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737 名前:a childie[] 投稿日:2011/12/24(土) 22:47:53 ID:mauJVnWU [3/7]
第4話







一人、


一人、心閉ざした女がいた。
彼女は自分の不幸を憐れみ、慰めた。
世界で一番不幸せな自分。
それが下劣な行為と知りながら。

一人、夢みた女がいた。
いつか本の中のお話のように、白い騎士が現れることを。
白馬の上で一緒に揺れる自分。
それが馬鹿げた妄想と知りながら。

そして、

738 名前:a childie[] 投稿日:2011/12/24(土) 22:48:46 ID:mauJVnWU [4/7]
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次に世界一不幸だと言う少女の話をしよう。
何もかもを呪い恨みながらも、一人の男に夢抱くのを止められなかった。
そして、その男に夢砕かれ全てを壊し始めた。
次に破滅願望を実現させた女の話をしよう。
大事なものを壊すことでしか、それを手に入れることが出来なかった。
そして、破滅へと狂い始める。

女の願望は単純だった。ただそれが形作るのが遅かった。
そしてそのことが根本を狂い始めさせた。
けれど全ては女が悪いわけでもなく。されどこの女無くしてはなりえなかった。
そんな悲劇。笑いすぎて泣けてしまう喜劇じみた、悲劇。

彼女は最後、喜んで演じ始める。
観客達は席からじっと、口元に嘲笑を浮かべながらそれを眺める。
道化師は狂喜の絶頂にある女を囃し立てる。

他人の不幸は一番の慰めもの。

特に自己にとって無縁である物ほど。

739 名前:a childie[] 投稿日:2011/12/24(土) 22:50:14 ID:mauJVnWU [5/7]
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冬の終わり。少し温かみが差し出した時ごろ。

チャイムが響き渡る。
HRも終わり、下校の時間。
机の上で、知られないぐらいの溜息をついてしまう時間。
私はこれから友人と笑ったり、怒ったりすることができる
この空間から抜け出さなければいけない。
日常と言う覆いから剥がされる不快感、嫌悪感。
それらを呑み込んで席を立つ。

玄関を出ても校門にたどりつく間、必死で雑談に花を咲かす。
これから目を向けなければいけない日常から必死に目を逸らそうとして。
無駄だと知りながら。
そして校門へと辿り着く。
守衛にあいさつし階段を下れれば、そこにそれぞれの向かいが待っている。
私の、嫌いで、苦手な、あいつも。

似合わない黒のスーツにジェルで固めた黒髪。
いつもの鳥の巣みたくバサついた頭髪と節操のない服装とは異様。
でも知っている。彼にとってこれは戦闘服と同様であることを。

さようなら。
この言葉で舞台から降りて暗部へと入る。
リュウジの待つ車へと向かった。

「お疲れ様です」
笑顔と共に一礼。乗客を迎えるために後部座席のドアを開ける。
私があの人の、父の娘だから向けるいやらしい笑み。
そう思いたい、嫌味のかけらが見つけられない彼の笑み。
無視して乗り込む。
そんな私の行動にもこの男は慣れきっていて、ドアを閉めると運転席に入り車を出した。

「日が長くなってきましたね」
場を和らげるための、当たり障りの無い無難で何の意味もない言葉。
返すことなく流れて虚空へと消える。
目線は窓の外に固定しておく。
外の空気の方が春の澱みでまだ、暖かいような気がした。
子供の私がする、子供じみた行動。
彼に苛立つのと同じに自分にも苛立つ。

枯れて死んでいるような街路樹が目先を過ぎる。
少し、普段より車が速い気がした。
気を紛らわそうと鞄から本を取り出そうとした時、リュウジの横顔が見えた。
ちょっとした違和感。自分だけではない暗い物。
運転する彼の動作にほんの僅かな、ぎこちなさを感じる。
きつめにハンドルを握った手。前を見ているようで違う物を見ている目。
「どうかしましたか」
バックミラーでこちらを見られた。
「なんでもない」
思わずそっぽを向いてしまう。馬鹿みたい。
それでもしてしまう、
予感。証拠は何もない予感。
ありもしない鉄錆びた生臭い匂いを嗅いだ。
息苦しくなってハンドルを回し、窓を開ける。
綺麗であって欲しい空気。

