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703 名前:恋は駆け引き ◆Nwuh.X9sWk[sage] 投稿日:2011/12/21(水) 02:17:59 ID:qkcmtu9g [2/13]
モテる奴と親しいと、相方は苦労する。
彼女達を見ているとそれが分かる。
片方は薔薇、もう片方は月見草。 そういう風に言う人もいる。

薔薇は永谷響、月見草は久宗雫。 それぞれの名前、貧相なわけではないが既に差がつき始めているように感じるのは悪いことではない。

何しろ響は美人だし、あっけらかんとしていて軽そうに見えるが姿勢の良さ、行儀作法に詳しい所、何よりも処女性が一つ髪に挿してあるように見えるのだ。
小、中学校でも人気は凄まじかったが、高校に入ってからの人気には目を見張るものがあった。
果ては「レイプするしかない」とヤバイやつが現れたぐらいだ。

対して久宗さんは並以上と言ったぐらいの容姿であった。

決してブサイクでも普通でもない。 ただ響の横に立つとあまりスゴく見えないのだ。
頭は響よりもいいし、スタイルだって負けていない。
でも、華が違いすぎる。

故に薔薇と月見草。 なるほど上手い事言ったもんだ。

そこいくと、俺は平凡な人間だった。
響の幼馴染Bと言ったポジションで、初恋も彼女に捧げ、叶わなかった、路傍の石ころ。

中学の最後の学年の初日に告白して、返事も貰えぬまま数多の告白の中に僕の淡い青春は埋没してしまったのだ。
嗚呼、何てことだろう。 でも仕方が無いのだ、青年よ。 しかし、称えるべき勇ましさを誰に知られずとも時間は過ぎるのだ。

長い初恋を、長い時間をかけて忘れ、路傍の石ころは最近、彼女の親友、久宗さんに、月見草に夢中なのだ。

最近になってやっと響と話せるようになったのだけれども、なぜか彼女に目が行って仕方が無い。

長い黒髪に大きい目にくっきりと刻まれた二重。 少し肉厚で小ぶりな唇。 平均よりも少し小さめのお鼻。
直感に近い感覚で網膜が脳から得た情報を映像化すると、僕は既に恋に落ちていた。

クールだけれどもイタズラ好きで、凛としている印象。
素直に可愛いと思った。 これ以上に無いほどにだ。

初対面で二秒ほど見惚れてから僕は彼女に恐怖した。

どうやって、話せばいいんだ。

これでも女の子とは何度か交際をした事はあったし、全く免疫が無かったわけではない。
喋れと言われれば、一時間ぐらいは淀みなく喋れる自信があった。
それが打ち砕かれた衝撃たるや、仮面ライダーV3の初登場以来であった。

響には緊張しないのに、彼女には緊張する。 妙な話だ。
いやしかし、ここは待てよ?

思考を止め逡巡を始めよと天からの曙光があった。

元々僕は響に初恋をと、言っていたが、それは本当だろうか?
彼女に僕の求めるエロティシズムは存在しただろうか?

704 名前:恋は駆け引き ◆Nwuh.X9sWk[sage] 投稿日:2011/12/21(水) 02:19:58 ID:qkcmtu9g [3/13]
親しい人間にはどこまでも真摯で、親切、善良な役に徹する響に俺はは本当に魅了されていたのだろうか?
ショーウィンドウから見るブランド物の小物に目を光らせていただけではないか?

彼女は俺の性欲の鞘となりえるのか? そもそも彼女の何に魅力を感じていたのか。

確かに真面目で美しい。 真っ直ぐな美と言うものも魅力に溢れるものだろう。 しかし彼女のその美しさを僕はなんとも思えないのだ。

もしかすると俺は彼女の人気に恋をしていたのかもしれない。
久宗さんと話すたびにそう思えてきた。 いやきっとそうに違いない。
よくよく考えてみれば、僕のあの頃の思考なんてそんなものだろう。 女性器の形も知らず、触感も知らず、味も知らない若輩はなぜに故に彼のような娘を選んだのだろうか?
生存競争を勝つためには容姿は必要かなんてどうでもいいんだ。 結局俺は彼女の人物像を他人の意識から汲み取って顔を知らないまま、しかもカリカチュアライズした、おまけに自分で書いた絵に、この娘に恋をしなければ生き残る事は出来ないと半ば狂気と化した妄執に取り付かれていたのではないかとすら思えるのだ。

