緒にいた九重にも声をかけた。
 つくづく、馴れ馴れしい男だ。
 まったく……
 「その手の冗談、女の子の前で言うのはお勧めしないかもー?」
 対する九重は、へらりとした笑顔で葉山の言葉をかわす。
 「ああ、レバーに銘じとくぜ」
 「大げさだねー。たかだかただのクラスメート、縁もゆかりも無い相手にー」
 「いやいやいや。縁もゆかりもシソも無ぇってのは水臭いぜ、ダチ公達よ」
 「ダチコ?」
 「親友って意味だ」
 「ボクとはやまクンの間にそんな設定あったっけー?」
 「寂しいこと言うなよ!」
 ちなみに、俺はそのやり取りに口をはさめず、ただ横で眺めているだけ。
 当時の俺は、あまり口数の多いキャラクターでは無かったのだ。
 「そうは言ってもー、珍しくはやまークンがこんな寂れたところに態々来てくれたって言うのは何か用事があってのことでしょー?しかも知らない人たちも一緒にー?」
 「そうそう、俺は下心有り有りアリーデヴェルチ……って違う!まぁ、ちょい頼みごとがあるのは確かだがよ」
 「って言うか知らない人扱い?わたしら知られてない訳?マイナーマイナーどマイナスター?」
 葉山の後ろから現れた、快活そうな印象のポニーテイルの生徒が口をはさんだ。
 「こちらの一原百合子会長はつい先日生徒会選挙で生徒会長に就任された2年生なのですが」
 そう補足したのは、もう1人のショートカットに眼鏡の生徒。
 「あ、そーだったんですかー?すみませんー、ボクら世の中に疎くて」
 「くー!学園のアイドルの道は険しい!」
 九重(と横で頷く俺)に対して漫画チックに拳を握りしめるポニーテイルの生徒改め一原先輩。
 どうやら、かなりテンションの高い人のようだ。(って言うか、学園のアイドルって何だ)
 「でー、その学園のアイドル志望な生徒会長さん直々に、この友達いないコンビに何か御用ですかー?」
 「ンな固く考えなくて良いわよ」
 と、気軽そうに手をヒラヒラと振る一原先輩。
 「って言うか友達いない言うなよ!ここにいるじゃンかマイベストフレンドが!」
 と、自己主張するマイベストフレンド(自称)葉山。
 そして、葉山はツカツカと俺たちに歩み寄り、ポンと肩に手を置く。
 「面子が足りねーンだ。参加してくれ」
 「面目がどうかしたのー?」
 「メンバーって意味だよ、このバアイ」
 半分はわざと言っているであろう九重に対して、律儀にツッコミを入れる葉山。
 彼には芸人の才能がありそうだ。
 「メンバーって言っても、何のー?」
 「生徒会の」
 葉山が当然のように答えた。
 ……って生徒会だって?
 「知ってるだろ、っつっても知らねーか。今期(ウチ)の生徒会、今ソコの一原会長と氷室副会長、プラス俺以外にメンバーがいなくて役員絶賛募集中なンだよ」
 ンなアホな。
 いくら夜照学園の生徒会選挙が、基本的に生徒会長を決める選挙だと言っても、それで役員が集まらないと言う話は前代未聞だ。


342 :ヤンデレの娘さん 転外 びぎんずないと  ◆yepl2GEIow:2011/11/05(土) 21:31:53 ID:p/z9kw42
 「なんだか、部活動に昇格したい同好会の新人勧誘みたいだねー」
 「人事みたいに言うなよ。たった3人じゃどーしよーも無くて困ってンだ」
 「だって、自分事ってわけでもー?」
 「だから人事じゃねーし」
 そう言って俺達に向かって手を合わせる葉山。
 ついでに、後ろの2人の先輩も揃って手を合わせる。(練習でもしたかのようにピッタリだった)
 「つーわけで頼む!」
 「生徒会に入って!」
 「頂きます」
 葉山、一原先輩、眼鏡の氷室先輩が順に頭を下げた。
 「んー、そんなこと言われましてもー」
 と、困ったように小首をかしげる九重。
 一方、俺は内心かなり驚いていた。
 誰かに何かを頼まれたことなんて、それが初めてだったから。
 誰かに自分たちが必要とされたことなんて、本当に初めてだったから。
