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562 :5月87日 ◆nG9aCU3CYk:2011/11/24(木) 13:14:03 ID:P5YAs2w2
あー、こりゃ死んだなぁ。
今まで数多くの死に目に出会わされてきた俺だけどこれは絶対的だ。
確実なるトドメというやつだ。
チェスや将棋でいうチェックメイトというやつだ。
何せ心臓に穴がぽっかりと空いてるし。
例え右側に心臓があったとしても出血が致死量を迎えている。
はぁぁぁ。
何でこんなことになったんだろ?
てっきり俺は中途半端な人生を中途半端なやる気で中途半端に過ごしていくのかと思ってた。
そんな俺だったけど、やっぱりきっかけというか始まりは中学2年生の体育祭の翌日なのだろう。
あの日からここまでが全て繋がってる。
……駄目だ、走馬灯の切れ端が頭の中を駆け巡ってる。
死ぬことに恐怖を持つのは飽きたけど出来れば目標を達成したかった。
まぁ仕方がないか。
これも一つの終わり方だ。
どうせなら数秒前に砕け散った心臓が最後に鼓動した力をいつまで保てるのかわからないけど、命ある限りこの走馬灯に身を委ねてやろうと思う。
迫害という名のイジメを受けてきた中学生活が終わり、高校入学からの思い出を……。


563 :5月87日 ◆nG9aCU3CYk:2011/11/24(木) 13:18:14 ID:P5YAs2w2
友達が欲しい。
ただそれだけで良かった。
恋人なんて二の次で、単純に家以外で一人でいる時間を無くしてみたかった。
語り合って、泣いて、笑ってそういう青春を明るく過ごしてみたい。
そんな思いで高校を遠くの進学校でも何でもない、普通の学校を選んだ。
俺以外、誰も行かないような場所に。
もちろんずっと友達がいなかった訳じゃない。
前はいた。
だけどもっと子供の時代はただ何も考えずに遊んでまた次の日に楽しい明日が待っている。
それだけだ。
中学2年生のあの頃から孤独で陰惨な時間に思春期を費やしてくると猜疑心だけが膨らんで、その時に得られたはずの少し大人になったモノの考え方を誰かと共有して成長する事が出来なかった。
聞こえる陰口とはもう悪意という名の罵声でその中で一人で生きていかなければならないのは限界だった。
だから新しい環境で新しい人間関係を構築して……ってまぁつまり、俺も青春してみたいんだ。
友達と楽しく会話してみたかったんだ。

前置きが長くなったけど、そんな事を思いながら入学式の日、高校に向かった。
「よし!」っと、心の中で気合いを入れて、校門をくぐり、校舎前の掲示板で自分のクラスを確認する。
(1年D組か。)
別にどのクラスでも構わない。
今度は失敗しないように立ち回らないといけない。
怪我にだけは気をつけよう。
それだけで済むはずだ。
「メイ!一緒に行こうと思ってたのに。やっぱり先に行ってたのか。」
後ろから声がして振り向くと見知った顔が3人いた。
孤独とはいえ、全ての人間から気味悪がられていたのでなく、それでも友達として接してくれる人はいた。


564 :5月87日 ◆nG9aCU3CYk:2011/11/24(木) 13:19:57 ID:P5YAs2w2
「メールしたのに返事しなかったでしょ。」
と、ツインテールで金髪の女生徒である“春本 桜”が「全く!」と両腕を組んでため息をつく。
「緊張してるだろうから一緒に行ってあげようと思ったのに。」
同じ顔で同じ髪型をした“春本 咲”が同じ姿勢をしている。
見ての通り双子だ。
完璧な一卵性双生児のために、かれこれ2年程、一緒にいる俺もどちらかがわからない。
先に話しはじめるのが桜の方が多いからそう思っているだけで実は違うかもしれない。
「まぁ、しょうがないよ。メイもそんな余裕なかったろうし。」
そう、双子の左隣にいる“ 恭之”がなだめる。
ちなみにこの男だけが双子の区別がわかる。
俺もそうだが、両親でさえ、2人のことを“ハル”と一緒くたに呼ぶ。
恭之が言うには、
「だって全然違うじゃん。」
だ、そうだ。
それもあってか、この3人は付き合っている。
もともと仲の良い双子が同じ人を好きになり、だったら2人で付き合えばとのことらしい。
「何言ってんのよ。恭之が心配だからメールしてみようって言ったんじゃない。」
俺から見て左側の(おそらく)桜がそのままの姿勢で恭之の方に向く。
「そうよ。それで返信ないからあいつ、大丈夫か?なんて考えこんでたのは誰よ!」
と、右側の(おそらく)咲が同じように向く。
「いやいや、二人とも。その話はいいから。」
恭之は照れ隠しをするように頭をかいた。
そして俺の目の前まできて、
「それにしても今日から始まるな。新しい生活が…。」
と、同じくらい緊張した面持ちで言う。
「そうだね。わざわざこんな遠い場所にまで付き合ってくれてありがとう。3人には感謝してる。」
あの孤独に何とか耐えられたのもこの3人がいてくれたからだ。
1日の内の半分を無言で過ごすのは辛過ぎる。
そんな俺を立ち場が悪くなっただろうに変わらず接してくれて本当に申し訳ないくらい助かっている。
「よせよ。友達じゃないか。」
少し顔を赤くして恭之は視線を外した。
「まぁ、あたし達は恭之と同じ所に行っただけなんだけどね。」
桜も照れくさそうにしている。
「こっちが嫉妬するくらいあんたら仲良いし。」
咲は呆れた表情で俺らを見ている。
恭之は若干、真面目な顔で、
「俺らも出来るだけフォローするからお前も頑張れよ。」
と、肩をたたいた。
「あぁ、出来るだけ慎重に行動する。」
もう2度とあの悲劇は繰り返さない。
何で俺の身体にだけそんなことが起こっているのかはわからないけどそれだけに気をつければ何とかなるはずだ。
「じゃあ行くか。入学式は体育館でいいんだよな。」
俺と恭之が前、双子はすぐ後ろを歩いていく。
もちろん緊張はあるけどこれからの事を考えると楽しみでいた。
どんなに打ちのめされても俺にはこんなに大切な仲間がいる。
それだけで救われるということを俺は学んだ。
だから不安より期待を持って進んでいった。



