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856 :初めから ◆efIDHOaDhc:2012/01/21(土) 03:17:53 ID:3wsYddL6

夏の陽射しが強い中、本来なら開くはずのない、屋上の扉は開いた。
下駄箱に入っていた手紙によれば、私を呼び出した奴はここに居る。
そう思い周りを見渡すと、見知った男が一人こちらを見ていた。

渡辺 健一。小学校からの顔馴染でいつも突っ掛ってきた男だった。
身長は学年で一番高く、翔太と重秀がいない今、男子の中では成績も学年一位と言っていい。
一時期は番長染みたこともしていた――そんな男だ。

「…さやか、俺と付き合ってくれないか?」

私の顔を確認した途端、唐突に口を開く。
考えていた通りの展開になった。今時ラブレターなんて真似をするから
ドッキリか何かかとも思っていたが。純粋に、メールを使わない所は私なりに評価する。
だが、付き合うか?と問われれば、答えは決まっている。

「嫌よ」

私のこの返答に何を思ったのか、健一は考え込む。小学校位のときは
散々私の邪魔をしていた男だ。それがこんな事を言い出すとはお笑い草だ。
私の好感度で言えば、ランク外。そもそも対象ではないのだ。

そんな男は、顔を上げ私を見つめてくる。

「そんなに…翔太がいいか?」

「……は?」

この男、いきなり素っ頓狂なことを言い出した。確かに、私は良く翔太に凜子、
そしてあのバカ秀と行動を共にしていた。客観的に見れば、翔太に気がある
女の子二人と、クラスでも人気の男の子である翔太、そしてその友人の重秀。
そうゆう感じに見られていたのだろう。

この男もそう捉えて、こんな事を言い出したのか……勘違いも甚だしいが
これはこれで問題ない。勝手に勘違いして勝手に暴走するのだ。
見てる分には非常に滑稽だ。

「…それで?」

「もういない奴よりも、今居る奴の方が良いだろう?」

それに翔太よりも俺の方がカッコイイ、そう続ける。なんとも笑える冗談だ。
確かに、健一は人一倍オシャレにも気を使っておりクラスの垢抜けない男子や
何かを勘違いしている奴らよりよほど、カッコいいのだろう。それは、私自身が
認めてもいい。しかし翔太と比べるのは間違いだ。今じゃ売れっ子の芸能人、
知名度やその他を含めても健一が勝てる要素はない。

まぁ…余り身形に拘らないバカ秀には、勝てるだろうが…

「あんたが?…笑わせないでよ」

「何が良いんだよ!あいつの何処が!?」

私の一言が気に障ったのだろうか?健一は顔を赤くし声を張り上げる。こいつはこいつで、翔太に
コンプレックスでも抱いていたのだろう。健一の事で思い出すのは、以前凜子に
告白したことがるという話だ。凜子はいつもどうりその申し出を断り、健一をフッたのだろう。
無駄に自尊心が強いこの男は、それに痛く傷ついた――大方そんなところだろう。

そしてフラれた理由に、凜子がいつも親しくしていた翔太に原因がある――そう考えでもしたのだろう。
それ以来、どうも翔太に対してライバル意識をむき出しにしているというのか、
健一は、翔太に突っ掛る事が多くなった。

どうして自分がフラれたのか?その原因を翔太に求め、その結果必要以上に翔太をライバル視している。
学校行事にも積極的に参加し、不沈で有名な凜子と共にいる翔太。今や凜子と共に芸能人という肩書も付き
もはや勝てる要素などない。だが――彼らは東京に行った、もういないのだ。
そんな奴がいない今、チャンスとでも思ったか、同じく翔太と一緒にいた私に狙いを付けてきたのだろう。

本当に笑える。傍から見れば翔太を中心としたグループに見えるだろうが、
実際は――

「もういい!帰るっ!」

私が考え事をしている内に、言いたいことを言い終えたのか、健一は不機嫌そうに去っていく。
去り際にドアを叩きつけるように閉める様は、それだけ怒っている心の表れなのだろう。


857 :初めから ◆efIDHOaDhc:2012/01/21(土) 03:20:24 ID:3wsYddL6

「無様ね……」

しかし、なんで私はこんな事をしているんだろう?勉強の当てにしていた凜子は、東京に行けると聞いて
芸能界に突っ込んでいくし、翔太の奴も自分の彼女を置いていくような真似をするし。

「バカ秀何してんだろう?」

ふと最初に東京に行ったバカの事を思い出す。我が強過ぎて周囲と馴染めない私を影ながら助けてくれ、
気の弱い凜子を勇気づけ、馬鹿をしでかそうとする翔太をなだめ、まるで子や孫を見るかのような目線で
私たちを見ていたあいつ。

無性に気になって、携帯を取り出しメールを打つ。内容はあいつが覚えているかどうかも分からない昔の
話だが、今でも記憶に残っている――いろんな意味で――話で脅しでも掛けてみよう。
唐突なメールだが、あいつなら問題ないでしょう。