これはもはや一刻の猶予も無いぞと、冷や汗が背中を伝った。

思い違いに気付くのに五歳から数えて十一年。 やっとたどり着いた。
コレが恋なのだ。 間違いなく。

おおよその見当がつくまでにかなりの時間と消耗は仕方が無いとして、コレは困ったと頭を捻る。
彼女と何がしたいのか?
そりゃセックスだろ? 命を作り出すためだろ? 今も変わりつつある環境に適用しつつ番を得た遺伝情報を残すためだろ?

そりゃそーだが、いまいち気乗りがしないのだ。
馬鹿が、一蹴されるとこう呟いた。

もしかしてカッコつけたいの?

そりゃそーだ。

なんとも残念、なんと哀れ、なんと滑稽か!
うるせーなコイツ。 誰コイツ呼んだの。

テメーだよ。
よしんば彼女のおかげで恋心なる幻想を纏うと、果たしてそれが実体を伴っても、お前自身がその感情の発露を促してやらなければ、何の意味だって無いんだぜ?

難しいこと言ったらいいと思うなよ、かっこつけんな。

それはこっちのセリフだよ。

705 名前:恋は駆け引き ◆Nwuh.X9sWk[sage] 投稿日:2011/12/21(水) 02:23:31 ID:qkcmtu9g [4/13]

照り付ける太陽が憎憎しい、ただそれだけだった。
中庭にある百葉箱を睨みながら、生暖かい溜息を吐く。

「化学を落とすのと、百葉箱を三十分毎に点検するのに何の意味があるんだよ」

ついに隅で落書きが始まってしまったリストに汗の雫が落ちる。

いっその事テキトーにまとめてしまおうか。 そんな事を思っていると百葉箱の向こうに二人の人影が見えた。
シルエットから見るに男と……、響だ。 また溜息が出る

夏休みが始まって一週間が経つのに好んで学校に呼び出すなんて、おそらくあの男子生徒は学校指定の制服しか持っていないのだろう。
普通はもっと落ち着ける場所を選ぶだろ。 響は学校に用事なんてあるわけが無いのに。

すぐさま携帯の撮影機能を使い、メールに添付して久宗さんにメールを送る。

『詳細を知ってるなら至急』

響が四十五度の角度で腰を曲げ、男子生徒がトボトボ寂しそうに独りで駐輪場の方まで消えていった頃に返信が来た。

『おそらく、三組の辻君だね。 やたら夏休み前うるさかったから。 それより猪向は何してるの?』

猪向って呼んでもらえるだけで少しだけニヤついてしまう。 彼女が自然にこう呼ぶようになったのがスゴく嬉しかったのを今でも覚えている。

『百葉箱についてのレポート十枚』

文面に書いただけで忌々しいし、情けない。 しょうがなく返信する。

すぐに着信が来た。 少し嬉しい。

「本当ならかなり笑えるよ」
「本当だとも、いま辻君が撃沈した」

電話からもう一回笑い声。 僕と久宗の趣味の一つが響に振られた男を観察すること、コレが始めて二人の共通点だった。
今にして思えば下種な趣味だよな。

響がこっちを向いて僕の存在に気がついたみたいで手を振ってきた。 俺はそれに大振りで答える。

「響がこっちに来るけど、電話変わるか?」
「いや、いいよ。 響のお気に入りの君にちょっかい出したって知ったら五月蝿いから」

久宗はこう言って俺の誘いをことごとくかわす。
先週だって響と別れた帰り道、二人きりになったので食事に誘ったら、「響が嫉妬しちゃうから……」声のトーンがふざけている時と全く違うので思わずその話は流れたけど、今思えば普通にお断りするために響の名前使っただけだよな。
響が好きだから久宗と友達ってワケじゃないのに。