 「この通りだ!頼む!」
 「お願いぷりーず!へるぷみー!」
 「ここは、犬にでも噛まれたと思って」
 何だか、氷室先輩だけ温度差を感じるけど。
 「んー、でもー、ボクらそのセイトカイ?の経験とかスキルとか無いですよー、多分ー」
 「大丈夫!私もだから!」
 全くフォローにならないことを力説する会長。
 それにしても、生徒会長とかに立候補するからには、小学生時代からその手の活動をしているものだと思っていたが、世の中そんな人ばかりでも無いらしい。
 「うわ、何だかすごい偏見を持たれていた気がする……」
 俺に向かって嫌そうな声で言う一原先輩。
 この先輩、妙な所で鋭い。
 「ま、そーゆー訳で手伝ってくンね?」
 「差し当たり、九重後輩が書記で、御神後輩が庶務という体で考えていないことも無いのですが」
 葉山と氷室先輩が頼み込む。
 熱心な葉山と氷室先輩との間に微妙な温度差があるような気がしないでも無いが、気のせいだろうか。
 「書記ー?」
 「ダベッた内容をメモするだけの簡単なお仕事よ」
 小首をかしげた九重に、死ぬほど酷い説明をする一原先輩。
 取り合えず、この人は全国の書記さん一同に謝るべきだと思う。
 「んー、でもー……」
 「頼む神様仏様イエス様九重様御神様!」
 平身低頭、頭を下げる葉山。
 「ちょっと聞きたいんですけどー、何でボクたち何ですかー?生徒会選挙の立候補者ってー、他にもいたと思うんですけどー?」
 九重の言うことは、俺も気になっていた。
 確かに、夜照学園の生徒会長は生徒会役員の人事権も持っているが、だからと言って俺たちを役員にする必要は無い。
 例年は、選挙の立候補者の中で最も票を集めた者が生徒会長となり、それに次ぐ票を集めた上位数人を生徒会役員に選抜することが慣例となっている。(と、一年生にして生徒会選挙に立候補した葉山に、聞いてもいないのに説明されたことがある。)
 「確かに、候補者だけならいたのですが……」
 「なんかさー、ドイツもコイツもフランスも頭固いコばっかでね。悪いんだけど正直、あの面子と生徒会(チーム)組むのはちょっと無いわ」
 まいったぜ、と言わんばかりにゲンナリした表情をする一原先輩。
 どうも、他の候補者にも会いはしたものの、好印象を受けなかったらしい。
 「もっとも、彼らにとっても『無いわ』だったのでしょう。選挙演説で『学園のアイドルに、アタシはなる!』と言って会長に就任した女生徒というのは」
 と、氷室先輩が補足した。
 どうやら、好印象を受けなかったのは、お互いさまだったらしい。
 「それで、生徒会選挙で仲良く喧嘩したもとい競い合った葉山くんに『面白いヤツらがいる』って聞いてきたら大当たりだったってワケ」
 「―――」
 「……」
 それは、つまり俺達は一原先輩たちに、チームを組んで良いって思ってもらえた訳で。
 「特に九重ちゃん。アナタ、わたしの好みのどストライクベントよ」
 「おい」
 ナチュラルに九重の頬へ手を当てた一原先輩に対して、俺はツッコミを入れざるを得なかった。


343 :ヤンデレの娘さん 転外 びぎんずないと  ◆yepl2GEIow:2011/11/05(土) 21:32:09 ID:p/z9kw42
 「や、やーねー。冗談よ冗談。って言うか間髪入れずに突っ込んだわね、御神ちゃん。聞いてた通り面白いわ、アナタ」
 手を引っこんで慌てて釈明する一原先輩(怪しい……)
 それよりも、葉山の奴は先輩たちに俺のことをどう説明していたのだろう。
 「だから睨むなよ!」
 一瞥をくれただけで抗議の声を上げる葉山。
 「別に、睨んでない」
 「あー、悪ぃ」
 大声を出した割に、あっさり引っ込む葉山。
 良く分からない奴である。
 「え、今の睨んで無かったの?」
 「アイツ、目ぇ鋭いから、誤解されやすいんスよ」
 一原先輩と葉山が小声で話している。
 丸聞こえである。