「お父様は?」
気を逸らすために二日前から家に居ない父について聞く。
「あさってには帰ってきます」
短い答えが返ってくる。たぶん、それに二日は足すことになるだろう。
自分から無駄口を叩かれるのは嫌いなのをリュウジは知っているが、
それでも何処かそっけないと感じてしまう。
「そう」
興味を失ったと思わせるためにシートへもたれ、
振動と彼の運転に身を委ねる。

恐らく、恐らくは今日彼は人を殺した。
父の命令で。

絶対になった確信。
でも本当か確かめる気にはならない。
本当に刺した箱に猫がいたか知りたくもない。
夕暮れ時の、あと僅かな日差しを浴びる。

何を憎く思っているのか分からなくなった。

740 名前:a childie[] 投稿日:2011/12/24(土) 22:51:47 ID:mauJVnWU [6/7]
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彼の顔、髪、瞳、唇、肌、傷跡が走った肌、
手、指、指、私を撫でてくれた一本一本の指、それらすべて彼の一部、全部、
私が愛して止まなくなったのはいつからだろうか。
愛して愛して止まなくて、そして憎くて憎くて仕方無くて。
引き裂いてしまいたくて、喰らい尽くしてしまいたくて。
私だけを見ていて欲しいと願っても、
自分の半身のようにどうしようも出来なくて。

だから私は彼の全てを否定した。
その存在を。その行動を。裏切りを。
逃げた彼を捉えて自分だけが望む形に作り直した。
そしてようやく私は幸せになれた。

今度は誰かが私を否定しても、これは絶対にゆるぎない、
幸せだ。





最初、リュウジにあった時彼は私の大事な物を奪った憎い、憎い
男だった。
今から10年前の戦争。
終わるまでの2年間、私にとって家族と呼べるのが二人しかいなかった。
今ではあの女を妹と思っていたことがおぞましいけど。
あの女、チズルの父は私の父と同じ部隊で勤めていたこともあって
士官下士官の壁を越えての付き合いがあった。
結婚していた両者は家族付き合いをするようになり、
そうした中でチズルは生れた。

私には母がいない。
正確には生物学的母親はいたが、私が生まれて1年目に失踪した。
駆け落ちとも言う。
父は何も言わなかったが、父の親族の私に対する悪態を聞いて知った。
どうやら子育てと家に帰ってこない夫に嫌になって、
他の男と逃げたらしい。
そういうわけで私には母がいない。

3つになるまで親戚に預けられたが、
あの女の娘と言うことで、それなりの待遇を受けた。
体に痣があることに気付いた父はそこから連れ出すしかなかった。
薄給の中で世話役として家政婦を雇ったが、
父はあまり家に帰ってこなくなった。
私達親子はよくある話のように歪んでいた。
子とどう接すればいいのか分からない親と
親にどう愛されればいいのか分からない子。
良くなり始めたのはチズルの父親、エダさんと交流が出来てから。

けれど改善の兆しが見え始めての戦争だった。
父とエダさんは戦場に行き、
私はエダさんの妻であるユキカさんとその娘の所に居させてもらった。
そこは私にとっての理想の家族だった。
優しくてきれいなお母さんと可愛い妹。
一人で読んでいた絵本に描かれているのと同じ。
父親役はいなかったけど。

私は二人に甘えた。
これまでの孤独だった分だけ取り返そうと思って。
ユキカさん。
私はこれからもあの人のように優しい人には出会うことは無いと思う。
無条件に私とリュウジを愛してくれたから。
何も言わずに腕に抱いてくれた。
血も、何もつながりの無い二人に。無償で。
チズル。
かつては私の家族であり、唯一の友達であった。
私が可愛がるだけ彼女は幼子特有の素直で純潔な反応を見せてくれた。
それが嬉しくて仕方なかった。
自分の感情に反応してくれる相手に。

戦争が終わってもそれが続く物だと思った。

でもリュウジが来ることで二色が混じって一色に、また別の色へと変わった。
チズルの兄として現れた彼に恐怖した。
あの二人の間に入ってくる。
それは自分がそこでは姉として居られなくなると
宣告された気がしてならなかった。

私は抗った。
彼が私だけの、大事な世界に入ってくるのを。
けれど、どれも無駄だった。
どれほどの誹謗も、悪態もこの愛憎尽きない男は全てを呑み込んでしまった。

あの澱んだ暗闇へと全て放り込んでしまう笑みと一緒に。