「ユウ? なにしてんの?」

響がいつもの調子で首を若干傾げながら口角をわずかに上げて尋ねてくる。

「補習」
「だろうね、付き合うよ」

響はいつもの調子で提案してくる。

小さい頃から、そうだった。 だから俺は勘違いしたに違いない。

「言っとくけど、暑いぞ」
「うん。 後でアイス奢ってね」
「がりがり君でいいか?」

財布はこの前買ったアイアンマンのフィギアにいいボディブローを貰ったばかりなので、体力は推し量るべくも無い。

「ユウと同じのでいいよ」

語尾にハートマークでも付いてそうな口ぶり。 だから勘違いされやすいんだよ、お前。

「よっしゃ、ほんじゃ一緒にやるか」
「うん」

百葉箱に視線を戻すと、辻君が見えた。
辻君は、俺達の方を見ていた。
ああ、また俺の評判が悪くなるんだろうな。

706 名前:恋は駆け引き ◆Nwuh.X9sWk[sage] 投稿日:2011/12/21(水) 02:24:14 ID:qkcmtu9g [5/13]

「雫、あんたまたユウにちょっかい掛けてるでしょ?」

初めて、いやこれを数えたら何度目か分からなくなるんだけど、初めて響に「アンタ」呼ばわりされたときはさすがに面食らった。
永谷響の暗黒面を始めて見たときは、そう猪向雄の話題だった。

私は意外と彼を気に入っていて、高校で知り合ってからは何かと絡んでいた。
それには共通の友人がいたから、というのもあった。
猪向と私を繋ぐ共通の友人はその響である。

普通の人なら私がおまけで、響が本命といった態度がすぐに出るのだが、猪向は違った。
彼はどうやら私に気があるようだった。
恥ずかしそうに私をたてる彼はとても可愛く思えて、私も彼に少なからず好意を持っていた。
私はこういった時、誰にも心の内を話さず、自分の心の中だけで感情を育てるのが好きなので、響にも相談はしなかった。
別に負い目は感じなかった。 私も響もそういった人間だと思っていたからだ。
響といて居心地の悪い事など無かったから、私達の中でどこか似ている所が多いからだと私は思っていた。

響と猪向も気心の知れた仲だったらしく、響といれば猪向とも話せた。 その環境は私にとってはとても居心地のいいものだった。

ある日、猪向と二人だけで帰ったとき、猪向の胸中を聞いた事があった。
彼が永谷に失恋した事、それから立ち直った事、私と会えて良かったという感情。
私に告白する気だったのだろうけど、剣が峰で言えない彼の気恥ずかしそうな表情に私もヤキモキした。

『早く言ってほしい』

結局、あの根性無しは最後まで言わなかったけど、そのへたれっぷりも可愛らしく思えて、勝手に笑みが浮かぶ。

あの時の心の声に、私は後になって気付いた。
私は彼のことが好きだ。

心の内で育てていたものが急成長を遂げ、外に出さないと、と焦ってしまった。
私はすぐに響に電話を掛けた。
親友に聞いて欲しかった。 自然な感情だと思う。

「なーに?雫」
「響、私猪向と付き合う。 明日告白する」

唐突過ぎるのは勘弁して欲しい。 それぐらい彼の別れ際の表情に感情が躍動していたせいだ。
勿論この時、響は祝福してくれるものとばかり思っていた。
しかし、携帯から発せられる空気の振動は違った。

「え? ユウと? ダメだよ、雫」
「……? え?」

何で? それだけ。

「えっ、どうして?」

思わず聞き返す。

「だって、ユウは私の事が好きなんだよ?」

それは聞いていたけど、彼はもうなんとも思っていないって……。

「でも、猪向は……、響には振られて、でも、もう立ち直ったって……」
「だって、中学の時に交際したら私に飽きちゃうでしょ?」

意味が分からなかった。

707 名前:恋は駆け引き ◆Nwuh.X9sWk[sage] 投稿日:2011/12/21(水) 02:24:55 ID:qkcmtu9g [6/13]


