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147 :星屑ディペンデンス 第一話 ◆TvNZI.MfJE:2012/03/26(月) 17:24:18 ID:cIlpiggY
もしも、魔法が使えたら。
それは、誰しもが一度は思い描く夢である。
絵本や御伽噺、最近であればアニメやゲーム。
何時の時代も、それは人間の空想の中心にある。
幼い頃、布団に入ってから寝るまで、魔法使いの夢を見た人も多い筈だ。
もちろん、魔法について夢想するのは子供だけ、と決まっている訳では無い。
口に出さずとも、頭の中ではファンタジーな世界が展開している人というのは結構居るものだ。
そういった人達が小説や漫画といった物を産み出すのだから当然といえば当然だが。
かくいう俺も、そんな人間の1人だった。
小さい頃から、いつもそんな事ばかり考えていた。
順調に厨二病の道を歩んでいたが、普段は普通に振舞っていた為、周りには結構友達も居た。
高校に入学し、文芸部に所属したと言う事もあり、考える理由と場所には事欠かなかった為、空想は加速していった。
授業中だろうがなんだろうがお構いなしに、暇さえあれば自作の厨二小説の構想を考えていた。
だから、俺はそんなに驚かなかったのだ。
突然、魔法の使える世界に召還されたと言われても。


148 :星屑ディペンデンス 第一話 ◆TvNZI.MfJE:2012/03/26(月) 17:24:56 ID:cIlpiggY
「...ふむ、お若いの。そろそろ起きて下さらぬか。」
頭上から声を掛けられ、ゆっくりと目を開く。
目に入ってきたのは見慣れない光景。
星型の文様とよく分からない文字が沢山刻まれた石造りの天井。
優しそうな微笑でこちらを見つめる白髪の老人。
明らかに自分の部屋ではないその光景に、即座にこれは夢であるという可能性を思い浮かべる。
暫く何もせず、黙って今の状況を考えていると、先程声を掛けてきたであろう、目の前の老人が口を開いた。
「突然、こんな事になって、さぞ驚かれていることじゃろう。今、説明して差し上げるのでな。名を聞かせて貰えぬじゃろうか。」
老人は再び微笑みながら、しわがれた、しかし温かみのある声で名を尋ねる。
「...日鏃 龍です」
答えない理由も無かったので、素直にそう答えた。
「そうか...姓がヒヤジリで、名がリュウと申すのか。リュウ殿と呼んでも構わないかな?」
「あ、リュウでいいです。」
「そうか、ではリュウよ。始めに言っておくが、今起きている事は夢では無い」
体を起こし、頬を抓りながら、老人の話を聞く。
薄々気付いていた事だ。何せ俺は、今までこんなにはっきりと実体を伴った夢を見たことが無かったから。