 葉山の奴は本当に分かったようなことを言う。
 まったく……ありがたい。
 「まー、ボクは大丈夫ですよー、ヒマですからー」
 「ホント!?さんきゅーありがとーあぶりがーどー、らぶりーまいえんぜるかなえタン!」
 「タンとか言うな」
 九重に向かって、目を輝かせて世迷言をのたまう一原先輩、俺が横やりを入れた。
 所謂オタクである俺だが、九重が他人にそう言う呼ばれ方をされるのは好きではない。
 「それでー、千里はどうするのー?」
 かなえタン呼ばわりされたことを動じることなく俺に話を振る九重。
 「お前が良いなら、俺も異論は無い」
 「ボクが良く無くても、キミに異論は無かったクセにー」
 何故か意味深にクスクスと笑う九重。
 いや、分かってるけどね。
 奇妙で奇矯で、馴れ馴れしくもありがたい男友達に頼みごとをされて、俺が断れる訳が無いことくらい。
 「じゃ、これで決定ね!って言うか結成ね!今期夜照学園中等部生徒会!」
 そう言って、俺と氷室先輩の肩に腕をかける一原先輩。
 「お、やりますか?」
 「それっぽいでしょ?」
 「やれやれですね。ですが、嫌いじゃありません」
 「何ですかー?」
 と、口々に互いの肩に手を組む俺達。
 「結成記念の気合入れ。お約束の円陣よ!」
 「オ、良いですね。それで、なんて言いって組みます?」
 「あ、考えてなかった」
 「昔から、本当にノリだけで動きますね、一原会長は……」
 一原先輩に向かって、氷室先輩が呆れた声を出す。
 どうやら、せっかく円陣を組んだのに何を言うのか考えていなかったらしい。
 しかも、誰もそのアイディアを持っていない。
 「……じゃあ、ナンバーワンとか?」
 「良いわね、ナンバーワン。何かいかにもビッグでジャイアンツってカンジ!」
 俺が言った台詞に、一原先輩が意外な喰いつきを見せた。
 割と適当に言ったのだが。
 「じゃあ、行くわよ!夜照学園中等部生徒会ー……」
 「「「「「ナンバーワン!!!」」」」」


344 :ヤンデレの娘さん 転外 びぎんずないと  ◆yepl2GEIow:2011/11/05(土) 21:33:18 ID:p/z9kw42
 と、ここで終わっていればイイハナシなのだが、そうそう綺麗に終われれば苦労はしない。
 生徒会発足から数日後。
 役員不足という前代未聞のトラブルを乗り越えて、慌ただしくも何とか引き継ぎを終えた俺達ひよっ子生徒会も、ようやく軌道に乗り始めた。
 分からないことだらけで失敗の多い不格好な生徒会だったが、 時に助け時に助けられつつ、少しずつチームとしての体裁が整ってきたような気がしてきた。
 むしろ、トラブルが多かったからこそチームとして団結したと言えるかもしれない。
 生徒会に入ってまず驚いたのは、葉山が会計だったことだろうか。
 どれだけ驚いたかと言うと、俺達の間で
 「葉山、お金の計算とかできるの?」
 「失礼な!コレでも金銭感覚はちゃんとしてるつもりだぜ!まぁ、今は氷室先輩に半分くらい手伝ってもらってるけどな!半分くらい!」
 「殆ど全部を『半分』って言うの?」
 というやり取りがあった程だ。
 降格と、もといこう書くと葉山の株を落とすようだが、実際実務面で氷室先輩は非常に頼りになった。
 5人という生徒会としてはギリギリの人数の中で、彼女が全体のとりまとめをしていたと言っても過言ではない。
 一原先輩が難しいことは殆ど氷室先輩に丸投げしていたように見えるくらい。
 もっとも、実際はそう見えるだけで、一原先輩も生徒会の為、学園の為に尽力していた。
 どんなにキツい状況でもお気楽極楽な笑みを絶やさず、俺が手酷いミスを犯して落ち込んだ時も、笑って励ましてくれた。
 実務面では氷室先輩に救われ、精神面では一原先輩に救われた。
 そう、救われたのだ。
 もっとも、一原先輩が九重に対して妙に馴れ馴れしいのはムカついたが。(スキンシップで九重の胸揉むんだぜ、あの女)
