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653 名前: ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/10(土) 23:55:17 ID:OxvbpP8c [3/7]
 どうするか。
 やっぱり警察に相談したほうがいいんじゃないか?
 まっさきにそんな思考が浮かぶ。
 如何に警察内部に内通者がいようとも、たまたま僕の話を聞いてくれる警察官がそうとは限らない。
 しかしすぐにそれを否定する思考が頭を巡った。
 これだけの大計画だ、かなり偉い立場の人間にロケット団の協力者がいないわけが無い。いくら下の方に僕の話を聞いてくれる警官がいても、上に行くところで揉み消されたら終わりだ。
 それに、そんなことになったら、報告だけじゃなく、僕達も消そうとしてくるだろう。つまり警察に相談するのは悪戯に僕達を危険にさらすだけだ。
 でも、こんな大事を僕達だけで解決することなんて出来るのか?
 僕は事態の大きさに相当怖気づいていた。
 少なくとも、普段の僕なら、こういう事態で、警察の力を借りようだなんて思わない。
 まして、警察内部に内通者がいると分かってるっていうのに。
「ゴールド、どうしたの、難しい顔して」
 気づかなかったけど、香草さんは涼しげな顔をしている。
「どうしたのって、どうして君はそんなに平気そうでいられるんだ」

654 名前: ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/10(土) 23:58:08 ID:OxvbpP8c [4/7]
「だって、ことに及ぶ前に全部倒せばいいだけでしょ。簡単じゃない」
 簡単じゃないって……それはそうだけど、言ってくれる。
「見てよここ」
 僕はそう言って送られてきた内部資料の一文を指差す。
「ロケット団はこの作戦に実働部隊だけでも八百以上の人員を投入するつもりだって。八百人だよ!?」
 対するこちらの実働部隊は資料によれば十五人にも満たない。戦力差五十倍以上の相手。絶望的な数字だ。はじめから勝負にならない。
 唯一の救いは、ロケット団員は基本的に練度が低く、個々人の戦力はたいしたこと無いということだ。
 それにしたって、戦力差は絶大に思える。
「大丈夫よ。ゴールドがいれば……私は無敵だから」
 そういって彼女は穏やかに微笑む。僕にはどうにもその顔が本物の殺し合いを間近に控えた者の笑みには思えなかった。
 僕には何がどう大丈夫なのかさっぱり分からない。
 しかし彼女の言うことにだって理はある。
 どの道やるしかないんだ。絶望なんてするだけ無駄だったんだ。
「そうだね、なんとかするしかない」
 僕は自分に言い聞かせるようにそう呟くと、再び計画書に目を落とす。
 計画書によると、やはり目立つのは避けたいらしく、建物の内部から制圧していく作戦らしい。
 これは僕らにとっては好都合だ。
 八百人の人間が陸から空から一斉にラジオ塔を攻め落とそうとすれば、僕達にそれを防ぐ術はないけど、内部から制圧していくだけなら、建物の構造上一度に動ける人数も行動の内容も大きな制限を受ける。
 香草さんもやどりさんも仲間の傷つける心配なく全体攻撃を行えるからこの場合こちらに利がある。
 地の利を生かせば勝機は十分にあるかもしれない。
 いや、まて、戦わなくても目立てばそれで十分騒ぎになるんじゃないか?
 そうすればすぐに多くの人が集まってきて敵の作戦は崩壊す……いや、駄目だ。
 もしその間に電波を発信する設備を抑えられ、あの電波を流されたら、打つ手は無くなる。
 やっぱり直接戦って止めるしかないのか。
 いや、それでも正面から戦うことは避けられるはずだ。
 もし彼らが密集しているのなら、そこに怪しい光曳光弾を一発打ち込めばそれだけで彼らを撹乱できる。
 そういう風に、数が多いのならば、それと正面から向き合うのではなく、数が状況を不利にするような作戦で挑むべきだ。
 僕の隣にいる子はどうもそういうことを理解していないみたいだけど。
 見取り図と味方の戦力、ロケット団の侵入経路から、相手を迎え撃つのに効率的と思われる箇所を模索する。
 基本、上下階を繋いでいるのは階段とエレベーター。
 ロケット団は主力部隊を階段で送り込み、エレベーターを挟撃のために使用するみたいだから、適当なところでエレベーターは落としてしまおう。
 空洞と化したその跡を上ってこようとするならば、放水なり何なりで全部叩き落してしまえばいい。
 攻撃の性質上、階段も上を押さえてしまえば同じ要領で一方的に攻撃し続けるだけで勝てる気がする。
 発信施設を押さえる意味でも、如何にロケット団に先んじて上の階を占拠するかの勝負になりそうだ。
 ダクトの類はどうも人が移動できるようなものじゃなさそうだし、となるとラジオ塔の中を移動するには階段かエレベーターを使うしかない。
 しかし階段には警備員がいるし、エレベーターは一般解放エリアと一般立ち入り禁止エリアで別々に分離している。
 そして立ち入り禁止エリアに入るためには警備員に通してもらう必要がある。
 つまりどの道警備員を何とかしなくてはならない。
 どうしようか。ここは一つ、眠り粉か何かで眠っていてもらおうかな。
 ロケット団の手先ならこれくらいは自業自得だと思って諦めてもらうし、仮にそうじゃないとしても、ただ眠らされるだけで済むんだからロケット団にやられるのに比べればはるかにマシだろう。
 仮に眠り対策があるなら、やどりさんに気絶させてもらおう。
 彼女にかかれば瞼一つ動かせず、声すら出せなくすることなど簡単だということを、僕は身をもって知っている。
 とりあえずここを抜けたら、人が騒ぐようであればやどりさんと香草さんに昏倒させてもらい、特に何の反応もないようだったらそのまま社長室あたりを目指させてもらおう。
 社長がロケット団とグルでないことは確実だ。
 なぜなら、社長がグルならば最初からラジオ塔を乗っ取る意味がない。
 同様の理由で電波の送信を行っている立場の人間も白だろう。
 しかしここの人間すら抱き込まれていないとなると、ラジオ塔側にはほとんど内通者はいないのかもしれない。
 と、ここまで考えたところで、香草さんが僕の首筋にぬるりと手を這わせた。
 突然のことに、僕は思わず跳ね上がる。