次の日には孤独よりも大変なことがあるともしれずに……。


565 :5月87日 ◆nG9aCU3CYk:2011/11/24(木) 13:20:59 ID:P5YAs2w2
「上等だ、この野良犬が!決着をつける時がきたみてぇだな!」
うん。
その台詞は数えきれないくらい聞いた。
「はぁ……。別に構わないけど、そうなったらもう貴方メイ君の側にはいられないけどいいのね?」
それも結構な数、聞いたなぁ。
「何言ってやがんだ。そうなるのはお前だよ。明日からアタシとメイが仲良くしてるのを端から見てな!」
それは5回目くらいか。
こうなった時点で俺が入る隙間はないから暇潰しに2人の言葉を数えている。
「ふぅ。ため息しか出てこないわ。どうしてそこまで自信過剰になれるのかしら。だいたい貴方はメイ君の慈悲で側にいるのを許されているというのに。身の程知らずも大概にしたら?」
お互いの感情がヒートアップしていくのがわかる。
「ははっ、いいぜ。かかってこいよ、駄犬。今ならこのままで勝てるわ。」
基本的に双葉が我慢出来なくなって、菜花(なのか)が油を注いで闘いが勃発するのがいつもの感じだ。
「なら、そっちからかかってきたら?そうすれば貴方がボコボコにされても私は正当防衛になるし。」
ぶつかる言葉に違いはあれど流れは変わらず。
俺の目の前で繰り広げられる俺の所有権を賭けた争い。
なし崩し的に言葉を挟めず、今に至る。
それは入学式の次の日から始まった。
……………。
………。
…。
うーん。
どうして?
何でこうなったの?
「お前が負けて、正当防衛とか言い訳してもメイが助けてくれっから心配ねぇ。」
若干、双葉の声が低くなる。
その左にいる俺はそれがバトルの直前であることを感じる。
まぁいつものことなんだけど。
「頼むからメイ君の名前を貴方が言わないでくれる?いい加減耳障りだわ。」
俺の左にいる菜花も臨戦体勢に入っている。
この俺の意思を全く聞かない戦争は1年経っても結末を迎えることなく過ぎている。
それは両者の力が拮抗していることを意味している。
いや、最終的には間に無理矢理入るから途中で終わるけど。
困ったな。
いつもは外で、しかも二人ともわかってるからか人のあまりいないところで始めるんだけど、今ここは…。
「はっ!」
双葉の右ストレートが菜花を捕らえる。
「…。」
それを菜花はギリギリで避ける。
「うわっ。始まったよ。」
「離れろっ!巻き添えくらうぞ!」
近くを歩いていた同級生達が離れていく。
そう、学校の中だった。
しかも、下校時間。
んで、校門の前。
俺の新しい門出は2日目で破綻する。
友達を作るという目標はたった2日で挫折した。
同級生はおろか8割の生徒が知っているこの2人の戦いのせいで、全ての生徒が巻き添えを恐れて俺から遠ざかってしまった。
永遠の友情を誓った恭之達も身の安全のため遥か向こうで見守っている。
「……!!」
第一撃を避けられた双葉はそれでも追撃の手を止めず、菜花を攻めていく。
「……。」
間一髪よりは余裕をもって菜花はそれを避けていく。
遠巻きにいる人達には聞こえないが間近にいる俺には3点リーダの声が聞こえている。
いや、あえて聞こえないようにしている。
何故なら。
「メイは私の物。メイは私の物。メイは私の物。メイは私の物。メイは私の物。メイは私の物。メイは私の物。メイは私の物。メイは私の物。メイは私の物。メイは私の物。メイは私の物。」
そして、
「メイ君は誰にも渡さない。メイ君は誰にも渡さない。メイ君は誰にも渡さない。メイ君は誰にも渡さない。メイ君は誰にも渡さない。メイ君は誰にも渡さない。メイ君は誰にも渡さない。メイ君は誰にも渡さない。メイ君は誰にも渡さない。メイ君は誰にも渡さない。メイ君は誰にも渡さない。メイ君は誰にも渡さない。」
これである。
まるで呪詛のように呟きながら闘っているのだ。
普通にしてれば何でもないらしいんだけどなぁ。
噂によると俺と3人でいる時だけこうなるようだ。
はぁ。
やれやれだ。
もう今さら皆様に避けられているのはさすがに1年も経てば慣れている訳で、学校内でバトられる1番の問題は……。