「どういう事?」
「んー、話すと長くなるんだけど……」

いつもの口調、いつもの調子の響。 そのはずなのに違う人物と話しているような感じだった。

「私小学校の頃から告白されてきたんだけど、断ったら皆すっごい傷ついた表情するんだよね」
「でさ、思ったんだ。 多分この時の事は人生の中でも記憶に残り続けるんだろうなって」
「中学のときも相変わらず告白はされて、ずっと断ってた。 中学の時に付き合っても、どうせ思春期のせいだしね、すぐに別れるのは他の子を見てれば分かってたし」
「だけどユウに告白されたときは私も困ったの。 私の初恋の相手だったし、ずっと好きだったから。 結局保留にしたまま、でもユウは振られたと思って、すごく申し訳なさそうに私と話すようになった。 “好きになって、ごめんなさい”その表情がたまらないの」
「だからあの日から前よりもずっとユウと仲良く接した。 ユウの記憶に残るように、それで同じ大学まで進んでから私から告白するの、これでハッピーエンド」

性格が歪んでるっていうのはコイツの事を言うんだろう。
ショーヴィストか、こいつは。

「だからさ、勘違いしてるよ雫。 ユウは今だけアンタの事が好きなだけ、ユウがずっと好きなのは私だけだよ」

「そんなの、勝手じゃない?」

空気が凍てつくのが分かった。
もう受話器の向こうは私の知っている世界ではないように感じる。

「……」

沈黙がやけに胃に響く。 何でもいいから話して欲しかった。
時分から言葉を発するという発想は全くといっていいほど無くて、ただただ、響からの発信を待つだけがこの時に出来る唯一の抵抗に思えた。
怖がっていたにしても驚くほど冷静だったのは今でも覚えている。

「……雫はさ、ユウが私をオナニーのオカズにしようとしてたけど、罪悪感が積もって出来なかったの知ってる?」

えっ?
響の言った事に言葉を失う。
あの響が「オナニー」なんて言葉を使うなんて私は信じられなかった。
でも確かに言った。 低俗で下劣な言葉を、あの響がだ。

「ファーストキスも、それから今まで経験した三十七回、全部私とだけ。 ……ユウは私とだけしかキスはしてない」
「お誕生日会にしてもらったヤツは舌まで入れたんだよ。 最初は嫌がってたから、今日は私のお願いを聞くんでしょ、って言ったらユウからもちょっと舐めたりしてきてさ、可愛かったなー、ユウ。 うふふ、それが七回目」
「それから十回目までは強引に私から舌を入れてたんだ。 お泊りにいった時は必ずしてたなあ。 ユウが寝た後は耳とかを舐めるんだ。 ユウがくすぐったそうにするの。 その写真は定期入れに入ってるんだけどね、えへへ」
「でもそれも小学校五年の夏休みまで……。 思春期って言うのかな、急にユウの方が私を意識しちゃって。 グループも男の子だけのトコに固まるようになったし、あの時は悲しかったなあ」
「いつもユウがグループと分かれるのを待ち伏せして偶然を装って一緒に帰る、結構辛かったよ……」

なんだろう、この気持ちは。 私の中に猪向が住み着いたのはごく最近のように感じる。
きっと響の中の大部分は猪向だけなんだろう、小さい頃から、今の今まで。 もしかするとこれからもずっとそうなのかもしれない。

「何も知らないよね、アンタは。 でもね、友達までなら許してあげる。 ユウもあなたの事気に入ってるみたいだしね」

この余裕は、自信から来るモノなのだろう。
響は猪向が自信の事を好いていると信じて疑わない。

「……でも、でもさ、猪向は今、私の事が好きなんだ、よね?」

これだけが私に勇気をくれた。 いま私が彼女と向き合えているたった一つの要因。
引くワケには行かなかった。 ここで引いたら私は二人に引け目を感じるようになってしまう。
それに、私だって猪向が、猪向優が好きなんだ。
貴方だけじゃない、貴方だけが特別なワケない。

「ふうん。 もういいや」

そう言って、電話が切れた。
あまりにも唐突、残された私と切れた事を知らせる電子音。 その電子音よりも速い鼓動に気付きやっと我に返る。
きっと友達ではいられない。 そう思うと少し悲しかった。