では、今のこの状況は、なんらかの理由で俺が自宅以外の場所に連れてこられたということになる。
俺は昨日、しっかりと自室のベットに入った事を覚えている。
自作小説の続きを少し書き足して、明日も学校だからと早めに布団に潜り込んだのだ。
更に、この老人の顔を知らないと来ている。
さっき、名前を聞かれたので、初対面であることはほぼ間違い無いだろう。
...いよいよ、危険を意識して来ていた。ファイティングポーズ。
「ああ、そんな身構えんでも。君に危害を加えたりせんから。安心して欲しい。」
そういってまた微笑む老人。
特に危険は感じないので、説明とやらを黙って聞くことにした。
「ああ、すまないの。自己紹介がまだだった。ワシの名はエヴァルド・ヴィンズ・グロンキ。ここで召還師をしておる。」
...召還師?
おおよそ日常生活では聞き慣れない言葉が出て来た。
自分は魔法とかそういうファンタジーな事を考えるのが好きなので、何となく雰囲気は掴めるが...。
もし、もしも俺が考えている通りの言葉だとすると...。
さっき黙って聞こうと思ったばかりだが、早速口を挟んでしまった。
「あの...えっと...エヴァルドさん?...」
「エヴァンで良い。」
「えっと...エヴァンさんは...召還師なんですか?...」
「そうじゃ。」
「召還師っていうと...間違ってたら恥ずかしいんですが、あの魔物とかを呼び出す?...」
エヴァンは眼を見開き、途端に嬉しそうな顔をした。
「そうじゃ。よく知っておるなぁ。これは話が早く済みそうじゃ。」
「...」
眼が点になるとはこの事なのだろうか。
「驚くのも無理は無い。見たところ、君は魔法の無い世界から召還されたようじゃからな。」
...オイ、皆聞いたか。魔法だってよ。
幼い頃から魔法を夢見てきた身としては、願ったり叶ったりなこの状況。
しかし、伊達に17年生きてきた訳ではない。この世に魔法なんて存在し得ないことくらい知っている。
だからこそ、俺はその空想の世界に魔法を遊ばせてきたのだ。
残された可能性は二つ。この爺さんが末期の厨二病を拗らせているか、はたまたこの爺さんが危ない宗教団体の一員か。
前者はまだ良い。今すぐこの爺さんの横っ面を張り飛ばして、眼を覚まさせれば何とかできる。
しかし、後者だった場合はヤバい。俺に狂った盲信者集団をどうにか出来るほどの力は無い。
あぁ、どうすればいいんだ俺は!早く状況を見極めて適切な対処をしないと...!
逡巡する俺を前に、エヴァンは苦った顔で笑う。
「その顔は疑っておる顔じゃな?ここに来た者はみーんなそんな顔をする。折角、今回は説明の手間が省けそうじゃと思っておったのに...」
1つ溜息を付き、
「しかし、信じざるを得なくなる。まぁ、百聞は一見に如かず、じゃな。」
徐に立ち上がったのだった。