 とは言え、そんな先輩でも救われたことは事実な訳で。
 まぁ、多少感謝の念を示すのが年長者に対する礼儀と言う奴だろう。
 そんな訳で、そんなある日の生徒会室。
 俺達は今日も今日とて雑務を処理するべく、放課後長いこと忙しくしていた。
 「うーん、今日も働いたわねー。これだけやれば、今から一年間は怠けても良いわよね!」
 夕日に照らされる長机で、大きく伸びをしながら、一原先輩は言った。
 「いや、その理屈はおかしいッス」
 葉山が間髪いれずにツッコミを入れた。
 「細かいことは言いっこなし」
 「細かくねーですよ」
 「てへ!」
 「かぁいく言ってもダメです」
 ボケ倒す一原先輩に葉山のツッコミが次々に決まる。
 「ま、それはともかくみんなお疲れー」
 と、解散宣言をした一原先輩の前に、俺は無言である物を置いた。
 「何これ、庶務ちゃん?」
 不思議そうに問いかける一原先輩。
 ちなみに、その頃の先輩は、相手を役職名にちゃん付けで呼ぶのがマイブームになっていた。
 「クッキーです」
 「クッキー?」
 「みんなの分もある」
 そう言って、俺は他の面々の分も彼らの前に置いていく。
 ラッピングしてあるリボンの色がそれぞれ違うのは、どれが誰の分か分かりやすいように、というのは個人的な工夫。
 「お前が料理するのは知ってたがよ、こんなん作るたぁ一体どーゆー風の吹きまわしだ、御神?」
 「そうそう。お菓子なんて作るような遊び心、無いじゃんー」
 葉山と九重が不思議そうに言った。
 「別に。ただ何となく作って見ただけ」
 「へーん」
 「嫌なら、捨てて良い。九重が言ったように、お菓子作りなんて、あんまりしたこと無いから、その……」
 美味しくないかも、と言いそうになったが、俺がそこまで言うことは無かった。


345 :ヤンデレの娘さん 転外 びぎんずないと  ◆yepl2GEIow:2011/11/05(土) 21:34:28 ID:p/z9kw42
 「食べる食べる。丁度甘いものが欲しかったところだし!」
 そう言って、俺が良い終わるのも待たずにラッピングをほどく一原先輩。
 「まぁ、胃に入っちまえばどれもおんなじだしな」
 「わっはー、はやまクン身も蓋も無いねー」
 「幸い、下校時刻まではまだ時間もありますし」
 と、他の面々もラッピングをほどいて行く。
 「てーねーなラッピングだから、解くのもちーと惜しい気もするけどな」
 と、葉山が言ってくれたのが嬉しかった。
 「「「「いただきます」」」」
 そして、皆がクッキーを口の中に入れる。
 「オ!」
 「ふぃーん」
 「これは……」
 「わお!」
 四者四様のリアクションを見せる。
 「どうです?」
 俺は恐る恐る4人に問いかけた。
 「「「「美味しい」」」」
 即答され、俺はホッと胸を撫で下ろす。
 その時の俺は、他人の為に何かを作ったことなんて無かったから、正直自信が無かったのだ。
 「って言うか、アレ?コレ、チョコが入ってる奴もあるの?」
 2個目に手を付けた一原先輩が言った。
 「それ、当たりです」
 「らっきー!あ、ひょっとしてわたしの為とか?」
 「……」
 適当に言った冗談であろうその言葉に、図星を突かれて俺は目をそらした。
 「ありがと、庶務ちゃん!」
 そう言って一原先輩先輩は笑った。
 その笑顔は、俺でも思わずドキリとするほどに美しかった。


346 :ヤンデレの娘さん 転外 びぎんずないと  ◆yepl2GEIow:2011/11/05(土) 21:34:48 ID:p/z9kw42
 その後、俺達は和気藹々とそれぞれの家路に着いて行く。
 今日の疲れなど感じさせない、明るい表情で。
 「クッキー、作って良かったな」
 家路を1人、俺はポツリと呟いた。
 みんなに、そして一原先輩に何かお礼をしたくて、自信が無いながらも作ったものだったけれど、思いのほか好評で一安心だった。
 一安心?