655 名前:ぽけもん 黒  26話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/10(土) 23:58:34 ID:OxvbpP8c [5/7]
「ご、ごめん、驚かせちゃった?」
「う、うん、びっくりした。どうしたの?」
「どうもしないけど……ゴールド、全然私を見てくれないから……」
 なるほど、僕がずっと思案顔で資料とにらめっこだったのが気に食わなかったらしい。
「ごめんねチコさん。でも、これはさすがにちゃんと考えないといけないからさ」
「もう、何も考える必要なんか無いのに」
 そう言って彼女はすねた顔をする。
「万が一に備えるのも、作戦って奴だよ。もしすべて上手くいっても、チコさんが大怪我なんかしたら何の意味もないからね」
「わ、私は別に……」
 彼女は顔を赤くしてなにやらブツブツ呟いている。
 情けない話だけど、香草さんに何かあったとき、僕は守る自信がない。
 香草さんクラスの人相手じゃ僕は避けることすらままならない。
 だから、そんな事態にならないように、逃走も含めて、事前にしっかり策をめぐらせておかねば。
 最悪、電波の発振装置かアンテナを壊すことも視野に入れなければならない。


 不謹慎な話だけど、作戦計画を考えていると、少し楽しかった。
 まるで昔の、他愛の無い子供の探検ごっこを思い出すのだ。
 この日と翌日をかけて計画をまとめ終え、シルバーに送信した直後、示し合わせたようにポケギアが震えた。
 発信者は不明。しかし相手は言うまでもない。
「俺だ」
 電話口の向こうから、そんなぶっきらぼうな声が聞こえてくる。
「で?」
「作戦決行日前に集会があることは知っているな?」
 送られてきた資料の中にそんなものもあったな。
「うん」
「もし来るなら変装して来い。こっちに裏切り者がいるという可能性もあるが、それ以上にランに見つかるとまずい」
「ランはてっきりこういうのには興味が無いかと思ったけど」
「ああ、無い。ただ、突然俺についてくるとか言いかねんからな。念には念を、だ」
「分かった。……その割には、来るなとは言わないんだな」
「実際に参加する人間の能力を見たほうが、お前も作戦を立てやすいだろう」
「作戦って、僕の考えたのでいいの? ただの一意見のつもりだったんだけど」
 送信した直後に着信があったから、僕の作戦にまともに目を通す時間も無かったはずだ。
 そこそこの人数が関わっているこの作戦。いくらシルバーがリーダー格だとはいえ、僕のような一介の子供の意見が通るとは本気で思ってはいなかったんだけれど。
 尤も、子供と言う意味ではリーダーであるシルバーも変わらないか。
 それにしても、組織にこういう作戦立案を行うような役とかいないのかな。
「ああ。お前はスパイである可能性がゼロだからな。それだけである種十分ともいえる。そもそも、俺が人を指揮する立場に向かないというのは、お前もよく知っているだろ」
「よく言うよ。リーダーなんかやってるくせに」
「ただの成り行きだ」
 シルバーは苦々しげにそう吐き捨てる。
「用件はそれだけだ。では、予定の時間に、予定の場所で会おう」
 彼はそう言うと、僕の返事も聞かずに電話を切った。