149 :星屑ディペンデンス 第一話 ◆TvNZI.MfJE:2012/03/26(月) 17:25:59 ID:cIlpiggY





結論から言うと、エヴァンの言う事は本当だった。
徐に立ち上がったエヴァンは、掌を上に向けると、何かを呟いた。
すると信じられないことに、その掌の数センチほど空中に青白い炎が浮かんだ。
俄かには信じ難かったが、エヴァンの周囲に更にいくつも揺炎が浮かんだのを見て降参(?)した。
それからドヤ顔のエヴァンにいくつかの事を聞かされた。


俺こと日鏃 龍は地球とは違う異世界に召還されたこと。
この世界では魔法が当たり前のように使用されている事。
これから『テルミヤ サキ』という人物の下でこの世界の事を詳しく教わると言う事。


「...と、言う事で詳しい事はサキの下で一緒に暮らしながら聞いて欲しい。サキは君と同郷の者だからな。話も通じるじゃろう。」
「分かりました。」
「よろしい。しかし、今回は説明の手間が省けて助かったわい。それもこれも、君が予想以上に冷静だったからじゃ。他にも召還された者はたくさんいるのじゃが、皆一様に取り乱してしまってなぁ。」
「いや~、元より楽観的なのと、こういう世界に憧れていたから...命の危険が無い限り、この世界はワクワクします。」
「...命の危険、か...」
「...どうしました?」
「ん?いや、なんでもないぞ。それより、サキが迎えに来るまで少しあるのう。他に何か聞きたいことはあるかの?」
「あ、いくつかあります。まず、何で言葉が通じるんですか?俺が元居た世界とは言葉が同じ...な訳じゃないですよね?」
「ああ、それはな。」
そこで言葉を一旦切り、部屋一体に書かれた魔方陣に顎をやる。
「君が召還されたこの魔方陣、いわばフィルターのようなものでな。この世界に必要な最低限の事柄が自動的に習得されるのじゃよ。」
「へぇ...便利ですね。」
「言語の他には、魔力や特殊能力も付けられるのじゃ。」
「魔力って言うのは、魔法を使うエネルギーみたいなものですよね。特殊能力っていうのは...?」
「すまぬ...それについてはサキに聞いてくれ。今日はもう疲れてしまって...召還には大量の魔力を必要としてのう。一月に一度しか出来ぬくらいじゃからな。」
そういうエヴァンの表情は、確かに疲れて見えた。
「そうですか...じゃあ、最後に一つ...いえ、二つ、いいですか?」
「いいぞ。」
「あの...何故俺はこの世界に召還されたんですか?それと、俺は、元居た世界に帰れるんでしょうか?」
一瞬思案顔をしながら、
「何故この世界に召還されたかについては...サキに聞いてくれ。この世界の背景についても説明しなければ無くなるからの。」
「はい。」
「それで...帰れるかどうかについては...」
一つ間を置いてから、
「分からん」
「...。」
最悪、帰れないと言う答えを予想していたので、驚きはしなかった。
「古い伝承にはそれらしき記述もあるが...方法は分からないんじゃ...」
「そうですか。」
この世界の事はまだ良く分からないが、何とか生きて行く自信は漠然とあるので、特に何も感想はありません。まる。
この楽観的な性格は、果たして良い物なのか、悪いものなのか。今の俺にはまだ分からない。
「...こちらも一つ聞きたいんじゃが」
神妙な顔をしてエヴァンが言う。
「君は元居た世界に帰りたいか?」
少し考える。その間10秒程。
一つ咳払いしてから口を開いた。
「正直、どっちでもいいです。一つ心残りなのが、親とかに何も言わないで居なくなっちゃたから...心配してるかも、って事ですね。」
これでも、親にはそれなりに優しく接して来たつもりだ。
親も俺に愛情を注いでくれていたと思う。一般的に。
俺には妹と兄が居るが、やっぱり子供を1人でも失うのは辛い事じゃないんだろうか。
「...。」
エヴァンは申し訳なさそうに口を動かす。
「わしは...この作戦には反対じゃった。」
深刻な雰囲気が滲み出ていたので、居住まいを正す。正座。
「詳しい事は話せないが...君達にも暮らしがあるのに...無理やり誘拐のような...こんな事はしたくなかった...」
独白の様に、断片的にしか聞き取れなかったが、エヴァンは苦悩しているようだった。
確かに、皆が皆俺の様に楽観的では無い。中には家族を持つ者も居たかも知れない。
召還された理由はまだ分かっていないが、個人の生活を壊してまで呼び寄せるべきものなのか。
エヴァンの人の良さが分かる瞬間であった。
「...おお、サキが来たようじゃ。とにかく、もし何かあったらわしに気軽に相談してくれ。サモ村唯一の召還師であり、村長であるこのエヴァルド、いつでも力に成るぞ。」