『リコーダーの事、まだ覚えてるからね?』

急なメールだったが返信はすぐに来た。

『代わりに俺の笛、ペロペロさせてやんよ』

どうにも最近、あいつは頭のネジが緩んでると思う。

「そういえば……あれ以来あいつの行動って妙にハッチャける様になったわね……」

元々私と凜子の笛を嘗めるというのは、男子達がおふざけでやった罰ゲームで、あのバカ秀はそれに負け
屈辱にまみれながら――の、割には妙にノリノリで『グヘヘ、おいし~だす』などと言いながら――私達二人の
笛をこれでもかと云うくらい、下劣に汚ならしく嘗め回していた。

男子達の考えでは、泣き喚く凜子と怒り狂った私がボコボコにするという光景を思い浮かべていたのだろう。
しかし、実際に見てみれば固まって動けない私たちを見て男子達はガッカリしたようだが……

私達にして見れば、あいつが――あんな厭らしい顔で私たちの笛を嘗め回す光景は、
なんというか、なんで『笛』なんかにというか……

「あれが、切欠になったんじゃ……」

それ以来、重秀は遠慮というものが消えた――悪い意味で。
今までの大人ぶった態度から一転、遊び尽くす!!というような態度になってゲームに打ち込み
趣味のプラモデル作り、挙句の果てには人をからかい始めるなど一気に堕ちて行った。

「……はぁ」

急に虚しくなってきた。親しい連中は揃いに揃って東京に行ったし、こっちには健一みたいなバカが多いし。

「あいつ、ちゃんと大事にしているかな?」

私 の 首 輪


858 :初めから ◆efIDHOaDhc:2012/01/21(土) 03:21:06 ID:3wsYddL6

「あれ?返信がないな」

流石に冗談が過ぎる返信だったか、さやかからの返信がない。
あの程度の下ネタで動揺するような奴とは思えないんだが、まぁ良いだろう。どうせいつか会えるんだし
その時にでも話しかけるか。

「おい、おい、見ろよ重秀!凜子ちゃんだぜ!」

成城への合格に向けての勉強会、俺と歳久、委員長と咲が現在俺の家にいる。
俺の部屋だと手狭なので、居間でゴロゴロしながら勉強となるのだが、案の定歳久はテレビに夢中になり
勉強などそっちのけで、食いついている。それを心配そうに見つめる委員長と、関係ないとばかりに集中している咲。
如何も勉強にならない。

しかし、歳久の奴あんな事があった割にケロッとしてやがる。
一体どうゆう神経してるんだ?

「ま、その様子なら写真は必要ないか」

「「「写真?」」」

俺の一言に、三人一斉に反応してきた。

「写真ってなんの写真だよ?」

「ほら、お前が前に言ってた金銀」

何!?写真取れたのか!?と俺に顔を近づける歳久。女子二人も金銀の話は知ってはいるようだが、さして興味が無い様だ。

「おおっ!すっげ!真正面から!こんなに近く!しかもすげぇ可愛い笑顔!!どうやって撮ったんだよ!?」

「聞いて驚くな?メルアドもゲットしたんだぞ?」

「まじで!?ちょっ今からメールしろよ!」

イヤ、しかし知り合ったばかりの娘にいきなりメール?

「ふぇぇ…恥ずかしいですぅ」

「貸せ!俺がメールする!」

俺の渾身のギャグを華麗に無視しつつ人の携帯に手を伸ばす歳久。無駄に力が強いから困る。

「?……もしかしてアーニャかしら?この娘」

「知っているのか?」

「ええ、仲が良い訳じゃ無かったけど、以前同じ学校だったから。けど珍しいわね、この娘が連絡先を教えるなんて」

聞けば成城ではその容姿と氷の様な冷たさから、周りは彼女に対して一歩引いていたらしい。
実際に彼女――アーニャも友達が少ないとかそうゆう事を言っていたな。

「そうゆうのコミュ障って言うんだっけ?
そんな女と関わるの、やめておいた方が良いわよ。
第一その女からいきなりメルアド押し付けて来たんでしょう?
気を付けた方が良いわ。気が付いたらメルアドや電話番号だけじゃなく、
 家の住所や郵便番号、毎日の家庭ごみや交友関係、普段何しているのか、どうゆう本を買って
どうゆうビデオを見るのか、趣味や休日の過ごし方、挙句の果てには普段の自慰の回数や性癖、
それらが細かくチェックされて『重秀君、こうゆうのがいいんだ……』とか何とか勘違いしだして、
メールに添付されてくる写真が、だんだん卑猥な物になっていき気付けばリストカットなどしだす。そして
構ってくれなきゃ死んでやる!!見たいな事書き出して、重秀君の同情心を煽り授業中にも平気で『会いに来て』とか
やり始める。もちろん断ればお得意の死ぬ死ぬ詐欺。仕方ないから遅れていくと私の事嫌いになったんだとかなんとか、
そして呆れた貴方が、そいつと関係を絶ち他の娘と仲良くなると、貴方を殺して死んでやる!!――きっとそんな事になるわ。
私の予想だけど、重秀君は土砂降りの雨の中お腹を刺されて、ついでに首も持って行かれる。そんなことになるわね。
予想ではあるけど、限りなく確信に近い筈よ。いい?だからその女との関係は慎重に考慮して?」