 それだけではない。
 俺の不器用な働きをみんなが喜んでくれたのが、この上無く嬉しかったのだ。
 それは、生まれて初めての感情だった。
 「不愉快ですね」
 と、俺の想いに冷や水を浴びせるような声がかけられた。
 目の前には、いつの間にか氷室先輩がいた。
 その目に、氷のような冷たさをたたえて。
 「氷室……先輩?」
 その様子に訝しさを覚え、俺は恐る恐る声をかける。
 「私のゆーちゃんに馴れ馴れしくする後輩、私のゆーちゃんに笑顔を向けられる後輩。全く持って――――不愉快です!」
 とん、と先輩は一瞬で間合いを詰め、一瞬で俺の制服を切り裂いていた。
 その手には、どこに隠していたのか小ぶりなナイフ。
 「……避けないんですか?」
 夕日に赤く染まる刃を手に、氷室先輩は言った。
 「理由は分かりませんけれど、先輩に不快な思いをさせてしまったのですから」
 ならば、報いは受けるべきだろう、道理として。
 元より、痛みには慣れているし、自分の身に守るだけの価値は無い。
 「不愉快ですね」
 そう吐き捨てて、氷室先輩は俺の腹に重い蹴りを見舞った。
 蹴りは抵抗する間も無い俺の腹に突き刺さり、俺は思わず地面に膝を着く。
 「自己保身に走る者も見苦しいですが、無抵抗も逆に不愉快」
 俺の首筋にナイフを当て、氷室先輩は言葉の針を投げつける。
 「よく言われます」
 それに対して、何の感慨も抱くことなく、俺は当り前に答えた。
 実際、お前虐めてもつまんない、とか小学校時代に言われた事があるし。
 「九重書記も、同じことを言うのでしょうかね」
 「……え?」
 唐突に出た名前に、俺は呆けた声を上げる他無かった。
 「何しろ、あなたたちは判で押したように良く似ていますから。……ああ、御神後輩。ひょっとしてこんな目に会うのが自分だけだと思っていましたか?」
 首筋に当てたナイフを手放すことなく、淡々と先輩は言った。
 「冥土の土産に教えて差し上げますが、最初は私とゆーちゃん、つまり一原会長だけで生徒会をやるつもりでした。生徒会を、2人だけの愛の巣にするつもりでした」
 淡々ととんでもないことを言う氷室先輩。 
 「その為に、他の生徒会役員候補の皆様にご退場願ったのですから」
 つまり、例年通りに生徒会役員が集まらなかったのは、氷室先輩が手をまわしたから、ということだろうか。
 たった2人の生徒会を実現するために。
 1人2人でほぼ全ての役職を兼任するなんて、西尾維新の漫画じゃないんだから、というツッコミは色々な意味で出来ない。
 「そのことを、一原先輩は知っているんですか?」
 「知っていたら、あなたたちのような邪魔者を入れる筈が無いでしょう」
 氷室先輩は淡々と言った。
 ナイフを握る氷室先輩の手の力が強くなった気がした。
 それこそ、手の中のナイフを砕かんばかりに。
 「それが彼女の望みならと、私も今まで甘受し続けていました。けれど、今日彼女があなたに最高の笑顔を向けているのを見て……!!」
 氷室先輩の中で、何かが外れてしまったのだろう。
 「ゆーちゃんが笑いかけるヤツは殺す。ゆーちゃんに胸を揉まれる奴は殺す。ゆーちゃんと楽しそうに話す奴は殺す。私のゆーちゃんを取るあなたたち3人は全てこの手で殺す……!」
 目に涙を溜めて、氷室先輩は遂に叫んだ。
 その言葉は、度は過ぎていたが俺にも理解できるものだった。
 なぜなら。
 俺も恋をしているから。
 けれども。
 否。
 だからこそ。


347 :ヤンデレの娘さん 転外 びぎんずないと  ◆yepl2GEIow:2011/11/05(土) 21:35:20 ID:p/z9kw42
 「……させません」
 「は?」
 「させないと言った!」
 そう叫び、俺は跳ね起き、拳を振るう。
 首筋のナイフ?
 そんなもの怖くもなんともない。
 怖いのは、俺の友と片思いの相手が、俺のせいで傷つくことだ!
 「甘いですね!」
 しかし、俺の視界は瞬時に反転し、気が付くと俺の体は地面に叩きつけられていた。
 投げられた!?
 俺よりもずっと小柄な相手に!?