656 名前:ぽけもん 黒  26話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/10(土) 23:59:17 ID:OxvbpP8c [6/7]
 変装って言われてもなあ……
 帽子にサングラス、マスクとロングコートとかか?
 これはこれで目立つ気がする。
「変装かあ……どうしたらいいかなあ」
 呟きを漏らすと、電話を聞いていた香草さんが、いかにも名案を思いついたといった様子で言う。
「そうよ! 二人羽織をすればいいんじゃないかしら!」
 ……アホの子がいる。
「ホラ、そうすれば体格とか全然分からないし、完璧だわ!」
 うん、完璧だ。
 その後僕は香草さんをこんこんと説得して二人羽織を諦めさせ、変装に必要な道具を買いに行った。

 帰ってくると、部屋にやどりさんがいた。
「おかえり……どこに、行っていたの?」
「あ、うん、例の作戦の前にこちら側の人間が集まる集会があるんだけど、それに参加するための変装道具を買いに」
 僕はそういって袋から鬘を取り出して見せる。
「そういえば、やどりさんの変装道具もいるよね。一緒に買いに行くべきだったかな」
「必要……ない」
 彼女はそう言ってきぐるみの背中に手を這わす。きぐるみをおろすと、中から白い肌が垣間見える。
「な、ゴールドは見ちゃダメー!」
 香草さんの蔦が飛んでくるより前に、僕は慌てて後ろを向いた。
「き、着替えるなら部屋出るから、終わったら呼んで」
 僕はそういって急いで部屋を出る。
 ふう。やどりさんはこういうのに無頓着だから、時々びっくりさせられるよ。
「……見た?」
 いつの間にか隣にいた香草さんが険しい目つきで僕を見る。
 何をどこまで、と聞きたかったけど、とりあえず反射的に口からでるのはこの言葉。
「み、見てないよ!」
「……本当に?」
 香草さんは明らかに疑っているようだ。
 いったいどこからアウトなのか分からない以上、余計なことはいえない。
「本当だよ!」
「ならいいけど……ゴールドは私の彼氏なんだから、私以外の女の裸は見ちゃだめなんだからね」
「私以外のってことは、チコさんの裸は見ていいってこと?」
 何気なく口にしたのがまずかった。何余計なことを言ってるんだ僕は。
 彼女の顔がみるみる真っ赤になったかと思うと、すぐに蔦が飛んできた。
「な、ゴールドのバカエッチスケベへんたーい!!」
 どれか一つに絞ってほしいなんてこの状況で言えるわけもなく。
 僕は数十の蔦に打たれて地面に伏すことになってしまった。
「あ、ご、ごめんなさい! でも今のはゴールドがいけないんだからね!」
 確かに僕は悪かったと思うけど、それでも反射的に蔦が伸びるのはどうかと思うな。
 そんな言葉が首まででかかったところで。
 がらりと部屋のドアが滑った。
「終わった……着替え」
 僕はそういって部屋から出てきたやどりさんを見て、わが目を疑った。
 やどりさんはいつものもこもこしたきぐるみではなく、扇情的な赤く、薄く、そして露出部の多いドレスを身にまとっていて、しかもそれを着た彼女はびっくりするくらい魅力的だった。
 彼女の恵まれたバストと引き締まったウエスト、そしてまたふくらみを持つヒップ。
 かつてやどりさんが「自分は脱いだらすごい」と言っていたことがありありと思い出される。
 この派手さから言って、このドレスは誰でも着れるような代物ではない。選ばれし者のみが着こなせるドレスと言っていいだろう。
 香草さんではこうはいかないはずだ。
 香草さんも、部屋から出てきたやどりさんを見て、あんぐりと口を開け、やどりさんの胸部と自分の胸部で視線を往復させている。
 何とか事実をゆがめようと彼女の頭は必死に働くが、それでもなお認めざるを得ない現実。
 そこまでの圧倒的なリアル(胸)がそこにはあった。
 やどりさんは香草さんに向きなおり、彼女の頭の天辺からつま先まで眺め、そして、
「ふっ」
 と冷笑した。やどりさんのこんなにも勝ち誇った笑みははじめてみる。
 いくら傲慢な香草さんでも認めざるを得ない、歴然たる敗北がここにはある。
 さあ香草さんはどうでる。
「ふ、ふふふ、ふ」
 彼女は不敵な笑みをどこか飛んだ表情で浮かべながら、ゆらりと蔦を伸ばした。