「お、おう……」

ならいいわ。そう言いつつ最近伸びてきた長く綺麗な黒髪を、無駄に色気のある仕草でかき上げる咲。
普段のクールな感じは何処へやら物凄い勢いで捲し立てる。それくらい喋れるのなら、もっと普段から喋れば良い物を。
しかし咲の言う事も一理ある。話して感じは其処まで酷い娘ではなかったが、人の本性と云うのは存外分からない物だ。
付き合いが深くなれば見えなかった部分も見えてくるだろうし、慎重を期すのは悪い事ではない。

「ほらっ!!みんなちゃんと勉強しなさい!!」

委員長の一喝で無駄にだらけていた空気が引き締まった。
不思議と彼女の声には人を従わせる力がある――そう感じられる程だ。

「翔太達元気にやってるかな…」

最近連絡を取っていない友人たちを思い、ペンを奔らせた。


859 :初めから ◆efIDHOaDhc:2012/01/21(土) 03:22:42 ID:3wsYddL6

「うっ嘘でしょ!!アーニャちゃんに男の子の友達!!」

「声が大きいわよ。もう少し静かに」

私の親友、アーニャ・ミハーイロフは――こうゆう恋愛ごとには、
『恋愛?学生の身分で良くそんな余裕があるわね』とか言っちゃう過激派だ。
そんな彼女が、友達とはいえ異性と積極的に関わろうとしているのだ。これを春と言わずに何と言おう!?

「す、すごいよアーニャちゃん。男の子の連絡先ゲットするなんて」

私たちの学園は華の女子中、しかも良いとこのお嬢様達が通う学園なのでこの手の話には厳しい面がある。
しかし、私を驚かせたのはアーニャちゃんの珍しい積極的行動だ。アーニャちゃんは金髪碧眼の美少女、
鋭い眼光の目と、威圧的な雰囲気、何をやらせても気だるげに軽くこなしてしまうその能力、冷たい美貌とでも言うべきか、
アーニャちゃんは何だか凄い魅力があって、下級生たちからはお姉さまなんて呼ばれている。

そんなアーニャちゃんに、私は何度も恋愛の話を振ってみたけど全て興味なさそうに相槌を返す状態だった。
しかし、今日の話を聞く限りなんとアーニャちゃんから友達になってと頼んだというのだ。私にはそれがビックリでならない。
私はてっきりアーニャちゃんは、百合百合な人かと思っていたけど。

「ええ。でもほとんど直感だから、まだ確証がないの」

何の?とは問わない。そんな野暮な事言われなくても分かってる、恋は何時も突然なのだから――受け売りだけど。

「私応援するよ!!」

「うん。ありがとうね菜々美、でも――」

妙に艶っぽく、とても14歳とは思えない色気を醸し出しアーニャちゃんが口を開く。

「私、菜々美の事もすごく好きよ――」

食べちゃいたい位――そう続けるアーニャちゃんは、やっぱり百合なんじゃ…
そう思わずにはいられなかった。




「……はぁ」

携帯を片手に溜息をつく。今日で何度目になるだろうか?ここ最近ずっと同じことを繰り返してる気がする。
もっと正確に言うと、秀君からの連絡が一切ないのだ。私から連絡をしても、何時もならふざけた返信をするのに
最近はとても素っ気ないメールしか返ってこない。私と一緒に上京した翔太君とはいっぱい連絡してるのに、
なんでなんだろう?

「何かしたかな……私」

翔太君と秀君、私とさやかちゃんは小学校から一緒に遊んできたとても親しい友達だ。
特に秀君は小さい頃から気の弱い私や、逆に気の強すぎるさやかちゃん、小さい頃は色々問題を起こしていた翔太君、
他にもいろんな子達の相談役というか、保護者役というか、そんな感じの事をしてきた人だ。
とても面倒見がよく、明らかに周囲の子達とは『見ている物』が違っていた。そんな秀君が訳もなく連絡を絶とうとしているなんて
私には考えられなかった。

「なんで…連絡くれないのかな」

始めは、男の子たちに苛められているのを助けてもらい、一人ぼっちで居た私を仲間に入れてくれ、将来の為と言いさやかちゃんや、
周りの女の子達との仲も取り持ってくれた。勉強だって人一倍出来、両親に勉強を強いられプレッシャーになっている私の為に、
特製のプリントも作ってくれた。

「秀君……」

秀君に会えると思って、東京へ――アイドルになったのに、秀君と会えないんじゃ意味がないよ。
電話にも出てくれないし、私如何したらいいの?

「凜子、休憩はおわりよ」

マネージャーが、私の肩を叩く。日々のトレーニングと勉強に追われている私を良く気遣ってくれるいい人だ。

「成城……」

秀君は成城学園へ進学すると言っていた。ならもっと一杯勉強して、成城で詳しい話を聞こう。
実際に会って話せば秀君だってちゃんと答えてくれるはず。

「待っててね秀君?」

ずっと話しかけていた、貴重な秀君の寝顔の写真を、私はそっと――財布にしまった。






こうして、時は流れて行った。