150 :星屑ディペンデンス 第一話 ◆TvNZI.MfJE:2012/03/26(月) 17:27:33 ID:cIlpiggY





「私が照宮 咲だ。これから暫くの間、宜しく頼む。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
そう言って握手を交わし、軽く自己紹介をした。
ゲームとかでよく見る騎士の鎧に身を包んだ彼女は、後で束ねられた黒髪を揺らしている。
身長は俺より少し下、大体165cmくらいだろうか。年は俺の一歳年上らしいがしかし、俺よりも圧倒的にお姉さんな感じがする。
顔立ちは日本人のそれを残しながらも、凛々しく整っている。早い話が美人だ。
「私の家まで少しあるからな。聞きたいことも山ほどあるだろう。話ながら歩こうか。」
俺がさっきまで居た場所は、森の奥の祠のような場所だった。
森を抜けて村に入るまで結構あるらしいので、色々質問してみる。
まず、この世界の背景と俺が召還された理由について。
この世界には、人間と魔族の二項対立があるらしい。
始めからぶっ飛んだ設定に、思わず「ドラ○エかよ!」と突っ込んでしまった。
彼女はそれを受けて笑いながら答える。
「私も召還された時には同じ事を思ったよ。魔王なんて、実際に聞けば酷く陳腐に思えるからな。」
「それで、魔族と人間がどうしたんですか...?」
「人間と魔族は現在戦争状態にあってな。毎日の様に戦いが起こっているんだが、人間と魔族には力差がありすぎた。魔族の持つ魔力は強大なんだ。」
「へぇ...それと俺が召還された事にどんな関係が?」
「うん、村長から『特殊能力』の話は聞いたかい?」
「ちらっと...。召還された時に付くって奴ですか?」
「そうだ。この世界に生きる人間は、稀に特殊な力を持って生まれる事があってな。それが唯一魔族に対抗する力なんだ。」
「へぇ...どんな物があるんですか?」
彼女は「そうだな...。」と呟き、
「例えば、私の場合は訓練せずとも剣が扱える、『騎士』という特殊能力を授かった」
彼女は腰に控えた剣に手を掛けながら答えた。
「それで、話の続きだが、この『特殊能力』は一万人に一人が持っているかどうか、と言う確立なんだ。」
「...それじゃ、魔族に対抗するには弱いですね。」
「その通り。しかし、どうにかして能力者を増やさなければ、魔族との戦いを制する事は出来ない。」
そして、俺の方へ振り向き、「そこで私達の出番さ」と微笑んだ。
「どういう訳か、別世界から召還された人間は、必ず特殊能力を持っているんだ。」
都合良過ぎじゃね?とも思ったが、聞いても分からないと思ったので、そのまま話を促す。
「だからこの世界の王は、世界中の召還師に一月に一度召還を行えっていう命令を出したのさ。」
「成る程。」
「...怒らないのかい?」
急に訪ねられ、思わず「何を?」と返してしまう。
「要するに君は、無理やり戦争に参加させられるんだぞ?日本は平和な国だったからな。それが急にこんな意味の分からん世界に連れて来られて...。」
「まぁ、何とかなるでしょう。」
咲の言葉を遮り、声を発する。
楽観的な俺には、正直戦いの恐怖とかは感じられなかった。それよりも、特殊能力を授かって悪と戦うと言う事にワクワクしてさえいたのだ。
「...君は凄いな。私が召還されたのは2年前だが、当時私は、村長に食って掛ったぞ。」
苦笑しながら、そう語る咲。
正直俺も、病気なんじゃないかというくらいに楽観的だと自覚している。
「まぁともかくとして、同じ故郷の者は君が初めてだから、正直少し嬉しいよ。」


151 :星屑ディペンデンス 第一話 ◆TvNZI.MfJE:2012/03/26(月) 17:29:02 ID:cIlpiggY
その後も少しこの世界の事について教わった。
魔法が使える変わりに、地球にあった様な科学は無い事。
地球との細かい違いはあるが、大きく生活が変わるようなことは無い事。
これから1ヶ月間、この世界での暮らしに慣れてから、戦争に参加する事。
その1ヶ月の間に少し戦闘訓練する事。
「...それと、君の能力についても調べないとな。」
「どんな能力なんだろ...。」
それから数分歩き、周りにも家が点々と見られるようになってきた。
レンガ造りの、いかにもファンタジーな家々だ。
「さ、着いたぞ。ここが私の家だ。」
咲は立ち止まり、前方を指差す。
他の家よりは小さいが、しっかりとしたレンガ造りの平屋だ。
「これからどのくらいになるか分からないが、改めて宜しくな。」





こうして、俺の異世界物語は幕を開けた。
危険な匂いも少なからずするが、それよりも魔法が使える世界に来た事を素直に喜んでいた。
これからどんな事が起きるのか、得意の空想の世界を展開する。
鼻歌を歌ったりして、気分は上々だった。