657 名前:ぽけもん 黒  26話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/10(土) 23:59:53 ID:OxvbpP8c [7/7]
「そうよ、そんなもの、削ぎ落とせばいいんだわ。そ、そうよ、平らに、平らにしなくちゃ。私よりももっと平らにしてあげなくちゃ」
 まさかこうでるとは。
 思った以上の過剰反応だ。予想以上に恐ろしいことを言いだした。
 対するやどりさんは余裕の笑みを浮かべながら――今僕には彼女のドレスのぱっくりと開いた白磁のような背中しか見えないから本当のところ表情は分からないのだけれど、これには確信があった――、ゆっくりと戦闘態勢に入る。
 なんてこった。まさかスタイル――いや、おっぱいが戦いの引き金となるとは。
 そうだ、これをおっぱい大戦――そう、第一次おっぱい大戦と名づけよう!
 そこまで思考がずれたところでハッと正気に返った。
 どうして僕はこんなおかしなことを考えていたのだろうか。
 これもすべてやどりさんのおっぱいの魔力が生み出した幻惑作用によるものだというのだろうか。
 それの真偽のほどはおっぱいのみぞ知るとして、ともかく、今はこの戦いが起こるのをとめなくてはならない。
 どうする。
 生半可な言葉で今の香草さんは止まるだろうか。
 否。今の彼女を止めること、それはすなわち両者のおっぱいの差を埋めることと同義である。
 おっぱいの差を埋める。
 果たしてそんなことは可能なのであろうか。
 おっぱいの差を埋めるなんて、それこそおっぱいをそぎ落とすか、豊胸でもしない限り不可能。
 豊胸。
 そのとき、僕の脳裏に閃光が閃く。
 そうだ! あるじゃないか!
 やどりさんのおっぱいをそぎ落とさずとも、香草さんのおっぱいにシリコンを挿入しなくても、おっぱいの差をなくすことができる、簡単で、すばらしい方法が!
 そうだ! おっぱいを差を埋めるもの、つまりおっぱいはすでに僕の手の中にあったんだ!
「香草さん! これを!」
 僕は袋を漁ると、手につかんだものを香草さんに投げつけた。
 香草さんは見事にそれをうけとり、彼女はそっと手を開く。
 彼女の手の中に納まったもの――それは……
「……それは」
「胸……パッド?」
 張り詰めていた空気が、ふっと緩んだ。
 そう、これこそが、両者の埋まるはずのない差を埋める奇跡のアイテム、胸パッドである。
 そう、これさえあれば小さなおっぱいでも大きなおっぱいのように振舞える。
 おっぱいの格差がなくなる。
 つまりそれは世界からありとあらゆる争いが消えうせ、世界に平和が訪れると言うこと。
 そう、胸パッドとは平等と博愛を象徴していたのだ!
 こうして、世界に平和が訪れた。

 ……わけもなく。
 ああ、これから僕は香草さんの手によりハンバーグの材料にされる運命なのね、とおずおずと彼女の攻撃を待っていたが。
 顔を覆うようにした左右の腕を上下にずらし、香草さんを見ると、彼女は確かに顔を真っ赤にしていたが、それは怒りによるものというより……
「ゴールドの……ゴールドのばかぁぁぁぁぁぁぁ!」
 香草さんはそう絶叫し、胸パッドをリニアモーターカーに匹敵するんじゃないかという速度で僕めがけて投げつけると、そのまま走り去った。
 パッドは見事に壁にぶつかると、壁ごと爆散し、それが起こした兆弾が僕に降り注いで僕を悶絶させる。
 さすがに息もできず、僕にできることと言えばうずくまって口をパクパクさせながら走り去る彼女に向かって手を伸ばすことだけだった。
「……だいじょうぶ?」
 そう言って屈みこんで僕を伺うやどりさんのドレスの中が見える。
 ああドレスに負けず劣らず、何と過激で扇情的な下着なんだろう。