708 名前:恋は駆け引き ◆Nwuh.X9sWk[sage] 投稿日:2011/12/21(水) 02:26:27 ID:qkcmtu9g [7/13]
それはあんまりにも唐突だった。
あの響に押し倒されてキスされた。

百葉箱の見張りを終え、ようやく補修から開放されたので響が「久しぶりに星の泉デラックスをやろう」って言い出して部屋に招いて俺がプラズマの2Pになった直後押し倒された。
その勢いでコントローラーがハードを引っ張り、画面上のカービィがデタラメになった。
絶対データ消えたな。 と思った直後、口が封じられた。 勿論文句を言おうとした。

いきなり張り詰める空気に頭は勿論ついて行っておらず、情報処理に追われて肉眼の中で繰り広げられるこの現状を頭の中にリロードするので精一杯だ。
どうするべきだ、驚きすぎて響の馬鹿を引っぺがすタイミングが全く分からん。

「ん……、ちゅっ……」

そんなこのお馬鹿、ベロチューなんて……、そんな、嗚呼っ!!

暴れ回る巨大な血管と肉の塊、両雄が混ざり合っているぅっ!
まずいぞ、何だこれは!!
気持ちイイだと、多幸感なんて、そんなっ!!

やっと響が口を離した。 よっぽどだらしのない顔をしていたのだろう、響は薄い笑みを浮かべて俺の輪郭をやさしくなぞった。

「……なにをするのかね、君は」

やっと我に返ったのは響が俺の胸に頭を乗せてきてからだった。 何となくこの時まではボーっとしていた。

「昔はいつもしてたじゃん」
「昔は昔、今は今。 高校生にもなってみっともないぞ」

すると胸に耳を当てていた響が俺の鼻頭をつまんだ。

「んだよ、はなぜよー」

少し鼻声になる。

「ドキドキしてるくせに、自分だけ平気なフリするな、ばか」

何だこの雰囲気、何だコイツ。
なんでまた目を閉じる。 調子に乗るなよ、この雌犬!!

「いたっ!」
「お返し」

思い切りデコピンしてやったわ、ざまあみろ。

「なんで? いいじゃん、しようよ、キス」

なんかの標語みたいに言ってもダメだ。

「やだ。 どうしたんだよ、いきなり」
「聞くな、今はお前を抱かせろ」

時代小説か、貴様。

709 名前:恋は駆け引き ◆Nwuh.X9sWk[sage] 投稿日:2011/12/21(水) 02:27:38 ID:qkcmtu9g [8/13]

「なんの」

こっちも必死だ。 俺で遊ぶようなヤツに俺のリップは預けられない。
必死に……、本当に必死に響からのアプローチを拒んだ。 どんだけ馬鹿力なんだ、コイツ。
何とか腕とか首とかに逸らすのがやっとだ。

「もう、じっとしてよ!!」

両手で顔をホールドされ、唇を押し付けられる。
ここまできてようやく、本当に様子がおかしい事に気付き、響を押しのけた。

「やめろよっ!!」
「きゃっ!!」

部屋にはデタラメになったゲームのBGMと俺と響の荒れたい気遣いだけ。
口を拭って、響にタオルを投げてやった。

「こういうの、もうやめてくれ」

俺をキッと睨む響。 何も言えなかった。
別に気に障ることをしたわけじゃないし……、と思いを巡らせていると、響が口を開いた。

「あきれた、次は雫なんだ」

この女、今なんと言った?
次は雫? 久宗のことか?