 「殺すと言ったはずです!」
 視界に映るのは、先輩が躊躇なく振り下ろす銀のナイフ!?
 「うおおおおおお!?」
 情けない声を上げ、俺は地面を転がってナイフをギリギリで避けた。
 「待ちなさい!?逃げ……」
 「ませんよ!!」
 出来得る限り高速で地面から起き上がり、先輩に手を伸ばす。
 「この!!」
 「こっちの台詞!!」
 ナイフを振り回す先輩の腕を、俺は両腕でがっちりと固定する。
 恐らく、氷室先輩は喧嘩の経験、技術なら俺より遥かに上だろう。
 どうやら、合気道のように相手の力を利用して投げるような技も体得しているようでもある。
 けれども、単純な腕力、体格差はいかんともしがたく、俺の手を振り切ることができない。
 「失礼します!」
 ゴン、と俺はそのまま先輩の頭に頭突きを見舞う。
 「痛……!!」
 正直、こっちも痛い。
 けれども。
 「やらせてたまるか!傷つけさせてたまるか!殺させてたまるか!」 
 「殺す!殺す!殺す!私からゆーちゃんを奪うモノ全て殺す!!!!!!!!」
 自分よりもずっと大きな頭で叩きつけられながらも、氷室先輩の心は折れる気配が無い。
 「なら止めない!俺も絶対止めません!」
 「なぜ!?」
 「だって!俺の好きな奴らに!俺の大好きな人に!誰よりも好きな人に!死んでほしくないから!!」
 だから、どれだけ心と体が痛くても、止める訳にはいかない!!
 互いに額から血を流しながら、俺はもがく氷室先輩の体を押さえて頭突きを見舞い続ける。
 「うーちゃん!?」
 その時、助け舟がやってきた。
 一原先輩が、息を切らして駆けつけていたのだ。


348 :ヤンデレの娘さん 転外 びぎんずないと  ◆yepl2GEIow:2011/11/05(土) 21:35:55 ID:p/z9kw42
 「いやー、何となく道の途中で別れた副会長(フク)ちゃんの様子が気になって戻ってきたんだけど……」
 そう言って一原先輩は俺達を見下ろし、
 「で、どう言う状況、コレ?」
 と、詰問した。
 ちなみに、喧嘩を一原先輩に止められた俺達は揃って道路の上に正座させられている。
 誰にも見られないで良かった。
 「恋路の邪魔を排除しようとしたら抵抗されました」
 「友達を殺されそうになったので抵抗しました」
 先輩と俺が背中を丸めながら言った。
 「だからと言って庶務ちゃん、頭突くこと無いでしょ。相手は女の子なんだから、顔がどうにかなったらどうするの?」
 「……すみません」
 確かに、非常時とはいえ、あれはやりすぎだった。
 頭に血が上って、カッとなってやった。
 今は反省している。
 と、言うより猛省している。
 氷室先輩に対しても、「ごめんなさい」と頭を下げる。
 「まぁ、庶務ちゃんは正直仕方ないわよね。そんな気にすることは無いわ。問題は……」
 ビクリ、と小さくなる氷室先輩。
 「うーちゃん。あなたはとてつもなくいけないことをしました。何だか分かる?」
 「……後輩を揃って天国行きにしようとしたこと」
 「それもある。って言うかそれが一番だけど、わたし的にもっと許せないことがあるの」
 珍しく真面目な顔で一原先輩は言った。
 「わたしを信じてくれなかったこと」
 「……」
 一原先輩の言葉に、氷室先輩は心底驚いた顔をした。
 「わたしが他のコと楽しそうにしてて、それでアナタへの愛情が変わると思った?心が離れてくと思った?ンな訳無いじゃない!全然!全く!世界の中心で愛を叫べるくらい、私はいつだって1分1秒欠かさずうーちゃんを愛してるわ!」
 「……ゆーちゃん」
 堂々とした一原先輩の宣言に、氷室先輩は俯き、肩を震わせた。
 「……ごめんなさい」
 そう呟いた彼女の足元には、滴が滴り落ちていた。
 先輩の行動は、本当に度が過ぎていて、俺の逆鱗に触れたけれども、動機の根幹は、嫉妬心と、それ以上に好きな相手への不安だったのだろう。
 共感できる想いだけに、憎みきれない。
 「分かれば良いのよ。大丈夫だから、うーちゃん」