 数分後、ようやくまともに呼吸できるようになったので、香草さんを追う。
 やどりさんはとりあえずその格好だと目立つから、と部屋に返した。
 闇雲に走っても見つかるわけない、と思うかもしれないが、この間の行方不明事件以来、僕は彼女に発信機を持たせている。
 だからそれを確認すれば彼女の位置は一目瞭然なのだ。
 ……どこか犯罪の臭いがするような気がしなくもないけど、本人同意の下なんだから問題ないはずだ。
 とにかく、それで香草さんの位置を確認すると、香草さんは案外近くにいた。
 人気のない路地裏。彼女はそこにうずくまって泣いていた。
「香草さん!」
 僕は泣きじゃくる香草さんに呼びかける。
 彼女は涙とその他でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、僕を見る。
「ごめんね、そうだよね。ゴールドも私みたいみたいなのよりおっぱい大きい子のほうが好きだよね」
 彼女は涙ながらにそう語る。

658 名前:ぽけもん 黒  26話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/11(日) 00:00:27 ID:7f.9q1S6 [1/3]
 いやおっぱいとかそういうレベルではなく、やどりさんとの差はもっと総合的な話なんだけど、もちろんそれは口にしない。
 ごめんねごめんねと謝る香草さんを抱き寄せると、僕は彼女の手にそっと神器という名の胸パッドを握らせる。
「ゴールド……」
「大丈夫だよチコさん。胸パッドはすべてを許してくれるよ」
 そう、胸パッドは世界平和の象徴なのだから。
 再び香草さんのばかぁぁぁぁぁぁ! という叫び声と、バシーンという盛大な僕の頬が張られる音が辺りに響いたのは言うまでもない。

「おかえり」
 帰ってくるとやどりさんはいつものきぐるみに戻っていた。よかった。
「ただいま。変装の話の続きだけどさ、確かに服装変えただけでもかなり変わるけど、やっぱり何か顔を隠すものがあったほうがいいと思うんだ」
「大丈夫。それも用意してある」
 彼女はそういって、スッと何か取り出し、目の部分に当てた。
「……蝶?」
「そう、蝶をモチーフにしている」
 彼女が取り出したそれは、蝶を象った、顔の半分が隠れるような大きく派手なアイマスクだった。
 先ほどのドレスとこれをあわせると、どこの仮面舞踏会だと思わなくもない。
 変装としては由緒正しいんだろうけど、正直、場所にあっていないような。
 どう考えても、あからさまに怪しい。
 いや、これくらいインパクトがあったほうが、普段とのギャップがあってちょうどいいのか?
 それに、これだけ目立ってくれればやどりさんが印象的過ぎて一緒にいる僕たちの印層も都合よく薄れそうだ。
 というわけで黙認する。