「私に飽きたの? だから雫の事思ってたの?」
「思ってたって、俺は別に」
「じゃあ、私といるときに雫の話するのはやめてよ!!」

いきなりの響きのシャウトに、思わず肩が竦んでしまう。
しかし待てよ。 いいか、ご近所様ってのがあってだな、ここで付き合ってもいなければ、目の前の女に振られた男がエセ痴話喧嘩なんてやってみろ、俺の家の評判悪くなっちゃうじゃないか。


「私の事が好きなら、ずっと好きでいてよ!」
「だって、お前俺の事振ったじゃん。 それにいま俺好きな子いるしさ」
「知ってるよ!!」

まぁ、そりゃあそうだよね。 バレバレですよね、分かってますよ。
だからこうやって貴方様は怒り狂っていますもんね。

「振ったのはあの頃は中学だったからだよ、あの頃付き合っても別れるのは明らかだったし、高校も一緒に行けるか分からなかったからで、仕方なかったの!!」

こいつ、ちょいと勝手すぎやしないか?
それなら高校一緒に入ろうねって言う甘酸っぱい青春が送れたんじゃないの?

「よしんば高校が違ってたとしてもだな……」
「よしんばってなに!?」

なにこの激昂状態。 誰か助けて。

「ま、まあとりあえず落ち着け」
「いやっ!!」

拒否されてしまった。 もっとクレバーになれよ。

何分も均衡状態が続いて向こうの大使が出向いてきた。

「じゃあ、抱っこして」

710 名前:恋は駆け引き ◆Nwuh.X9sWk[sage] 投稿日:2011/12/21(水) 02:29:07 ID:qkcmtu9g [9/13]

ああ、いいともさ。 これで枯葉剤を撒かなくていいのならいくらでも抱っこしてやるさ!!
壁を背にして、胡坐をかいた上に響が座る。

「腕、まわして!」

何なんだ、コイツ。

大人しくいわれるがまま、腰から手を回し響のお腹の上でクロスさせる。
完璧に抱っこしているはずだ。

「……ふん」

響も難癖を付けようにも付けれなかったのか、はたまた思うような出来だったのか、俺の手を握ったままゆっくりと、深く呼吸を三回して落ち着いた。
またもや均衡状態が続く。

「……、おいバカ」

痺れを切らしたのは俺だった

「あ?」

響さん超怖いっス。

「いや、あのですね、」

言葉に詰まる。
この女、いま何をするか全く持って分からん。

「ユウ、アタシと付き合ってよ……」

ここで押されてなるものか、俺は一度は貴様に振られた身なのだ。 今更になって「はいそうですか」と頷けるものか!!

「無理だ、俺にはいま、好きな人がいる。 だから無理だ」

過剰に強い意味を込めて交際を断る。
その意味を組酌んでくれると信じている。

「わかった」
「……、そうか」

「今は、ユウの気持ちを尊重してあげる」

思考がまた停止する。

「でもね、やっぱりユウの初めては譲れないよ」
「待て、なにを……!?」

途端、響の前で交差していた腕を捕まれ、視界が何度か回転した。
後ろに回された指を、両手の指が何かによって束ねられる。

「結束バンド、結構役に立つね」

何が起こっているかまったく分からない。
カスパー・ハウザーも真っ青だ。

「次は服を脱ごうか? ユウ……」

何とかして逃れようと身体をよじるが、それがいけなかった。
響の機嫌を損ねたのだ。

思い切り、つま先で、鳩尾を蹴られた。

711 名前:恋は駆け引き ◆Nwuh.X9sWk[sage] 投稿日:2011/12/21(水) 02:29:58 ID:qkcmtu9g [10/13]

「ごほっ、おぇっ!!」

胃が衝撃を受けて形を変えたのが分かる。
吐きそうだが、堪える。
やけに耳元で聞こえる鼓動がうるさい。 後頭部が熱い。

「抵抗しないで。 ただでさえイラついてるんだから」

何がだ、何にイラついている。
よしんば俺がお前の気持ちを害したとしても、こんな事をしてもいいと思っているのか。
怒りに似た気持ちが沸々と吐き気と共に喉まで上がってきた。

「あっ、でもこの方が都合いいかも」

何がだ。
そう言おうとした次の瞬間、わき腹に衝撃が来た。
間髪を入れずに、腹部を中心に次々に衝撃が来る。

痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い……。
だんだん身体を丸めるのことに精一杯になってきた。
全身が熱と痛みに包まれて、ぐったりと生気を失いはじめたのが分かる。

どれくらい殴られていたんだろう。
やっと殴られていないと気付いたのは、響が僕を仰向けにしたときだった。

フラッシュが焚かれ、電子音がする。

(カメラ……、撮られてる?)