 そう言って、優しく氷室先輩の肩に手を置き、一原先輩は全てを包み込む様な穏やかな笑みを向けた。
 氷室先輩は、それに対して無言で頷いた。
 「じゃあ、この話はこれでおしまい!帰りましょうか!」
 パン、と明るく手を叩き、話を切り上げる一原先輩。
 俺は制服の埃を払いながら立ち上がり、氷室先輩は俯いたまま、半ば一原先輩に寄りかかるようにして立ち上がった。
 「今日はゴメンね、御神ちゃん。ウチのうーちゃんが」
 本当に申し訳なさそうに、一原先輩は言った。
 「いえ、俺は対して気にしてませんから」
 「そっか、ゴメンね」
 「いえ」
 「ゴメンついでに、今日のことはまるっと全部他言無用でお願いできる?あと、あんまり深く追求しないでくれると嬉しいかな」
 追求、というのは言うまでも無く先輩たちの関係だろう。
 前々から仲が良すぎるほど良いとは思っていたのだが。
 「分かりました。先輩たちがそうしたいと言うなら、それに従います」
 「そっか、ありがと」
 安堵の笑みを浮かべる一原先輩。
 思えば、シリアスな表情の先輩を見たのは今日が初めてだったかもしれない。
 「クッキー、美味しかったわ。今度また作ってくれない?当たりは全員の分にいれて」
 「はい、是非」
 そう言って、その日俺達は別れた。
 尤も、俺と氷室先輩との戦いは、それから先何度も繰り返されることになってしまうのだけれど。
 我ながら、ホント綺麗に終われないなぁ。


349 :ヤンデレの娘さん 転外 びぎんずないと  ◆yepl2GEIow:2011/11/05(土) 21:36:22 ID:p/z9kw42
 現在
 「あー、あったあったそんなこと」
 自室のベッドの上で、ボンヤリと4年前のことを思い出し終えて、俺は呟いた。
 葉山たち相手に大立ち回りを演じたその夜のことだった。
 数日の監禁生活中、三日が食事の世話などをしてくれた間以外、俺は完全に独りだった。
 窓も無く、時間も分からない部屋での孤独な状態は、精神的に負担をかけ、元々急ごしらえだった俺のキャラクターを崩壊させるのに十分だった。
 もっとも、そのお陰で一度自分のキャラを捨てて悪役に徹することができたのだが、さすがに明日から平和的に学校にいく以上そう言う訳にもいかない。
 あんな簡単に悪役になれる精神状態のままでは、今後自分も他人も傷つけかねないだろう。
 正直、友人を躊躇なくボコボコにしたことに遅まきながら遅すぎる後悔をしているところだ。
 そんなわけで、自分のキャラクター、と言うより自分その物を作り直し、精神的に安定させる一環として、俺は過去の出来事をつらつらと思いだしていたのだ。
 昔ならそんなことにも無自覚で、自覚してもどうでも良いと思っただろうが。(ナイフで切りかかられてビビらないアホよ?)
 今は、こんな自分を大切にしてくれる人もいるし、自分で自分を大切に出来るようになった。
 いやホント、極端な話、俺無しで三日の奴が当り前に生きてる図がもう想像できない。
 そんな訳で、アイツの為にも自分の為にも、俺は俺の思い出を回想することで、俺をメンタルを安定させる作業を行っていた。
 4年前のことを思い出したのは、あれが今の自分を形作っていると感じていたから。
 言わば、俺と言う人間の本当の始まり。
 「考えてみれば、アレが好きな人を守る為に初めて体を張った経験だっけ」
 騎士(ナイト)のように格好良く、とはいかなかったけれど。
 しかしながら、逆に言えば、あの日があったから俺は葉山を、それ以上に九重を好きだと言う想いを強くすることが出来たのだろう。
 そう、俺は九重が好きだ。
 今でも、好きだ。
 「アイツ、元気してると良いなぁ」
 そう呟くと、自然に愛おしげな笑みが浮かぶ。
 できることなら、九重が今どうしているか知りたいものだ。
 知って、そして会いたいものだ。
 「愛たい、ものだな」
 後から思えば、この夜そんなことを思い出したことこそが、翌日の伏線になっていたのだろう。