566 :5月87日 ◆nG9aCU3CYk:2011/11/24(木) 13:21:47 ID:P5YAs2w2
「こら!!お前達、何をしているんだ!!」
教師に見つかってしまうことに尽きる。
もちろんシスターに見られるのが1番まずい。
まぁ、ここに駐在しているシスターは知っている人は知っているサボリ魔である故にこういう能力者のバトルはシカトするので問題はない。
それでも俺に落ち度があるとか言って実験という名の拷問を要求してくるだろうけど。
しかし今回先に見つけたのは教師だった。
おまけにセクハラで有名な体育教師。
不幸とは重なるものであるとは誰の言葉だったかな。
「どういうことだ、これは!?」
決着がつかなかったことに不満はあるが、一応二人とも手を止めて並んでいる。
「文月!だいたいお前は生徒会の人間じゃないか!生徒の模範であるお前がこんな所で喧嘩をしていいのか!」
まず、菜花に視線を向ける。
「……すみません。」
全く反省していない目で体育教師に謝る。
確かに菜花は生徒会に入っているが、本人が望んだ事ではなく、シスターの策略による。
この1年続いている能力者の戦いに生徒会という役割を与えて治めようと思ったものだ。
拒否すれば退学と言われ、渋々と菜花は従っている。
今日はたまたま生徒会の用事がなく、一緒に帰っていたのだった。
「そして槻嶋!お前はいつも誰かと喧嘩しているな。いい加減にしたらどうだ!」
矛先は双葉に変わる。
「…すいませんしたー。」
こちらも全く反省のそぶりはない。
手を前で結んでいる菜花に対して双葉は両手を頭の後ろに組んでいる。
この態度のせいで双葉の方が教師受けは悪い。
「だいたいお前は委員会はどうした!」
双葉も措置として強制的に図書委員会をやらされている。
「今日はアタシの当番じゃないんでー。」
後ろに組んでいる手をそのままに双葉は答える。
その誰がみても反省していない様子にとうとう体育教師・伊東さんは我慢ならなくなったらしく、
「お前達!今から俺の部屋まで来い!性根から叩き直してやる!」
おそらく始めから狙いだったお言葉を吐きなさった。
その台詞に二人は顔色を変える。
「あ?何で行かなきゃいけねぇんだよ。」
ポニーテールに結んでも腰まであるやや赤い髪を振り回し、双葉が怒る。
「本当ね。そんな権利があるんですか?」
肩まである少し青みかかった黒髪をやれやれと振り、菜花は同意する。
仲良いな、二人とも。
「いいから来い。俺に逆らったら退学にするぞ!」
ニヤニヤと舌なめずりをしている教師。
他の学生に聞こえないからいいとしても、それは問題発言ですよ?
セクハラする気なんだろうなぁ。
てか、俺のことなんか見えてないんだろうなぁ。
退学という言葉に嫌々、観念する二人の手を引っ張りながら体育館へ向かっていく伊東さん。
名残惜しげに俺の目を見ながら二人は仕方なく、従っていった。
二人にとっては俺と帰れない方が重要らしい。
いや、好意は純粋にうれしいけどさ。
…まぁでも。
これは由々しき問題だ。
何はともあれ、とりあえずは体育教師様の命が危ない。
きっと揉み消される事にはなるが、俺と関わったせいでお亡くなりになってしまうのは目覚めが悪い。
……。
しょうがないか。
俺が苦しむだけで何とかなるならそうするしかないか。
本当、孤独の方がマシなことってあるんだなぁ。
俺はため息を付きながら、携帯を取り出し、とあるやさぐれシスターに電話した。
どうせ、何処かで見てるんだろ?