「さ、服ぬごっか?」

さっきまでとは違い僕をいたわる様に響は上着を脱がせ、下着を脱がせ、僕を真っ裸にした。
体は動かない。
その上で、響はまた僕をカメラで撮った。
カメラを取り終えると、次に小さな三脚を鞄から取り出し、組み立てた。

「二人の初めてだからね、記念に撮っておかないと」

デジタルビデオカメラを三脚にセットし、撮影のセッティングをしている。

「えーっと、20××年○月□日、今からユウをレイプします!!」

カメラに向かって言う、響に何も声を掛けれない。
響はカメラの具合を確かめながらも、僕に口付けをして……

712 名前:恋は駆け引き ◆Nwuh.X9sWk[sage] 投稿日:2011/12/21(水) 02:31:09 ID:qkcmtu9g [11/13]

私と、猪向が付き合い始めて一ヶ月が経った。
初めは、もう響との関係も終わるように思っていたけど、猪向のおかげで私達はまた友達として上手くやっている。
付き合い始めて分かった事だけど、猪向はとても気配りが出来る人間だった。

どこかに出かければ必ず私にお土産を買ってくるし、私の話を聞くときは必要以上に熱心に聞いてくれる。
私を何よりも尊重しようとしてくれるし、世話を積極的に焼こうとしてくれる。

響との仲を取り持ってくれたのも彼だ。 彼の必死の説得に響も折れ私とも仲直りが出来た。

「久宗、一緒に帰ろうぜ」
「うん」

下校時にはいつもこうやって私に声を掛けてくれる。

「あれー、私には声を掛けてくれないのかなー」

決まって、響が茶々を入れてくれる

「勿論、響も一緒に。 いいだろう? 猪向?」
「別に、いいけどさ」

猪向はいつも恥ずかしそうに了承する。
そんな彼が愛おしい。

帰り道の主役は決まって響だ。
話題も、帰り道も、寄り道も、全部響が決める。
私達はそれに付き合う。 変なカップルかもしれない。
それでもいいんだ。

「じゃあ、ちょっとトイレいってくるね」

「なあ、久宗」
「何だ? ……あっ」

この手を包む、彼の暖かさを知ってるのは、私だけ、私だけなんだから。

「いやかな?」
「なにが?」

握る力を少しだけ強くする。 彼もそれに呼応するように、強くする。

「響と、三人で帰るの」

響が割り込んでくるとき、彼の顔色は少し曇る。
それは仕方の無いことだけれども、彼に申し訳ないと思っている。
きっと彼は二人になりたがっている。
でも私はいまだに気恥ずかしくて仕方がないのだ。

「別に、久宗が……雫が二人になりたい時でいいよ」
「……、ありがとう。 ユウ」

名前を呼ばれるというのはいいことだ。
心底、そう思った。

713 名前:恋は駆け引き ◆Nwuh.X9sWk[sage] 投稿日:2011/12/21(水) 02:33:49 ID:qkcmtu9g [12/13]
「じゃあな」
「またねー」

久宗と分かれてからすぐに響が腕を組んできた。
まるで不倫でもしているような、そんな関係がもう一ヶ月も続いて、後ろめたさばかりが積もる。

「ユウ、今日は私の家の番だったよね?」

俺を見上げる響の瞳の混濁は益々その混沌を究めていく。
あの日、強姦された日。
吐射物の上でケツの穴まで犯されて、それをネタに響との関係を続けている。

「今日は約束二つも破ったよね?」
「破ってないよ」

組んでいた腕が響の方に引っ張れる。

「手握ってたでしょ、」

見てたのか……。

「それに下の名前で呼んでたよね」

しかも聞いてたのか……。

「今日もしっかり刻んであげる。 貴方はあたしのだって」

今は仕方ない。 罪悪感で久宗には優しくする事しか出来ないけど、いつかは、いつかはきっと……

「今日はお揃いのタトゥーいれようね」

いつかはきっと君を好きだって言ってみせる。