 二人の現在の能力の確認と作戦の考案で数日を過ごし、いざ集会。
 場所はビルの地下倉庫だった。
 事前に送られてきたサインを入り口の警備員に提示すると、簡単に入ることができた。
 少し危機管理が甘い気もする。
 特に今のやどりさんはどう見ても不審者だ。
 やどりさんは例のアイマスクと赤いドレス。
 僕は金髪のカツラをつけ、髪で顔を隠し気味にし、頬にはそばかすが書かれていて、さらにシークレットブーツで身長までごまかしてある。
 香草さんは長い赤の鬘に派手な化粧、胸は無数のパッドの力によりやどりさん以上に膨らんでいる。
 どう考えても一緒にいるのがおかしい取り合わせだ。
 その辺のバランスも考えるべきだったかもしれない。もちろん、二人羽織は却下だけどさ。
 しかし変装だというのに、やどりさんはむしろ普段より衆目を惹いていたような気がする。いや、多分気のせいじゃないけど気のせいだと思いたい。
 都会だからきっとみんな気にしないはずさ。
 シークレットブーツの歩きにくさに苦戦しつつ、積まれた荷物の間を抜けて進むと、少し開けたスペースにでた。
 三十人くらいだろうか、怪しげな人たちがそこに集まっていた。
 きっとみんな大なり小なり変装しているんだろうけど、この怪しさはそういうところから出るものではない気がする。
 それと、蝶マスクが男女合わせて十人近くいた。
 多すぎだろ!
 流行ってるのか? それともこれが正装なのか?
 そんなわけがないと頭を振っていると、香草さんが不安げに耳打ちしてくる。
「ねえゴールド、本当にここって安全なのかしら。なんだか怪しげな人ばかりじゃない」
 隣にも一人いるんだけどな、怪しい人。
 それに、もしかしたら怪しいのは僕たちのほうかもしれない。
 こんな普通にそこらにいそうな人間ではなく、もっとぶっ飛んだ方向に変装すべきだったのかもしれない。
 不安を覚えながら待っていると、予定の時間を十分ほど回ったところでシルバーは表れた。
 傍らにランの姿はなく、変わりに五十代くらいの黒髪で浅黒い細身の男がいた。
 見た目は一見普通だけど、なんとなく、物々しい雰囲気がある。
 会場の人間はあれからそこそこ増えて五十人を超すほどになっている。
 実働部隊は十五人程度という話だったから、彼らがにわかに集まった増援でないのなら、ここにいる多くは諜報系やバックアップの人間ということになる。
 ロケット団に私怨があるけど戦力にならないのか、それとも、単に危険に自らをおきたくないのか。
 シルバーは大勢の人間を前にあわてる様子もなくゆっくりと歩を進め、皆の前に立つ。
 悠然と全体を眺めると、彼は落ち着いた調子で話し始める。
「諸君。今までの協力、感謝する。私が、反ロケット団のリーダーであり、今作戦の隊長を勤めさせていた頂く、シルバーだ」

659 名前:ぽけもん 黒  26話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/11(日) 00:00:54 ID:7f.9q1S6 [2/3]
 数人の間に、どよめきが広がる。
 こんな子供が? という声がちらほらと聞こえてくる。
 あまり多くはないけど、シルバーがリーダーだってことを知らない人間もいたらしい。
 シルバーは決して幼い印象はないけど、それでもせいぜい二十代前半くらいにしかみえない。
 そんな若い人間が自分達の命運を握ることになるんだ、不安を覚えるのも当然だろう。
 そんな不安を切り裂くように、彼は言葉を発する。
「見てのとおり、私の若さに不安を覚える者もいると思う」
 場内が軽くざわつく。ばつが悪そうに視線を反らす者もいる。
 彼は少し間を開け、淡々と話し出す。
「私は昔、ロケット団のせいで人生を台無しにされた。私はそれから、ずっとロケット団を憎んで生きてきた。ロケット団を潰すことために尽力してきた。私の功績は、ここにいる諸君ならばよく分かっていることと思う。ロケット団に大きな怨みを持つ諸君よ。私は、十年前からずっとロケット団を憎み続けてきた私は、果たして諸君らにとって信じるに足らない存在か?」
 場内がシンと静まり返った。
 ロケット団を潰そうと、怨みを晴らそうと集まったここの人間の中でも、十年以上、ずっと憎しみの中ですごしてきた人間というのはそう多くはないだろう。
 ロケット団から大切な何かを奪われたであろう人たちであるだけに、この話は彼らにとって見過ごすことのできない力を持っているだろう。
 ただ、僕としては少し腑に落ちない点もある。十年前といえば、僕ら三人がまだ普通に生活していたころだ。
 シルバーが家を失うことになった遠因はロケット団であることは確かだけど、それならまず警察を憎むほうが筋が通っている。
 あの後、シルバーが逃亡生活を始めてから何かあったのか、それとも……
 シルバーは静まり返った会場を見て、一転、今度は強い、人々を鼓舞するような口調で話す。
「年齢、種族、性別……多くを異にする我々がこの一所に集まっているその理由、ロケット団を潰すというその志こそが、我らの共通点であり、絶対の正義であるはずだ。一時、壊滅状態に陥ったロケット団はその実、財界各所にその根を蔓延らせ、雌伏して時を窺っていたに過ぎなかった。ロケット団は復活し、その悪意の結晶として、まもなく、ロケット団復活後最大規模である作戦が決行される。多くの人員が投入され、幹部も動かざるを得ない。これは我々、ロケット団に怨みを持つものにとって唯一無二の好機である! 今度こそ、この手でロケット団を徹底的に叩き潰し、この世からロケット団という組織を根絶するのだ!」
 シルバーがそう言い放つと、場内は熱気と歓声に包まれた。